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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
二章「ローダンセ」
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6「再出発」

ようやく旅に出ることになりました。長かったでね…。

恐らく最初に書いたあらすじから物語が逸れていくことになりそうなので、気付いたらあらすじが編集されているかもしれません。

無計画で申し訳ないです。反省します。

「あ、あの…。」


似合わなかっただろうか。不安に思い、黙り込んだ二人に声をかける。すると、我に帰ったカーナさんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「いや、ごめんね急に黙っちゃって。あまりにも綺麗だったから、女の私でも見惚れちまったよ。」


「ああ、この服ですね。すごく洗練されたデザインで、私には勿体無いくらい素敵です。ありがとうございます。」


「いやいや、服も素晴らしいけど、マリちゃんも本当に綺麗だよ。マリちゃんほどの別嬪さんは見たことがないね。なあ爺さんや。」


話を振られたバンスさんはそれまで固まっていたが、問いかけられて我に返り首を縦に振った。


「あ、ああ。驚いた。我が家に来た日はボロボロだったし、その…ひどく痩せていただろう?それでも美人さんだとは思ったが、これほどとは思わなんだ。」


「そうさ。マリちゃんったら魔道具を渡した日からずっと付けているから、多少は肉付きが良くなっているだろうかと心配だったんだよ。よかった、あの時よりはだいぶ健康そうだね。」


「はい、おかげさまで。食事もとても美味しいですし、何より沢山食べさせてくれてありがとうございます。お腹いっぱい食べるなんて久しぶりだったので、毎日すごく幸せです。」


「…そうかい。」


カーナさんは少し複雑そうな顔をしたが、それは一瞬のことでサイズが合ってよかった、といつものように笑ってそう言った。


「さあマリちゃん。ここを出るなら色々準備しないとだよ。今日からでも荷造りを始めていいんじゃないかい。」


手をパチンと鳴らして立ち上がったカーナさんは物置に消え、暫くしてから小さい、皮でできた鞄を出してきてくれた。


「これも教会に行く時花を入れてた籠と同じで空間を歪ませてあるから、マリちゃんの荷物くらいは余裕で入ると思うよ。」


「ありがとうございますカーナさん。」


荷物を小さくするために持って行くものを減らさないといけないと思っていたが、これがあるなら余裕だ。あの面倒な呪いのせいで満足に魔法は使えないが、何年も繰り返していたら少しなら使えるようにはなった。けれど、まだ無属性の上級魔法が使えるほどではなかったから、とてもありがたかった。



それから、その日1日かけてここを出る準備を進めた。昼過ぎにジラが帰ってきたが二人とも家にいなかったので、小さくなってもらってからこっそりと私の部屋に連れて行き、一緒に物の選別をした。何を持って行くか悩んだものの、夕飯の時間になる頃には8割程度まで終わらせることができた。



予定していた野菜炒めと残っていた野菜でサラダを作り、麦飯を炊いて食卓に並べていると、仕事に出ていたバンスさんが丁度帰ってきた。


着替えて手を洗ったバンスさんが席につくと、前世でいう「いただきます」をする。国や地域によって色々な言い方があるが、この国は雪の精霊に感謝を伝えるのが一般的だった。


「雪の精霊の祝福に感謝を。」


「「感謝を」」


バンスさんの言葉の後に続けて言うと食事が始まる。


こんな風に囲む食事もあと少しのことだ。


3人とも、気づかぬうちに普段よりゆっくりと食事をしていた。




ーーーーーーーーー



あっという間に4日が過ぎ、ここを離れる日がやってきた。


2日ほど前に、カーナさん直伝のクッキーを手土産に今までお世話になった町のみんなに挨拶回りをした。みんな突然の話に驚いたようだったが、カーナさんの姪っ子という設定なので、家族の元に戻るからだと伝えれば納得した。



いつものように日の出ごろに起きて伸びをする。

ここでの朝は、今日で最後だ。


窓が開きっぱなしになっていたので、ジラがもう外に出て行ったことがわかった。

ジラとは森で落ち合う約束をしているので、きっと今頃食事でもしているのだろう。


折角服をもらったのでそれを着たかったが、この町を出るまで姿がバレてはいけないから諦めることにした。後で着替えることにしようと皮の鞄に詰めておく。


鏡を見ながら、髪をおさげにしてリボンで縛る。今日でこの、「マリちゃん」も終わりだ。



「おはようございます、カーナさんバンスさん。」


「「おはよう」」


扉を開けて食卓の椅子に座ると、とろりとした美味しそうなシチューと、ふわふわの白パンが出てきた。


「これって…」


「ふふふ、ビックリしたかい。昨日から煮込んでたから、味には自信がある。あとこの白パンは爺が王都に出て買ってきたんだよ。」


「そうなんですね。お二人とも、わざわざありがとうございます。」


「いいや…今日で最後だしね。昨日のマリちゃんお見送りパーティーでお腹いっぱいかもしれないけど、少しでも食べてくれると嬉しい。」


「全部いただきます!」


春なので昼間は暑いが、朝はまだ少し涼しい。とろりとしたシチューが体に染みて、身体が温まっていくのを感じた。

続いて柔らかい白パンを千切って口に運ぶと、ミルクの甘味とバターの香りが口いっぱいに広がった。

白パンを食べるのは何年ぶりだろうか。使用人と同じ食事しか許されなかったから固い黒パンばかりを食べていたし、たまにカビているパンを食べさせられたこともあったっけ。


白パンは、シチューにつけるとさらに美味しかった。ゆっくり味わって食べているのを二人に微笑ましげに眺められたのが恥ずかしかったが。


「ごちそうさまでした。」


ぺろりと完食した食器を台所で洗うと、家を出る支度を始めた。カーナさんが1週間は食べ物に困らないくらいの食材と、麻袋にお金を入れて渡してくれた。はじめは申し訳ないと断ろうとしたのだが、もらってくれと何度も頼まれて結局私が折れたのだ。


それらを入れるため、バックを取りに自室に戻った。そう、この部屋ともお別れだ。公爵家での自分の部屋より、こちらの方がずっと住んでいたかのように馴染み深かった。


「ありがとう。」


そう呟いて扉を閉めると、食卓に並べられたパンやチーズ、手作りクッキーなどを袋に詰めていく。最後に麻袋をしまうと、みんなで外に出た。



れんが造りの暖かみのある家。3ヶ月しか住んでいなかったが、この家には幸せな思い出がたくさん詰まっている。


背を向けて小道を一列になって進む。のんびりと周りの木々を眺めながら歩き続けると、まるで門出を祝うように、昨日までつぼみだった丘の花々が、一斉に咲き誇っていた。



花を摘み摘み町へと向かうが、いつも賑やかだと言うのに話し声ひとつ聞こえないことに気づいた。


「あれ、なんだかとても静かですね。」


「あー、きっとあれだよ。みんな寝坊しているんだよ。昨日は夜遅くまでお祭り騒ぎだったからね。」


「…そうなんですね。」


カーナさんが確実に目を逸らしながら言うのでもっと聞きたかったが、人は隠し事がある時によくそうする。悪いことを隠している場合は問い詰めるかもしれないが、カーナさんのことだ。気にしなくていいだろう。




静かな町の中を通り抜けて、門に向かう。すると門の前に人だかりが出来ているのが見えた。


「マリちゃーん!見送りにきたよー!」


いち早く私に気づき大声で叫んで手を振るのは、よく声が通る太陽食堂の看板娘、リアだ。

リアの声で私達に気づいたみんなもわいわいと手を振る。


思わず走り出して広げられたリアの胸に飛び込むと、思い切り抱きしめられた。


「この間作ってもらったランプの飾り、お母さんすごく喜んでた。短い間だったけどとてもお世話になったわ!また遊びにきてね。」


リアのお母さんは、3年前から病でベッドから起き上がれないでいる。外に出られないリアのお母さんのために、彼女の好きなスミレの花をモチーフにしたランプをリアに依頼されたのだ。


リアが離れると、すぐに他の人が挨拶に来てくれた。食料品店のロンおじさんや服屋のシルクさん、パン屋のおばあさんーーー


たくさん貰った手土産を革のカバンに仕舞うと、カーナさんに抱きしめられる。今の私と背丈に大した差のないカーナさんは、私の肩に頭を乗せて小さく呟いた。


「マリちゃん…ありがとう。お前さんのことを本当の娘のように思ってるよ。いつでも帰っておいで。ここがマリちゃんの家なんだから。」


「...っはい。ありがとうございました。」


カーナさんとの別れが終わると、バンスさんが一歩前に出て腕を広げ、私は彼のお腹に飛び込んだ。


ほのかに薪の匂いの残っている服に顔を擦り付けると、バンスさんは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「一緒に暮らしたのはたった数ヶ月だったのに、マリがいないと家が寂しくなるな。...また、いつでも帰ってきておくれ。」


「きっとまた帰ってきます。バンスさん、カーナさん、本当にありがとうございました。」


行きにつんでいた花束を2人に渡すと、ゆっくりと門へ歩いていく。振り返ると、みんなが手を振っていた。


「本当にお世話になりました。ありがとうございました!」


大きな声で叫ぶと、手を振り返して背を向けた。


別れが悲しいと思った。

もう感情なんてなくなってしまったのかと思っていたが、どうやらこの3ヶ月で少しはマシになったみたいだ。



ーーーーーーーーーー




森をスタスタ歩き、町のみんなが見えなくなっても暫く先に進んだ。


「ジラ、そろそろ出てきていいわよ。」


木の上を伝ってついてきていたジラに声をかけると、するすると木から降りてきた。猫か?


「...いつから気付いていた。」


「そんなの、門を出て森に入った時によ。最初の木の上に隠れてたでしょ。」


「なんで気付くんだよ。」


feelingだ!なんて言ったら怒られるかもしれないが、嘘ではない。ただ漠然と存在を感じるのだ。もっとも、更に広範囲の気配を感知するには魔力を使わないといけないのだが。


「さあ、どこに行こうかな。プランは特に決めてないんだよね。」


「ふーん、セレナらしくないな。まあその方が気楽でいいんだが。それより、セレナはいつからそんな…上品な?喋り方になったんだ。」


「別に普通だよ。成長すれば話し方くらい変わるし。」


そういえば前は、男っぽい話し方をしていた気がする。ジラみたいな感じで。いつからか社会にすっかり染められていたようだ。まあ、そこが私の生きる場所だったのだから当たり前か。


「それに、これでも崩して喋っている方だよ。親しい友人とかに対してはこれくらい崩してもいいけど、他の人にもこの調子で話したら失礼にあたるし。」


「ふーん。なんかよく分からんが、面倒だな。」


「…ふふ、確かに面倒だね。」


貴族社会のあれこれを全て『面倒』の一言で片付けてしまうジラといると、心が軽くなる。


...ダイアナは大丈夫なのだろうか。親友だったとはいえ彼女はもう敵なのに、いつになったら切り替えられるのだろう。彼女が無事だといいだなんて、そんなの、殺されたあの騎士2人に顔向けできないじゃないか。


「あんまり引きずるなよ、お前の父親のこと。忘れろなんて言わないが、まあ…なんだ。お前が悪いわけじゃないんだから。」


普段遠慮なく言うジラが、必死に考えながら言葉を選んでくれている。私が黙り込んでいたのを、父親のことを考えていたからだと思ったらしい。


私は結局この3ヶ月間、泣くことはなかった。

父のことを愛していなかったのだろうか。私はそんな薄情な人間だったのだろうか。彼こそが、私の生きる意味だったはずなのに。



「...うん。分かってる。ありがとうジラ。」


そう言って毛をワシャワシャと撫でると、ジラは照れくさそうに笑った。


「そうだ、取り敢えずミル王国に行きましょう。そこの王都には冒険者ギルドがあるらしいの。ここは小さすぎて、ギルドがないみたいだから。」


「いいぞ。でもそのミル王国ってどこにあるんだ?」


「スアディード国の右隣の国なの。...多分このまま東に進めばOKだよ。」


「そんな適当で大丈夫なのか?」


呆れ顔でそういうジラを小突くと、2人で東へと足を進める。しばらくして森を抜けると、王都をぐるりと囲むように立つ塀の前までやってきた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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