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変化

お絵描きは程々に……九月に新作投稿します←


――――工房【天の岩戸(アマノイワト)




【高天ヶ原】の本拠地にあるその工房は【マーケット】最奥に店を構える【創り手(つくりて)】のメイン工房である。


通常、ギルドホームの工房で造られた物にはギルドの目印である紋章を刻むのだが、この【天の岩戸(アマノイワト)】で造られた物には製作者の名前、もしくは銘が刻まれる。

では、【高天ヶ原】の紋章は刻まれることは無いのかと言うとそういう訳では無い。


――――ただ一人、【創り手】が創った物にのみ【高天ヶ原】の紋章が刻まれるのだ。











『『――――また出なかったーッッ!!!!!』』


一体何度目か、【高天ヶ原】の工房【天の岩戸(アマノイワト)】中に響き渡らんばかりの絶叫が聞こえてくる。

しかし、作業をしているプレイヤー達はなんのその。

聞こえてくる度に苦笑いを浮かべながらも工房内の最奥の扉の向こうに向けてサムズアップを向けていた。


「流石の【創り手】さまも嘆きの悲鳴がやまないなぁ……」


「ギルマスの新しい武器創りだろ?

そりゃ簡単には終わんないでしょ」


「前回はどれくらいで出来たっけ?」


「…………3ヶ月あれが続いた」


「そんなもんか……今回はどれくらいかかるか……」


自分の作業を終えたのであろうプレイヤーたちはそう言いながら過去を思い出しているのであった。




最奥の扉の内側では疲労困憊の様子で2人がたった今出来上がった武器を前に膝を折っていた。


「……多分【幻想物(イマジナリー)】くらいの性能はあるけど……違う……」


「おいおい……これで何振目だ……?」


もはや死んだ目で口を開くクリスとユウノ。

辺りを見れば恐らく失敗作なのであろう何振もの日本刀が抜き身で散乱していた。

少なくとも武器ごとにまとめられているこのクリスの個人工房にしては異様な風景ではあった。


「……てか今回ので『クリス』が扱ったことがあんまりない素材は全部試し終わったんだろ?」


「そうだねぇ〜……レア度の高い物はあらかた試し終わったから手を出してみたけど〜……ことごとく失敗するとはねぇ〜……」


膝を折った体勢のまま椅子に突っ伏すクリス。


――――ユウノとクリスは【(よい)】のフレーバーテキストに記された『この刀は二振一対。その真価は二振が揃った時にこそ発揮される』という内容を信じてもう一振の対となる日本刀を造ろうとしていた。


初めは同じ素材から造られるかもしれないと再出現(リポップ)を待ちつつも【鉱山の守主・マイナサス】を2人で狩り、【マナス宝鉱石】を入手して造ったものの全く上手くいかず、それならば再出現(リポップ)待ちに他の素材でもと試すも惨敗。

やけくそ気味にクリス、ユウノの保管していたかなり希少な素材を使ってみるも案の定失敗作量産。


「ははっ……売ったら数百億クレジットはくだらない素材が【古代物(オーパーツ)】程度の日本刀になっていった時は狂うかと思った……」


「……ギルマス……私もいくつかそうなったから安心して……」


「……俺が素材取りに行って帰ってきた時ぶっ倒れて泣いてたのはそれか……」


乾いた声で笑い合う2人。

失敗作の山を死んだ目からさらに暗い目をしてぼんやりと見ていた。


「あれどうすんだ?店で売るか?」


「……いや、あれは売り物として造ってないからね〜……全部持って行ってくれて良いんだぞ〜?」


「いやあんなに沢山は要らない……。

どっかの誰かと違って俺の武器は替えのきく消耗品じゃないんでな」


「確かにそうだねぇ〜」


そんなことを話しながらいつまでもこうはしていられないとユウノが立ち上がる。


「とは言っても手詰まりに変わりないな……」


「そうだね〜……どうしたものか……」


クリスは椅子に突っ伏したまま動くつもりはないらしく渋い顔をしていた。

しばらく無言のままの2人であったが、腕を組んで考えていたユウノがぽつりと呟く。


「……なぁ『クリス』。

【宵】は少なくとも【幻想物(イマジナリー)】レベルだったよな?」


「それは間違いないよ〜ちゃんと私が鑑定(みた)し」


「てことは可能性としてもう既に対になる日本刀造られてるんじゃないか……?」


「……ギルマス〜……今更になってそれを言う?」


ユウノの言葉はクリスも考えていたが思考の隅に追いやっていたものなのか嫌そうな雰囲気を醸し出す。

クリスはのそのそと動き出して先程まで突っ伏していた椅子に腰掛け、自分の太ももに肘をおきながら頬杖をつく。


「だとしたらもう何回試しても造れないなぁ〜……。

幻想物(イマジナリー)】ってなってくると現存してる物が破壊されないと無理だし〜……」


今まで散々素材を使ってきたからか完全にむくれているクリス。

そんなクリスは放っておいて、未だ思考を続けている様子のユウノが目を泳がせ始める。

どうやら良くない思考に至ったらしい。

わざとらしく咳払いをしたユウノはむくれているクリスに向き直り口を開いた。


「な、なぁ『クリス』……?」


「なんだ〜い……ギルマスぅ〜……」


「まさかとは思うけど……もう既に『クリス』が造ってて忘れ去られてる……ってことは……ないよな……?な……っ?」


「失礼だなギルマス〜。

流石にそんなことある……わけ……ない…………よね……??」


念を押すような、願うような声掛けにむくれているクリスは首を横に振ろうとするものの、途中で心当たりがあったのか段々と自信が無くなっていく。


「…………」


「…………」


互いに見合い、無言を貫く2人。

クリスは音もなくすうっと立ち上がると部屋の奥にある保管庫を開く。

武器ごとに数本飾られている保管庫らしく、見るからに出来のいい武器たちが飾られていた。


「……此処は私の完全に趣味で造った武器たちの保管庫なんだけど〜……その中でもかなり良いものを飾ってるんだよねぇ〜……」


「へ、へぇ〜……?」


「どれも造っただけで性能は鑑定(みて)無いし銘も与えてなくてねぇ〜……」


「ほ、ほーん……?」


クリスは飾られている中から白を基調としたデザインの日本刀を手に取る。

そして、じっとその日本刀を見つめてしばらく黙った。


「…………」


日本刀が淡い発光をした後にカタカタと震え出すクリスの肩。

ユウノの方を振り向いたクリスの表情はなんとも言えないものになっており滝のような汗をかいていた。


「く、『クリス』……??」


「……ぎ、ぎるますぅ〜……」


絞り出したようなクリスの声。

先程手に取った日本刀を両手で丁寧に扱いながらユウノに差し出す。

基調としているのは白ながら金色の細工が施されたこの日本刀。

鞘も見事ながら、柄の細工も細かにしてあるのがわかる。

ユウノはクリスからそれを受け取り鯉口を切った。

そしてゆっくりと鞘からその刀身を抜く。




――――刀身は透明であった。




かざしてみれば向こう側が見える程の透明度。

透けて見えるなどというレベルではなく、あたかもそこに刀身は存在しないかのような透明度にユウノは呆気に取られる。


「……それすごいでしょ〜……?

さっき銘を与えたらそんな風になっちゃってね〜……。

透けて見える程度だったのに銘を与えたら完全に透明になっちゃった〜……」


笑うしかないと言わんばかりにハッハッハーと声を出すクリスであったが、その表情、声音ともに笑ってはいない。

全てを察したユウノはウインドウを操作して渡された日本刀の性能を確認する。

当たり前のように【宵】の性能を凌駕する表示に目を丸くするユウノであったが、そのフレーバーテキストを見て確信した。




――――『この日本刀は二振一対。その真価は二振が揃った時にこそ発揮される。


――――対の銘は【宵】。

全てを呑む闇から変わりしは始まりを告げる(とき)




ふぅ、と息を吐き出し分かっていたことだが心を落ち着ける。

そしてクリスに近づき肩をぽんと優しく叩いた。


「……まぁこういうこともあるよな」


「……ギルマス……」


「けど――――」


クリスの肩に添えられていた手に力が入る。




「――――もう少し早く気がついてくれないかねぇ……っ!!!」


「それは本当にごめんよ〜っ!!!」




こうして、ユウノの新たな武器造りは多種多様な素材と、大切な時間と、膨大なクレジットを消費し、既に完成していたという結果に終わるのであった――――。











「――――ところでギルマス〜」


「なんだよ『クリス』」


なんだかんだで落ち着きを取り戻したユウノとクリスは抜き身で散乱している失敗作を片付けていた。


「【宵】の方には何も変化はなかったの〜?」


「……そういえば確認してなかったな」


透けて見える程度だった刀身から透明の刀身に変化したように、【宵】にも何らかしらの変化があるのではないかとユウノはウインドウを操作して【宵】を出現させる。


「どれどれ〜?」


クリスはユウノの方へといち早く移動すると我先にと【宵】を観察する。

柄の部分から鞘に至るまで真っ黒なことに違いは無いのだが、以前見た時には無かった銀色の細工が施されており、鯉口を切り刀身を抜き出すとそこにも変化はあった。


「……綺麗なものだねぇ〜……」


「確かに……前の漆黒の刀身も綺麗だったけどこれは別格だな……」


全てを飲み込んでしまいそうな程の漆黒の刀身はまるで宵闇色に輝く宝石――――タンザナイトのような美しさを放っていた。

完全に刀身を抜くとユウノは刀身をじっくりと見つめる。

以前からあった重花丁子の刃紋は健在であり美しさは一寸の狂いもない。


「……これは手入れのしがいがあるな……」


「あぁ〜……ギルマスがまた引きこもりまっしぐらだ〜……」


「うるさいぞ『クリス』」


「はいは〜い〜」


そそくさと逃げるように片付けへと戻っていくクリス。

ユウノはため息を吐きながらウインドウを操作する。


「……これは……」


初めて確認した時の性能も予想を超えるものだったが、そこから更に性能が上がっていた。


「『その真価は二振が揃った時にこそ発揮される』……ね……。

――――確かにその通りだな」


笑みを浮かべながら再度クリスへとお礼の言葉を心の中で伝えるユウノ。











――――『この日本刀は二振一対。その真価は二振が揃った時にこそ発揮される。


――――対の銘は【(よい)】。

全てを呑む闇から変わりしは始まりを告げる(とき)




――――――――『この日本刀は二振一対。その真価は二振が揃った時にこそ発揮される。


――――対の銘は【(あかつき)】。

不鮮明な明かりから変わりしは終わりを告げる(とき)





























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― 新着の感想 ―
[一言] 次、朧と霞とか出ないかなぁ (カッコ良さそう)
[気になる点] これって宵の装備が外れるデメリットってそのままなんですかね?
[一言] こういうフレーバーで隠し要素を示唆して要素を揃えたときに明確に変化があった時ってめっちゃ気持ちいいですよね
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