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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
13/42

8「謎の刻印」

ほんっとうにお待たせしました!

筆者がここ最近色々ありまして忙しかったので遅くなりました…。

誤字脱字報告ありがとうございます!

サラside



最初にセレナ様を見た時は、羨望の気持ちを抱いた。美しく整った容姿に美しいドレスを纏った、優しい父親と義母に恵まれた少女。


平民から公爵家のメイドに上り詰めるためには血を吐くような努力が必要だった。そこまでして私はここに立っているのに、ただ公爵家に生まれただけで、なんの努力もせずに恵まれた生活と両親の愛を手に入れているこの少女に抱いた気持ちは今思えば嫉妬なのだろう。


セレナ様の担当メイドとなり働き始めて一ヶ月。見ていて分かったのは、セレナ様の表情の変化が非常に読み取りにくい事だ。笑いもせず、泣きもしない。でもたまに部屋で窓の外を眺めながら、どこか思い悩むような表情をしているのを見て、この生活の何がもの足りないのだろうと思ってしまう。


父親は深く娘を愛していて、義母だからかやはり少し気まずそうにも見えるが、娘としてきちんとセレナ様を大切にしている。それに何より可愛らしい妹もできて、喜ぶべきなのではないかと思う。なのに何故、あんな顔をするのだろう。そんなセレナ様が憎たらしく思えてしまい、苦手意識すら芽生え始めていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




ある冬の冷える日、セレナ様が湯浴みをしている間に部屋を温めておこうと薪を持ち暖炉の前に座っていた。乾燥した薪はすぐに火がつき、パチパチといい音を立てている。


寝巻きの用意をしながら待っていると、浴室の扉から笑い声が漏れているのに気付いた。最初はセレナ様と談笑でもしながら身体を流しているのかと思ったのだが、セレナ様の声が一切聞こえない。違和感を覚えて少し扉に近づき耳を傾けた。


「あはは、見てよこの醜い顔。汚らわしいったらないわ。」


「本当に愛想の悪い子供ね!少しでも笑ったらどうよ?ほらほら!」


水をバシャンとかけるような音がして、浴室の中で、より響く彼女達の笑い声に耳を塞ぎたくなった。


「何よ、何なのよその顔。何か文句でもあるの?ほんと、その不気味な顔が気持ち悪いのよ!」


ガンッと物が何かにぶつかったような音がして、それが落ちてカランカランと鳴る音と共にまたもや高笑いが響く。



「貴女たち何をやっているのですか!自分達が何をしたのかお分かりで?このことは御主人様にしっかりお伝えさせていただきますからね!」


呆然としていたがようやく我に帰った私は扉を勢いよく開いてそう叫んだ。しかし彼等は怯むことなく嘲笑を浮かべた。


「あら、サラじゃない。私達はお嬢様のお身体を流していただけですわよ。ねぇ、お嬢様?」


澄まし顔で嘘を吐く彼女達にムカつき、彼女らを咎める言葉を期待してセレナ様を見たのに、彼女は無表情を崩さずに、「ああ。問題ない」と言った。


悔しくて唇を噛みしめながら、この後は私が引き継ぐと彼女達を追い出すと、二人きりになった浴室に沈黙が流れた。

しばらくすると、セレナ様は深い溜息を吐きながら口を開いた。


「余計なことをしないでくれ…。私は別に構わないんだ。」


「ご主人様にお伝えしたら、あんな奴ら直ぐに解雇してくれますよ。何をそんなに心配なさってるんですか。」


「…彼女達が解雇されてしまうことだ。」


「別にいいじゃないですか。代わりに他のメイドが雇われると思いますし。」


「……彼女達は解雇された後、公爵家の令嬢に悪事を働き処分されたメイドだというレッテルを貼られて生きていかなければならない。推薦状も持ってないそんなメイドを誰が雇いたいと思う。彼女達にだってきっと、守るべき人達がいるんだ。」


「私には、彼等の生活を奪う権利などない。」


そう小さく呟いた横顔を見て私は息を呑んだ。いつも目の前にいる無表情なお人形ではなかったからだ。少し哀しそうな顔で微笑を浮かべたその姿は、人形とは似ても似つかなかった。



その後、すぐにその表情を引っ込めて元の無表情に戻ってしまったことに寂しく思っていると、セレナ様の肩が震えていることに気がついた。さっき彼女達が掛けていたのはどうやら冷水だったようだ。


早く温かいお湯をかけてあげようと桶に湯船のお湯を汲み、後ろを振り返った。


そして改めてセレナ様を見て、初めて気づいたのだ。信じられないような身体だった。普段服で見えないような所に重点的につけられた数え切れないほどの傷痕。たった5歳の少女がこんな酷い目にあっていたと知ると、何も気付かず羨んでいた自分が情けなくなってくる。


真っ白な肌には無数の切り傷に、ヒールで踏まれたかのような小さな痣が点々としている。そして背中にあった真新しい傷を見て、息が止まった。


皮膚が焼け爛れてめくれていたのだ。まだ生々しく残る火傷の形は、まるで火かき棒を押し付けたかのような…。 




「…お…おじょ、うっ…様…。私は…ッ」


あまりにも痛々しくて、あまりにも残酷で、あまりにも可哀想で。息がつっかえうまく言葉を発することが出来ない。


「……もう、泣かないで。こっちまで悲しくなるから。」


立ち上がったその顔に張り付いていた笑顔は、酷く歪んでいた。




セレナ様が横を通り過ぎて扉を閉める音が聞こえると、一気に力が抜けて膝から崩れ落ちた。



なんて、愚かだったのだろう。

自分と比べて恵まれていて裕福で、幸せそうな子供。そんな風に思っていた自分が、どれほど愚かだったか。


あの少女は他人にばかり気を配って自分を抑え込み、やがて自然と感情が表に出なくなったのだろう。迷惑をかけないように、不安にさせないように、感情を殺して必死に隠し続けているその少女はとても五歳とは思えないほど大人びていた。



「私の方が、子供だったのね。」



あの子の方が幸せだ、あの子の方が恵まれている。そんなことばかり思って私はセレナ様の表面すら見えていなかった。





きちんと正面から、セレナ様自身に向き合わなければ。絵に描いたような幸せな家族に囲まれた女の子のふりをしている、5歳の少女を。


そうしたら、本当のセレナ様の姿を見ることが出来るのかもしれない。


例え世界がセレナ様の敵にまわったとしても、一生付いていこう。この不器用で誰よりも優しいセレナ様を、誰よりも近くで支えていこう。そしていつか、彼女の一番信頼できるメイドになるのだ。


そう、強く胸に誓った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ…今日は学園で盛大にやらかしちゃったのよね。」


制服のままベッドにダイブしてゴロゴロしているセレナ様に、ついつい口元が緩んでしまうのを押さえつけて冷静な顔に戻す。


「では、お先にお召し物を着替えてくださいませ。その後にゆっくり紅茶でも飲みながらお話いたしましょうか。」


「うぅ…。そうね、サラの言う通りだわ。着替えてくるから、先に紅茶淹れといてね。」


クローゼットからワンピースを取り出し、急ぎ足で着替え室に入って行くセレナ様に、再び笑みを浮かべた。


セレナ様のお付きのメイドに任命されてから九年、専属のメイドに任命されてから七年。昔こそ少し警戒されていたが、今では心を許して貰えた気がする。普段と違う緩んだ雰囲気の素のセレナ様を見ることが出来る程、信頼されていることを感じた。


「ねえサラ、紅茶はキャラメルティーにしてもらってもいいかしら?」


「わかりました。クッキーも用意しておきますね。」


部屋から首をひょっこり出して問いかけてきたセレナ様に返答すると年頃の少女と同じように、声を上げて喜ぶセレナ様に胸が温かくなった。


「セレナ様。私、少しは貴女様の心に踏み込むことができたのでしょうか?」


そっと小声で、鼻歌が聞こえる扉に問いかける。

もちろん返事はない。まだまだ知らないことは沢山ある。だけど、確かになれたのだ。彼女の一番信頼できるメイドに、なることが出来たのだ。


いつからか、尊敬が親しみに、親しみが好意に、好意が愛情に変わっていた。今ではセレナ様は自分の妹のように大切な、大切な存在だ。



「サラ、どうしたの?大丈夫?」


考え事をしていて動かなかった私を心配に思ったのか眉を下げて問いかけられた。その声で我に返り、急いでお茶の準備を開始する。


紅茶を淹れたポットとクッキーをお盆に乗せて机に運び、セレナ様の向かい側の、私のいつもの定位置に座った。


「ありがとう。…ん〜いい匂い。あっ、そうだ!下町の大通りに美味しいと噂の有名なカフェが出来たのよ。今度の休み、空いてたら一緒に行かない?」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてご一緒させたいただきます。」


何が起きても一生、貴女様の味方としてお支えいたします、セレナ様。優しくて賢く、思いやりのある素晴らしい主人に仕えられて、自分は本当に幸せだと思いながらそっと微笑んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



セレナside



馬車に揺られいつものように窓の外を眺めながら、ちょうど三年前の入学式の日のことを思い出していた。



母お抱えのメイドたちに支度されたあと鏡を見たのだが、入試の時より更に酷くなっている事実にもはや半笑いだった。濃い紫のアイシャドウや真っ赤な口紅が塗られているからなのか、髪がドリルのようなキツい縦巻きロールに巻かれていたからなのか、理由は沢山ありすぎて一つに決められなかったが、とにかく別人だった。


結構ショックを受けたから今でも鮮明に覚えている。まぁ今ではそれも慣れたけどね。毎日されるんだから。



いっそのこと学園に着いたら顔を洗おうかと思ったのだが、それは想定済みだったらしくこの化粧を落としたらどうなるか分かってるだろうな?という感じの脅しをかけられたのでそれもできなかった。



ふと、手袋で隠されている黒い蛇のような模様の刻印に触れた。これも3年前、父が一年間家を空けることとなってから一週間程経ったくらいだったか。ある朝、起きて伸びをすると、手首にこの刻印が刻まれているのを発見したのだ。誰がやったのか、どうしてやったのか、そしてどうやったら消せるのか。何もかもわからないまま時間だけが過ぎていた。


分かっているのは、魔法の行使を妨げる効果があるということだ。この刻印に込められた呪いは魔法を行使しようとするとまるで腕を切られたかと思うほどの痛みが襲ってくる、という大変悪趣味な内容になっている。それだけではなく、一日一回結構な魔力がこの刻印に吸い込まれるのだ。まぁ魔法を使えないから別に魔力が減っても支障はないのだが。



でも魔法を使えないのはやはり不便で。呪いを解こうと思っても、魔法を使えないから自分では解けなかった。ならば他の人に解いてもらえばいいじゃないかと思い解呪魔法が使えると聞いた教会の神官に頼んでも、これは相当高度な呪いのようで下級の解呪魔法では解けなかったのだ。



サラマニカ学園ではどんなに魔力が少なくても、誰もが何かしらの魔法を使うことができた。たとえ魔法使いではないとしても武術では身体強化などの魔法をかけるのが当たり前で、それがなければいくら技術がある剣士だとしても、身体強化をかけた人には力量で敵わないとされている。


けれどたまに、魔力を持たずに生まれてくる者もいる。大体は平民に生まれるので、平和に農作業をしていれば生きていかれるのだが、貴族は別だ。もしも魔力なしと判明したら最後、追放は良い方で、普通だと家の恥だとこっそり暗殺されて存在を消されるのだ。


だから魔法を使えない者など学園には存在しない。


今まで魔法を使えないことは隠し通して来れた。三年生までは武術科と魔法科でクラスを選択できるし、別に身体強化を使わなくても武術の授業に差し支えなかったからだ。


しかし四年生では総合で授業が行われる。バレるのも時間の問題だろう。




馬車から降りて、クラス替えの掲示を見に行く。四年生からのクラス分けは今までと大きく違う点がある。それは、能力順にクラスが分けられるというところだ。上からSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスの1クラス40人の4クラス構成となっている。自分の名前を探すとSクラスの欄に書かれてたので、少し嬉しくなりながら教室に入ると、先ほどまでの騒めきがピタリと止まり、視線がこちらに集中した。


「…ご機嫌よう。」


何故静かになるのかわからなくもない。武術科を取っていた生徒達は私のメイクに慣れているが、魔法科だった生徒達にとってほとんどの人達は私の顔を見るのは初めてだろう。

いつも通り笑顔を貼り付け挨拶をすると、誰も挨拶を返さない沈黙の中、何事もなかったかのように表情を崩さず自分の席へと向かった。


結局先生が来るまでみんな黙ったままで、たまに何人か後ろをチラチラ振り返る人がいるくらいだった。


先生がこの沈黙を新学年になった故の緊張だと捉えたようで、そこまで緊張しなくてもいいぞ、と見当違いなことを言って笑いながら教室の扉を閉めた。


「このクラスの担任を受け持つランダンだ。よろしく。」


山のように大きな体と険しい人相から、武術の先生なのだろう。


自己紹介が終わり生徒達が騒めきだしたのでもう一度集中させるために先生が机をバンと叩くと、再び前に注目が集まった。


「お前らよく聞け。今お前達はSクラスという最上級クラスに入り、さぞ鼻の下を伸ばしているところだろう。だが少しでも気を抜いてみろ。あっという間にC クラスに転落だ。いいか、ここでは力のない奴は切り捨てられる。守ってくれる家族もここにはいない。誰もが上に上にと這い上がろうとしてくるだろう。この中で卒業までずっとSクラスをキープする奴は5人いればいい方だ。わかるな、全員がライバルだ。覚悟するように。」


担任からの喝が入ったあと、初めての授業に向けてみんなが移動し始めた。一限目は武術の野外授業だ。学校から支給された動きやすい服装に着替えて校庭で待っていると、担任のランダン先生が走ってきた。武術の授業は彼がやるらしい。


「最初の授業からで悪いが、早速トーナメントをさせてもらう。同じSクラスだとしても40人全員の能力が等しいとは思っていない。だからトーナメントでの結果によって授業のメニューを変えようと思う。一応入学試験の試験結果を見て相手は組んである。この紙を見て自分の試合が誰となのか、どのコートで行われるのか確認してくれ。」


どこからか持ってきたボードに貼り付けられた紙にみんなが群がりごった返していたので、空くまで後ろで眺めていることにした。


ようやく紙を確認すると相手はダムス・アウストロで、試合場所はAコートと書いてあった。確かアウストロ家は伯爵位だな。顔がわからないからたぶん三年生まで魔法科を取っていた生徒だ。


すると、後ろから視線を感じたので振り返った。何故だか男子達がこちらを見ながらニヤニヤしながら小声で話していたので、何事かと耳を傾けた。


「なぁ聞けよ。相手はあの有名なクラシス嬢だぜ!」


「いいなぁ、中級魔法が使えるお前なら多分秒殺出来るぜ。もう一戦目は勝ったようなもんじゃないか。そうだ、模擬戦なら少しくらい怪我させてもいいんじゃねぇか。威張り散らすお嬢様に物見せてやろうぜ。」



「おい君達。今はそういう事を話す時間じゃないだろう。真面目に授業を受けるべきだ。」


あんまり気持ちの良い会話ではないなと思いながらさっさとその場を離れようとしたら、1人の少年が前に出た。


途端に周りの御令嬢達から黄色い悲鳴があげられ、その声の高さに耳がキーンとしたので顔を顰める。


そこまで女子に人気な男性などいただろうかと思い、視線を上げて顔を確認すると見慣れた絹のようなサラサラの金髪と、サファイアのような水色の瞳が飛び込んできた。


「あら、ジオ…コホン、ジン様。お気遣いありがとうございます。私は別に気にしていませんわ。確かに私には魔法の才能がないのですから。」


一瞬動揺したが、気を取り直し礼を述べる。私がみんなの憧れの王子様〜に話しかけたからか、周りの御令嬢達の視線が痛い。少年は此方をチラリと見ると、明らかに嫌悪感丸出しの表情で口を尖らせた。


「君だから庇ったわけではない。ただ、今はその話をする時間ではないと思っただけだ。勘違いするなよ。」


何をだよ。


誰にでも公平な正義感の強い王子様。みんなそんなことを思っているのか、令嬢達の黄色い悲鳴と令息方の感嘆したような溜息がそれを物語っている。


だが、私は知っている。本当は天使の皮を被った腹黒王子だということを!


「そうですか。」


話を続けるのが面倒だったので、短い言葉で話を終わらせさっさとその場を離れた。


コートから距離のある壁際に寄り、のんびりと試合風景を眺める。


いくつか見覚えのある顔を見つけて少し嬉しくなった。三年になるまで仲は良いとは言えなかったが、共に武術の腕を高め合った仲間としてSクラスの半分以上が武術科の生徒達が占めていることを少し誇りに思った。



ほんわかした気持ちで眺めていたのに、突然殺気を感じて首を少し横にずらすと、さっきまで首があったその位置を1ミリも違えず壁に短剣が突き刺さった。



いつも見ていただきありがとうございます!


後から読み直すと文がめちゃめちゃでして…。

こんな文章でも長らくお付き合いくださいませ(´∀`=)

少しずつでも文を書くのが上手になっている(自意識過剰)ような気がするので、これからも頑張ります!






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