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3/35

 ログイン時は当然ながら長屋の中からスタートなのだが、長屋の中は以外にもしっかりと作られている。

 中は四畳半くらいと少し狭く、当時の資料を忠実に再現したと、このゲームの製作者インタビューで語っていたのを、秀は思い出す。

 しかし、この手の変な凝り性ゲームにある匂いの再現とか不便な部分の再現はされてなく、使いやすい。

 そこでしばらく待っていると、


「あっ、秀やっほ」


 少しの光と共に、美沙が出てきた。

 容姿や体型は同じだが、髪の毛を束ねていて、髪色は真っ白になっている。


「ちゃんと来れたね、よかった」

「私だってちゃんとやれるんですー」


 事前の準備の時に、美沙がゲームに触ったことがないと聞いてから手取り足取り教えた秀は、ほっと胸を撫で下ろす。


「それにしてもここ、凄いねー」

「あぁ、多分このゲームやってる人は一番馴染み深い場所だからな」

「あー、いつもここからログインするからねー」


 美沙の発言に、訂正を入れようかと思ったが、辞める。

 ……言えない。

 本当は、『斬られてリスポーンしすぎて慣れる』という意味で言ったとは、言えない。


「それじゃあ外出てみたい!」

「よし、出よっか」


 座り込んでいた秀は立ち上がり、早く出たそうにしている美沙を見て、


「ちなみに、名前どうしたの?」

「あ、こっちじゃ秀はヒデヨシだもんね」


 秀が美沙に触れ、基本情報の閲覧許可を貰う。


「……名前【ミヤ】って、ストレート過ぎない?」

「……ヒデヨシには言われたくないよ……」


 美沙……ミヤは、ヒデヨシにジト目を向けながらも、長屋の戸を開けた。


「おおおぉ!!!」


 差し込む光、人がいる街並み、時代を感じる風景に驚くミヤ。

 後ろでは、そんな様子を見ているヒデヨシが、微笑んでいる。

 ちなみに、前回のイベントは常時開放型バトルロワイヤルだったので、リスポーン直後に襲われたが、あれは特別だ。

 決して普段はそんなことは無い。

 しかし長屋を出た瞬間に、全力で索敵を始めるヒデヨシ。

 そんなことなど梅雨知らず、ミヤはトコトコと歩いていく。


「ねぇねぇ、ここってお店あるの?」

「……あるにはあるよ。

 ま、オシャレなのとかは特にないけどね」


 ミヤの真っ白な髪が光を受け、輝いている。

 その服装は、ヒデヨシが来ている和服の女性版だ。

 本人が決めたのか、朱色の和服は、その白い長髪と相まって、絵になる。

 そんな様子を微笑ましく見ていると、ヒデヨシは気配を感じた。

 楽しそうに辺りを見渡しているミヤに、ヒデヨシは、


「ミヤ、まず目指したい所があるから、着いてきてくれない?」


 気配からして面倒な相手だと察知したヒデヨシ。

 極力避けていきたいため、少しばかり急ぐ。


「お、どこに向かうの ?」


 ヒデヨシが急いでいることに気づくこともないミヤは、特に疑いもせずに着いてくる。

 もう既にそこに二人はいない。

 二人が去った後、二人がいたところに現れたのは、


「うむ。

 イベントは今日までの予定だったから観光をしていたが……。

 ヒデヨシはどこだ?……」



☆☆☆☆☆


「ここは?」

「武器屋だよ」


 少し遠くに見えていた城も近づいてきたあたりで、二人は立ち止まる。

 そこには、達筆な文字で書かれた『武器屋』の看板。


「人多いねー」

「ここは東のだから人が多いんだよ」


 そんな大きな看板の下には、人が集まっている。

 ガタイのいいもの、細身なもの、背の高いもの。

 様々な人がいる。

 洋装様々なその集まり。


 だが、その様々な人達にも、一つ確実に共通していることがある。


 腰に刀を帯刀している。


 ゲームの中という非現実の実感。

 心が踊るミヤは、そんな目の前の光景を見て、


「うーん、男の人と女の人が同じくらいいるね」

「なんかこのゲーム女子に微妙に人気あるからねぇ……」


 特に【四天王】辺りは女子しかいないからなぁ、と心の中で呟くヒデヨシ。

 その様子に、ミヤは少し抑揚を抑えた声で、


「へー、じゃあヒデヨシはここで女の子と話すことあるんだー?」


 拗ねたような口振りのミヤに、ヒデヨシは両手を振りながら、


「ないないないないない!

 絶対ここのプレイヤーやってる女子となんか仲良くなるわけがない!」


 様々な理由が混ざりあったヒデヨシの発言。

 その背景をミヤが分かるはずもなく、そんな必死の否定にふーん、と返す。


「と、とりあえず、武器を買った方がいいんだけど、人多いね」


 ヒデヨシは話を変えるために、急いで武器屋の看板を両指で囲うように四角を作り、


「ほれ」


 そのまま両手を広げてウィンドウを表示させた。


「えぇ……」

「まぁ、確かに、言いたいことは分かる」


 ヒデヨシは、ウィンドウをミヤにも操作できるようにする。


「だって、こんなに風景が昔なのに……。

 このウィンドウはちょっと……」

「便利なところは便利にやってんの。

 それには初めてのゲームだから、人が多いところに行くのは危ないと思うから、ね」


 ヒデヨシがミヤに近未来的で半透明の板……ウィンドウを渡す。

 ミヤからすれば、現実であれば見慣れたもの。

 違和感なく受け入れられるが、今の格好と風景とのミスマッチさが、ミヤのモチベーションを下げる。


 だが、ヒデヨシの言うことにも一理あるので、ミヤはウィンドウを眺める。

 それに映されているのは、様々な刀。


「基本的には、大太刀、太刀、脇差、短刀、打刀の五種類かな」

「……全部同じに見えるけど?」


 ミヤの目からすれば、ウィンドウに表示されている刀は、大体が同じように見える。

 ヒデヨシはその言葉に苦笑いしながら、違うんだよー、と否定する。


 そこでヒデヨシが何かに気づいたかの様に顔を上げ、


「とりあえず!適当に買って道場にでも行こうか」

「道場?」

「練習する場所って感じかな?」

「練習?」

「そ、ゲームのチュートリアルをしようかな、って」


 ミヤの質問に早口で答えるヒデヨシ。


 ヒデヨシは迫ってくる気配から、早くこの場を立ち去ろうとしている。

 ヒデヨシの急いでいる様子に楽しそうにしているのだろうか? と間違った予想をしたミヤは了承する。


 ウィンドウをミヤから貰い、ヒデヨシは適当に買い物を済ませる。

 ヒデヨシの所持金で会計を終えたのを確認し、


「ミヤ、それじゃあ道場に行きたいんだけど……」


 ミヤの方を見る。

 そこには既にミヤの姿はなく、


「おー」


 店の外でたたき売りされている刀を見ていた。

 ミヤは目を輝かせながら、店頭に置いてある刀を見ている。

 ヒデヨシはそんな様子のミヤに声をかけようとしたが、


「……ミヤ、それ何?」

「え、なんか置いてあったやつだよ」


 ヒデヨシはミヤの持つ刀を見て、驚愕する。

 動揺するヒデヨシの様子に、ミヤも何かを感じたのか、刀をよく見る。


「ミヤ、これってここに置いてあったんだよな?」


 そう言ってヒデヨシが指さしたのは、籠。

 その中には数十本の刀が置いてあり、そのどれもが粗悪品であることは、ヒデヨシには一目でわかった。

 しかも籠には和紙が貼ってあり、


『一本五十文』


 と書かれている。

 店に入っていく誰もが見向きもしない刀の束を指さしたヒデヨシに、


「え、うん、誰も手に取らないからさ」


 ヒデヨシは、ウィンドウを表示する。


 このウィンドウ、この店のものが全部表示される訳では無い。

 通常品のリストというだけで、店の中には幾つか掘り出し物も存在する。

 現に、トッププレイヤーの一部は掘り出し物を使っているケースも少なくない。

 そのような理由から、店は人で賑わっているのだが、


「だけど、ここに置いてあるなんて聞いたことない」


 ヒデヨシが、顎に手を当て考え始めようとしたその時、


「見つけたぞ」

「ヒッ」


 後ろから肩を叩かれた。

 ヒデヨシは油の刺していないロボットの様に後ろを振り向く。


「ふむ、暇そうではないか」


 そこには、巨大な体躯に、はち切れんばかりの筋肉。

 その頭は坊主で、見るもの全てを圧倒するのではないかと思うほどの眼光。


「ゴリさん……」


 この人物は昨日、ヒデヨシが死ぬほどボコボコにしたプレイヤー、【剛腕ゴリラ】こと、ゴリラ山ゴリ男だった。

武器屋について


この世界の武器屋は、東西南北各地に二つずつ存在しています。

基本的に東西南北それぞれの武器屋に特色があり、同じ方角に存在する二つの店は、大きな違いはありません。


北:短い武器を取り扱い、割と値引きに対応してくれる。

南:打刀の量が多く厳格な店主だが、オーダーメイドに対応してくれたりする。

西:それぞれの刀を満遍なく取り扱っていて、取り扱う商品の量も多いが、粗悪品が多い。

東:太刀、大太刀に商品が寄っているが、一つ一つの商品に外れはなく、噂ではここが一番掘り出し物が出るという。

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