日常
更新が遅くなってしまい申し訳ありません!
活動報告でも述べさせてもらいましたが、この作品は遅くても2日に1話は更新する予定ですので、今後とも読んでいただけると幸いです!
『World Of Load』において、『情報』というのは価値を持つ事が多く、時には金銭でのやり取りが行われるほどに重要だ。
―――――例えば武器の入手方法や製造方法。
何処で、どのような物が、どのようにして入手できるのか。
何を使って、どのようにして、どんな物が出来るのか。
武器の性能によっては何十億クレジットの価値を付けられることもある。
―――――例えば【個別魔法】の情報。
いかに効率よく高威力の魔法を創れるのか。
何をどのように設定すれば効果が上がるのか。
7日―――――つまり1週間に1度しか創ることが出来ない【個別魔法】。
出来ることなら失敗作は出したくないプレイヤーたちはそんな情報を買うのだ。
―――――そして。
1番高値で取引される情報。
それは、『プレイヤーの情報』である。
種族は何か、職業は何か、その職業の長所、短所は何か、弱点はないか。
対人戦においてもっとも重要とされる相手の情報。
どんな種族なのか分かればステータスの予測が出来る。
どんな職業なのか分かれば【技能】が予測できる。
長所短所が分かれば作戦を練ることが出来る。
持っている情報量の差が決定的な負けを呼び込むことはそう珍しくはない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――――『トウキョー』【高天ヶ原】本拠地
アマネが俺の学校に教師としてやってきた日の夜。
いつも通りに俺は『World Of Load』をプレイしていた。
案の定、アマネの姿はまだ無い。
「―――――『アルル』のレベリングを手伝え??」
今日は気分を変えてギルドマスタールームでは無く、座敷で日本刀の手入れをしていると、ララノアがアルルを連れて突然現れ、そう言ってくる。
「で、出来ればでいいんですけど……」
「しばらく私が預かるって言ってなかったか?」
俺がジトっとした視線を送りそう言うと申し訳なさそうに肩をすくめて縮こまるララノア。
「い、言いましたけどぉ〜……」
「……どうせお前のことだからモンスター狩りに行ってラストアタックだけ取らせて経験値吸わせようって考えだったんだろ?」
その言葉にこくりと頷くララノア。
ラストアタックとはその名の通り止めとなる攻撃である。
『World Of Load』では経験値はラストアタックを行ったプレイヤーに入るようになっている。
そのため、レベルを上げたいプレイヤーよりも高レベルのモンスターが出てくるところに行き、ラストアタックをさせることで経験値を稼がせるというレベリング方法が手っ取り早いとされているのだ。
俺は頭を抱えつつ呆れたように言った。
「お前がそんな器用な真似出来るわけないだろうに……。
んで?その成果はどうだったんだよ?」
「……その、手加減しなきゃ〜って思ってたんですけど……つい、やりすぎちゃってですね……」
「……ラストアタック取らせる間もなく狩り尽くしたな?」
「……その通りです……」
あまりにも予想通りすぎてため息が出てくる。
ララノアがその辺の調整を出来るとはこれっぽっちも思っていない。
「あ、あの……」
「ん?どうかしたか?」
アルルがおずおずと手を上げながら口を開く。
「『ララノア』さんって……その……【魔法職】……ですよね?」
「おう。
一応『ララノア』は【魔法職】だぞ」
「……私の記憶が正しかったら【魔法職】の方たちの戦い方って遠距離からの高威力の【魔法】での攻撃とか中距離からのヒット&アウェイでの【魔法】攻撃をするってものだったはずなんですけど……」
「そうだな。
普通の【魔法職】だとそれがセオリーだな」
「……『ララノア』さんは錫杖で近距離から殴りかかったりしてたんですが……。
【魔法】使ってる時もずーっと近距離からだったんですけど……。
あれは私の見間違いでしょうか……??」
明らかに自分の中の【魔法職】の戦い方のイメージが崩されている様子のアルル。
俺はアルルの肩に手をぽんとおいた。
「なぁ、『アルル』。
『ララノア』の【二つ名】知ってるか??」
「えっと……【狂術士】……ですよね?」
「そう【狂術士】だ。
―――――『ララノア』はな、【魔法職】の中でもかなり珍しい近距離戦闘が得意な奴なんだよ。
その上、【回復役】としても動くくせに並の【戦士職】の奴らより敵を倒すんだ。
……唯一ダメなところって言ったら自分の被ダメージを考慮しない特攻を仕掛けるところだな。
そのせいで【狂術士】なんて【二つ名】が付いたんだよ」
「……特攻……納得です……」
「納得されたっ?!」
俺の説明を聞き、アルルはララノアの方を見て感慨深そうな表情で頷き、それを見たララノアはどこかショックを受けたような表情を浮かべていた。
「……レベリングなら『イルム』か『ハース』にでも手伝ってもらえ……あいつらはそういう敵の【HP】の管理は得意だろうからな」
「『ユウノ』さんは手伝ってくれないんですか?」
「……俺もそういう【HP】の管理とかはちょっと苦手なんだよ……。
前線で何も考えず斬る方が楽だからな」
「相変わらず脳筋的な考えですねぇ……」
苦笑いを浮かべながら何とも暖かい視線を向けてくるララノア。
脳筋とは失礼な……ララノアも人のことは言えないと思うのだが……。
「考えるのは他のメンバーに任せてるんだよ。
俺は出来るだけたくさんの敵を斬ればいいんだからな」
事実、集団戦においての俺の役割は完全なる遊撃。
その場の流れに身を任せて敵を斬って斬って斬り倒すのだ。
「……取り敢えず『イルム』さんに手伝ってもらえないか聞いてみます」
「そうしとけそうしとけ」
「『アルル』ちゃん!
今度こそちゃんとレベリングしましょうね!」
「お、お願いします!」
気合十分に、ララノアとアルルは座敷を出て行った。
俺はメニュー画面を開いてログイン状況を確認する。
どうやらイルムはログインしているようで、『トウキョー』の街を散策しているらしい。
俺は手入れをしていた日本刀を鞘に納刀し、それを立ち上がって腰に差す。
いつもは2本の日本刀が差さっているのだが、使う予定もないため今は1本だ。
「―――――『ゆうの』は居んすかぇ?」
「『ユウギリ』か……どうかしたか?」
俺以外誰もいなくなってしまった座敷に現れたのはユウギリ。
俺の姿を確認したユウギリは柔らかに笑う。
「暇になってしまいんしたからお話でもどうでありんすか?
皆は出てしまっていんすから」
よく見るとユウギリはバスケットを持っていた。
ゲームの中とは思えないほどいい匂いが漂ってくる。
「あぁ、いいぞ」
俺の言葉に反応して、ユウギリは隣にゆったりと座り、手持ちのバスケットを置く。
その中には予想通り美味しそうな料理が入れられていた。
「『ユウギリ』が作ったのか?」
「そうでありんす。
……わっちは【料理人】の職業を取っていんせんから、食べたところで何の効果もありんせんよ?」
「美味そうだから問題ないだろ」
俺はバスケットの中にあった唐揚げらしきものを行儀が悪いものの摘んで口に放り込む。
口の中で咀嚼すれば醤油、肉の味が広がる。
「うん、美味い。
にしてもゲームの中で食事出来る上に味や香りまで感じることが出来るとか凄いよな」
「このげーむを作ったお人は相当な天才だったんでありんしょう」
「ゲームって言うかそれを管理するプログラムAIを開発したらしいんだけどな」
『World Of Load』はその巨大なサーバーなどの管理を人力では無くプログラムAIによって行っている。
特に、『World Of Load』は『メガサーバーシステム』を導入しており、それぞれの地域のサーバーをひとつのサーバーとしてみなしているのだ。
その上で出てくるバグの処理やゲーム内での追加要素、味覚などの作成などなど色々なこと
を全て受け持っているのが『World Of Load』開発者の作ったプログラムAI―――――【Zeus】。
それによって『World Of Load』は1度のサーバーダウンを起こしたこともない。
「つくづく天才ってのはいるんだなって思うな」
「難しい話はわかりんせんがそれが凄いということはわかりんす」
「そりゃそうだ。
俺たちはそういうシステムに関してはこれっぽっちも詳しくないからな。
あくまで俺たちはただのプレイヤーだ」
【Zeus】というプログラムAIがどれほど凄いのかと言われればピンと来ないが、『World Of Load』というゲームのスペックから考えるに今までとは革新的なほどに凄いものなのだと言うのはなんとなく分かる。
「楽しいげーむが出来ているという事実だけでわっちは満足でありんす」
「そうだな、俺もだわ」
そう言って再び料理に手を伸ばした。
「―――――それはそうと手掴みは行儀が悪いでありんす」
俺の手をピシャリと叩くユウギリ。
「わ、悪い悪い……」
俺がそう謝ると、ユウギリは柔らかく笑って箸を取り出す。
そしてそのまま料理を取ると俺の方に向ける。
「ほら、口を開けてくんなまし。
―――――あーん」
「いくら何でもそれは……」
「あーんしてくんなまし?」
「……あーん」
気恥しさを感じながらもユウギリの言う通りにする。
確かに美味しいものの顔が暑く感じる。
それならばと、俺もお返しに箸を取り出し、料理を取る。
「ほら『ユウギリ』。
―――――あーんだ」
「うふふ……それではお言葉に甘えて……」
恥ずかしがると思いきや、身を乗り出してぱくりと食べるユウギリ。
ユウギリが身を乗り出すものだからその豊満な胸が強調されてしまう。
「見すぎでありんすよ?」
ユウギリはイタズラな微笑みを浮かべてそういうと、少し胸を隠す。
「わ、悪い……」
これが男の性と言うべきだろうか……ついつい見入ってしまう。
「今日は邪魔者もいんせんから……」
その艶やかな表情にゴクリと生唾を飲む。
からかっているのだとは分かっていても反応してしまう。
「―――――誰が邪魔者ですって?」
途端、俺を冷静にさせるような声が響く。
背後を振り向けばそこに居たのはアマネ。
「淫行反対っ!!」
俺の腕を掴んでユウギリから離させるアマネ。
「何にもしんせんよ?」
「全く……油断も隙もあったもんじゃないわね……。
『ユウノ』もいい加減気をつけなさい!」
「お、おう……」
気をつけるも何もこれは俺が悪いのだろうか……??
こうして、騒がしくも楽しい1日が終わっていくのだった。