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孤独な少女は、生きる意味を探す。  作者: インコりん
一章「エリカ」
11/42

6「入学試験(2)」

お久しぶりです!

いつも読んでいただきありがとうございます!



周りの視線はある一つのコートに集中していた。


皆ニヤニヤしながら、場にそぐわない服を着た派手な少女この国の第一王子に婚約破棄されるという中々見られないイベントを楽しみに見届けようとしていた。


ああ、私もニヤニヤが止まらない。真っ直ぐなストレートの髪と海のような瞳、顔立ちも、私の知るシエナによく似ていた。彼女を知っていた者なら容易に想像できるだろう、どうせその娘も凡人でないことくらい。


セレナちゃんに関する噂は酷いものだし、あのドレスとメイクはどうかと思ったが剣の構え方は本物だ。


試験官が始めの合図を出す。


さて、どんな試合を見せてもらえるのか楽しみだ。


少女が始めに一歩足を踏み出した。なるほど、先手は少女から行くようだ。剣を振り上げて、そして…






少女の手に握られていた剣は、呆気なく地面とぶつかって虚しく鳴いた。ただ地面に転がっているだけである。

取り落とすなんてことあろうか。いや、流石にないだろう。ということは、捨てたのだ。少女が剣を、不要なものだと判断したのである。


あまりにも予想外の展開に誰も言葉を発することが出来ず、痛いほどの静寂が辺りを包み込んでいた。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





ふふふ、恐らく周りからは私が試合放棄したように見えるだろう。ああ愉快愉快。


「お前、ふざけてるのか!」


少年の怒号が静寂を切り裂いた。


何故バレた…!?とは言わずに悪役令嬢スマイルを浮かべる。噂での私は言うなれば悪役令嬢といったところ。だから面白がって、サラに監督をしてもらいながら偉そうな言葉遣いや高笑い、傲慢そうな笑みを浮かべる練習を重ねてきたのだ。可哀想な少年。そんなに風にしていられるのはあと僅かもないのに。せいぜい舌を噛まないように口を閉じていることをお勧めする。



次の瞬間、少年の姿が消えた。


静けさが嘘のように誰もが驚いて声を出した。確かにさっきまでそこにいた存在が突如消えたら驚きもする。マジックをみた人がとる反応と同じだろう。でも現実的に考えたら理由もなく突然消えるわけない。マジックにも種があるようにね。


騒めきの中で、ドスンという鈍い音とともに少年の呻き声が響いた。


そう、シンプルに、少年は私が足元に展開した魔法陣に気付かずに約3メートルはあるだろう穴に落ちていったのだった。

まぁ、魔法陣に隠蔽魔法をかけといたから気付けないのはしょうがないのかもしれないけれど、魔法陣の真上に立ってて魔力の歪みに気づかないのも問題だと思う。


「相手が剣を持っているからって必ずしも剣で戦うとは限りませんわよ、婚約者様。そんな人間が偉そうに勝負を挑むなんて、どのような思考回路をしていらっしゃるのか私にはわかりませんわ。」


穴を見下ろしながら小首を傾げ、少年にそう言ってやると彼は憎々しげにこちらを睨んできた。ちょっと胸がすいた心地がする。ふふふ、噂なんかに踊らされるからだ。これくらいはちょっとした意趣返しだと思って許していただきたい。


「おい、いったいどんな手を使った!お前の魔力量が少ないことは貴族間では有名な話だ。そんな奴がこんな高度な魔法を使えるわけがないだろう!」


穴の中からなのによく響く声だなぁ、なんて呑気に考えていると、騒めきの中でそうだそうだと王子を支持する声が上がる。

いやでも不正がどうだとかの前に、そんなに高度な魔法じゃない。考えてみてほしい。ただの落とし穴である。


それにまず不正など出来やしないのだ。そんなことすら分からずに受験しているなんて。あまりの愚かさに呆れて溜息が出る。試験前に少しくらい試験場のことについて調べるなんて当たり前じゃないのかしら。


「まぁ、これは皆様ご存知のことだとは思いますが、念のため説明して差し上げますわ。このコート…というか周りを囲んでいる白いロープ。この魔道具に付与してある魔法陣には何かしらの不正を働けば音が鳴るシステムが組み込まれていますの。それにこの印が見えますでしょう?」


付いている印を見せるためにロープを持ち上げて見せる。あ、そうだ。


「そういえばそこにいては見えませんでしたわね。忘れておりましたわ。」


本当に穴に落ちていることなどすっかり忘れていた。嘘じゃないよ。

魔法を解いて穴を元どおりに直すと、地面に砂埃のついたヨレヨレの少年が座り込んでいるという、なんとも情けない絵面になる。ふふふ。愉快だ。


「此方の印は勿論ご存知ですわね?品質と信頼性が高い魔道具屋として、この国だけでなく他の国でも名を馳せている高級メーカー、ハンダラー商店のマークですわ。この複雑な模様には高度な魔法がかかっていて、このブランドの偽造品は作ることが出来ないことも有名ですわね。」


一歩踏み出し、座り込む少年を見下ろす。


「これらのことを踏まえてもジン様は私が何か卑怯な真似をしたと仰りたいのでしょうか。言い掛かりもいいところですわ。」


すると少年は黙ったまま立ち上がり、模擬戦の礼儀である試合後の礼すらせずに魔法の試験場へと足早に去っていってしまった。ちょっと…精神的に未熟だ。いや、私が大人げなかったのかもしれない。彼は他の子たちより賢いと思ってたけど、まだ9歳なのよね。



まあいいか、私も少年のおかげで良い点数をもらえるはずだからさっさと魔法の試験を受けに行こう。そう思ってコートを出ようとすると、後ろから呼び止められた。


「セレナちゃん、私と手合わせしない?私に勝ったら満点合格にしてあげるわ。」


また静けさに包まれていた試験場に、凛とした声が響き渡った。声の主はナタリーさんだった。まさかのまさかの、ちゃん呼びである。


途端に騒めきが起こる。実技で満点が取れれば、首席合格の確率も高くなるからかも。実技での満点ってすごく取りにくいし。首席は確か学費が無料になるのだが、それ以上に大変な名誉だ。父は、首席になったら喜んでくれるだろうか。

そもそもこんなルールの変更が認められるのかどうかだけどね。まあ今更感あるけど。


「ナタリー様に勝つとか、絶対に無理よね。」


「この国にはあの人に勝てる人はいないって言われてるくらいだろ。」


周りから不可能だという声が聞こえてくる。

確かにその通りとしか言いようがないし、どう考えてもSランク冒険者なんかに勝てるわけないのだ。




すると背後から人が近づいてきた。振り返ると、そこには立派な髭を腰辺りまで蓄えたお爺さんが立っていた。


「おや、学園長。あなた様がいらっしゃるなんて珍しいですね。」


試験官が驚いた様子でそう声をかける。それに対しお爺さんは穏やかに笑って答えた。


「なんだか面白いことをやっている気がして来てみたのじゃよ。ふふふ、当たりじゃったのう。」


「にして学園長、ナタリー様とセレナ嬢の話なのですが…。」


「なに、聞いておったわい。ナタリーに勝てばセレナ嬢に満点をあげようという話じゃろう?お前は全く、すぐ好き勝手しようとするのじゃから。昔から変わらんのう。」


そう言って学園長は、軽く咎めるような目でナタリーさんを見た。それになんだか、良い感じにこの無謀な戦闘を阻止しようとしてくれそうだ。これは期待できるぞ。 


「…だが、今回はなんだか面白そうじゃから許可しよう。セレナ嬢、安心しておくれ。もし負けても先ほどの試合でつけている成績を採用するからの。」


おい、最後の砦!なんか面白そうってなんだよ。何が安心しておくれだ。

じゃあ学園長から許可が出たってことは…。


「よし、セレナちゃん。やりましょうか。」


視線をあげると満面の笑みを浮かべて仁王立ちするナタリーさんが見えた。












さっき放り投げた剣を拾い構える。


試験官から始め!と試合開始の合図が出された。


「先手は譲ってあげるわ。」


ニヤリと笑い、試すようにこちらを見ている。

ではお言葉に甘えてこちらから行かせてもらおう。



師匠よりも隙がないように見える。相手に隙がないなら作りにいくしかない。


まずはゆっくりだ。剣を振り上げ斬りかかると、容易く受け止められた。するとナタリーさんが少し失望したような表情を浮かべ、シエナとは比べ物にならないのね…と残念そうに呟いた。


知り合いなのか知らないけど、私に母と同じレベルを求めないで欲しいんだけど。まだ9歳だよ。

しばらくゆっくりとした攻防を続けていると、やがて飽きてきたのか、早く終わらせようと首に向けて剣筋を変えた。



今だ。そこで剣速を一気に上げる。

ナタリーさんは少し驚いているようだったが、ここで隙を出さずに剣を捌ききるところが流石Sランク冒険者である。


ふと顔を見ると、ナタリーさんは笑っていた。


やっぱり余裕なのだ。到底勝てそうもない。そう思いながらもめげずに第二の隙作り作戦を実行する。


一回切り上げて後ろに飛び退く。ここで身体強化をかけるのだ。足を力強く踏み込み、今までと段違いのスピードで急接近する。


高い音が鳴って剣が交差した。両者の力が加わり剣が震える。


「…やっぱりおもしろい!だけど、そろそろお互い真面目にやらない?せっかくの機会なんだから。」


内心ギクリとした。三つ目の隙作り作戦の為に体力を出来るだけ温存していたのだ。バレないように息切れするふりをしていたのに、どうやら見抜かれていたようだ。


一回二人とも離れて剣を構え直す。



「では、全力で行かせてもらいますわ。」


踏み込み、強く強く地面を蹴る。

交わった剣に加わる力が大きすぎて剣が悲鳴を上げた。

もしかしたらこの剣最後まで保たないかもしれないな。


剣を捻り滑らせて再び斬りかかる。


すると、この試合で初めてナタリーさんのほうから攻撃してきた。


重い。今まで経験してきた中で一番の重さだ。

重なったところがギリギリと音を立てた。


これもまた滑らす。そして更に斬りかかろうと足を踏み込んだのだが、ナタリーさんが何か呟いたと思ったら次の瞬間、かけていた身体強化が急に解けた。その上先ほどまでのスピードでそのまま剣が迫ってくる。


意地で防いだが、少しバランスを崩してしまった。


ニヤリと笑う顔を見て、これを狙っていたことに気付かされる。


でもそう簡単には負けていられない。

ナタリーさんの足元に魔法陣を展開する。隠蔽をかけているから周りからは見えないはずだ。


ナタリーさんが立っている地面が30センチほど沈んだ。避けられたか?一か八かで斬りかかると、防がれた。


しかし少し体制が苦しそうだ。穴に左足をとられている。



「アースバレッド」


今度はしっかり聞き取れた。魔法の短縮詠唱だ。ナタリーさんが呟くと、弾丸のようなスピードで硬い土の塊が十個ほど飛んできた。


それを全部剣で弾こうとした。が、最後の一発を受け止めたと思ったら、余程の威力だったのか耐えきれなかった剣が砕けて、キラキラと宙を舞った。



「参りましたわ。」


礼儀通りに、勝者に向かって膝をついて一礼する。


「いやいや、もうちょっと出来たでしょう。」


「いいえ。次は魔法の実技試験もありますし、武術の試験で使う分の力は使い切りましたの。ああ、疲れましたわ。残念ながら満点にはなりませんが、さっきの少年のおかげで良い点数を取れていると思うのでそれで十分ですわ。」


足に纏わりついてきたドレスの裾を払い除けながらコートを出た。少し破れているが…まあいいか。


呆然としている受験生達に試験官のおじさんが声をかけ、やっと試験が再開された。





確か武術の試験が終わった人からあっちにいくんだっけ。


さっき少年が向かっていた、土魔法で造られただろう壁に仕切られている魔法の試験場に向かう。


入り口辺りで試験の前にまず受付で手続きをする。主にステータス確認だ。以前確認してもらった時に鑑定士が使っていた、例の魔道具を使うのである。


深緑色の水晶玉みたいなのの上に手をかざし、ステータスと心の中で呟いた。


すると見慣れた透明な薄い水色のプレートが表示される。



*****************



セレナ・クラシス 10歳


種族:人間

性別:女

職業:?


MP :853/900


称号:?


魔法適性

火属性 練度Lv 4

土属性 練度Lv 8


耐性

苦痛耐性Lv 2/10

逆境耐性Lv 1/10



ー加護ー

武神の加護




*****************



すでに改造済みのステータスだ。

この歳のMPの平均値は大体1500で、多い人は2000ほどだ。


私のMPは平均を大きく下回っている。魔法の練度もこの歳だと大体10くらいなのにそれすら下回っているのだ。


平均値より下の人達には受験用に出した身分証明書の紙に緑色のハンコを押される。さらに平均より200以上下だと赤いハンコを押される。そして400ほど下回っている私はデカデカと赤いハンコを押された。これ押されてから思ったけど、低く設定しすぎるのも逆に目立つか…。まあ今更遅いわけだが。


受付のお姉さんがステータスを身分証明書にメモし終わるのを待ったら、試験の説明があった。


「あの五つある列うちの一つに並んでください。自分の番がきたら、白い机のほうに行ってこの身分証を試験官に渡して、そして自分の使える一番得意な生活魔法を見せてもらいます。下級魔法が使える方は、その事を試験官に申告してからあそこにある白い線の上に立って、魔法を的に当てて貰います。そうですね…セレナさんは魔力や練度が低いのであまりいい点数は取れないかもしれませんが、大体魔法ができない人はみんな武術の方で取っているからーーーうん、セレナさんも大丈夫そうですね。」


頑張ってください、と送り出されて、一番空いていそうな列に並ぶ。またもや私に視線が集中するが、さっきから見られっぱなしだったから慣れてきた。



周りを見ている限り、ほぼみんな生活魔法で試験を受けている。下級魔法で受けたのは五人程だろうか?その中でもきちんと発動できていたのは一人だけだ。貴族で魔力の多い子達は既に家で下級魔法の訓練が始まっているのだろうが、堅実にいくなら生活魔法が1番良い。確かに下級魔法を使えれば高い点数がもらえるだろうが、まだ安定していないと発動できなかったりするし、発動できても行き先をコントロールできない。生活魔法でも十分合格点が取れるように設定されているのだから、わざわざ使う必要はないのだ。ハイリスク•ローリターンなのである。



しばらく並んだら自分の番が来た。さっき受付のお姉さんからもらった身分証を渡す。


試験官がそれにざっと目を通すと、では生活魔法を見せて下さい、と言われた。


下級魔法で試験を受けようとしていたのだが、やはりこのステータスで生活魔法以上を使うなんて不自然らしい。大人しく生活魔法を使うことにした。


無詠唱でも使えるが、一応初心者らしく詠唱でも唱えておくか。


「先を照らす炎を我が手に。」


指先にマッチの炎くらいの火が灯る。いい感じ。明らかに魔力が少なそうなサイズだ。ライターの火が思い起こされる。


「…凄いわね。こんなに混じり気のない青白い炎は普通学園の三年生くらいにならないと出せないのに。」


試験官の人がブツブツと何か呟いていた。独り言かしら。あまりにも炎が小さすぎたのかも。どうしよう、もう少し大きくしておこうかな。

けれど結局大きくする前に終わっていいと言われたので、そのまま消した。



「お疲れ様でした。この身分証を出口の机に座っている人達に渡したら、もう帰っていただいて大丈夫です。」


てっきり全員が終わるまで待たないといけないと思っていたが、帰っていいらしい。楽でいいな。


お礼を言うと紙を受け取り、言われた通りにそれを出口で渡して門の外に出た。そこには行きと同じくまたメイド達が両脇に立ち並ぶ道が出来ていて、その真ん中をため息を吐きながら歩いて通り、馬車に乗り込んだ。


馬車が走り出すとすぐに、馬車の向かいに腰掛けていたサラが食いつき気味に聞いてきた。


「セレナ様、試験、どうでしたか?」


「うーん、思ったより筆記は簡単だったわ。でもみんな余裕そうだったから全体的に見たらよくないと思う。武術はいい点数取れたけど魔法はあんまりだったわ。試験管の反応が微妙だったの。」


するとサラは何故か満足げな表情をして、


「セレナ様は自己評価が低すぎです。多分というか絶対合格してますよ!」


と自信満々に言われた。

これで落ちたらどうすればいいのか。


一日中試験だったのに、どうやらサラだけ屋敷に帰らず、ずっと門の前で待ってくれていたみたいだった。


相変わらずの優しさに少し嬉しくなる。お礼として明日はサラと街へ出かけてオシャレなカフェにでも連れていってあげようと思った。






屋敷に帰ると、シェリーと父上が玄関で出迎えてくれた。


「お姉さま!お疲れ様ですー!」


抱きついてきたシェリーの頭を撫で撫でしていると、父上が羨ましそうな感じだったから、もう片方の手を広げてあげると、セレナ…!!と目をうるうるさせながら飛び込んできた。


たまにどちらが子供なのかわからなくなる時があるが、案外そういうところも好きだったりする。


「ただいま。」


二人を抱きしめながら、そっと呟いた。

皆さん、更新遅いのにいつもありがとうございます。嬉しい限りです!



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