15「ガズはロリコンかもしれない。」
暑くて溶けそう…皆さま熱中症にはお気をつけください。
朝が早い私たちは、空が白み始めてから30分経つ頃には出かける準備を済ませていた。
新聞でも読みながら、メンバーが集まってくるまでのんびりしようかな。
ギルドへの道を歩きながらジラがステーキを食べたいと言うが、残念ながらジラが昨日の昼食でお金を使い過ぎたせいで懐が寂しいのである。というか普通に考えてステーキが朝からあるとは思えない。いや、早々に活力をつける必要がある冒険者達のためにある可能性も…。
そうしてギルドの扉を開けると、まず強い酒の匂いが鼻をさした。酷く、鼻につく匂いだ。嗅覚の優れたジラは余計にくるのだろう。顔を顰めてローブの奥に潜り込んだ。
鼻を押さえながらギルド内を覗くと、飲み潰れて眠った飲み会参加メンバー達が床や机の上に倒れている。
前世でも今世でも飲み会を経験したことのない私にとって、吐いたものなどなどで全体的に汚れたその絵面はだいぶ…くるものがあった。てっきり切り上げて皆帰っているものだと思っていたが、少々飲み会というものをなめていたようだ。
キョロキョロと知っている顔を探すと、ヴィルとカミラは仲良く肩を組んで壁に座り込んで、ターニャはガズを膝枕にして(もはやベッドに近い)寝ている。ガズは膝の上に乗っているターニャの頭を少し頬を緩ませながら撫でていた。
「………。」
目が合うと彼は何事もなかったかのように寝たふりを始めたので、私たちは何も見なかったことにしてあげた。やっさしぃ。
すると、パタパタと奥から足音が聞こえてミリさんが顔を覗かせた。
「あ、セナさん。おはようございます!」
「おはよう。」
ミリさんは早速部屋に漂う匂いに顔を顰めながら、ギルド中の窓をバタンバタンと開けていく。それを手伝っていると、彼女は顔を険しくさせながらぐちぐちと文句を言った。
「はぁ、毎回誰かの奢りで飲むことになるとこうなるんですよ。たしかにギルドの売り上げは上がるんですよ?でもこうやって後片付けもしないでぐっちゃぐちゃのままにされると、他の冒険者の方に迷惑なんです!誰か来る前に急いで片付けないと…。」
ぷんぷんしながら掃除用のモップを手に取ったミリさんは、起きてください!!と叫びながら寝こけている面々をモップで叩いてまわりはじめた。
私は取り敢えずヴィルとカミラの肩を揺すって起こそうとしたが、全く起きる気配がない。
仕方なくリーダーに助けを求めことにしてターニャのところに行き、寝たふりをするガズはスルーして彼女の肩をポンポンと叩く。すぐにぱちりと目を開けたターニャは、大きな伸びをして身を起こした。寝起きの良いタイプらしい。
「おはようターニャ。寝起きに申し訳ないが、あそこの2人が起きないんだ。どうすればいい?」
「あれ、ボクが起こす時はいつもすぐ起きるんだけど…。おかしいなあ。」
そう言ってピョンとガズの膝から飛び降りたターニャは、2人の前に立って仁王立ちになった。
「5秒以内に起きなかったら、出来立てホヤホヤの新作を2人に試すことにしまーす。じゃあいっくよー!5、4、…」
「うわぁぁ!!??」
私の時とは違い、彼女が話しかけるにつれ眉間に皺が寄っていく。そうしてカウントダウンが聞こえると、2人は焦ったように飛び起きた。
「セーフだろ!?なぁ、セーフだよなターニャ!」
カミラが鬼気迫る勢いでターニャの肩を揺さぶると、ターニャは残念そうに口をへの字に曲げた。
「ちぇ、早速人体実験ができると思ったのに。」
「こ、怖いこと言うなよぉ。」
何を試されるのかは分からないが、2人はどうやら経験済みらしい。少し顔を青ざめて、プルプルと震えている。
「試すって何をだ?」
「それは後で話すから、取り敢えず!今日はカルデの森で採集かなんかの依頼を受けて、ついでにセナ君の実力チェック&ボクたちの戦闘方法の紹介をする予定だよ。その後は全員で戦闘する時連携が取れるように、事前演習でもしようかな。セナ君は、今日の依頼や事前演習とかで必要だって思うものがあったらメモしておいて。明日は買い物で1日潰れるかもしれないからね。」
「わかった。」
今日1日の予定が決まると、ミリさんにモップで叩かれ起床した他の冒険者たちと、飲み会に参加した私以外のメンバーは、二日酔いと闘いながらもそれぞれ散らかっているギルド内を掃除していった。
その間、私とジラは依頼が貼り付けられた壁の前で品定めをしていた。カルデの森での依頼はCランクからのものが多く、ある程度強い魔物の多い森であることが伺える。ターニャは採集の依頼とか言ってたっけ。
ギルドは大人数による掃除だったためか15分ほどですっかり元通りになり、ターニャが他のメンバーを連れて壁の前までくる頃にはその中から良さげな採集の依頼を選んでいた。
「なんかいいのあった?」
二日酔いで頭痛がするらしく顔を顰めているヴィルが聞いてくる。
「この月光草とヒール草の採集の依頼はどうだ?」
「お、良いんじゃないかな。これ見つけやすいから簡単だし。そうだ、せっかくだし依頼受注やってみようか。」
そう提案したカミラのもと、昨日ミリさんに教わった通りに依頼用紙を壁から剥がして受付に持っていくと、ミリさんは早速ですねとニコニコしながらはんを押し、手を振って送り出された。
「セナ君はよっぽど好かれてるんだな。俺なんか、ミリちゃんと仲良くなるのに1年くらいかかったんだからな!」
肘でぐりぐりしながらそういうヴィルを押し退けてターニャの後に続く。あんたがチャラすぎるからよとカミラに言われ、背後の方で2人がまた口喧嘩を始めていた。これが2人のデフォルトなのだろうか。
森に行く前に店に寄り、それぞれ朝食を買うと(私は金欠なので買わなかった)早速森へ向かった。
着いたところは、随分と穏やかな森であった。流石初心者向けの森というわけか。
「入口はこんなんでも、1番奥に行くと手応えのある魔獣も出るんだよ。」
へえ、表向きに騙されてはいけないわけか。まあ、余程の魔物じゃなきゃ手こずることはないと思うけど…。
朝食をもぐもぐしているメンバーを傍目に探査魔法を発動させると、確かにここからだいぶ離れたところの空に強めの反応があった。なんで空なんだ。
「おお、セナ君は探査魔法使えるの?」
興味津々という顔でこちらを見るのはカミラだ。彼女は短剣しか持っていないし、微弱な魔力に気付くということは、恐らく魔法系の戦闘方法をとっているに違いない。
「…少しだけだけどな。でもまあ、大した範囲じゃない。」
「いやでも使えるだけすごいさ。セナ君は剣持ってるけど魔法使いなの?」
「いや、基本は剣だが、もしもの時は両方いける。」
剣を主軸としていることを聞いて、みんな驚いた素振りを見せた。
「なんかセナ君って線が細そうだから、その剣は見かけだけだと思ってたよ。」
「ちょ、お前失礼だぞ。」
ヴィルが焦った顔をしたカミラに小突かれている。すごい、似たもの同士だと思ってたのにカミラの方がそこの辺りの良識はあるらしい。
「いや、気にしなくていいぞ。よく言われるからな。」
「やっぱりそうだよなぁ」
「おいっ!」
食べ終わって一息つくと、早速始めようかとターニャが声をかけたので、それぞれ荷物を片付けて森のもう少し奥へと入っていった。
「うん、ここな辺でいいかな。じゃあまずはセナ君の実力テストから始めようか。」
「いいけどさ、それってどうやってやるんだ?」
そう問うヴィルに、ターニャはニヤリと笑った。
「セナ君には、マラニウムを倒してもらおうかなって思って。」
「それはないだろターニャ。」
「あはは、冗談だよ。」
だよなと言って笑う3人と無言で頷いてる男1人に、私は完全に置いてけぼりを食らっていた。
それに最初に気づいたのはカミラで、不思議そうにこちらに話かけてきた。
「あれ、マラニウム知らないの?マラニウムワイバーンだよ。」
「知らないな。」
「ああ…そうか、最近他所から来た人はあの事件のこと知らないよね。実は1ヶ月前、街にワイバーンみたいなのが降りてきたんだよ。幸い結界のお陰で大きな被害はなかったんだけど、今回の騒動で結界に穴が空いちゃって、神殿は大騒ぎだよ。そんでちょうどその日がマラニウムの花祭りの日だったから、そういう名前がついたわけ。」
「へぇ、それって強いのか?」
カミラを押しのけるようにしてヴィルが口を開く。
「ああ。あの街の結界に穴を空けた魔物なんて、歴史を辿っても殆どいないんだよ。なんてったって、大神殿があるんだから。それもこの前聖女様が結界を張り直したばっかだってのに、穴が空いたんだ。余程強い魔物に違いないって噂だぜ。そいつを倒したら、暫く働かなくていいくらいの報酬がもらえるらしい。」
途中で話の腰を折られた上に横取りされ、カミラがヴィルをぶん殴っているのを横目に先ほどの報酬の件について考えていた。
報酬か…いくらくらいだろう。今のままだと手持ちが空っぽで何も買えないから、まとまったお金が欲しいところだが。するとジラがキラキラした目でこちらをつついてきて、語気を強めて言った。
「セレナ、金持ちになるチャンスだぞ。つまるところ、毎食美味い肉を食えるチャンスがきたということだ!」
(いや、自分で獲れよ。)
「あれ、もしかしてセナくん、マラニウムを討伐するつもりなの?やめときなよ、そいつの討伐は、難易度Sで依頼が出されてるくらいなんだから。それにそろそろ、バルザミヌが来てくれるって話だし。」
訝しげな顔で探るように見てくるターニャに、手を振って答える。
「…はは、もちろんそんなつもりはないよ。ところで、そのバルザミヌって誰のことだ。」
話を逸らすと、答えようと口を開くターニャより先にヴィルが答えた。
「そりゃ、バルザミヌって言ったらレディ•マリアーヌしかいないさ。一触即発、私に触れないでってな。」
この前カミラさんが話していたのはこの人のことか。
「なんだ、そんなにか?」
「それはそれはね。まあ、男に対してだけだからあたしとターニャは関係ないけど。まず彼女に変なことした奴は、五体満足には帰してもらえないね。」
「へえ、おっかないな。」
肩をすくめてそういうと、お前も例外じゃないからな、とヴィルに小突かれた。
「まあ、心配しなくても彼女はS級冒険者だから、さっさと片付けてくれるよ。ーーーって、だいぶ話が逸れたね。じゃあ改めて。セナ君の能力は、同じ剣を使うもの同士、ヴィルとの模擬戦で判断しようと思ってるよ。」
模擬戦って…あれだよな、実戦を模倣した擬似的な戦闘をするやつだよな。(by G◯◯gle先生)
「それって木剣を使うのか?」
「いやいや、それじゃあ切迫感が足りないだろ!やるなら本物じゃなきゃ。早速期待の新人君と腕試しができるなんて、ラッキーラッキー!」
ヴィルは乗り気らしいので、取り敢えず武器は剣になった。
ルールは簡単、相手が降参したらおしまい。明確な場所の制限はないが、あまり広がりすぎないようにとは言われた。使っていい魔法は身体強化のみだ。
こうして、3人とジラに離れたところから見守られながら、目をぎらつかせたヴィルと向き合った。
バンスさんから貰った剣を鞘から取り出し構えると、ターニャの試合開始を宣言する声が響き渡った。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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