表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
21/42

16「舞踏会(2)」

お待たせしました、遅くなり申し訳ありません…。


この間言っていたように、内容はさほど変わりませんが前作を修正致しました。

「お前の父親が昨日、国家反逆罪で隣国で捕らえられた。私にはそんな奴の娘がまともな人間だとは到底思えないな。お前は、未来の王妃に相応しくない。」



その言葉は、妙にゆっくり耳に入ってきた。まさか、そんなことがあるわけがないじゃないか。最初に浮かんだのは否定の言葉だった。


脳では事実ではないのだとしっかりと理解しているが、父親が無実の罪で捕まってしまったという不安で頭が埋め尽くされて、ぐるぐると視界が回転した。



これはきっと、何かの冗談だ。もしそんなことがあれば、真っ先に我が家に知らせが来て、知っている筈なのだから。



「…そんなの嘘に決まっておりますわ。父が国に反逆するなんて、絶対にあり得ませんもの。陛下は父の古き友人なのですよ?」



自分自身の言葉でだんだんと落ち着いてきた。そうだ、お父様がそんなことするわけない。決して、陛下に反逆しようなんてあり得ないのだ。先程までの混乱が弾けるように消えていき、だんだんと頭が冷静になってきていた。



「素直に罪を認めたらいいものを。お前もそれに加担していたのだろう?お前が父親宛に送った手紙にはそれを疑うに十分な証拠がある。」


ジンが懐から一枚の便箋を取り出し、私に渡した。


「ああそうだ。今それを破り捨てたって意味はないぞ?既に写しは取ってあるからな。」


見下したように笑うジンを無視して手紙を確認する。確かにこの便箋は私が送ったものと同じだった。

しかし中には私が送ったものとは全く違う内容が書き込まれていた。


「…なに…これ…。」



広げた紙には丸っこい字で三行ほどの文が書かれていた。


ー至急仲間に伝えて頂戴。王城の設計図を手に入れたわ。この国が我々の手の中に入るの日も近付いてきた。準備をしておいて頂戴。

BBに栄光あれ。 ー


BBってなんのことだろうか。組織の名前?勿論その疑問に答えてくれる人など何処にもいない。 



「ちなみに君が手に入れたという王城の設計図は回収させていただいた。」


「…これは私が書いたものではありませんわ。私が学園で提出した論文などの字とその紙の字体を比べてーー」


「静かにしろセレナ嬢。言い訳は見苦しいぞ?昨日お前の父親と組んでいた関係者達を何人か捕らえた。明日にでもまとめて処刑が行われることだろう。」


「…っまさかジン、貴方無実の人達を殺す気なの?この話陛下になさったのでしょうね?こんなこと決して陛下はお許しにならないわ!」


「我が父は親しき友人に裏切られたと知ればさぞ悲しむだろう。罪人どものせいで国務に支障を出されても困る。」


「こんなこと出来るわけがないでしょう!」



怒りのあまり声を荒げて叫ぶが、ジンは私を見て鼻で笑っただけだった。


あんまりだ。あんまりであった。

こんなこと本来出来やしないのだ。国王の許可なく処刑をすることはこの国の法により禁止されている。なのに今、彼は当たり前のように無実の人間を殺そうと考えている。 



「…全くもってあり得ないことですが、それがもし事実としても何故我が家に知らせが来なかったのですか?そして何故昨日のうちに私を捕えなかったんですの?」



一度深呼吸をして湧いてきた疑問を口に出すと、当たり前じゃないかという表情で、ジンはスラスラと言葉を紡いだ。


「連絡が来てバレたと知ればお前は仲間も見捨てて逃げるだろう?探すのは面倒だ。それと…そうだな、何故昨日捕えなかったかと言うと、まさしく今日のためだ。元々シェリーヘの謝罪もなく捕まえるつもりはなかった。お前の醜聞を人々に知らしめた後で絶望に突き落とした方が楽しいだろう?」



そう言って嘲りを含んだ目で此方を見ながら、彼は至極楽しそうに笑っていた。


「ああ、シェリーのお陰で丁度良い口実ができたよ。このまま何も証拠がないままこの日が来てしまったらどうしようかと思っていたが、これで堂々と婚約を破棄し愛しきシェリーを王妃に迎えることができる。そこはお前の父親に感謝しようじゃないか。」



そう耳元で嬉しそうに囁かれて、嫌々ながらも認めざるを得なくなった。今までの会話で薄々感づいてはいたが、この言葉で確信してしまったのだ。



お父様は嵌められた。



そう。私との婚約を破棄し、シェリーと結婚させるために。そして今恐らくジン達にとって都合の悪い人達と共に死の淵に立たされている。それもすべて、私が原因だ。



最悪だった。最悪の気分だった。




するとどんよりと重い空気の中で、場違いなほど可愛らしい声が辺りに響いた。


「…ジン様。お姉様だけは許してあげてくれないかしら。確かに私はお姉様の虐めからは解放されるかも知れないけれど、殺す必要はないと思うの。せめて国外追放で許してあげてほしいの…。」


そう涙を浮かべながらジンに慈悲を乞うシェリーを、私はどうしても怪しむ目で見てしまう。

どうも引っかかるものがあるのだ。今までのことを考えると、急にこんなことを言い出すなんて何か裏があるに違いなかった。


「貴女、お父様を助けようとはしないのね。ここまで貴女が散々贅沢して暮らしてこれたのも、すべてお父様の苦労の賜物なのに!」


「彼女は贅沢など一切していない!それに慈悲深い彼女がせっかくお前の命を助けてあげようとしているのに、父親までも助けろだと?我儘もほどほどにしろ!」



そう憤って叫ぶジンの言葉に当たり前のように疑問が浮かぶ。贅沢していないというのならば彼女が着ているドレスはなんだ。


有名な仕立て屋で作られたドレスということは一目でわかった。その店のドレスにはデザインに特徴があったからだ。それにスカートに縫い付けられた大粒のダイアモンドはフリルに隠れてはいるが、結構な数と大きさだと見て取れる。


恐らくクラシス家の財産が惜しみなく使われたのであろう。

思わず今の状況も忘れて今月の請求書の心配をしていると、シェリーが再びジンに私の命乞いをし始めていた。





なかなか話し合いの決着が付かずに揉め合っていたのだが、最後に何かシェリーがジンに耳打ちをすると、ジンは渋々だが了承したように頷いた。


「セレナ・クラシス、お前を国外追放とする。勿論公爵家の位も剥奪だ。そしてクラシス家の当主だが、お前の父親に代わりにシェリーの母上の家系である、辺境伯のサディエス家長男に引き継がせることになった。」


「…っお父様はどうなるの?」


「勿論処刑だ。結構この国から離れた国で捕まえたから処刑は向こうでやるのだがな。目の前で罰される様子を見ることは出来ないが、まぁきちんと晒し首にしてくれるのなら任せてもいいかと思ってな。」


「…はっ、あははは…」



ただただ渇いた笑い声が溢れるだけで、反論の言葉も何もかも口から出ない。




笑い出した私を気が狂ったと思い、遠ざけるために焦って護衛の騎士に指示を出すジンも、此方を見ながら惨めだと嘲笑う人々も、表向きは心配そうな顔をしているが満足げに頰を緩ませているあの女も。


もう、どうでもよかった。


でももし私の友人が此処で私を庇いに入ってしまったら、共犯者だと疑われてしまうかもしれないのだから、来なくてよかった。彼女達を巻き込むことにならなくてよかった。  




さぁ、問題なのは自分は本当にそう思っているのか断言できないことだ。




心の何処かで、自分の身を顧みず助けに来てくれることを望んでいたのではないか。ダイアナは遠くにいて来れなかったのだとしても、せめてヒアナだけでも。なんて思ってしまうのは、私が愚か者だからだろうか。


けれど、思ってしまうのだ。もし此処で、誰かが隣にいてこの手を強く握っていてくれたのなら、私はもっと強くあれたかもしれないと。






茫然と突っ立っていた私を指示を受けた騎士2人が両腕を挟み込むように掴み、出口へと引きずろうとした。 



「…っ、お父様達が捕まっている国は何処なのか教えてくれないかしら。」


「ああ、そうだな…。どうせお前には何もできないのだから教えてあげようか。あまり頭も良くないと聞くしわからないだろうが、北のほうにあるスアディード国というところだ。」


足を踏ん張り質問し損ねたことを聞くと、案外すらすらと話してくれた。


確か此処からスアディード国までは不眠不休で徒歩で5日、馬車で3日。休憩を取るとしたら徒歩で一週間、馬車で四日間。しかし処刑が行われるのは明日だ。


(遠すぎる…普通に行ったら間に合わないな。)







これからどう行動するか思考を巡らせながら、人々の嘲りの視線、そして満足げな笑みを浮かべるシェリーとジンに見送られ会場の外に連れていかれた。


そういえば、サラが外で待ってくれているんだっけ。どう説明しようか。


「セレナ様!セレナ様!」


「サラ…」


他の騎士の人たちに止められながらも身を乗り出して必死に名前を呼ぶサラの姿に、目頭が熱くなった。これから彼女はどう暮らしていくのだろうか。私に一番近かったメイドなどすぐにあの義母達に辞めさせられてしまうだろうし、私は罪人とされている。彼女はどこの屋敷でも雇ってもらえないかもしれない。

今まで散々お世話になったのに恩を仇で返すようなことになってしまうことに申し訳なく思った。


「私は大丈夫。今まで私を支えてくれてありがとう。貴女を姉のように思ってた。本当に、本当にごめんなさい。どうか屋敷のみんなにも私が感謝していたと伝えて。」


「セレナ様…!」


背後から聞こえてくるサラの泣き声に胸を締め付けられたが、ここで立ち止まってしまってはいけないのだ。お父様達を助けるという役目がまだ残っているのだから。



騎士たちに馬車に乗せられ、片方は前の方へ歩いて行った。恐らく御者がいないからその人が馬を操るのだろう。もう片方の騎士と共に馬車に乗り込み、向かい合って座った。


古いのであろうか。必要以上にガタガタと揺れる馬車は、早足で王都の出口の門に向けて進んでいた。



ーーーーーーーーーーー




「そろそろいいだろう。」


目の前にいた騎士が小窓から顔を出して後ろを確認すると、一言呟いて急に姿勢を整えた。


「セレナ様、まず大変無礼な接し方をしたことをお許しください。」


「…は?」


「王国騎士団第一軍、ゴルマスと申します。セレナ様のことは、良く騎士団の練習場で見かけるので存じております。」




突然のことに頭が追いついていないまま、ゴルマスは早口で今の状況を説明し出した。


「現在王国騎士団は国王派と王太子殿下派との二つに分かれて対立しております。騎士団ではセレナ様も良くご存知の騎士団長側と、こちらもご存知だと思いますが、副団長のシラク側とで分かれている状態です。騎士団長側は国王派、副団長側は王太子殿下派となっております。」


「国王派と王太子殿下派…?いつの間にそんな風に対立していたのですか?」


「あそこは昔から仲が悪くてですね。せっかく団長がいない間に鍛錬を積んで、このままだったらシラク様が団長になるだろうと噂されていたのにある日ひょっこり団長が戻ってきたのですから。その後あっという間に抜かれてしまって。それで今回どちらに味方するかで団長に反抗するように王太子殿下の方についたのです。」


「あの、国王派と王太子殿下派とはどういうことでしょう。」


「現在王太子殿下派の貴族の方々が、陛下を失脚させ、あの…少し頭の回転の遅い王太子殿下を国王にさせ、裏で権力を持とうと企んでいるのです。」


「え…まさかそんな。いつの間にそんなことになっていたのですか?全く知りませんでした。」


「知らなくて当然ですよ。本当に一部の高位貴族の方々が企んでいるだけです。彼等は決して計画を外に漏らさないよう水面下で動いている。」


「では、どうして貴方は計画のことを知っているのですか?」


不審に思い眉を潜めると、ゴルマスさんが慌てたように腕を振り弁明した。


「実は…王太子殿下派の方々が騎士団に協力を仰いできたのです。協力した者には計画が成功したらそれなりの地位と報酬を約束すると。」


「頼んできた人達の名前を教えてくれないでしょうか。」


「そ、それだけは…言えません。」


「何故ですか?」


何かに怯えるように顔を真っ青にさせてそう言うゴルマスさんに、理由を問う。


「名前を口に出せば、私は死ぬでしょう。」


「え…」


「あの人達が協力を頼みに来た時、彼らの考える計画の説明を騎士団全員にしたのです。その後、口封じのためだと言って、その場にいた全員に強制的に呪いをかけたのです。名前と計画内容が外に漏れないように。」


「私はその日、偶然にも休みを取っており、その場にはいませんでした。次の日私と仲の良い同僚とで2人で飲みに行ったのですが、彼はその呪いはただの脅しだと思っていたようで、腕に浮かんだ黒い鳥のような模様を見せてことの次第を私に話してしまったのです。彼は計画についての詳しい話をしようとした途中で首に巻きつく模様のようなものが浮かび始め、そのまま首を絞められたかのように苦しみ呻き…亡くなりました。」


大事な友人だったので、とても悲しい事件でしたとぽつりと呟いた。


「私はあまりのことで取り乱していてその時は気づかなかったのですが、後日私の腕にも彼に付いていた黒い鳥のような模様が現れていました。そして彼の葬式のときには腕の模様と首に浮かんでいたものが消えていたのです。」


ゴルマスさんは袖をまくり、左腕に浮かぶ少し光を放つ黒い鳥のような模様を私に見せ、再び悲しそうな表情を浮かべながらそう語った。


まさか話した相手に呪いが乗り移るようにかかるなんて…そんな呪い聞いたことがない。でも確かに相手に呪いが乗り移るのなら死因が呪いだったとはわかりにくいだろう。敵ながらよく考えられている。


「大切なご友人を亡くされてそれは辛かったでしょうね…。でも、ゴルマスさんにも呪いがかかったのなら発動しないのは何故でしょう。」


「どうやら話した相手に呪いが乗り移った場合、口止めの内容が関係者の名前だけになるのかもしれません。」


「そうなのでしょうか…。」


「まあ、死んでないので今のところそういうことにしておきましょう。」


黙って頷くと、ゴルマスさんは真剣な表情になった。



「私と前に座っている男は騎士団長側です。貴女様を安全に国外に送り、一応の仮住まいまで連れていくのが私たちの役目です。」


私達は実力一番の第一軍の騎士なので安心してお任せください、そう強く言い切り優しげに微笑んでくれたゴルマスさんに、とても申し訳なく思いながらも口を開く。


「…しかし私は、お父様と他の捕まった無実の人達を助けに行かないといけないのです。」


「それは、私達にお任せください。まずはセレナ様を安全なところにお送りすることが最優先です。」



時間がないので近道をしようというゴルマスさんの提案により、馬車はどんどんと暗い森の奥深くへと入って行った。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

暗い話ばかりで申し訳ありません、次話はもっとシリアスになりそうです…。



さて皆さん。私は本日フラグを回収しきれなかったことに気づきました…。

いや、登場させるつもりだったんですよちゃんと。「入学試験」のところで出てた魔法が上手な丸メガネ少女です。


なんか関わり合いになりそうに匂わせてた(?)のですが結局なんの接触もありませんでしたね…。作者のミスです。申し訳ありませんでした。


ということで登場人物のところからその子の人物紹介を消させていただきました。以後気をつけます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ