四
「えっと、あなたは?」
「お主、ヒデヨシの連れか?」
ゴリの登場に、ミヤが話しかける。
ヒデヨシはゴリが何かを言い出す前に、
「ゴリさん、今日初めてやる俺の連れです。
……一応リア友なんで、お手柔らかに」
後半の部分を、ゴリにしか聞こえないように話す。
ゴリはその言葉を聞き、静かに、
「……もしや、これか?」
と小指を立てた。
パシィンといい音を鳴らして、ヒデヨシはゴリを叩いた。
「何をするのだ」
「不躾すぎません?」
「事実なのだろう?」
「俺とゴリさんの仲だから許される話ですよ?」
「褒めてくれるな」
「今のどこに褒める要素が?!」
そんな二人のやり取りを見ているミヤは、クスリと笑った。
その様子にゴリとヒデヨシが、ミヤと見る。
そんな視線を浴びたミヤは、
「仲良いんですね」
「うむ、こやつには辛酸を舐めさせられているからな」
「辛酸?」
「ライバル、ってこと」
ヒデヨシの言葉に、ミヤは驚く。
ライバルなのに仲が良い。
そんなのは少年漫画の中だけだと思っていたから、余計に驚いている。
「ゴリさん、今日はどしたの?」
「ふむ、どこかの誰かが昨日でイベントを終わらせたせいで、今日は時間が余ってしまっての」
「……それは仕方が無いですよ」
「まぁ、なんとなく察したわ」
ゴリはそう言った後、あたりを見渡す。
周りでは、武器屋や、その周辺のプレイヤーがゴリのことを見ている。
その様子にゴリは、
「ここで話すのもなんだ、場所を変えるか」
そう言って歩を進めた。
ヒデヨシはミヤに向かって肩をすくめる動作をする。
「面白い人なんだね」
「それはどうだか」
ミヤはそう言ってヒデヨシとゴリの後をついて行った。
☆☆☆☆☆
「それで、ここに来たんですか?」
着いたのは、馬小屋。
中には馬がいるのが見える。
が、どことなく手抜き感のある馬小屋にミヤは首を傾げていた。
「あぁ、ここならいい語り合いが出来ると思ってな」
「いやいやいやいや、最初にここに入るとかドマゾ以外いないですよ」
「そうか……なら行くか……」
「だぁっ!
やぁめぇてぇ!」
ヒデヨシは、ゴリを引っ張って止めようとするが、流石の巨体を止めることは難しい。
「えっと、ここってどこなんですか?
聞いた感じと見た感じだと、馬に乗れる場所?」
ミヤは二人のやり取りに違和感を覚える。
見た感じは馬小屋なのに、ヒデヨシは行くのを渋り、不穏なことを言っている。
対してゴリは平然と、いつもの様に入っていこうとする様子に、矛盾を覚える。
「馬に乗れる……か、あながち間違いではないな」
「なにがあながち間違いじゃない、だ!
えっと、ここは馬小屋に見えるけど、本当は、対戦の為の窓口なんだよ」
「窓口?」
「曰く、戦場に向かうのに、移動という意味を込めて馬小屋にしたらしいのだが、このゲームで馬には乗れない!」
ゴリのハキハキとした話にミヤは、へぇ、と納得しかけてしまうが、
「えっ?!
馬乗れないの?!」
少し期待していたミヤは、肩を落とす。
「だからゴリさん、道場がいいって」
「……でも結局ここには来るのだろう?」
「……まぁ……」
「で、ここに入ると対戦できるって言ってたけど、何するの?」
未だにこのゲームのルールを知らないミヤからしたら、ヒデヨシの嫌がる理由がわからない。
「だからこそ、ここに入って教えてやろうという訳だ」
ゴリはそんな質問に対して、身も蓋もない回答をする。
ヒデヨシは、ミヤとゴリの顔を交互に見て、不安そうにする。
ミヤはそんなヒデヨシの様子に少し微笑み、
「うーん、よく分からないけど入ってみるといいんでしょ?
習うより慣れろ!」
少しの意地悪な心と、ヒデヨシの見ている世界を見たくなったミヤは、馬小屋に入っていく。
「おぉ!
流石はヒデヨシの友人だ。
見どころがある」
そう言ってついていくゴリ。
取り残されたヒデヨシは、一人置いていかれたことを悟ると、トボトボと馬小屋の中に入っていった。
☆☆☆☆☆
馬小屋の中は、馬小屋だった。
が、
「なんか、雑?」
馬がどことなく機械感の感じる装いで、例えるならばメリーゴーランドの馬のようだった。
「ここは結構雑に作られているんだよ。
別にここはあくまでゲームの形式を選ぶだけ、長い時間居るわけじゃないからいい、って」
「うーん、長屋と比べちゃうとなぁ……」
「ガハハ!
あそことは比べては行かんよ!
あそこはゲームを作っている段階で、一番プレイヤーが行き来をする場所なことは予想されていたからな」
「そっか……」
ミヤは馬小屋の中をじっくり観察していく。
馬小屋は、両サイドに五つずつ……計十匹の馬を保有しており、それぞれの馬の上には、
『白兵戦』
『籠城戦』
『攻城戦』
『旗戦』
『太刀戦』
『大太刀戦』
『短刀戦』
『脇差戦』
『打刀戦』
そして最後の馬は、何も表示されていない。
それぞれの馬には手網が備わっていて、顔の前にぶら下がっている。
「基本九種」
「基本九種?」
「常に遊べることの出来るモード。
イベントの時だけの戦いとかがあるんだけど、イベント以外の期間でも遊べることが出来る戦い」
「つまり、今遊べるものってこと?」
「まぁそういう認識でいいじゃろう」
ヒデヨシの説明に、とりあえず自分の中で理解するミヤ。
「まずは妥当に『白兵戦』かの」
「それがいいと思います。
覚えることも少ないですし」
ゴリとヒデヨシの会話の内容が分からないミヤは、とりあえずと『白兵戦』の馬の手網に触れ、
その場から消え去った。
☆☆☆☆☆
「え?」
ミヤが気づくとそこは、長屋だった。
「え? なんで長屋? 私……」
戸惑っていながら戸の方に近づき、開けようとするが、開かない。
なんで開かないのかと力を入れようとしたその瞬間、
「あっぶねぇ!」
後ろから声がした。
ミヤが振り向くと、そこにはヒデヨシの姿。
ホッと胸を撫で下ろしたミヤは、ヒデヨシに近づき、
「もしかして、あの手網が始める合図だった?」
「もしかしなくてもそうです」
ヒデヨシは少し怒るのかという雰囲気を出したが、
「説明してなかったね、ごめん。
言うべきだったよ」
と、ミヤの頭を撫でる。
「いやー、こっちこそ無闇矢鱈と触りまくってごめんね」
ミヤは微笑んみながら撫でられるのを受け入れる。
「……それにしても、ゴリさんは……」
ヒデヨシは撫でるのを止める。
ミヤは少し物足りなさそうな顔をしながらも、一緒になって考える。
「普段だったらどうなるの?」
「一緒に手網を掴んでいれば、同じ部屋に入って、戦闘まで待機する。
だけど同じ部屋に入らないってことは……」
「はぐれちゃったのかな?」
「うーん、はぐれたで済めばいいけど……」
ヒデヨシの苦笑いした様子に、ミヤは首をかしげると、
『白兵戦!!!』
野太い男の声がする。
ミヤは驚くが、肩に手が回される。
ミヤはその手の主……ヒデヨシを見ると、
「驚くよね、分かるよ。
これが聞こえると、はじまりの合図だ」
ヒデヨシは、先ほどまであかなかった戸に近寄ると、
バンッ!
勢いよく開ける。
そこに広がっていたのは、大きな一本道と、森だった。
☆☆☆☆☆
「すっご」
ミヤが一言、呟く。
そこに広がっていたのは、一本道と、両サイドに森。
そこはさっきの馬小屋とは違い、ゲームさを感じない、まるで現実かのような風景。
「ここの名前は、なんの捻りもなく『一本道』。
両サイドの森と、この大きな一本道から構成されるステージだよ」
「っだぁおらぁ!いくぞぉ!」
「ハッハー! ヒャッハー!」
すると、ミヤの左側から聞こえる、世紀末的な声。
隣を見ると、そこには頭の真ん中のラインにだけ髪が生えている……所謂モヒカン頭の男二人が、走り出した。
「あっ!
助さん角さん!」
そこでヒデヨシが、その二人を呼び止めるように声をかけたが、ミヤは誰に話しかけているのかよく分からなかった。
「っ、あぁん?!」
「なんかようでもあんのかてめぇコラ!」
すると、走り出したかと思われたモヒカン頭の二人は、振り向いて睨みつけてきた。
そうして、ヒデヨシの姿を視界に入れた瞬間、
「「ちっ、【羽柴】のヒデヨシか」」
二人は息を揃えてヒデヨシに向かって舌打ちをする。
「すいません、こいつ、俺の連れなんですけど、初心者なんで何とかしてくれませんか?」
「おいおい、何とかって……、俺ら二人だけで何とかなるぞ?」
「本当だぜ【羽柴】。
いくらあんたの隣の子がひ弱そうな子でも、俺らが負けることなんてありゃしねぇよ」
二人して刀を肩に担いで、やれやれとジェスチャーをする。
【羽柴】と呼ばれたことが気になったが、彼氏の悪口を言われたミヤは、ムスッと頬を膨らませたが、
「……あんたらこそ鈍ったんじゃねぇのか?」
ヒデヨシのつぶやきと共に感じるのは、ミヤでも分かる程の圧力。
しかし、ミヤには圧力を感じる原因が分からない。
ミヤが急いでヒデヨシの方を見ると、
「ゴリさん、これ狙ってたのか」
「「ぬぁっ?! ゴリだと?!」」
ヒデヨシの呟きに、モヒカン二人組が反応する。
モヒカン二人組は、二人してぷるぷると震えて、ミヤは怯えているのか、と勘繰ったが、
「それなら」
「やるしかねぇな」
「「ヒャッハー!!!!」」
元気よく駆けて行った。
「えぇ……」
ミヤは困惑した様子でその二人の後ろ姿を見ると、ヒデヨシは微笑みながら、
「ま、楽しんでいこうよ」
ミヤの頬を突ついた。
馬小屋について
馬小屋には常時十頭の馬が置かれていて、その内1頭がイベント様になっている。
当初開発チームは、この馬のグラフィック等々にこだわろうとしたが、開発チームリーダー、前島悟は反対。
その説き伏せによって、その当時馬のクオリティアップチームは、長屋に関しての仕事をした。
ちなみに、馬小屋自体にはこってはいないが、イベント時のゲーム参加するための馬の凝り方は異常であり、時には馬フェチの人がイベント時の馬を見るためだけにゲームをすることがある。