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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
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3「出会い」

またもや間が空いてしまってすみません。


sideおじさん

ーーーーーーーーー


マルティンと話していたら予定の時間より少し遅くなってしまった。おそらくもう来ているだろう。


早くマルティンと団長の娘を見たかった。

自然と向かう足が早歩きになっていた。集合場所は裏庭だったはずだ。


裏庭はとても広かった。短く刈り込まれた芝生。花壇には季節の花が咲き乱れていた。周りは木に囲まれている。


庭の真ん中辺りに少女が立っていた。風が吹いて木々を揺らした。それと共になびく白銀色のストレートの髪。七歳だと聞いていたが、まだ五歳くらいに見える。


魔物狩りの時の癖で気配を消す習慣ができていたが、なにか感じたのか少し近づくとすぐにこちらに気づいた。


目の前でマジマジと顔を凝視する。

ストレートの髪と碧眼が団長によく似ていた。見事な白銀色の髪と真っ白な肌はマルティン似だ。顔は七歳という年頃の幼さがなく大人びているようにみえる。無表情だからだろうか。試しに威圧をかけてもそのままだった。


しかし弱々しい細い腕を見て、ああコイツはダメだと思った。恐らくそんな細い腕では私が持ってきた剣すら持ち上げられるかどうか。


「それで、お前が剣を習いたいだとか言う小娘か。あいつがしつこいから来てはみたが…。」


先程より強い威圧をかけても変わらない無表情に驚いた。尋常でない精神の強さにもしかしたら結構剣を振るえるのではないかというありえない事さえ浮かんでくるほどだ。


「なんの気の迷いが知らないが、生半可な気持ちで剣を握ってはいけない。戦場では弱いやつから死んでいくんだ。…大抵はな。それでは今から剣を合わせてもらおう。私が不合格とみなしたらお前に指導はしない。他に当たるようあいつに言うといい。」


剣を投げ渡す。少女が持ってきた剣に小細工などしてあったら困るからだ。


少女は剣をキャッチしたはいいが剣の重さに顔を顰めていた。尋常じゃない精神力と団長の娘であることから少し期待していたのだが、やはりただの七歳のお嬢様なんだな、と少し残念に思った。


「ふん、それくらいの鉄剣でも公爵家の令嬢などにとっては重いだろう?まぁ、持ちあげられたことは褒めてやろう。それもいつまで続くかわからぬがな。」


「………。」


この時初めて少女の表情が変化したがどんな感情を表しているのか全くわからない。


「先手はお前に譲ってやろう。」


剣をしっかり構えると少女も剣を構える。しばらく私の動きを観察しているようだ。すると突然右足を狙って剣を振り下ろしてきた。


「ほう、なかなかやるじゃないか。」


重くもなく大して早くもなかったので剣を防ぐのは容易だった。だが驚いたのは右足を狙ってきたことだ。実はこの前魔物狩りで囲まれて苦戦した時に右足を痛めたのだ。これを見抜いたのか集中的に攻撃してきたのでそれには素直に感心した。


剣の勢いを使って軌道を逸らして切りかかってきた。どうやら今日初めて剣を握ったわけではなさそうだ。まあそうか。話では聞いていたからな。


斬り合うにつれて剣速と共に重さも加わりどんどんとスピードが上がっていく。しばらく経つと、私がついていくのも苦労するほどの速さになった。本当に七歳でここまでくるとなると、異常だ。


でも全て防ぐことくらいはできた。そろそろ体力が無くなってくる頃かと油断していた次の瞬間にただでさえ速かったスピードがさらに上がる。力を温存していたのか。それともさっきのじゃ倒せないから上げてみようとでも軽く思ったのか。



それにしても急に上げてきたため最初少しついていけず、右足を一歩引いて踏ん張ろうとしたが、怪我をしていて十分に踏ん張れない。この一瞬出た隙を狙って少女は攻めてきた。


右脚だ。


そう直感して、脚を守るように剣を構えたと同時に甲高い音が鳴って、空気がピリピリと震えた。

どうやらギリギリ防げたようだ。そう、ギリギリ。こんな小さな女の子相手だったら余裕を持って戦えるのが当たり前で、さらに手加減しなければならないくらいなのだ。だというのに私の胸はひどく震えた。ああ、彼女の子なのだ。そう実感して、震えたのだ。





「手合わせをしていただきありがとうございました、やはり父上が選んだ人ですね。一本も取れませんでした。」 


少女がふぅ、と息を整えながら言った。どうやら私に勝つつもりだったらしい。でももう少し続けていたら私は負けていたかもしれない。


しかし少女の言葉で一番驚いたことがある。

対人戦は初めてだったらしい。おかしい。初めてであそこまで上手く立ち回れるものかなのか。圧倒的なセンスを兼ね備えているのだろう。


自分が不合格だと勘違いして一礼して立ち去っていく少女の後ろ姿を、私は止めることもなくただ呆然と眺めるしかなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーー




side少年



心底面倒だと思った。


他の奥様方とお茶をしている母上が俺に、向こうで遊んできなさいと小さな子供の世話を押し付けて庭に追い出したのだ。


「次は鬼ごっこしよー!」 


「そうだね、やろうね。」


不機嫌な気持ちを仕舞い込んでにっこりと笑いながら答えてあげる。


始まったら早々に森の奥に逃げて、みんな疲れたであろう頃に戻るか。


じゃんけんで、鬼は遊びを提案した少年に決まった。


数を数え始める声と共に、一斉にみんな駆け出した。その中で俺は一直線に森に向かって走っていく。

しかし…。


「迷った…。」


忘れていたがこの森は確かサンタン森といって、そこそこ強い魔物がいるらしい。完全に不覚だった。でも護身用に剣を差しているし、ある程度の腕があると自覚しているのですぐに帰り道を見つけられれば大丈夫だろう。


ガサ…ガサ…


違和感に気づいて後ろを振り返った頃にはもう大きな影が近くまで来ていた。


「う…あ…ブラックウルフっ…!?」


危険度Aランクと言われる魔獣。Aランクの冒険者が五人で連携をとって討伐できると定義されている。


ギリっと歯を食いしばり恐怖に震える足を奮い立たせて走り出した。


「うわぁっ!」


木の根につまづきながらも、走って走って走った。すると木々の間から開けた場所が見えた。後ろからは追いかけてくるブラックウルフ。意を決してその場所に飛び込んだ。


すると、何故だろう。そこに入る前に立ち止まり、ウロウロと戸惑うように二の足を踏んでいる。なんだかその場所に怯えているようにも見えた。助かったのだろうか。


ふぅー、と息を吐いた。腕には少し木々に擦ってできた擦り傷があったがそれ以外は大丈夫だろう。でもこれからどうやって戻ればいい。無我夢中で走って来たから道なんて覚えていない。


少し安心したのも束の間、先ほど尻込みしていたブラックウルフが一声吠えて、こちらに向かって来た。

牙を剥いて低く唸り、今にも飛びかからんとばかりに前屈みになっている。

最悪だ。終わりだ。死ぬんだ。ああ、何で惨めなんだろう。

恐怖で震える身体を必死に押さえつける。一体どんな苦しみを味わって死ぬのかと想像すると、気が遠くなりそうだった。いっそ気を失ってしまいたい。


目をぎゅっと瞑ろうとした次の瞬間、ヤツが俺の背後を見て竦み上がった。Aランクと言われるブラックウルフが尻尾を足の間に挟み、恐怖の表情を浮かべ逃げ出す。驚いて背後を見ると、そこにいたのは五歳くらいの少女だった。


こんな小さな少女がどうしてこんなところにいる?そう疑問に思っていると、その少女が近づいてきた。


「お前、大丈夫か?」


そう言って真っ白なハンカチを差し出してくる。そこで始めて自分が泣いていたことに気づいた。まじまじと少女の顔を見つめる。深い海のように青い目とサラサラの白銀色の髪。肌は雪のように白かった。

胸がドキンとへんな音を立てた。混乱して、ついキツい口調で話しかけてしまう。こんな小さな子に泣いているところを見られて、しかも心配されて、恥ずかしかったのかもしれない。


少女は無表情のまま片方の眉をくいっとあげた。しかし動かない表情は何を考えているか全くわからない。


「私はここでよく剣を練習してる者だ。お前はどこからきた。ここから帰る道は知っているか?」


「知るわけないだろ、逃げて来たんだから。」


自分で悠々と森に入ったくせに迷子になるなんてあまりにも情けなくて、やはり裏返しのようにキツい口調になる。それが逆に子供っぽくなっていることに、彼は気がついていない。


元いた場所を伝えると、少女が案内してくれると言ったので服についた葉を落としながら立ち上がる。すると、少女が何か思い出したかのように「ミーナ、お前もくるか?」と言った。しかし視線を辿っても誰もいない。


疑問に思っていると、突然今まで感じたことのないような強い威圧を感じた。思わず腰が抜けてしまうと、少女が不思議そうにこちらを見てから俺の視線を辿って首を傾げた。この威圧を全くかんじないらしい。そしてまた空気と喋っている。


もしかしたら…この少女は精霊が見えているのかもしれない。この威圧は下級精霊のものではない。おそらく上級の精霊、もしくは大精霊かもしれない。こんな精霊と仲良くなれるということはただの精霊の加護ではなさそうだ。


精霊との会話が終わったらしく、未だに力の入らない身体を少女が軽々と引っ張り起こす。

その細い腕のどこにそんな筋肉があるのだろうと訝しげに思った。


道案内をする少女はのあとをしばらくついていくと、奥から小さな子供達の声が聞こえてきた。


もういいだろうと思ったのか、外に出る道を教えてくれた。ここでお別れなのかと思うと、何故か急に悲しくなった。慣れない感謝の言葉をかける。理由は分からないが、胸がドキドキして顔が熱くなっているのを嫌というほど感じた。


すると突然少女が何を思ったか、小川に歩き出してさっき差し出してくれたハンカチを濡らして投げ渡してきた。…暑いわけではないんだ。いや、熱いは熱いんだけどそうじゃない。何かが違うことは何となくわかった。


俺がキャッチしたのを見届けると、少女はどこからかグリーンウルフ(危険度A)を呼び出して飛び乗り走り去ってしまう。


 

結局鬼役の少年が探しにくるまでハンカチを握りしめたまま、少女が走り去った方向を眺め続けていた。何だか狐につままれたような気分だったが、このハンカチが現実だと教えてくれる。


みんなに心配されたが、少し森の奥まで入っていただけだと言っておいた。






母上と一緒に城に帰っている時の馬車でもずっと少女の姿が焼き付いて離れなかった。この感情は一体何なのだろう。ソワソワと持て余していると母上がニヤニヤしながら聞いてきた。


「なに、誰か気になる子でもできたの?」


「別に。」


ふーん、と言いながらニヤニヤしている。しばらくこのことでいじられるのだろうか。嫌だな。


でも、母上が言っていた『気になる人』という言葉がストンと胸に収まった気がした。


ああ、そうか。これを一目惚れと言うのだ。



初恋を自覚した瞬間、悲しくて胸が痛む。最近婚約者が決まったことを思い出したからだ。もう会うこともないだろうあの子が、俺の婚約者だったらよかったのに、なんて到底無理なことを考えている自分を嗤った。


聞くところによると、俺の婚約者は性格に難があるようだった。彼女の母親が言っていた話だと、自分や幼い娘を罵倒して高圧的な態度を取り、金遣いの荒い傲慢な性格だと言う。けれども父親の前では猫を被るから咎められずに野放しになっているようだ。

自分より低い家柄のお茶会などに時間を割くのも勿体無い、と出席せず、宝石商やデザイナーを呼んではアクセサリーやドレスを買い漁っているらしい。

まあ、どこまで本当なのかはわからないが、火のないところに煙はたたぬと言うしな。


国王である父上が勧めてきたから素晴らしい令嬢なのかと思ったが、聞いた話によると俺の好みではないことは確かだ。


婚約者なんていらない。

ただあの少女ともう一度会いたかった。



決して実らないであろう淡い初恋を胸に、窓の外を眺めながら長い溜息をついた。




次はちゃんと主人公目線です。


ブックマーク、評価ありがとうございます。嬉しいです。

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