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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
二章「ローダンセ」
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16「腕試し」

ちょっとだけ長めです。

「先手はどちらからだ。」


「俺の方が先輩だし、セナ君に譲ってあげるよ。」


そう言いながらニヤニヤと笑うヴィルに、そりゃどうもと言うと同時に地面を蹴る。思えば、いつも先手を譲ってもらってばかりだ。なんか…申し訳ないから次に誰かと決闘する機会があったら私から譲ろうかな。



ヴィルは近づいてくる剣を受け止めて横に流すと、私がどれだけの攻撃に耐えうるかを見極めるようにしばし斬り合いが続いた。途中で彼は、私がまだ身体強化をかけていないことに気づいたようで、興味深げに目をキラキラと輝かせている。

ある程度斬り合いを続けると、手の力を緩め、“ヴィルに剣を弾き飛ばされた”という形で敗北し、試合が終わった。





「セナ君は、身体強化を使わずにどうやったらそこまで戦えるんだ?秘訣を教えてくれよ。」


「知らん。」


「えぇぇ!そりゃあないぜ相棒!」


「勝手に相棒にするな。」


「え、本当に使ってないの?」


側から見ていたターニャ達が寄ってきて、カミラが興味深げに尋ねた。


「そうなんだよ!まあ、実際に剣を合わせてないとわからないかもしれないけどさ。身体強化を使わずにまともに俺と斬り合えるなんて、普通の人間じゃないよ。」


「セナ君は身体強化を使えないの?探索魔法は使えるのに。」


真っ当な質問である。下手なことを言うとボロを出しそうだ。


「…使えないことはないが、身体強化魔法は昔から苦手で、使うと加減を間違えて自分が怪我をするんだ。だから、余程のことがない限り使わない。」


「へぇ、そういう奴もいるんだな。」


そこでターニャが機嫌良さげに口を開いた。


「セナ君はボク達の予想をはるかに超える実力があるみたいでよかったよ。これで今度の任務も少しは気が楽になる。」


「それは光栄だ。」


ターニャはうんうんと頷くと、切り替えるようにパンパンと手を叩いた。


「よし、じゃあ次はボクたちの戦闘方法を紹介しないとね。まずは…カミラからでいいかな。」


「えぇ、1番手か。まあいいや、あたしは魔法を使った戦闘方法をとっているんだ。主に精霊魔法で、属性は水と無属性。あんまり上手くはないけど、人造魔法の土属性も使えるよ。」


予想通り、彼女は魔法系の冒険者だったようだ。


「なんでか知らないけど昨日からうちの子の機嫌がいいみたいだから、実際に紹介するよ。精霊は見える?」


「ああ。」


「じゃあ大丈夫かな。ネロ、出てきていいよ。」


カミラがそう呼びかけると、左手につけられた指輪から青い光の筋のようなものが出てきて、そこからくるくると、うっすら青い小さなヒトのような形が現れた。


「この子は、あたしが契約している水の中級精霊のネロだ。人の言葉は理解できるが、上級精霊とは違って人語は喋れない。契約していると何となくの意思の疎通は取れるけど、精霊の言語が理解できるようになるわけじゃないんだよね。」


「そうなのか。私や周りの人は魔法陣を使う人ばかりだったから、精霊魔法を使う人はまだ珍しく感じるな。」


ネロがふよふよと私の元に寄ってきたので頭を撫でてあげると、気持ち良さげに目を細めた。


「へえ、そんな場所もあるんだな。あたしの周りでは精霊魔法が当たり前すぎて、わざわざ魔法陣を使わなきゃいけない人造魔法の方がレアだったよ。さっき土魔法も使えると言ったよね。土魔法の方は人造魔法を使うから苦手なんだ。」


「じゃあ、それぞれの紹介が終わったら2人はお互いに魔法を教え合う時間を取ろう。」


横で話を聞いていたターニャがそう提案すると、カミラが賛同したので私も首を縦に振った。



「じゃあじゃあ、次は俺だよね!」


カミラが帰りたくないと抵抗するネロを指輪に戻そうと格闘しているのを眺めていると、ヴィルが目をキラキラと輝かせながらそう言った。


「ヴィルはいいよ、さっき剣で戦うって紹介したから。」


そうターニャに制されると、ヴィルは不満げな声を出しながらも大人しく引っ込んだ。


「次はガズでいい?」


指名されたガズは頷いて、座っていた岩から腰を上げ、ベルトに掛けていた小さめの小袋に片手を突っ込んだ。そこから棒のような頭が飛び出してきて、最終的には彼の背丈くらいの長く大きな槍が姿を現した。穂の横からもう一本穂が出ている片鎌槍である。


「僕はこの槍を使う。これは魔力を込めると威力が上がる。…いい槍だ。」


「え、もしかしてそれで終わり?」


説明を2行で終わらせたガズにヴィルがそうこぼすと、彼は「なにか悪いか」というような表情をして頷いた。


「…はあ、仕方がないなあ。ボクが追加で説明するよ。ガズは中距離戦が1番得意だけど、魔力を込めて使えば遠距離もいけるかな。普段町を歩く時とかはさっきの小袋にしまってるんだ。背中に背負ってると、ちょっと威圧感が出過ぎちゃうからね。だけど依頼中とかは背負ってるよ。ちなみに今までしまっていたのは、最大限セナ君に怖がられるのを避けるためでーーー」


ガズが焦ってターニャの口を手で塞ぐ。彼は表情だけは平然としたいたが、耳が真っ赤に染まっていた。どうやら図星のようだ。そんなガズを、メンバー達はニヨニヨと笑みを浮かべて見ていた。


ターニャはガズの腕をポンポン叩いて口を開放させると、彼の紹介は終わらせて自分の紹介を始めた。


「ボクは短剣を使うんだ。身体が小さくて、そんな重くて大きいものは持てないからね。あと、力が弱いのを補うために刀身には毒を塗ってる。さっきヴィル達を起こす時に脅しで言ってたのは、最近調合した毒のことだったんだよ。」


「なるほど。それは嫌がるわけだ。」


それを聞いたターニャはいたすらっぽく笑うと話を続けた。


「実は、このポーチに仕込んでるんだ。」


彼女が身体に斜めに掛けていた分厚いポーチを開けると、中は物を入れられる所と黒い箱のような固形物の二つに分かれていた。黒い箱にはうっすら切り込みが入っているように見える。



「普通のポーチに見えるけど、これ魔道具なんだよ。魔力の流し方によって短剣に付着させる毒の種類を自分で変えられるんだ。仕組みは内緒だけど、便利でしょ?知り合いに魔道具作りを生業にしている奴がいて、そいつに特注したんだよ。」


「へえ、そんな複雑な魔道具も作ろうと思えば作れるものなんだな。」


「あんまり期待してなかったんだけど、想像を超えてくれたよ。まあ、その分高く付いたけどね。」


ターニャはそう言って軽く笑うと、ポーチに手をかざして魔力を流した。すると、黒い箱にあるいくつかの切れ込みのようなところから一本、短剣の柄が現れた。ターニャはそれを箱から抜き出して見せた。


「こんな感じで、魔法が苦手な私でもこの通り魔力で短剣を作り出せるわけだよ。因みに今付いているのは神経を麻痺させる毒だ。大きい敵の動きを止めたい時とかに使うかな。」


「短剣はどれくらい経ったら消えるんだ?」


「作るときに込めた魔力量で変わるんだよ。これはせいぜい保って1分かな。」


そう言いながら短剣を適当に辺りの木に突き刺すと、ポーチを元通りに閉じた。


「あの剣は、一度に何本作れるんだ?」


「黒い箱にはいってる切れ込みの数の分は作れるよ。ボクの魔力量だとそれぞれ10秒くらいしか保たないんだけど、魔物との戦闘中に使う毒は基本、速効性のある神経麻痺が多いから敵の数が多くても対応できるんだ。」


「流石リーダー、頼りになるな。」


ターニャは誇らしげにフフンと鼻を鳴らした。





。。。。。。。。



事前演習の前に、私とカミラには情報交換の時間が用意された。

 

カミラが大岩の上に登って腰を下ろしたので、私もその横に座る。



「精霊魔法は無限に魔法を使えるわけではないんだよな。」


「ああ、もちろん限界はあるよ。でも複数の精霊と契約してる方が単独契約者よりも多く魔法を使えるかな。」


「複数契約ができるというのは本で読んだが、いくつもの精霊と契約できる者と、一つとしか契約できない者には何の違いがあるんだ?」


「うーん、基本的には魔力の質が関係してくるのかな。魔力の扱いが上手で、澄んだ魔力を持ってる人には精霊が多く集まるらしいよ。あと、魔力の波長がどうとか…でもあまり詳しくは解明されてないんだよね。」


精霊魔法とは、基本的に精霊に魔力を渡して自分の代わりに魔法を行使してもらうというものだ。精霊にも魔力はあるが、魔力切れになると基本は気を失ったりするだけで済む人間と違い消滅してしまう。精霊にとって、人間から渡される魔力の質が良いほど楽に魔法を使えるし、居心地がいいのだろう。


「精霊魔法には精霊のもつ魔力を使うものもあると聞いたことがあるのだが、それはーー」


「げっ、他の人の前でその話はしちゃだめだよ。あたしの故郷みたいに、精霊魔法の使い手ばかりの国では精霊は神に近い、とても尊い存在なんだ。精霊達から命を搾るような話なんか、地雷だよ。…まあ、そういう恐ろしいことを平気でしでかす、俗に言う“呪霊師”はある程度存在するみたいだから、できなくもないらしいけどね。」


「すまない、気をつけるよ。」


青ざめているカミラの顔からそれがどれほどのことなのかが伝わってきて、今後口にしないよう心に誓った。


「ところでさ、あたしも聞きたいことがあるんだけど、人造魔法を使うの時って魔法陣をいちいち描く必要があるでしょ?効率が悪くない?あたしなんか、魔法陣の古代文字の羅列を見るだけで吐き気がするよ。」


と、カミラが顔を顰めて言う。


「私の国では文字を覚えるのと同じ感覚で小さい頃から覚えることだから、取り敢えず生活魔法の魔法陣はすぐ思い浮かぶくらいになるんだ。学校に行くと、そこから自分の属性によって古代言語だったり構造変化のパターンだったりを覚えるわけだけど、基礎は生活魔法と同じだから、まあ小さい頃から学んでおけば中級魔法の魔法陣くらいは覚えられるようになる。」


「へえ。でも、それを発動できるほどの魔力がないといくら覚えても意味がないんでしょ?」


「魔力量も大事だが、複雑な魔法陣にもきちんと魔力を流せるほどの練度、つまり魔力操作の技術が1番重要だ。練度が高ければ、平均ほどの魔力しかなくても魔法の精度と効率が上がるから、平均よりも多く打てるし、威力も上がる。

魔法陣は覚えれば誰でも描けるだろう?でも練度はもともとの才能と相当な努力が必要だ。といっても、元々の魔力量が多い人はそれを管理できるくらいの魔力操作を小さい頃から自然に身につけるから、必然的に練度が高くなったりはするが。」


「なるほど。確かセナ君はさっき探査魔法使ってたよね。無属性の練度はどれくらいなの?」


「平均よりちょっと高いくらいだよ。」


言葉を濁すと、カミラは口を尖らせて不満げな顔をしたが、すぐに諦めたようにため息をついた。


「まあ、そんな手の内を明かすようなこと、出会って1日も経ってないあたしに言うわけないよな。いつか気が向いたら教えてよ?」


「考えとく。」


その返答が気に入らなかったのかなんなのか、カミラがじっとこちらを見つめてくるのを無視すると、彼女はふぅ、と息を吐いて話を続けた。


「因みにさ、セナ君の国では練度の上げ方とかは学校で学ぶの?」


「ああ。特に魔力の操作力を鍛えるといいと教わった。複雑な魔法陣に魔力を流せることが練度の高さと繋がると考えるならば、とても有効な手段だ。だが、それが精霊魔法にも当てはまることなのかどうかは分からないが。」


「やっぱり練習あるのみってやつか。人造魔法の使い手に教わるのが1番いいんだけど、街に唯一いた人は水属性しか使えなくてね。仕方なく本を探したんだが、なんといっても需要がないせいで内容の薄い本しかなくて。今のところ初級魔法が何個か使えるくらいなんだよ。」


「そうなのか。逆に私の国の本屋や学園の図書館には魔法書が溢れていたが、精霊魔法の本はほんの数冊しかなかったな。それも大体は物語みたいなやつで、唯一あったのは精霊との契約方法もなにも載っていない、ただの詠唱がつらつらと書かれているだけのノートだけだ。」


まあ、一応全部覚えておいたが…。


「うわあ、そう考えるとあたしの国の方がマシだね。でもそこまで精霊魔法関連の本がないのって変な国だ。上が国民を精霊魔法から遠ざけようとしている気すらするよ。…ねえ、そこまで精霊を拒絶してる国ってさ、もしかしてーー」


二人の間に少し緊張が走り、ピリピリと空気が張り詰めた。


「カミラ達、そろそろいいかな?」


急にひょっこりと背後から顔を出したターニャにカミラは驚いたようにピクリと肩を震わせ、一拍置いて立ち上がった。


「…うん。」


ターニャの後について岩を飛び降りるカミラを目で追いながらゆっくり立ち上がると、私も続いてそこから飛び降りた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。更新頻度が本当に酷い有様で申し訳ないです。許してください。

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