19「狩り」
今回短いです。
「ありがとうジラ、だいぶよくなったよ。今何時かわかる?」
「恐らく、セレナと森で別れた時間から2時間ほどは経っているだろうな。」
「んー、じゃあ23時くらいか。まだ行けそうだね。」
「まさか森に戻るつもりか?」
「もちろん。何も収穫なしで帰ったらターニャに怪しまれそうだし。」
呆れた顔をしたジラは、私を背に乗せて森まで歩いて行ってくれた。優しい。
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「いいか、セレナはできるだけ力を使うな。我が獲物の近くまで接近するから、我の背からナイフでも何でも投げて仕留めろ。」
「わかった。」
走るジラの背で夜風を受けながら獲物を探す。
森の奥に入ると、大きなウロがある木の辺りでジラがスピードを緩め、忍足で木に向かって歩きはじめる。
2人で頷きあい、私がナイフを構えたのを見ると、ジラが大きく吠えた。
驚いて飛び出してきたのは大きな鹿だ。ジラを見つけたその牡鹿は、猛々しく角を向けてこちらに突進してくる。
「避けて!」
ジラが素早く頭を低くすると同時に、素早くナイフを投げつけた。
「…すごいな」
ナイフが脳天に突き刺さり、声を上げる間もなく死んだ鹿を見下ろしながらジラが呟いた。
「まぁ、どうせ死ぬなら苦しむ時間が短い方がいいでしょう。」
「よくこんな、即死させられる場所に投げれるよな。驚くべきコントロールだ。セレナは短剣も使えるんだな。」
「プロの短剣捌きを間近で見たからね…。」
鹿からナイフを抜き取り軽く拭い、これをどう運ぼうかと考えていると、背後からこちらに近づいてくる反応を捉えた。
「ジラ、もう一匹だ。」
「わかってる。」
茂みがガサガサと音を立てると、巨大なクマが現れた。冬眠明けで腹をすかしているのだろう、目を血走らせながらこちらに向かってくる。
剣を抜き取ると、ジラがクマに向かって駆け出し、その横へ高く飛んだ。私は剣を、クマの首へと横に振り切った。
首がぼとりと落ちて、次に身体が大きな音を立てて倒れた。
「これは売れるのか?肉が全くついてなくて、美味しそうじゃないぞ。」
「まあ…肉は無理そうだね。でも毛皮とか爪とかなら売れるんじゃないかな。」
前脚でクマの身体をツンツンしているジラにそう答える。
「問題は、どうやってこれを運ぶかだよね。」
「その鞄には入らないのか?」
「2体入れるには狭いんだよ。それに他のものに匂いとか血がつくのも嫌だし。」
「なるほど。じゃあ我が運ぼう。」
そう言ってジラが前脚を一本上げると、下から風が吹き上げて、巨体が浮かび上がる。
「助かるよ、ありがとう。」
「ふふん、ではこれの売上で極上の肉を振る舞いたまえ。」
「そんなに高く売れるかな。」
他愛のないことを話しながら森から出ると、人通りのない道を選びながら宿へと戻る。流石に魔物を2体も浮かべたまま大通りを歩いたら注目を集めてしまうからだ。
ジラに少し宿の外で待っておいてもらって、受付に部屋を聞いてそこへ訪ねた。
「あ、セナくんおかえり〜」
「ただいまターニャ。カミラは…寝ているか。」
ベッドに目をやると、寝相が悪いのか変な寝方をしているカミラがいた。
「ヴィルもカミラもあの後すぐに寝ちゃったんだよね。ボクたちはいつも男女分かれて二部屋取ってるんだけど、一応セナくんは、別で一部屋取っておいたよ。」
「気を使わせてしまってすまない、ありがとう。ところで狩ってきた魔物はどこに置いておけばいいんだ?」
「ああそうだ!その話していなかったね。」
ターニャはゴソゴソと荷物を探って、そこから一つの袋を取り出した。
「ジャーン!マジックバックだよ。」
「何だそれは。」
「えっ、知らないの?中が拡張されてる鞄のことだよ。これ便利なんだよね。」
「ああ、それマジックバックっていうのか…。」
「固有名詞を知らなかった感じか。これに突っ込んでくれたらいいよ。実はこれ、この部屋の2倍くらいの大きさがある超高級品なんだよね。実はボクたち、Aランクの中でも割と上の方のパーティーだからまぁまぁ名が知れてるのさ。稼ぎもいい方だしね。」
はい、と手渡されたそれを受け取ると、ジラの元へ向かい魔物を突っ込み、袋をターニャに返しに行った。
ジラと共に、自分たちの部屋に入る。大きめのベットが一つあって、割と広い部屋だ。荷物を整理して身体を拭くと、小さくなったジラと共にベッドに入り、すぐに眠りについた。




