序 〜終〜
何とかギリギリ今年最終投稿に間に合いました……!!
今年も更新が遅くて遅くて本当に申し訳ございません……
来年もどうぞ宜しくお願い致します!
皆様良いお年を!
「――――ちょっぴり満足です!」
制限時間半分を残し戦闘を終え、悠々と待機場所へと転送された【高天ヶ原】の面々。
中でも最もプレイヤーをキルしたララノアがホクホク顔で機嫌良さそうに言った。
「あれだけ暴れ回ってちょっぴりって……相変わらずだなぁ……」
「いつものことでありんしょう?」
ララノアの発言に苦笑しながら首筋を掻くイルムに対して微笑ましいと言わんばかりに笑みを浮かべるユウギリ。
他の戦闘をした面々もどこかスッキリした様子で待機場所でくつろいでいた。
「『ダイン』は大丈夫か?」
「ん?何がだ?」
子を見守る父親のような視線で周りを見ていたダインに近づいたユウノは声をかける。
「待機組に組み込んだからフラストレーション溜まってるんじゃないかと思ってな」
「なに、俺もいい歳した大人だ。
そこまで血の気が多い訳でもなし、気にするな『ユウノ』」
余裕綽々の表情で言い切るダインに安心したのかユウノも笑みを浮かべた。
「それなら良かっ――――」
「――――まぁ、次は何と言われようと俺は待機するつもりは無いがな」
「……そうか。
……悪かったな『ダイン』……」
ユウノが言い切るよりも前に被せるように言ったダインの言葉を聞いたユウノは頬をひきつらせながら静かに謝罪の言葉を口にするのであった。
「――――凄く広いですね……」
初めてこの待機場所に訪れたであろうアルルはその広さに目をまん丸にして驚いていた。
最終的に100ギルドのプレイヤー総勢1500人が集まるその場所はしっかり区画分けされ、やろうと思えば完全に個室として仕切ることも出来るようになっている。
ユウノたちは仕切るつもりはないらしくオープンなスペースとして利用しているが、大半のギルドは作戦会議などを行うために仕切ることが多い。
「『あるるん』〜。
ほらほら、これ勉強になるだろうから見ておきな〜?」
立ち尽くしていたアルルの腕を取り引いていくクリス。
正気を取り戻したアルルはクリスに引かれるままついて行き複数浮遊するモニターの前にたどり着いた。
そこに映し出されていたのは今なお熱戦を繰り広げる他のブロックのプレイヤーたち。
クリスの手によって切り替わっていくその映像は全てのブロックを網羅しているらしくリアルタイムで行われている場面で見れないものは無いようだ。
切り替わっていく映像を食い入るように見つめるアルルは立ち回りや戦略を学ぼうと真剣である。
――――ふと、疑問符を浮かべた。
モニターを見てそう時間は経っていなかったが、何かに気がついたのかおずおずとした様子でアルルはクリスに尋ねた。
「『クリス』さん。
私の気の所為かもしれないんですけどこの映像って……」
「『ギルドランク上位の人たちが映ってない』って聞きたいのかな〜?」
「そ、そうです!
やっぱり映ってないですよね!?」
アルルの思考を読んだかのようなクリスの言葉に驚くよりも興奮気味に言葉を発する。
クリスはそんなアルルの姿をニコニコとした表情で見つめながら言葉を続けた。
「そりゃここにはリアルタイムで行われているシーンしか映し出されないからね〜。
もう終わっているところは見れないんだよ〜」
「えっ……??」
制限時間を残して戦闘を終えるギルドはなにも【高天ヶ原】のみではないのだ。
「――――相変わらず貴方方は迅速ですね……。
情報を仕入れたい私の身にもなっていただきたいものです」
商人風の装いでかけていた眼鏡をくいっと指で軽く押し上げながらユウノたちが待機している場所の入口に立つ男性プレイヤー――――アルヴァン。
「――――いやいや、お前さんのとこに情報渡したくないからこうやって俺たちも急ぐんだろうが……。
……まぁ、できることなら俺たちの方が早く終わって少しでも観戦出来ればよかったんだけどなぁ……?」
軍服に腕を通さずに羽織る壮年の男性プレイヤー――――ジェイドが威嚇するような視線を向ける。
「――――…………」
誰よりも遠目にただ視線のみを向けるお団子ヘアーの女性プレイヤー――――ワンジー。
「――――婿殿に妾の勇姿を見せて惚れ直させたいものじゃが流石にそれはやめろと毎回止められてしまうからのぅ……。
まぁ、実際に魅せつける機会はあるじゃろうし我慢するかのぅ?」
中世ヨーロッパの貴族女性が身に纏うドレス姿に真紅に染まった髪の毛を三つ編みシニヨンでまとめている女性プレイヤー――――アリシアがカラカラと笑いながら言う。
「……ひぇっ……」
入口に現れたプレイヤーたちに思考がショートしたのかアルルは口をポカーンと開けて固まっていた。
ギルドランク5位を冠する【BLACK・ROSE】のギルドマスター『アリシア』。
ギルドランク4位を冠する【Aurora】のギルドマスター『アルヴァン』。
ギルドランク3位を冠する【Greedy Walker】のギルドマスター『ジェイド』。
ギルドランク2位を冠する【龍驤虎歩】のギルドマスター『ワンジー』。
ギルドランク1位を冠する【高天ヶ原】のギルドマスター『ユウノ』。
不動の上位5つのギルドのギルドマスターが一堂に会する場となっていた。
「揃いも揃って暇かよ……ほら、俺たちの作戦会議の邪魔だから散った散った」
ユウノがあからさまに嫌そうな表情で手を払いながら追い返そうとするも4人は何のその。
自分たちのギルドメンバーが待つ場所へ帰る素振りすらなくまるでここが自分たちの待機場所だと言わんばかりに雑談を始める。
「こうして直接会話するのはいつぶりでしょうかね?
毎回私の諜報部が貴女の能力の高さに悩まされていると報告が上がってきますよ」
「……私一人に悩まされるとはまだまだだな」
「これはこれは手痛い言葉を……」
アルヴァンはイカルガからの言葉に笑みを崩さずに返す。
一時期は何とか自分のギルドに引き込めないかと画策していたもののその可能性は限りなくゼロに近いと感じたのか今ではたまに会話をする程度で留めていた。
「随分と溜まってそうな雰囲気だな『ダイン』。
不満があるならワシのギルドに何時でも来ていいんだぞ?」
「生憎と此処が気に入っていてな。
その誘いには乗る気は無いんだ」
「相も変わらずだなぁ……まぁワシは気が長い方でな。
のんびりと待つさ……いつまでも」
ダインの肩を軽く叩いてそういうジェイド。
まるで十年来の親友のような互いをわかっている者同士のいつものやり取りのような雰囲気が漂う。
「……『イルム』壮健か?」
「おかげさまで元気ですよ?」
「そう……なら良い。
――――今日も楽しめそう」
「うっわ……俺は嫌なんですけど……」
今の今まで遠目にただ視線だけを向けていたワンジーがイルムの方へと近づいていくと言葉少なめに声をかけるも、当のイルム本人は引きつった笑みを浮かべて全く嬉しそうではない様子を見せていた。
「久しいのぅ『アマネ』よ。
相も変わらず妾の婿殿を振り回しておるのか?」
「人聞きが悪いわね。
振り回してるんじゃなくて連れ出してあげてるのよ」
「連れ出さなくても大丈夫じゃよ?
妾の婿殿はそのままでいて欲しいからのぅ」
「……ニート予備軍が好きなのは物好きを超えてるわよ……?」
「何、その程度の些事は気にしないんじゃよ妾くらいになるとな」
アマネとアリシアはちょっとした小競り合いをしながらもその仲は悪くないらしく終始楽しげな雰囲気を漂わせながら言い合っていた。
「――――全く……お前らなぁ……」
呆れた様子でユウノは頭をガシガシと乱雑に掻くとため息を吐き出す。
何を言っても無駄だと諦めたのか、ふとユウノが入口の方へと視線を向けてみれば遠目ではあるものの、見間違えるはずも忘れるはずもないプレイヤーの姿があった。
「……【幻影】……」
全身を真っ黒な装備で固めており仮面で表情すらうかがえない姿はこちらを観察しているのか、ただ見ているだけなのかはかることもできない。
「……っ!」
ユウノがそちらを見ていることが分かったのか、【幻影】の周りにまるで当てつけのように3名のプレイヤーが近寄ってくる。
【エルフ】、【猫人】、【ドワーフ】のプレイヤーたち。
「……なるほど……な……」
案外冷静でいられている自分に少々驚きながら、ユウノはその3人を観察する。
実際に直接見たのは初めてではあるものの、写真で見た時よりも更に思う――――似ていると。
当時から順当に成長すればあのような姿、装備になるであろう結果を体現していた。
「ふぅ〜……」
――――だからこそ許せない。
これが本人たちであるならユウノ自身怒ることはない。
ただ、自分のそばに居てくれないのが寂しいという感情が湧くだけで済んでいただろう。
偽物が我が物顔で3人の仲間たちのように振る舞うのが馬鹿にされているように感じる。
ユウノは眉をひそめながら【幻影】を睨みつけた。
「……『ユウノ』さん」
「ん?あぁ……どうした?『アラタ』」
「あの……」
「お、もしかしてアイツら追い払うの手伝ってくれるのか?助かるわぁ〜。
いつまでも話し続けてるからこのままだと作戦会議が――――」
声をかけてきたアラタの肩を叩きながら誤魔化すように口を回すユウノ。
そんなユウノに向かってアラタは真面目な表情を真っ直ぐに向ける。
「――――俺が倒します」
言い直すことも、詰まることもなく言い切った。
「…………」
ユウノはぽかんとした表情を一瞬浮かべて柔らかく笑うとアラタの頭に手を置く。
「ありがとな『アラタ』」
「い、いえ!わた……俺に任せてくだされば――――ってそんな犬を撫で回すみたいなぁぁぁぁっ!?」
「はっはっはー!
生意気言うやつはこーしてくれるぅ!!!」
優しく撫でるのかと思いきや、両手を使ってアラタの頭をこねくり回すユウノ。
じゃれ合う2人の姿にその場の雰囲気が更に和やかになった。
「む、婿殿婿殿!!
妾にそれをやってもいいんじゃぞ!?」
「はいはーい部外者はお引き取り願いまーす」
「おい『アマネ』っ!?
妾だけ追い出そうとするとは何事じゃ?!
部外者を追い出すのなら妾だけではなくそこの者たちもじゃろう!?」
「わっちたちの和みの場でありんすから邪魔をしてはいけんせんよ」
「『ユウギリ』っ?!
そなたも『アマネ』の味方をするのか!?」
アマネ、ユウギリの2名に両腕を引かれて連行されていくアリシア。
入口にはいつの間にか何名かのプレイヤーが集まってきており、その全員がこの場に集まったギルドマスターたちに関係するプレイヤーたちだった。
アリシアは恐らく側近なのであろうプレイヤー2人に引き渡され、ワンジーは自らそそくさと立ち去り、ジェイドは秘書のような女性プレイヤーに小言を貰いながら帰り、アルヴァンは愉快そうに笑いながら迎えに来たプレイヤーを連れて帰っていく。
もれなくギルドマスターを迎えに来たであろう全プレイヤーたちから頭を下げられるというおまけ付きでそれぞれがそれぞれの待機場所へと向かうのであった。
いつの間にか遠目にいた【幻影】たちの姿もなくなっておりユウノは一瞬だけ険しい表情を浮かべて一瞥するにとどまった。
しばしの談笑とちょっとした作戦会議の後待機場所に響くアナウンス。
『――――開始五分前です。
プレイヤーの皆さんは最終確認を行い所定の待機場所にてお待ちください』
休憩時間も挟み2戦目がすぐそこまでやってきていた。




