11「陰謀」
お久しぶりです!お待たせして申し訳ございません。。今回はいつもより短めです。
薄暗い部屋の中で、暖炉の炎だけが部屋を照らしていた。暖炉の前に置かれた品の良い机に、向かい合うように二脚の椅子が置かれている。その椅子に腰掛けている男二人がグラスを軽く合わせると、カチャリと音が鳴り、グラスに注がれた赤いワインがゆらりと揺れた。
「そろそろあの家を潰さねばならぬな。ダイアナにセレナ嬢に近づくように命じておこう。」
「そうだな。あそこを潰して仕舞えば後は簡単だ。」
「しかしSランク冒険者のナタリーというやつの故郷はサラマニカ王国の街らしいぞ。」
「なに弱音を吐いているのだ。Sランク冒険者が一人居てもなんの足しにもなるまい。気にしなくていいだろう。」
「それもそうだな。」
「そういえばランカー公爵。あの神獣の召喚に成功したようだな。」
「ああ。大量の生贄が必要だったが、別にあの平民達が何人死んだって誰も気にせぬだろう。」
「相変わらず恐ろしいお方だ。」
「いやいや、サリタール公爵こそ酷なことをする。国王派のジャンカー家の息子の称号が剣神だったからと暗殺したと聞いたぞ。やっと授かった可愛い一人息子だっただろうに。」
「将来有望な敵は未熟なうちに消してしまうのが一番いい。それにしても何故その情報が漏れたのだか。一度部下達を調べ上げなければならないな。」
「こんな人間に仕えるなど気の毒な部下よ。」
「称号と言えば、あのクラシス家の妹の方が聖女の称号を授かったと聞いたが、どうするのだ?消すべきだろうか。」
「話を聞く限り民にお優しい聡明な令嬢らしいからな。此方側に来ないならば国民達を人質に取れば逆らえないだろう。」
「確かに聖女を此方に引き込めれば一気に有利になる。姉であるセレナ嬢は何か特別な称号はないのか?噂では金遣いが荒く傲慢な令嬢だと聞く。何か利用できそうなら金を餌にすれば直ぐに食いついてくるだろう。」
「あの女は要らない。残念ながらセレナ嬢は[学問の天才]の称号しかないらしい。戦略を立てる時くらいしか役に立たぬ。それに性格がひねくれていると扱いが面倒だからな。」
「だったら最後には消す必要があるか。充分にあちら側の情報を引き出した後、用が無くなれば頃を見計らってダイアナ嬢に森などで消してもらえば問題ない。森で魔獣に襲われたとなれば有りがちな話だからな。」
「ああ、ダイアナに伝えておこう。」
「それにしてもランカー公爵は自分の実の娘ですら駒に使うとは非情なお方ですな。流石の私でも我が子は大切にしますぞ。」
「公表はしていないが私は教会の孤児院から何人か優秀な奴らを引き抜いている。だが、やはりもっと優秀なのは私の血を引いた者だ。」
「しかしダイアナ嬢と彼女の兄のハル殿は公になっている妻の子供でしょうに。使うなら愛人の子供にすればいいでしょう。」
「愛人の子供達も裏で仕事をさせているが、既に何人か失敗して死んでおる。今回のような重要な件では失敗は許されない。だからこういう時は跡取りのハル以外で一番優秀なダイアナを使うのだ。それに私は君のように子供に変な情などない。あいつらは私が利用する為の人形に過ぎない。」
「ほう、冷酷な方だ。ハル殿はダイアナ嬢を溺愛していると聞くが、ダイアナ嬢が任務に失敗して死んだらどうなってしまうのだろうか。」
「あやつなら大丈夫だ。私の後継ぎとして厳しく育てたから妹が任務に失敗したから死んだとなれば仕方がないと諦めるだろう。」
「はは、厳しいですね。まぁそれが今の貴方の強さに繋がっているのかもしれないが。」
「そろそろ時間だ。後でダイアナに指示を出しておく。神獣の管理のために君の所の魔法戦闘部隊の中で魔力の人間を何十人か手配してくれると助かる。しかし重要な役割のある奴は送るな。死ぬかもしれない。」
「了解した。明日にでも三十人ほど送れるだろう。」
「助かる。…これで足りるか?」
「…6ギヌルか。まぁいい。それではまた来月の同じ日に。」
「わかった。ではまた。」
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ダイアナside
「…何の御用でございますか?」
私は今、突然呼び出されたお父様の部屋で膝をついていた。
「学園では上手くセレナ嬢に取り入ったようだな。なんだ、何か情報は引き出せたか?」
「申し訳ありません。案外口が硬くて重要なことは一切漏らしません。」
「ふむ。貴様、この前分からないままで許されるなどと思ってはおるまいな?どんな手を使ってでも良い。絶対に情報を手に入れろ。わかったか!」
机に置かれていた赤ワインの入ったグラスが私の隣で砕け散り、割れたガラスの破片が頰を少し掠り、生暖かいものが頰を伝うのを感じた。
「分かりました。」
「おお、そうだ。用が無くなったらその小娘は消していい。必要な情報が全て聞き出せればそれ以上利用価値がない。適当に森にでも連れて行き殺せ。」
「…何故でしょう?」
「は?何を言って…」
「此方にとって不味い情報を知られたわけでもないのなら別に殺さなくても宜しいのではないでしょうか。」
怒りを溢れ出させる一方、初めて自分に意見をしてきた娘に対する驚きで若干戸惑っていた。しかし直ぐに取り直すと、歪んだ笑みを浮かべながら口を開いた。
「ほう、お前が反論するなど珍しいことよ。もしかして情でも移ったか?よし、今回で同年代の女を殺す事に慣れるよう練習するといい。あの小娘はお前の練習台として存分に役立ってもらう。」
「…左様でございますか。セレナ嬢の最後の処理はお任せくださいませ。では、早速情報を集めてまいります。」
「ああ。」
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「それでね、」
「………。」
「どうしたのダイアナ。ぼーっとしちゃって。」
「あ、ごめんなさい。少し考え事してたの。続けて。」
先日お父様に呼び出された。そろそろ用がなくなるからいつでも消せるように準備をしておけと言われたのだ。
目の前で美味しそうにパンケーキを頬張る、化粧の感じだと性格が随分キツく見える令嬢。
この見た目のままの性格だったら躊躇いもなくいつものように殺せただろうに。この二年間を友人として過ごしていくうちに、彼女の深いところまで知ってしまった。
例えば彼女の滑らかな美しい白い肌に輝く群青色の瞳。そしてクセの一切ないストレートの髪。彼女のメイクなどを取り去ったその容姿は言葉に出来ないほどで、絵の中から抜け出てきた女神のようであった。
また、父親の再婚した義母とその間にできた妹との関係が悪く、噂のような豪華展覧な暮らしは一回もしたことはない。義母と妹が消費する家の財産の為に最大限に切り詰めた生活を送り、正装用のドレスなども義母が噂通りの令嬢を作り上げるべく渡した3着のドレスと、母親の形見のドレスが1着だけらしい。しかし彼女はそんな誰もが耐えられるわけではない劣悪な環境で過ごしたにも関わらず、変わらずに真っ直ぐで汚れのない心の持ち主だということも。
今までどんな相手にでも情など湧かなかった。命令に従い情報を引き出し、バレたり感付かれたりすれば瞬時に後処理をする。そう、そんな有力な情報や物品を持っている人間なんて誰もが悪事に手を染めた奴らだけだった。
しかし目の前にいるこの不幸な、けれど強く美しく前を向いて生きている少女の事情を知り、情など湧かぬものか。
ああ駄目だ。いけない。自分は何を考えている?こんな事を思ってはいけないのだ。この何か突っかかる感覚も、彼女に対する親しみも、全て自分と同じ同年代の女だから湧いてくる物。私はどうしてしまったのだろう。仕事が久しぶりだからこんな気持ちになってしまったのか。気が抜けているのかもしれない。
そう、相手はいつもの標的のうちの一人に過ぎない。
なんの戸惑いもない。なんの情もない。いつも通りの仕事をすればいいだけ。標的の命を、お父様に指示されるままに刈り取るだけ。
なのにどうして、次に呼ばれる日をこんなにも恐れてしまっているのだろうか。
私はお父様の命令に背いた子供達を何度か見たことがある。決まってその子達に与えられるのは死のみだ。それ以外の選択肢はない。
自分がこの世界で生き残りたいのなら、お父様の命令には決して背いてはならない。これは私が今までに学んできたことだった。
そう、このまま緩んだ気持ちでいてはいけない。
貴女には私が生きる為に死んで貰わないと。私にはまだやらなければならない大きな目標があるのだから。
私の事を微塵も疑いもせずに笑顔を浮かべながら楽しそうに話している、今回の標的になってしまったこの少女を哀れに思いながらニッコリと微笑んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、感想ありがとうございます。
誤字、脱字も修正して下さり、大変助かっております。読んで下さる皆様のお陰で続けられています。
これからもよろしくお願いします。
ランカー公爵…ダイアナの父親。三つある公爵家のうちの一つであるランカー家の主人。
サリタール公爵…三つある公爵家のうちの一つであるサリタール家の主人。
もう少し学園のお話を続けるか直ぐに場面展開させるか迷い中です。どっちがいいんでしょうかね…( ̄Д ̄)




