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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
23/42

18「シンユウ」

遅くなりすぎて申し訳ないです…。


16話「舞踏会(2)」を大幅編集いたしました。目を通していただけると幸いです。

そしてセレナの父親が捕われている国の名前を変更しました。

・サンルク国→スアディード国

理由は単純にサンタン森と名前が似てたからです。


皆様体調に気をつけてお過ごし下さいね!



深く深く深呼吸をすると、覚悟を決めて腕を痛そうにさする暗殺者に向かって強く一歩踏み込んだ。





地面を蹴り相手の方へ駆け出す。深い静寂に包まれた森に互いの剣が勢いよく交わる音が高く響きわたった。


相手は先程まで気が抜けるような仕草を見せていたくせに、やはりというべきか自分の方へ向かってきているのを見た瞬間剣を取り出し完璧に防ぐのだから侮れない。

短剣を二本両手に持ち自分よりも遥かに長く重い剣を短剣の柄の近くとこちらの剣の先の方とを交わらせるようにすることで、上手く力を分散させて受け止めているようだった。



向こうは剣を交わらせる箇所を落ち着いて調整しながら戦ってきている。つまり相手は今の剣速に余裕でついていけているということだ。


今出しているのは全力のうちの大体60%ほど。このスピードで余裕なら、100%まで出して勝つか負けるかというところか。まあ、もし勝ったとしても無傷では済まないだろうが。



器用に力を受け流した相手は、此方の様子を見ようとようと一度背後に飛び退こうと地面を蹴った。だが…



相手が下がった途端追いかけるようにそちらに蹴り出し、再び剣が力強く交わる。蛇のように纏わり付き少しの時間も与えないように、相手の動きにピッタリくっついて離れない。


飛び退くために後ろに体重をかけていた相手は少し不快そうに目を細めるも、すぐに体勢を整え全ての攻撃を防ぎきっていた。





相手の剣が先程まで投げていた剣と同じものならば10秒ほどで一旦消える筈だが、30秒ほど付き纏って剣を作り替える時間を与えないようにしても、一向に剣が消える様子はなかった。

魔法で作られていない普通の剣なのか、何本かだけなら消えない剣を作り出せるのか。


どちらかは分からないが、とにかく剣がなくなる隙を狙うことは出来なさそうだ。




それなら剣速をあげてみようと、様子を見ながら腕に力を込め突如としてギアを切り替え80%まで跳ね上げる。急な早さの変化に驚いたように見開かれる真っ黒な瞳は、次の瞬間楽しそうに弧を描いていた。


「やっぱり手加減してたよね。いきなり早くなったからびっくりしたけど、まだまだ8割ってところかなぁ?」


声を弾ませながら聞いてくる相手をガン無視しながら攻撃を続けると、図星かな?と言って笑った。


確かに出している力は8割ほどだ。あまりの正確な分析についつい苦笑を漏らしてしまう。本当に、優秀な暗殺者だ。



ああ、でもこれだけ強ければ勉学が苦手でも冒険者だろうが騎士団だろうが、体を動かす職なら何でも就けただろうに、よりにもよって何故暗殺者なんかやることになったのだろう。


まだ子供でそういった職業につけなかったとか?でも子供だとしたらこの国には義務教育の制度があるので学校に通っているはずだが。

だったらこの国の人間ではないとか?


考えれば考えるほど選択肢は出てくるが、聞いても答えないことは百も承知なので口には出さない。


相変わらずシャッターでも下ろしているかのように何も感情を映さない瞳を見つめるが、どうしても相手と目を合わせることは出来なかった。




ーーーー




セレナの感覚ではもう1時間くらい斬り合いを続けているように感じたが、実際は2分も経っていない。一般人が見れば2人の戦いは残像しか見えないほど速く、何が起きているのか理解できないだろう。



時を追うごとに段々と激しく交わる剣は、次第に鋭さも増していく。勢いよく擦れあった刀から火花が散るたびに、相手の顔を月明かりと共にふわりと照らし出らしだしていた。



途切れずに続く激しい斬り合いの中で、一際力強く剣が交わり、互いの力を合わさって受けた剣がギリギリと悲鳴を上げた。その瞬間バチリと音が鳴ったかのように目が合った。今の今までどう目を合わせようとしても合わなかったのに。


不意打ちを受けて目を見開いた私を見て、どこかで見たことがあるような真っ黒なその瞳がほんの一瞬、瞬きをする間もないほどの一瞬、哀しそうな色を宿した。そんな気がした。






「……っ!?」


次の瞬間、その一瞬の隙を的確に突いた彼女は私の首筋に剣を突きつけていた。そしてほぼ同時に私も護身用の短剣に持ち替え相手の首に突きつけ、頭にかぶせられた布を反対の手で思い切り剥ぎ取った。



絹のような艶やかな髪が布から流れ出し月明かりがほんの一瞬慌てた色を浮かべたその顔を照らし出す。



「どうして…どうして貴女がここに居るの。」


零れ落ちるように小さく言葉が漏れ出た。目を合わせたあの時、心臓が跳ねた。その目はあまりにも見覚えのあるモノだったからだ。気のせいかもしれないと思ったが、その姿が本人ではもう受け入れるしかない。


心臓は早鐘を打っているが、それに反して先程まで熱かったはずの全身からは一気に血の気が引いていき、指先が急速に冷えていく気がした。


いっそこのまま思考を止めたままでいたいのに、再起動した脳内はぐるぐると必要以上に動いて酷い耳鳴りを起こす。






「……突然本気を出すなんて酷いじゃない。セレナに本気なんか出されちゃ私なんか瞬殺だものね。」


「どうして…。ねえ答えて、どうして貴女が」


こんなこと。その言葉を続ける前に、彼女は被せるように口を開いた。


「誰かさんに頼まれたからって言ったじゃない?」


さも当たり前かのようにそう言葉を紡ぐ彼女の薔薇のような赤い唇は弧を描き、肩上で切り揃えられた艶のある短い髪がサラサラと風に揺れた。




「こんばんはセレナ。今夜は少し冷えるわね。雪が降りそうだわ。」


そう言って空を見上げる、目を瞑っても鮮明に思い描けるほど見慣れた少女……ダイアナ・ランカーは、ほんのりと花が咲くように微笑んでいた。





「…あな、たは…ここで、何をしているの?」


「ん?何って…仕事かしら。」


今、目の前で首を傾げる少女の姿はいつもと何も変わらないはずなのに、視線を少しずらせば別世界のような血の海の中で二人と一頭の死体が転がっているのがはっきりと見える。




「…どうして?」


「特に理由も何もないわよ。私達は昔からこういう仕事をやってる家系なの。私はランカー家の長女として生まれて、この家の者として恥じない教養と力を身につけた。ただそれだけよ。ランカー家は、表では由緒正しい歴史ある家。裏では情報屋とか、依頼によっては暗殺の仕事もやってるの。」


「今までランカー家への告発が無かったなんてことあり得ないでしょう。高位の貴族達の協力でもあったのかしら?」


「うーん。確かに高位の貴族もいたけれど、王家も関わってるわ。先代の国王は特にランカー家の情報網を利用してたらしいしね。」



まさか、王家も関わっているなんて思っても見なかった。立て続けの強い衝撃により無言になってしまうと、少し苛ついたようにダイアナが口を開いた。


「ランカー家は明確な事実と証拠を用いた上で情報を提供する。だから私達のする仕事は絶対的な信頼を集めているの。

我が家に依頼するためにはそれ相応のお金と、私達にとってプラスとなるものが必要。それがランカー家の保護なのよ。何かあってもランカー家の秘密を一切外に漏らさないようにするためのね。我が家と関わった人達は私たちを裏切ったりすれば契約違反としてそれ相応の処置を取らせていただいてるの。」


…確かに、言われてみれば思い当たる節はあった。ランカー家は全てを知っているだとか、色々な噂を聞いたことがあった。それが故かダイアナには人が寄り付かなかった。

見た目はとても美しいし教養も高い。その上公爵家という高い身分を持っているにも関わらず、彼女に言い寄る御令息たちを私は見たことがなかった。御令嬢たちも同じく。


なのでダイアナに婚約者ができたと聞いたときは嬉しかったが少し驚いたものだ。




けれど、本人から言われてもなお、まだダイアナが人を殺すなんてことを理解できそうになかった。いや、したくなかっただけかもしれない。間違いだ、間違いだと思い込もうとするたびに咽せるほどの血の匂いが死を主張する。



吐き気がした。



思い返せば、ゴルマスさん達を含めどれだけの人を巻き込んだだろう。私のせいで不幸になった人は何人いただろう。今、ここで終わらせてしまえばこれ以上誰かを傷つけることはないんじゃないだろうか。生きることをやめてしまえば楽だと、自分の中の弱い部分が囁いてくる。


ダメだ、私にはまだ助けなければいけない人がいるのに、ここで死んだら間に合わない。これ以上、私のせいで不幸になる人を増やしてはいけないのだ。私のするべきことはダイアナを倒してお父様たちを助けに行く。それだけ。

頭を振り余計な思考を放り出すと視線をダイアナの瞳に移した。




「……貴女は確かに人を殺した。そう、貴女は敵。私の、私達の…敵だわ。貴女を排除しないと。」


「はぁ…どうして泣くのよ。」


止めようとしても溢れ出る涙が視界を曇らせる。拭おうとしても両手が塞がっていて無理だ。涙は溢れるままに頬をつたい、地面に落ちる。先程決心したばかりなのに、もう、無理だろうと確信していた。


「貴女は私の親友だったの。本当に、何よりも大切な存在だった!大切な、大切な…。だから私は、貴女を殺せないのよ。」


唇を噛みしめ、目を瞑り余計なものを外に追い出すと、ダイアナの揺れる瞳を見つめ返す。


「幻の友情だったとしても、貴女と過ごした時間がとても幸せだったことに変わりはないわ。三年間、短い間だったけれど素敵な時間をありがとう。今から私は、行く場所があるの。」


「…っ待って!」



もう殆ど力が緩んでいたダイアナの短剣を素早く弾き飛ばして背後に飛び退く。ダイアナが腕を伸ばし掴もうとするが、その手は空を切っただけだった。

距離を取ると動きを鈍らせる魔法をかける。効果時間はあまり長くはないが、そこらの木に巻きついていた蔓で手足を縛り付けるくらいの時間はあった。それが終わるとダイアナに背を向けて彼等の元へ向かう。




「ゴルマスさん、この剣ありがとうございました。」


息をしない彼の傍らに膝をついて、先程地面に落としてしまった剣の汚れを拭き取り鞘に戻す。そして土魔法を使い、地面に二つの大きな穴を掘った。このままだと血の匂いに釣られて獣達が寄ってきてしまう。二人を丁寧に運んで地面に並べて寝かせ、馬車を引いてくれていた馬も隣の穴に埋葬した。


そして、最後に騎士団の二人の小物を少しだけ預からせてもらった。いつか、絶対に彼等の家族の元に返しに行くのだ。それがせめてもの罪滅ぼしだった。



地面に手をつくと、呼吸を整え彼等を埋めた周りを魔力で覆い囲むようにゆっくりと広げて結界を施す。あまり細かい設定をする余裕はなかったので、取り敢えず匂いを消して人や動物達が入れないようにした。恐らくこれで掘り返されることはないだろう。効果は永遠ではないが、彼等が還るまでは十分続く。


目を閉じて黙祷をすると、背後に立っていたダイアナに視線を向けた。


まあ、彼女にとって蔓なんて魔法で短剣を出してしまえば簡単に切れるわけだ。動きを鈍らせる魔法だって、彼女を縛って時間稼ぎするためのものだったし。けれど私が終わるまで手出しをしてこないと、なんとなくわかっていた。



「ダイアナ、私は貴女のしたことを決して許さない。けれど、私には貴女を捉えて騎士団に突き出すようなことはできない。私は、貴女に殺された。貴女は任務を全うした。」


話しながら、腰まで伸びた銀髪を一束手に持ち肩辺りでばさりと切り落とす。


「これを証拠に出来ないかしら。私は殺されたということにして欲しいの。」


切った髪をひとまとめにして、髪に結えていたリボンで結んだものをダイアナの目の前に差し出すと、ダイアナは呆れたような顔でこちらを見た。


「本当に、馬鹿ね。私をここで殺して仕舞えばいいのに。貴女が今私を逃したら、私はまた人を殺すわよ。」


「あら、貴女ほど馬鹿ではないし、私は貴女を殺せないもの。あとこれを最後に貴女に暗殺の任務は任されないと思うわ。」


「どうしてかしら。」


「だって卒業したらもうすぐ結婚するのでしょう?貴女は結婚相手の家に嫁ぐことになる。恐らく貴女の婚約者は他国のランカー家の噂を知らない方でしょう。事情を知らない人達の家なのだから仕事で不在になれば不審に思うでしょうから、多分貴女はこれから情報を仕入れるためにそこに嫁がされるはずよ。」


突然口元を押さえて笑い出したダイアナをジロリと睨むが、彼女は意に介さずといった様子で笑いを止めない。


「本当に、流石セレナだわ。」


笑い続ける彼女から目を逸らすと、ダイアナに背を向ける。


「もう時間がないから行くわ。いい?私は死んだことにしておいて。」


「さぁ、どうしようかしらね。」


きっと彼女は真実を言わないでいてくれる…ような気がした。まあ、その思いにはなんの根拠もないわけだが。


でも、今まで一緒に過ごしてきた三年間、二人の間の友情の全てが偽物だったなんて思いたくなかった。偽物だったなら、彼女は私の首に剣を突きつけた瞬間切っていたはずだ。私が容易に人を殺せないなんてこと、ダイアナはよくわかっていただろうから。



「…ここから徒歩で行っても絶対に間に合わないわ。どうするつもりなの?」


「ふふ、私に出来ないことなんてあると思っているの?」


そう言ってニヤリと笑えば、同じような笑みを彼女は浮かべた。


「そうね、貴女ならなんでも出来そうな気がする。でも、気休めだけれどこれくらいは持って行きなさい。私だったらそんな格好じゃ凍死しそうだけど、まあ貴女なら大丈夫でしょう。魔法使えるみたいだし。」


私のドレスが酷く破れているのを見兼ねたダイアナは馬車の中を覗き、私が馬車に乗った後ゴルマスさんが渡してくれた膝掛けを目に留め投げ渡してくれた。白いふわふわとしたそれを肩に巻きつけると、だいぶ上半身の寒さは軽減された気がした。




「また出会わないことを祈るわ、セレナ。」


「ええ、私からも祈っておくわね。」


最後に二人で笑い合うと、運良く近くにいた狼種のウルフをつかまえてその背に跨り、北に向かって走らせた。


背後を振り返ると、もうダイアナの姿はなかった。




ーーーーーーーーーーーー




3時間ほど経ちサンタン森の端に着く頃には、月は黒い雲に覆い隠され雪が少しずつ降ってきていた。


「ダイアナ言う通り、降ってきたわね…。」


ここから先は本当に冷え込む。この森で生きる狼では寒さに耐えられないだろうし、この子にも家族がいるのだ。ここから連れ出すわけにはいかない。合図を送りスピードを落とさせ止めると、地面に飛び降りた。


ありがとうと呟くと、頷くようなそぶりを見せ背を向け森の奥へと去っていった。




「はぁ…はぁ…」


誰もいなくなって気が抜けたのか、膝の力が抜けて地面に座り込んでしまった。


「…思ったよりきついな。」


先程魔法を予定より多く使ってしまい、身体が限界を訴えるように強く痛んでいた。さらに追い討ちをかけるように凍えるような風が肌に吹き付ける。でも、これからは飛んでいかなければならない。


「…頑張れ私。」


震える身体にもう一度膝掛けを巻き付け直し、足を奮い立たせる。間に合えばお父様たちを助け出して他国で幸せに暮らすのだ。今まで会えなかった分毎日一緒に起きて、食卓を囲み、沢山お喋りする。

今だけ頑張れば、あとは幸せな生活が待っているのだから。





空を飛ぶと言ってもそれ専用の魔法があるというわけではない。足元に風魔法の魔法陣を展開し、バランスをとりながら飛ぶのだ。空を飛ぶには魔法陣を自在に操れる能力とバランス力が必要となる。


足元に魔法陣を展開すると、足の下から身体を浮かべるほどの強風が吹き出した。


よし、浮いた。


その後徐々に風を強くしていき、ぐんぐんと高度が上昇する。大体の障害物がなくなる地面から50メートルほどのところでその風力を固定すると、膝掛けが吹き飛ばないように握りしめ身体を傾けた。


するとウルフが走るスピードとは段違いの矢のような速さで身体が空を切るのを感じた。下を見ると、川を挟みサンタン森と隣り合わせになっているウィンザード森林の針葉樹の森がどんどんと流れていく。



「…ゴホッ、ゴホ…」


喉に焼けつくような痛みを感じ手で口を抑えた。咳をして口から離すと、血がベッタリと手に張り付いていた。スアディード国に着くのが早いか力尽きて落ちるのが早いか…。


急ごう。


風を強めてスピードを跳ね上げ、更に北へと飛び続けた。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

もう少しで一章が終わりそうなのですが、どこで切ろうか迷い中です…。


そして国の名前のネタが切れ気味になってしまい…。まだ2カ国くらいしか出てきてないのに!

ネーミングセンスがあまりないので変な国名などが出てきても気にしないでくださると嬉しいです。

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