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序【十二天将】1


ほぼ11人全員が同時に動き出し自分たちを狙っているギルドに向かった中、誰よりも先に目的のギルドに接触したのはララノアであった。


長年の勘、もしくは野生の勘とでも言うべきかララノアの接触したギルドは他の9つのギルドと比べてギルドランクが最も高い位のギルド。


紋章魔術師(エンブレマー)】であるララノアにとって足場などあってもなくても関係ない。

極小量の【MP(マジック・ポイント)】を消費し一度だけ踏みしめるためだけの【紋章】を出現させ自らの体捌きとステータスによって最短ルートを駆け抜けるのだ。

このような移動の方法、回避の方法は珍しいものでは無いが出現させる場所、タイミング、そしてその上を移動するための体幹を考えると決して簡単なものでは無い。






「――――どうもこんにちはぁ」


それはララノアの優しげな笑みと共に――――ではない。

上空からまるで隕石が落下するかのように着地し、轟音と巻き上がる土埃の中から蕩けたような声音で聞こえてくる挨拶。

姿は見えないもののそれが誰かなのは分かっているようで表情を若干強ばらせながらもララノアの狙ったギルドのプレイヤーたちは各々が武器を構える。


「まさかあの【狂術士(バーサーク・マギ)】が俺たちに一直線で――――」


一人の男性プレイヤーが時間稼ぎをしようと口を開くがしかし。




「――――が……っ!!?」


「何呑気に話してるんですか?

そんなことする暇、あります?」


金色に輝く錫杖――――【妖精の導(フェアリー・ギフト)】その先端が口を開いた男性プレイヤーの鳩尾に突き刺さっていた。

土埃もはれないうちから接近し、【妖精の導(フェアリー・ギフト)】を突き刺したのである。

突然の攻撃にあっけに取られている周りのプレイヤーをララノアが見逃すはずもなく、突き刺さった【妖精の導(フェアリー・ギフト)】を乱雑に引き抜くと今の今まで突き刺していた男性の左脇腹を打ち払い地に沈め、自身ごと回転し背後のプレイヤーの首を打つ。

まるで正拳突きを放つための予備動作かのように身体へと【妖精の導(フェアリー・ギフト)】を握る手を引き付け先端部分と石突部分を使って左右のプレイヤーの額にそれぞれ突きを放った。

HP(ヒット・ポイント)】の減少はそこまで大きくはない。

しかし痛みはないにしろ衝撃は伝わるため攻撃を食らった4人は立っていることは出来なかったらしく等しく地に沈んだ。


ここに来てようやく目の前の出来事を正しく理解したのか残りのプレイヤーたちは動き出す。

その場に残り仲間同士巻き込まれないように距離をとるプレイヤー、バックステップや跳躍でララノアから距離をとるプレイヤー。

その場に残るプレイヤーの方が多いようで、どちらかと言えば近距離戦闘が得意なプレイヤーが多数のようだ。


ララノアはそれはそれは愉しそうに、獰猛な顔で笑うとその場から一瞬にして()()退()()


「なっ!?」


乱戦になる事を想像していたプレイヤーたちはララノアの行動に不可解さを覚えて、自らの行動が遅すぎたことを悟る。




「――――足元、ちゃんと見てますか?」


彼らの経つ地面に発光するものがひとつ――――【崩壊】の【紋章】。

初めは小さかった【紋章】も瞬きのうちに巨大化する。

近接戦闘を行おうとその場に残ったプレイヤーたちの足元を覆ってあまりある【紋章】は音をたてて地面を砕いた。


「【紋章魔術(エンブレム)崩壊する地面(ブレイク・ダウン)】。

ただの地面を砕く足止めの割に【紋章】が大きくてバレバレですけど……」


ララノアが手を伸ばしてにっこり笑う。

そして、もうひとつ仕込んでいた【紋章】が効果を発動させる。


「使い方次第、ですよ」


輝くのは【集結】の【紋章】。

効果を発動させた【紋章】は【崩壊地面(ブレイク・ダウン)】によって砕いた地面の破片をプレイヤーを巻き込みながら引き寄せる。


「【紋章魔術(エンブレム)引寄せる雨(アトラクト・レイン)】」


ララノアから距離をとったプレイヤーたち以外は巻き込まれ一箇所に集められてしまい何とか脱出をしようと藻掻くも次々と地面の破片が飛来してくるため上手くいかない。

しかし中にはダメージを多少しか受けないためそこまで焦っていないプレイヤーの姿もあった。


「なんでそこまで焦ってるんですかぁ?」


「なんで焦ってるだと?!

そんなの説明しなくてもわかるだろ!?」


「いや、こんな足止めくらいなら効果切れまで巻き込まれてない奴に任せれば……」


「そんな余裕あるわけないだろ!」


「いやいや……ほら、【狂術士(バーサーク・マギ)】だってこれを維持するために動けないみたいですしぃ?」


その言葉通りララノアはその場から一歩も動いてなかった。

それを好機と見たのか、焦っていないプレイヤーと同じ考えを持ったのか巻き込まれてないプレイヤーたちはララノアへと遠距離からの攻撃を放つ。


「この馬鹿がっ!!

この()()()()()()()()()()()()()()!!!」


「へっ……?

これただの足止めなんじゃ……」


呆けた声を出すプレイヤーに頭を抱える時間も惜しいと脱出を試みるプレイヤー。


今までその場から動かなかったララノアが自らへと迫り来る攻撃を嬉しそうに見て、その拳と【妖精の導(フェアリー・ギフト)】に【紋章】を出現させて前進する。

まるで邪魔なものを払うかのように自らに向けられた攻撃を躱す訳ではなく時には拳で殴り、時には【妖精の導(フェアリー・ギフト)】で払い、時には被弾させ最短距離で敵へと接近していく。


【紋章】を出現させているとはいえ攻撃を無効化させている訳では無いためダメージを受けてしまい【HP(ヒット・ポイント)】が減っていくが、()()()()()()()()()()()()()


――――ダメージを受けた傍から自らを回復しているのだ。


しかも、防御系の【紋章】を使うことなくただ自分の【HP(ヒット・ポイント)】が削りきられない絶妙なタイミングとバランスで。


「ひっ……!」


とても短なプレイヤーからの悲鳴。

ララノアが攻撃するプレイヤーたちを自らの射程範囲に捉えた時、やけに長い拘束を受けているプレイヤーたちに変化が訪れる。

引寄せる雨(アトラクト・レイン)】に巻き込まれたプレイヤーたちの頭上に今日一巨大な【紋章】が突然現れた。


そしてそこから降り注ぐ――――流星群。

通常広範囲に広がる攻撃なのだが、その全てがまるでブラックホールに吸い寄せられるかのごとく【引寄せる雨(アトラクト・レイン)】に向かっていく。


これこそが【引寄せる雨(アトラクト・レイン)】。

発動させる前提として多量の無機物にあたるものが必要とされ、巻き込んだプレイヤーの数に応じて強度を増す。

更に次の段階として一定時間プレイヤーを拘束することによって頭上からランダムで巻き込むことが出来る攻撃を降り注がせることが出来る。


ララノア自身頭を使うことがあまり得意ではなく、戦闘のほとんどを勘に頼っていることが多いため考えることが多く使うことが少ない【紋章魔術(エンブレム)】ではあるものの今回の場合に関してはララノアの勘が使えると判断し選択していた。


引寄せる雨(アトラクト・レイン)】に巻き込まれたプレイヤーたちは未だに一人として脱出出来たものはおらず、辛うじて両腕が自由となったプレイヤー達が必死で防御しようとするも先程までの地面の欠片に比べるまでもなく巨大で強力な流星群の飛来は確実にプレイヤーたちの【HP(ヒット・ポイント)】を削っていく。

巻き込まれていないプレイヤーもララノアの攻撃が被弾することを恐れない突撃に調子を崩されたのか【MP(マジック・ポイント)】もガス欠寸前。

そもそも近接戦闘にあまり慣れていないのかほとんどララノアに蹂躙されているのが現状だった。






「――――お疲れ様です」


引寄せる雨(アトラクト・レイン)】による攻撃と拘束が終わり大半のプレイヤーが【HP(ヒット・ポイント)】を残した状態で解放されたものの、その残量も雀の涙程度。

牽制及びサポートをするためのプレイヤーは壊滅。

そして目の前には【MP(マジック・ポイント)】は減っているものの【HP(ヒット・ポイント)】はほとんどフルで残っているララノア。


「は、ははは……マジかよ……」


巻き込まれた後に焦っていなかったプレイヤーは自分の認識がまだまだ甘かったことを知り呟くように言った。


「さて、今度は喋る暇なんて、ないですよね?」


獲物を狩る猛禽類のような眼差しに体を震わせるプレイヤーたち。


その後時間にして一分かからない程度でララノアの相手であるギルドは全滅するのであった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






ララノアに少し遅れる程度でイルムも自らの相手になるギルドに接触する。

遠目に見ていた時から感じてはいたものの、実際に目にした風貌にイルムは苦笑いを浮かべた。


「――――随分と怪しい集まりだなぁ……」


頬をぽりぽりと掻き何とも隙だらけと言われそうなほど自然体で姿を見せる。

イルムの登場に驚くことはなく、プレイヤーたちは速やかに動き出し互いの間合いをとった。


「……へぇ、結構慣れてるな」


声を発することなく動き出す連携と言い口元まで隠す真っ黒なローブで全身を覆い、更につばの広い帽子をかぶることで誰が誰だか分からなくさせている様子から関心する。


「…………」


一向に喋ろうとはしないプレイヤーたちに会話は無駄だと悟ったイルムはファイティングポーズをとった。

そして上半身を前へと倒し、地を砕きながら一番近くにいたプレイヤーへと接近する。


「……っ?!」


相手からしてみれば瞬きのうちに目の前に現れたイルムはさながら転移でもしてきたのかという光景だろう。


「よ……っと」


まずは挨拶と言わんばかりにイルムの目測左肺のあるであろう場所に下から抉り込むようなフックを放つ。

しかし、イルムの拳には人体を捉えた感覚が伝わることはなく、攻撃されたプレイヤーは真っ黒なローブをはためかせて後退する。


「おっと……」


攻撃されたプレイヤーが後退すると同時にイルムがいた場所には光り輝く数本の槍が宙から飛来してきたためにイルムは最小限のステップでそれを躱すと距離をとった。

納得したように頷きながらジリジリと間合いを詰めてくるプレイヤーたちの格好を見つめるイルム。


「なるほど……随分と大きなローブみたいだな。

すっかり騙された」


真っ黒なローブはプレイヤーの体格を誤魔化す為にかなり大きめに作られているようで、通常であればクリーンヒットしていたであろうイルムのフックが身体を捉えられなかったのはローブによって正確な位置が分からなかったからであった。

更に、全員が武器を隠しているため誰が何の役割をしているかが分かりにくくもある。


――――情報とは強力な武器である。

相手が何を使い、何を得意とし、何を苦手としているのか。

それを知っているのと知らないのとでは雲泥の差が生まれる。

それをイルムの相手であるギルドのプレイヤーたちは理解しているのだろう。


今まさにイルムとの間合いをジリジリと詰めてきているのも自分たちの情報がバレてしまう前に短時間で倒そうという意識の現れだろう。




――――しかし、イルムに対して間合いを詰めるのはそれ即ち、死に直結することを理解していなかった。


再びファイティングポーズをとったイルムはその場で二、三度軽くステップを踏むと()()()()()()()()()()に接近する。

再び自分の元に来たことをただの偶然だと片付けたプレイヤーは先程攻撃された時の当たらなかった射程距離を取れるように身体を反らす。


イルムの攻撃は同じく左肺のあるであろう場所に下から抉り込むようなフック。

プレイヤーは表情は変えないものの侮っていた。

このままなら結果は変わらず当たることは無い、と。











――――甘かった。


「がふ……っ!?!?」


イルムのフックが直撃したプレイヤーはそのあまりの威力に身体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。

地面に着地したあとも引きずられるように地面を転がりやがて身体を痙攣させて動かなくなる。


「だいぶ舐められてるみたいだな……」


拳を放った後脱力した体勢でその場に留まるイルム。

他のプレイヤーたちは目の前で起きたことが信じられなかった。

初めに放たれたイルムのフック、その射程距離が()()()()()()()のである。




「――――全員で来いよ」


完全に脱力した体勢で腕を無造作に突き出し指を上にして手招きをするイルム。

全く笑っていない無表情のイルムに無意識にか他のプレイヤーたちは後ろ足を引いてしまう。


地面を足の裏が擦る小さな音だけが嫌によく聞こえる。

しばらく見つめ合いピクリとも動かないイルムと相手のギルドのプレイヤーたち。


「…………はぁ……」


イルムは仕方がないと言わんばかりのため息を吐き出して今度は一瞬で接近するのでは無く、ゆっくりと歩いて接近する。

一歩一歩踏みしめながら近づいてくるイルムの姿にいてもたってもいられなくなったのか、数人が走り出した。

包囲するように自分へと走りよってくるプレイヤーたちを視線だけ動かして認識だけするとイルムはファイティングポーズをとることもなく歩みすらも止めない


「……っふっ!!」


イルムと同じく近接格闘を主とするプレイヤーだったのかまるでバネが伸びるような突きが放たれる。

突きの側面を右手の掌底でぱん、と軽く弾き左肩を反らすことで躱したかと思えばその動きを止めることなくまるでドアをノックするかのような右手の形でプレイヤーの下顎を打ち抜く。


「……?!」


顎を打ち抜かれ体勢が崩れた所に体が密着しているからかほとんど腕を引くことなく放たれる拳打。


「か……っ!?」


イルムからの拳打を受けたプレイヤーは吹き飛ぶことなくその場に崩れ落ちた。

そんな仲間の様子を見ていたプレイヤーたちも今更止まる訳にもいかずそのまま突っ込んでいく。

真っ黒なローブで隠された中から現れる武器の数々。

四方から襲ってくる攻撃を時には躱し、時には弾き動きをとめないイルム。

相手の攻撃がイルムを捉えることはなく、逆にイルムの攻撃は吸い込まれるように当たる。

そして、そんなイルムの攻撃の特徴として長物を使う使わないに関わらず身体のどこかが触れるほどに超近距離から放たれていた。


更にいえば、イルムの攻撃の射程が常に変化するために間合いの見極めが極端に難しいというのも特徴のひとつだろう。

イルムが使う武器は赤黒く輝き四肢を包む【龍装(りゅうそう)】のみ。

形状が変化するということもなかった。


結局、全滅するまでイルムに攻撃が当たることはなく、その間イルムが立ち止まることは一度もなかったのであった――――。
























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