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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
3/42

プロローグ3



それから毎日、誰もいない真夜中にこっそりお風呂に入りに行った。

なかなか絡まった髪が解けなくて毎日何回も髪を洗っては流すを繰り返したら、最近ようやくまともになってきた。垢がこびりついていた肌もすっきりとしている。


明日は入学式だ。急いで髪を拭くと、倒れ込むようにベッドに入り、すぐに眠りについた。



ーーーーーーーー



今朝は緊張からか、まだ外が薄暗いうちに目が覚めてしまった。


寮から学校まではバスが出ているが、特にすることもなかったし歩いても三、四十分ほどしかかからないから丁度いい時間つぶしになると思い、歩いて学校まで行くことにした。


できるだけのんびりと支度をして、いくつかある軋む床板を踏まないように爪先立ちで避けながら、静かに部屋を出た。まだどの殆どの部屋から物音がしなかったから、みんな寝ているのだろう。


誰にも会わなくて好都合だ。


階段を降りたすぐ先にある両開きになっている扉からは、カチャカチャと食器を運ぶ音が聞こえていて、こんな朝から用意をしていることに驚く。

まぁここは合格者は少なめにしか取ってないから全学年合わせても400人弱しかいないとはいえ、舌の肥えた金持ちに出す料理を準備するのには、時間と手間がかかるのだろう。


しかし、ずっと食べてこなかった朝食などいきなり出されても、食べきれないだろうから勿体無い。少しずつ慣らしていこうと思いながらも気が進まず、まだ一度も朝食は取っていなかった。



そのまま誰にも会わずに玄関まで辿り着いた。いつも入り口にいる寮の管理人さんも、この朝早くにはまだいなかった。彼女にはあまり良い印象を持たれていないらしいので、朝っぱらから会わなかったのは幸運なことだ。お互いにね。


起きた時は薄暗かったが、だいぶ日が昇ったらしい。

今日は新しい門出に相応しい気持ちの良い青空が広がり、鳥のさえずりが聞こえた。


春になったとはいえまだ風は冷たかったが、道端に沢山咲いているシロツメクサが春の訪れを全身で表していた。


学校は、田畑を抜けた奥の町にある。実は寮があるのが田んぼのど真ん中なだけで、田畑抜けると住宅街やマンションがあるのだ。

事実西の方には背の高いビルなどがあるが、霧がかかってぼんやりとしか見えない。



農家の朝は早いようで、畑には人影がいくつか見えた。首にタオルをかけている父親らしき人の近くで子供が雑草抜きの手伝いをしている。


寮に来るときに乗ったバスから見た家族に似ている。


また、胸が締め付けられる。決して自分には体験できない温かい世界から目を逸らして、空だけを見上げた。





その後はただ黙々と歩いて田畑と住宅街を抜け、街に入っていった。


なぜこんなにここが栄えているのか疑問に思ったが、地下鉄やJRが通っているからか。寮までは一番安いバスで来ていたから知らなかったな。

まあ、これからここに住むわけだし、これからもっとこの町を知っていくことになるだろう。




交差点で信号待ちをしていると、すぐ向かい側に幼稚園の子供が片手にシロツメクサを持ち、母親と手を繋ぎながら話しているのが見えた。

ぼんやりと幸せそうな親子を眺めていると、突然の強い風がその子の黄色い帽子を持ち上げて吹き飛ばした。母親の手を振りほどき、急いで帽子を追いかけて道路に飛び出る小さな子供。


タイミング悪く猛スピードで走ってきた自動車が向こうに見える。


咄嗟に、駆け出していた。


道路の真ん中まで来ていた子供を歩道側に投げるように突き飛ばしたと同時に急ブレーキを踏む音が耳に飛び込んできた。


急に周りがスローモーションのようにゆっくりに見えた。車に乗っている男の顔が絶望に染まり、さっき突き飛ばした女の子は、母親が広げた腕に向かって吸い込まれていく。



ああ、よかった。

 


ドゴンという鈍い音が聞こえた次の瞬間、私は宙を舞っていた。そのまま地面に打ち付けられ、鋭い痛みが全身を襲う。身体が焼けるように熱い。痛みを堪える低い呻き声が、口から漏れた。


周りから悲鳴が上がり、急いで救急車を呼ぶ声が聞こえる。それも、だんだんと聞こえなくなってきた。力を振り絞り目を開く。さっきの少女がなにかを叫びながら駆け寄ってきた。


なにを、言っているのだろう。だんだんと視界が霞んで見えなくなっていく。


寒い。さっきまで熱かったのに凍りそうなほど寒い。

私は、死ぬのだろうか。


別に私が死んだって悲しむ人などいない。そんな誰からも必要とされていない人間が代わりに死んで、家族がいる幸せな子供を助けることが出来るのならば、その方が誰にとっても幸せなハッピーエンドだ。


最期に感じたのは、やっと終わるのだという解放感だった。



意識が、朦朧としていく。

これでプロローグはおしまいです。

ちょっと長かったかもしれない…

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