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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
二章「ローダンセ」
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17「マラニウムワイバーン」

受験が終わりましたので復活です。

私事で申し訳ないですが、無事第一志望に行けました。やったね。

その後、メンバーが集まって事前演習が始まった。


昼食の時間が来たら森の少し奥に行き、猪やウサギを狩って食べた。調理はいつもカミラが担当らしく、慣れた手つきで肉を捌いていた。



午後も3時間ほど演習をした後、夕方の心地いい風を感じながら帰路を辿る。日の入りが迫る街には、夕飯の時間に向けて支度をする店や家からの匂いが混ざり合っていた。




「どこで食べる?」


依頼の完了手続きを終わらせてギルドを出たあと、大きく伸びをしながら尋ねるターニャにメンバーが各自バラバラに好きなものを主張していたため、最終的にはどんなメニューでもある食堂に行くことになった。 


今日の依頼の報酬は、当たり前のように私一人に渡されてしまった。慌てて分割しようと申し出たのだが、みんなに言いくるめられて、結局は受け取ることになった。そのおかげで私の懐には夕飯と今晩の宿の分のお金があった。



けれど明日は色々買い出しに行くし、どうしてもまとまったお金が欲しい。夕飯を食べた後にでも狩りに行こう。冒険者ギルドでは依頼によるものだけでなく狩ってきた魔物や貴重な薬草なども買い取ってくれるが、自分のレベルに相応しくない魔物を持っていったら出所を疑われそうだ。パーティーメンバーの誰かに換金を頼むのが1番手っ取り早いだろう。




ーーーーーーーーー




夕飯を食べ終わって食堂の扉を開ける頃には、外はすっかり暗くなっていた。


酒が入っていつにも増してテンションが高いヴィルとカミラが肩を組みながら騒いでいる。その後ろでこそりと、少し抜けるため宿の手続きを済ませておいてほしいとターニャに伝えた。



「夜はたまに強い魔物が森の浅い方に降りてきてるから危ないんだけど…まあセナ君はそんなに弱くないし大丈夫かな。でも気をつけるに越したことはないから、あんまり奥に入っちゃダメだよ?」


「わかった。明日、狩ってきた魔物を私の代わりにギルドで換金してもらいたいのだが、いいだろうか。」


「ああ、確かにセナ君はEランクだから、強い魔物を狩ってきたらいらない噂を立てられるかもだね。うん、それくらいどうってことないよ。一応零時を回る前には帰ってきて欲しいかな。それを過ぎたらボク、探しにいっちゃうからね。」


「わかった。ありがとう。」


ターニャに礼を言うと、今晩泊まる宿の位置を確認してから森へ向かった。


街灯が途切れたあたりで、月の明るさに気づく。月光は新たに光を灯す必要がないほどに強く、地面を照らし出していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「自由に歩き回っていいけど、他に人間がいたら向こうには姿を見せないように私のところまで戻ってきて。誰もいなければ気にせず散策してきていいよ。2時間後、またここに集合しよう。」


ワクワクして周りを見渡しているジラに約束を取り付ける。


「わかった。」


「もし何かあったら遠吠えでもして教えて。そんなに大きな森でもないし、多分聞こえると思う。」


「なに、心配など無用だ。セレナこそ何かあれば呼べ。我は耳がいいからな。」



森の入り口で、ジラをローブのなかから出して地面に下ろす。すると、みるみる私の背丈と同じくらいに大きくなった。普段何気ない顔で小さい姿でいてくれるが、色々と不便だろうと思うと申し訳なくなる。


ジラは颯爽と森の奥に消え、それを追うように私も森へ入っていった。




早速探査魔法を使って生体反応を探った。すると、森の1番深いところと、近くに大きめの反応が入った。近くの反応はジラのものだが、奥の個体は昼間に引っかかったものと同じだろう。


気配を消して走りながら森の奥へと潜り、どんどんと近づいていく。風下に回って木の上から様子を伺うと、緑色の大きなワイバーンらしきものが体を横にしていた。


もしかしてこれが、ターニャ達が話していたマラニウムワイバーンと呼ばれている個体だろうか。近日中にS級冒険者が来ると言っていたし、噂の彼女は随分と怒りっぽいらしい。獲物を先に片付けてしまって彼女が無駄足になったら、ギルドが機嫌を取るのに忙しくなりそうである。それはアリアナさん達に申し訳ない。


ここはひとまず撤退して、他の獲物を探そう。

ワイバーンに背を向けて木から飛び降りると、背後から小さな唸り声が聞こえた。まさか私の存在を認知したのだろうか。

背後を振り返ると、なにやらモゾモゾと動いていて、こちらに気を向けている様子はない。よく見ると、どうやら右脚に怪我をしているようであった。それに腹の下には…卵だろうか?何かを守っているようだ。


そこで少し、考え込む。


この子は、このままだと近い将来狩られるだろう。森の奥は魔物もたくさんいるのだから餌に困ったわけではなさそうなのに、そもそもなぜ街に降りてきたのだろうか。


なにか理由があるのかもしれない。…お節介かもしれないが、言語が交わせるほどの上位個体だったら話をして、無理そうだったらそのまま放って置くことにしようかな。


気配を現すと、ワイバーンはその瞬間ぐるりと首をこちらに向けた。



「失礼、まずは君のテリトリーに無断で入ってしまったことを詫びよう。申し訳ない。」


今にも飛びかかろうと身体を起こしたワイバーンは、私に敵意がないことに気がついたのかなんなのか、取り敢えず様子を見るように動きを止めてこちらを見つめた。


「人の言葉が理解できるのか?」


「…オマエ、名、ナノル。」


片言だが、なんと話せるようである。


「セレナだ。」


「セレナ。我ニ何ノヨウカ。」


「何故街にまで降りてきたのか、その理由を聞こうと思って。」


「…ニンゲンノ方ガ先。ニンゲン、我ノ子、二つ殺シタ。警告シタ、ニンゲン、ヤメナカッタ。ユルサナイ。」


なるほど、人間が勝手に彼等の縄張りに入って子供を殺していったらしい。しかし、相手は人間だ。獣や魔物は絶対的な悪として認知され、人間は当たり前のように彼等を殺すのだから、なんの罪悪感も抱かないだろう。

まあ私もそれで金を稼ぐ職業に就いたのだから、人のことは言えないが。



「近いうちに、桁違いに強い人が君を殺しにくると思う。どうやら君は怪我をしているようだし、よければ逃げる手伝いをしようかと思って声をかけたんだ。」


「ニンゲン何ゾ、シンジヌ、シンジヌ!」


荒々しく地面を踏みつけて咆哮を上げるワイバーンを、どう宥めるかと悩んだ。

傷を癒してあげるのが1番だとは思うが、呪いのせいで光属性の魔法は使えない。薬草での手当は即効性がないし、傷口が滲みるだろうからより一層敵意を買うことになってもおかしくない。


「ハヤク、出テイケ!今ナラ、ミノガシテヤル!」


どうしよう。強制的に気を失わせて卵ごとどこかに運ぶか?いや、見ず知らずの森に置いて、そこの生態系が崩れるのは避けたい。ワイバーンの集団生息地とかに送れるのならいいかもしれないが…。


「君は、人間に殺されるのが嫌ではないのか?」


「我ハ死ナヌ。……独リナラナ。」


そう言って卵に目をやると、低く唸った。




「残った卵はどうするつもりだ。このままなら、その子も他の兄妹と同じ運命を辿るかもしれない。私の提案を受け入れてくれれば、卵も君も、助かる可能性がある。」


「…我ノツガイ、死ンダ。コノチデ死ンダ。我、ココ、ハナレナイ。」


どうやら番と長らくここに住んでいたようだ。これほどの上位個体が2体居ると仮定すると、ここの食物連鎖の頂点に君臨していたに違いない。どのような経緯で番が亡くなったかは分からないが、人間が思い出のある家から離れ難いと感じるのと同じようなものなのか…?


「…わかった。他人の私が、ここに残ることを望む君に強制などできない。失礼した。このことは忘れてくれていい。」


背を向けて、元来た草むらの方へ歩いていくと、少しして背後から呼び止められた。


「…待テ。……セレナ、我ヲ逃ス、言ッタガ、ドウヤッテココカラ出ル?話シニヨッテハ、考エナイコトモナイ。」



どうやら自分の置かれている状況を客観的に見れるくらいには冷静なようだ。プライドに縛られて柔軟な思考ができない人間もいるが、そんなのよりもよほど賢いと言える。


「君がいた痕跡を消しながら、人目につかないように目くらましをかけてワイバーンの生息地に行ってもらうつもりだ。君の故郷だったら、戻らせてもらえそうかと思って。」


「戻レヌコトハナイガ…コンセキ消ス必要、アルカ?」


心惜しげにそう言って、どこか寂しそうな目で辺りを見つめるワイバーンを気の毒に思いながらも首を縦に振る。


「これから来るであろう人間がどれだけ強いかは私も分からないが、S級冒険者ならば君の魔力の痕跡を辿って追ってくる可能性も十分にある。ここで君を取り逃すと、再び街を襲われると考えるだろうから。そうなるとやはり消す必要がーーーー」


あれ、なんだろう。何かがここに近づいてきているようだ。気配を上手く消しているせいかワイバーンの方はまだ気づいていない。…どうやら、人間のようである。誰だ?まだ0時は回っていないはずだから、ターニャではないはずだ。



「ドウシタ、セレーー」


急に黙り込んだ私に訝しげに声をかけるワイバーンに、手を挙げて止めた。


周囲に防音の結界を張ると、ワイバーンに早口で説明する。


「何故かわからないが、一人の人間が真っ直ぐここに向かってきている。相当腕が立ちそうだ。逃げるなら早く決断してくれ。」


「…ウラギラナイカ…?」


「当たり前だ。」


「……ワカッタ、セレナヲ信ジヨウ。」


「ありがとう。そうと決まれば急ごう。ここから君の故郷までどれくらいだ?」


「急イデモ、1ヶ月半、カカル。」


その言葉を聞き終わると同時に、大量の魔力を込めてワイバーンの身体に追尾防止魔法と目くらましの魔法をかけると、大きな身体がみるみる景色に溶け込んでいく。術師には姿が見えるから、物を隠したい時には便利な魔法である。


魔法の持続時間は練度や込める魔力によって変わるため、1ヶ月半となると多くの魔力をつぎ込む必要がある。

呪いのせいで魔力量が半減している今、全部を到着まで保たせられる量がない。取り敢えず卵をワイバーンに追従させる魔法は到着まで保つようにするが、優先度的に考えて目くらましよりも追尾防止魔法の方が長く続くよう調節した。体からごっそり魔力が抜けていくのを感じて、同時に呪いの反動がきた。が、今はそれどころではない。


やがてワイバーンの姿が羽の先まで見えなくなると、周囲の匂いを消してまわり、セレナは最後に卵に手を当てて魔法をかけてやすやすと持ち上げてみせるとワイバーンは驚いた顔をした。


「…一人デ我ノ卵ヲ持チ上ゲラレルトハ…」


「それは今どうでもいいんだ。これにも目くらましをかけて、浮遊魔法で君に追従するよう魔法式をいじっておいた。卵にかけた魔法と君の行く痕跡を消す魔法は到着地まで保つだろうけど、目くらましは途中で切れると思うからなるべく人目につかないように気をつけて移動してくれ。」


「ワカッタ。タクサン、カンシャスル。」


「礼を言うのは無事辿り着いてからだ。ほら、早く!」


近くまで気配が迫っていた。


飛び立つワイバーンを見届けると、堪えていた咳が盛大に出る。短時間にあまりにも魔法を使いすぎた。喉が爛れたように咳には血が混ざり、全身に襲いかかる鋭い痛みから冷や汗が止まらない。


必死で息を整えていると、背後で草を踏む音がした。早く、早く脚よ動け!


「誰かそこにいるの?」


大人の女性らしき声が聞こえてくる。冷や汗が背を伝うと、聞き慣れた声がした。




「セレナ、掴まれ。」


突如現れたジラが私の服を掴んで背中に放り投げた。残る力を振り絞ってつかまると、ジラが颯爽と走り出す。女性の声を背に、どんどん森をかけて行く。


自分の呼吸の音だけが耳に響く。痛みで全身が悲鳴を上げている。意識を保つだけでやっとだ。


ジラは森を出て、人目につかない街の裏路地で私を下ろした。


「大丈夫かセレナ、何でそんな…もしかして魔法を使ったのか?」


壁にもたれかかって座り込む私に、ジラが問う。こくりと頷くと、彼は不満げな表情をしたが何も言わなかった。


「助けてくれてありがとう、ジラ」


「当たり前だ。強そうな人間がセレナのところに向かってたから、慌てて追いかけてきたんだ。」


「貴方って最高よ」


ハンカチに咳き込むと、赤がべったり張り付いた。


「こんな調子じゃ戻っても心配されるぞ。」


「あと1時間くらい休めば動けるようになるから、ここで大人しくしてる。ジラは森に行ってていいよ。」


ジラは呆れたようにため息をつくと、私の隣にうずくまった。その優しさがこそばゆくて、少し笑いながらジラのフワフワとした毛皮に身体を預けた。

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