【ギルド対抗バトルロイヤル】
毎回のことながらお待たせして申し訳ないです……
今回、次回から戦闘シーンが増えた行きますのでテンポよく飽きない程度の濃いめで行こうと思ってますのでよろしくお願い致します!
――――第76ブロック
「――――おぉ〜これまた見事に遮蔽物すらないな〜」
「見晴らしが良いでありんすなぁ」
【ギルド対抗バトルロイヤル】初回の戦いが始まり転送された場所を見渡したユウノが愉快そうに笑うとそれに続いてユウギリも口元を隠しながら微笑む。
ユウノたちが転送された場所は背の高い木が遠くに見え、身を隠せるような岩陰や丘がある訳でもなくただ開けた草原。
周りに敵が居ればすぐに補足されてしまうだろう。
「えっと〜?目視できるだけでいーちにーいさーん……」
「……数え方が馬鹿っぽいな『イルム』」
「辛辣すぎやしませんかねぇ……」
明らかに自分たちを観察しているであろうプレイヤー達のことをギルド単位で声に出して数えていると、唐突にかけられたイカルガからの言葉にがっくりと肩を落とすイルム。
その様子にアリィとイリィはケラケラと指を指しながら笑っていた。
「これだけ開けてると見つけ放題だ〜」
「……『クリス』さん見つけ放題かも知れませんけど見つけられ放題でもあります……」
「それは何処にいても変わらないよ〜?」
「ま、まぁそうなんですけど……」
イルムのように声に出しては数えていないが、自分たちを狙うプレイヤーたちのことにはおそらく気がついて把握しているのだろうが、あまりにも危機感など皆無のクリスからの発言に苦笑いをうかべるアラタ。
「……諦めろ『アラタ』。
相手は話が通じるやつでは無い」
「あ〜!『ハーくん』その言い方は酷いぞ〜!」
「なんだ?否定する箇所があるとでも?」
ハースの物言いに頬をふくらませて抗議するクリス。
「ほらそこまでにしておけ。
少しは警戒しろ」
「大丈夫よ『ダイン』。
それよりも――――あの2人は放置でいいのかしら?」
いつもの事なのだろう手馴れた様子のダインがクリスたちに近づくが、静かに佇んでいたアマネが胸元から漆塗りの扇子――――【的場鴉】を取り出してある方向を指し示す。
その先に居るのはララノアとマリィの2人。
その様子は目の前に広がる高原を駆け抜けて行きたいが飼い主に待てをされており、今か今かと待ちわびている犬のようなもの。
「行くなよ2人とも!?」
「にゃ?それはフリかにゃ?」
「『ダイン』さんからのフリには応えないと……!」
「違うぞ!!?
『ソフィア』!手伝ってくれ!」
「わかりましたわ」
ダインからの呼び掛けにソフィアがくすくすと笑いながら近づいていく。
ダインはララノアの肩に手を置きその場に留まらせ、ソフィアはマリィの傍に立つ。
「…………」
そんなユウノたちの様子を見ていたアルルがぽかんとした表情を浮かべたまま固まっていた。
多くのギルドはこの初回の戦い、二度目の戦いともに倒したプレイヤーの数が一番多いギルドが勝利するためすぐに行動を開始する。
一分一秒、キルの数が惜しいからだ。
それ故に、時間を効率的に使えるよう始まる前に作戦会議などをするのだが――――【高天ヶ原】はそれをしていなかった。
全員が集まって一度も会話していないという訳では無いのだが、ユウノから一言『しっかりと身体を慣らせよ』と告げられて終わり。
アルルはその言葉を受けてしっかりと身体を解し、武装のチェックを済ませ、アイテムの整理を行なったものの、緊張がほぐれることはなく、開始されてからどう動けばいいのかを悩んでいた。
直前にでも告げられるのかと思えば突然姿を消したアリィとイリィの捜索とインタビューに答えたのみ。
今となればもう既に戦いが始まってしまっているのにも関わらずまるでピクニックにでも来たかのような落ち着き様。
「……あ、あの――――」
アルルが話出そうとした時、やけに通る音で柏手がひとつ鳴る。
柏手の方を見てみれば狐面で表情は見えないものの雰囲気から恐らくいつものニコニコ顔を浮かべているのであろうユウノが柏手を打った姿で佇んでいた。
「――――そんじゃやるとするか」
待ってましたと言わんばかりに全員がユウノの方へと向き直る。
「『イルム』」
「10だな」
「『イカルガ』」
「その他はお任せをマスター」
「『ダイン』『クリス』『アルル』」
「了解だ」
「オーケーギルマス〜」
「……えっ??」
ユウノが名前を呼ぶだけで話が進んでいくため、何なのか分かっていないアルル。
クリスはそんなアルルに近づき耳打ちをした。
「私たちはここで待機ってことだよ〜」
「な、なるほど!」
「ちなみに『むーさん』が言ったのは仕掛けてきそうなギルドの数で〜『イカたん』はその他の様子見をしてるギルドは自分が受け持つって言ってるよ〜」
「な……るほど……?」
先程までのピクニックにでも来たかのような雰囲気から一転、真剣な表情を浮かべるユウノたちに言葉を失うアルル。
「――――よし、んじゃ分かってるとは思うけど」
空気が引き締まるのを肌で感じるほどの瞬間。
アルルは緊張した面持ちでユウノを見つめた。
「――――【全力】を出せとは言わない――――けど【本気】は出せ」
その言葉にアルルを除く全員が何を当たり前のことを言うのかとにやりと笑う。
ワンテンポ遅れて理解したのであろうアルルも大きく頷いていた。
「『俺たちは【世界一のギルド】だ』なんて堅苦しいこと言う気は毛頭ない」
「――――そんなの楽しくないだろ?」
全員が深く頷く。
「んじゃ、お待ちかね――――行ってこい」
言葉が終わった途端に11人はその場を一瞬にして離れる。
なんだかんだ言って待ちに待ったのであろう、動き出しは目にも止まらぬほどであった。
ユウノ、ダイン、クリス、アルルの4人はその場に残りこちらはこちらで各々の行動を取る。
ユウノは背伸びしながら欠伸をしてその場に寝転がり、ダインは腕を組んだままに仁王立ち。
アルルは険しい表情を浮かべながらメカメカしい長杖を握ると言うよりかは抱きしめるように体に寄せる。
「『あるるん』は緊張中かね〜?」
そんなアルルの背後から声をかけたクリスが肩を揉みはじめる。
「く、『クリス』さん……」
「今から緊張してたら一日持たないぞぉ〜?」
「そうなんですけど……」
辺りへきょろきょろと視線を散らすアルル。
そして最後にユウノの方を見て苦笑いを浮かべた。
「こうも周りが開けてるといつ襲われてもおかしくないじゃないですか……」
「だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ。
『イカたん』がしっかりやってくれるからね〜」
自分のことではないにも関わらず得意気な表情でサムズアップするクリス。
「で、でも『イカルガ』さん一人じゃ……」
「ん〜?一人〜……そうだねぇ〜。
……『イカたん』だから問題なしだよ〜」
「……取り敢えず私は周りを警戒しときます」
クリスの煮え切らない発言に不安を覚えたのか辺りへの警戒を強めるアルル。
しかし、どことなく先程までの緊張した様子は和らぎ集中出来ているようにも見える。
「――――『クリス』力を貸してほしい」
「はえっ!?!?」
「おぉ〜『イカたん』お疲れ様〜」
いつの間に近づいてきたのか、まるで何も無いところから現れたかのようなイカルガの登場に警戒していたアルルは声を出して驚き、クリスはいつもの如くのほほんとした雰囲気を醸し出しながら手を振っていた。
「舐めていた訳では無いが少々手がかかる。
『クリス』にいつも通りにして欲しい」
「はいは〜いりょ〜か〜い。
――――というわけでギルマス〜」
イカルガに向かって何とも気合いの入らない敬礼を向けると寝転がっているユウノに声をかけた。
「聞こえてるよ。
アイツらのには手を出すなよ?
もしやらかしても俺は責任負わないからなー」
寝転がった体制のまま動くつもりは無いようで、ユウノは手をヒラヒラさせて応える。
待機とはいえ何もしない訳では無い。
このように要求されることも稀にあるのだ。
「しばらくしたら数人行かせる」
「それを私がズバッとやっちゃえばいいんだよね〜?」
敵を斬り払うようなジェスチャーを何とも頼りない動きで表すクリス。
しばらく無言でその様子を見ていたイカルガだったが控えめに手を横に振る。
「いや撃ち抜いてくれ」
「……流石に冗談だよ〜?
そんな真面目に返されるとお姉さん困っちゃうなぁ〜……」
「……そう。
しっかり調節するからよろしく『クリス』」
そう言い残してイカルガは音もなくその場から姿を消す。
クリスはもう少し話していたかったのか残念そうな表情を浮かべるも、イカルガに頼まれたことをこなすために用意を始めた。
辺りを見渡しユウノたちから少し離れた所へと向かうと背伸びをしてウインドウの操作を行う。
「よいしょっと〜」
出現させたのは自身の身長よりも巨大な『対物ライフル』――――【私の浪漫】。
自ら手製のメイン武装であるため日々使い心地を確かめているからか軽くスコープを覗くだけで満足気に鼻歌を奏でるクリス。
スコープを覗くのを止め軽く辺りを見渡したクリスは何かを発見したのか【私の浪漫】を構える――――
「よいしょ〜」
狙いをつけたのかと問われそうな程に構えた瞬間にトリガーを引いたクリス。
クリスの様子を見学していたアルルは口をぽかんと開けて何が起こったのかと疑問符を浮かべている。
「流石『イカたん』〜。
ちょうど一撃分残してくれてるぅ〜」
「えっ!?今の当てたんですか!?
『クリス』さんスコープ覗いてなかったですよね?!というよりいつ狙いをつけたんですか!?」
クリスの上機嫌な言葉にアルルが驚きを隠せず語尾を上げながら言葉を発した。
「お姉さんにかかれば400メートル以内ならスコープなんてなくても射程範囲内なのだ〜」
「よ、400メートル……」
引きつった笑みへと表情を変えるアルル。
いくらこの『World Of Load』がゲームの中である程度のアシストがあるとはいえスコープを覗くことも無く、構えた瞬間にトリガーを引き狙撃が出来るプレイヤーはそうそういない。
――――クリスには天性の狙撃の才能があるとしか言いようがない。
スコープなしで狙撃できる距離は400メートル。
あくまで必ず当てる事が出来る距離が400メートルなだけで狙おうと思えば600メートルは射程範囲となっている。
さらに言えば、クリスの使う【私の浪漫】は最大射程を10000メートル。
普通であればその5分の1の距離でも狙撃出来れば凄腕と言われるであろう。
――――クリスは【私の浪漫】の最大射程が自らの射程範囲である。
「はいは〜いいらっしゃいませ〜」
ほとんど間を開けることの無いクリスの狙撃は続く。
アルルは遠方を見るための【魔法】を使用してクリスの狙撃の行方を見るもそのことごとくが命中。
一撃の元にプレイヤーの【HP】を削りきっている。
「……ほんっとにどうなってるんだよ視力」
途中から胡座をかいて頬杖をつきながらクリスの狙撃を見ていたユウノが最早呆れたような表情で呟く。
装填されていた弾を全て使い切ったのか次弾を装填しながらクリスが朗らかに笑う。
「ちなみに現実世界でもこれくらい見えるよ〜」
「……え”……マジで?」
「ふっふっふ〜悪いことしたらお姉さんが見つけちゃうぞぉ〜?」
そう言って再び【私の浪漫】を構えてトリガーへと指を添えるクリス。
「あと何人くらいかな〜」
まるで精密機械のような正確無比な狙撃をしているにも関わらず、相も変わらずにのほほんとした雰囲気のままなクリスに開いた口が塞がらないアルル。
「どうせ見てるんなら他の奴らも見といたらどうだ?『アルル』」
「そ、そうですね!」
「ちゃんと落ち着いて見ろよ?
安心しろちゃんと――――全員ぶっ飛んでるから」
少年のような笑顔でアルルに言うのであった。
「……え?ゼンインブットンデル??」
お絵描きって楽しいですよね……




