12「冒険者ギルド(2)」
お久しぶりでございます。少し暖かくなってきましたね。季節の変わり目ですので、体調にはお気を付けてください。
「それは…聞くしかないな。お兄さん、君は一体何者だ?」
受付嬢だからと油断しすぎていたか。少々面倒なことになりそうな予感がして、思わず溜息をつく。
「冒険者ギルドは個人の詮索はしないと聞いていたのだが。」
ジラを撫でるようにして指でトントンと叩くと、状況を察していた彼は、ピョンと膝上に飛び乗った。
セレナ・クラシスは魔獣に襲われて死んだというのがもっぱらの噂だが、これが向こうの罠だったら?非公開で色々な組織に指名手配犯として特徴や姿絵が配られていても何らおかしくない。
まあこれはダイアナがどんな報告をしたかで変わるが、用心するに越したことはない。
今のところカーナさんとバンスさんにしか素顔を見られていないので、姿を変えてしまえば隠し通すことは出来るだろうが、取り敢えず一旦引くためにこの場から逃げる必要がある。
「自由な冒険者ギルドといえども、犯罪者を入れるわけにはいかないからね。」
「へえ、私が何か罪を犯したと?」
「いや。そういうわけではないが、怪しまれたくないのなら測定値を誤魔化そうとした理由くらいは話してもらわないといけない。どうしても話せないというのなら、誰か知り合いの…できれば高ランクの冒険者に身元を保障してもらうしかないな。」
これは…口調や表情からして恐らくバレてはいないみたいだが、まだ確信が持てないな。
考えているふりをして、数秒じっとアリアナさんの顔色を窺っていると、さっきからこっちの顔を凝視していたミリさんが口を開いた。
「そもそもだけど貴方、怪しくないというのなら、まずフードもマスクも取ってください。そんなに目ぶかに被るなんて、顔を隠さなければならないような人に違いないです!アリアナさん、こいつ指名手配犯だったりーー」
「おいミリ、余計なこと言ってそこの狼に噛み殺されても知らないからな。」
チラリと視線をジラに移すと、思いきり歯を剥いてミリさんを睨んでいた。声にならない悲鳴を上げた彼女は、プルプルと震えながらも大人しく口をつぐんでおくことにしたらしい。
ありがたかったとはいえ、まだ睨みを効かせているのでいい加減やめろとジラをつつくと、こちらを向いて不満げな顔して渋々歯をしまい、そっぽを向いた。
「すまないねお兄さん、ミリが失礼なことを。」
「いや、気にしなくていい。」
…取り敢えず大丈夫だと判断するか。ダイアナは秘密を守ってくれているらしい。
「さっきの質問に答えるが、アリアナさんの言う通り少々針をいじった。それは大変申し訳ないと思っているが、ミリさんの言う回路干渉器具というものは使っていない。」
「まあそうだろうな。で、理由はなんなんだ?」
「…私は平和に生きたいんだ。今まで魔力が多くても良かった事なんてあまりなかったからな。詳しいことは聞かないでくれるとありがたい。だがもう面倒なことに巻き込まれるのはごめんなんだよ。」
「ああ、確か…そうそう、あのレディ・マリアーヌも昔、測定結果を誤魔化してE級の冒険者として活動していたと聞いたことがある。」
…誰かは存じ上げないが、有名な冒険者らしい。彼女の国は女性差別が酷かったらしく、能力がそこらの男の何倍も優れていた彼女を疎ましく思う人間からの悪意に耐えきれず他国に逃亡したみたいだ。
「お兄さんの言う通り、冒険者ギルドは必要のない個人の詮索は行わない。君は見たところ犯罪者ってわけでもなさそうだし、姿を誤魔化してるわけでもなさそうだ。しかし冒険者登録をするにあたってギルド職員だけでも顔は把握しておきたいんだが、どうだろうか。」
「…分かった。しかし2人以外には見せるつもりはない。普段はフードは被ったままにするつもりだ。そして私の外見のことは一切口外しないでくれ。2人とも、守ってくれるか?」
「冒険者ギルドの名にかけて誓おう。」
ちょっとアリアナさん、と不満そうに口をへの字にしたミリさんも、じっと視線を向け続けると黙って仕方なさそうにこくりと頷いた。
それを確認すると、フードを引っ張って後ろに下ろし、口元を覆う布を取った。
2人がこちらを凝視するため気恥ずかしくて顔を伏せていたのだが、バシバシとなにかを叩く音が断続的に聞こえ始めたので視線を向けると、ミリさんが口をぱっくり開いてアリアナさんの腕を叩いていた。
「「……………。」」
無言を貫き通すという予想外の反応だったため助けを求めるようにジラを見つめるが、ジラはまるでこの反応になるのが分かっていたかのようにニヤニヤと笑って、何もしてくれない。
普通に二人に顔を覚えてもらって、それではよろしくお願いしますと握手をするつもりだったのに両方黙り込んでいるし、未だにミリさんなんか、アリアナさんを叩いたままである。
「…大丈夫か?」
「うぉ!?す、すまない。ちょっと…予想外でな。」
「期待はずれで申し訳ないが、2人してだんまりなんてあまりにも酷い反応だぞ。」
先に我に帰ったアリアナさんが素早く一発ミリさんの背中を叩いて、彼女もようやく現実に戻ってきたようだ。ぱちぱちと瞬きをして、取り敢えずアリアナさんを叩いていた手を止めた。
「…やべえ。超絶美人なんだけど。」
(言葉遣いどした。)
「いや、、え?こんなに顔整ってる人見たことないんだけど。え、なんかすごい美しすぎて光放ってない?目も眩む美しさってことなの?なに、神はこの人に何物与えたの?私、もうこんなに不平等な神様信じない!」
この短時間で言葉遣いと神への信仰を同時に捨てたミリさんは、腕を組み、口を尖らせてそっぽを向いてしまった。が、チラチラとこちらを盗み見ている。
「…褒めても何も出ないぞ…。」
「いや…私も君みたいな人、今まで会ったこともないよ。へぇ…うわ、ほんとすごいな。もう一回こっち向いてくれ。」
何故……何故こうなった…。
ちなみに笑えと言われたので板についた悪役令嬢スマイルを披露したら、なんか顔が整ってる分余計に怖いと言われてしまった。突然笑えと言われても、そもそも私は表情筋があまり動かない類の人間だから無理難題である。
私の顔を見つめながら何か小声でブツブツ呟いているミリさんと、様々な角度からガン見してくるアリアナさんから逃げるように顔を背けながら、また一つ大きなため息をついた。
次はまた違う視点の話が入るかもしれません。よろしくお願いします。




