表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「神の家」のお話

作者: LED

 あるラジオ番組で語られたエピソードが衝撃的だったので、備忘録代わりにここに記す。

 この前、「神の家」出身の統合失調症の人が自身の病気を観察・記録し、論文にして発表したそうだ。

 前代未聞の事態に、精神医学会に激震が走った事は想像に難くない。


 彼の論文によれば、病気からくる「爆発」にも種類があり、良性と悪性のものがあるとの事。

 彼らは自身の病気にそれぞれオリジナルの名称をつけ、「病気とは『個性』なのではないか」と提言している。


 幻聴も昔は「神の声」とされ、聞く事ができた中には救世主となった者だっている。

 そういう考え方もアリなのかもしれない。


***


 彼らは頻繁に相談をする。「三度の飯よりミーティング」が合言葉だ。

 患者同士で自由に恋愛だってする。もちろん感情の波が激しく、時には互いに爆発して大喧嘩し、数日間寝込む事だってある。


 「先生」はそんな彼らを見て、咎めるどころか笑ってこう言った。


「いやあ、今回も順調に『無気力』してますねえ」


 衝撃的な発言だった。

 彼らにしてみれば、精神の不調も爆発も、定期的に来る「波」のひとつでしかなく、否定すべき要因ではないという事なのだろう。


 私も失恋経験がある。その時はショックのあまり、何日も落ち込んだ。

 あの時は自分の心の弱さを嘆いたものだったが……こんなエピソードを聞くと幾分、気が楽になる。


***


 ある時、彼らのうちの一人が、いつになく真剣な眼差しで皆を招集した。


「見たんだよ……UFOを!

 オレはUFOに乗るべきか? 乗らざるべきか?」


 こんな議題でも皆寄り集まって、真剣に議論を重ねるのが「神の家」の特徴だ。

 集まったメンバーの一人が手を挙げ「かくいう自分も経験者でね」との事。さらに続けて言い放った言葉が凄まじかった。


「結論から言うとオススメできないな。

 アンタは知らんだろうが、UFO乗りには『無免許』が多いんだよ。

 だから乗る前に必ず聞け。『免許を持っていますか?』と。

 もし無免のUFOなら、危険だから絶対に乗らない方がいい!」


 何ともトンデモに聞こえる話だが、一応筋が通っているようにも聞こえるから不思議だ。

 中には「幻聴じゃないの?」とミもフタもない事をのたまうメンバーもいる。


 議論を重ねた結果、結局「先生」に相談しようという話に落ち着き。

 事の顛末を「先生」に話した結果、彼は満面の笑みを浮かべてこう言った。


「おめでとう! この上なく素晴らしい『入院』です」


 UFOを見たという彼は今、病院の一室で春が来るのを待っている。


***


 「先生」は実におおらかな人物だ。私が思い浮かべる精神科医のイメージとはかけ離れている。

 「先生」がこんな性格になったのは、ある時患者に言われた次の言葉がきっかけだそうだ。


「『先生』。全部治そうだなんて考えちゃいけねえよ。

 俺も幻聴や耳鳴りがヒドイけどよ。もし仮に治ったとして……

 『コイツら』がいなくなっちまうんじゃ、俺だって寂しくなるから」


 それを聞いた時「先生」は「完璧など目指さなくてもよい」と達観し、道が拓けたと述懐している。


***


 互いに「個性」を認め合う仲間がいる――そんな彼らはとても楽しそうに、幸せそうに私には思えた。



(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >俺も幻聴や耳鳴りがヒドイけどよ。もし仮に治ったとして…… >『コイツら』がいなくなっちまうんじゃ、俺だって寂しくなるから」  自分はキャラクター小説を読んだり書いたりしていると、ふとキ…
2018/12/17 18:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ