決定
遅くなって申し訳ないです……
――――【高天ヶ原】本拠地・第五修練場
遮蔽物のない平地に幾人かのプレイヤーたち。
【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバー選出のための戦いも数日経てば勝ち進む者、負けてしまった者が決まり観戦に回るプレイヤーも増えてくる。
遠巻きに見守るプレイヤーたちの視線の先にはお互いにいくらかの距離を開け構える2人のプレイヤー。
片や軽装に身を包んだ短刀を逆手に二振り握る明らかに近接戦闘を得意としていそうな女性プレイヤー。
片や自らの身長よりも大きくメカメカしい長杖を持つ魔法をメインで使いそうな少女プレイヤー。
お互いに間合いの広さが違いどう自分の戦いやすい展開に持ち込むかが鍵となりそうな戦いであるものの、ここまで勝ち上がり続けたのだから一筋縄では行かないだろう。
「『メイ』〜!頑張ってね〜!」
「敗けたら許さないからな『メイ』ーっ!」
軽装に身を包んだ女性プレイヤー――――メイは周りからかけられる声に片手を上げて応える。
「『アルル』ちゃんいつも通りにね〜!」
「遠慮なんてするなよ『アルル』〜!」
自らの身長よりも大きくメカメカしい長杖を持つ少女プレイヤー――――アルルはぺこりとお辞儀をして応える。
互いに互いの戦い方はここ数日で見ているため少ないながら手の内は知っている。
メイはアルルの【個別魔法】を警戒し、アルルはメイの機動力を警戒していた。
メイは体勢を低く構えており落ち着いた様子でアルルを見据えてるのに対して、アルルは緊張しているようでメカメカしい長杖をぎゅっと握りしめている。
肩に力が入っているが、審判役のプレイヤーが現れると深呼吸をし気持ちを整えてメイの視線を真っ向から見つめ返す。
「それでは――――開始……っ!!!」
審判役のプレイヤーからの合図にいち早く反応したのはメイ。
アルルと自分の間にある距離を縮めるための直線的なダッシュを選択。
出来れば間合いを保ちたいアルルは後方に飛び退くかと思いきや、その場から動かずにメカメカしい長杖を構え迎撃の姿勢を見せる。
「――――翻弄しろ!【舞う魔弾】っ!」
アルルの持つメカメカしい長杖から3つの漆黒の弾丸のような物が生成されそのまま宙を舞いアルルの周囲を浮遊する。
――――アルルの【MP】が半分を切るほどまでごっそりと無くなった。
今回の【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバー選出のための戦い、要所要所でアルルが最も使ってきた【個別魔法】と言っても過言ではない。
「ちっ……!」
どうやらメイは【舞う魔弾】が発動するよりも早く接近するつもりだったらしく、間に合わないと理解した瞬間間合いを取り直す。
後二、三歩でメイの間合いだったにも関わらず無理に詰めることはなく【舞う魔弾】の射程外へと移動したのだ。
それほどまでに【舞う魔弾】は脅威なのである。
射程がそこまで長くなく、一度設定した魔法を途中で切り替えられない代わりに初撃が放たれるまで何を設定したのか分からず、自動で迎撃してくるというのは不意打ちを防ぐという効果もありとてつもなく有用なのだ。
――――とはいえ、【舞う魔弾】の射程外にいたのではアルルの得意な距離で戦うことになってしまうため、メイは覚悟を決めて駆け出す。
先程のように直線的なダッシュではなく前後左右にまるで蜻蛉が宙を飛び回るような変則的な機動で徐々にアルルとの距離を詰めていく。
明らかにただのダッシュではない機動のため何かしら【技能】を使っているはずなのだが、アルルにはそれがなんなのかが分かっておらず、目で追えないこともあるため表情が曇る。
そんな隙を見逃すはずもなく、メイはついに【舞う魔弾】の射程の範囲内へと足を踏み入れた。
何が放たれるのかと内心ドキドキのメイであったが、その緊張感は裏切られることとなる。
「……?!」
【舞う魔弾】はアルルの周囲を浮遊しているだけで何も放ってこなかったのだ。
自らの把握していた射程よりももっと短いのかと疑問符を浮かべるもののそれならそれで好都合と言わんばかりにさらに足を進める。
かなり近づいたのにも関わらず【舞う魔弾】から何も放たれる気配がないため虚仮威しかもしくは何かへのミスリードなのかと警戒するメイだったが、アルルの表情が曇っており、自分の姿をしっかりと捉えられずキョロキョロしている所からこのタイミングで攻めずにいつ攻めるのかとさらに動きを鋭くしていく。
アルルが自分の動きに着いてこれていないのは先程確かめたため、メイは最も死角となるであろう斜め後ろからアルルに斬りかかった。
――――にやりと笑う。
「――――予想、通りです……」
「……え……??」
あと一歩という所でアルルの声が聞こえてくる。
そして片足が地面に着いた瞬間、メイは後方へと吹き飛ばされた。
「【遅延解放】」
続けざまにアルルの言葉。
【舞う魔弾】が黒々と輝き設定されていた魔法がメイに向かって放たれる。
煌々と燃え盛る焔が無数の礫となり、後方へと吹き飛ばされたメイはそれを避けることが出来ずに喰らってしまう。
いくつかが地面に着弾し爆ぜると土埃が舞い上がる。
かなりの痛手であるものの、メイはまだ倒されておらず何とか体勢を立て直していた。
「……演技上手すぎるでしょ……」
自らの現状にたまらず呟くメイ。
自分のことを追えていなかったのは事実だとしても、曇らせていた表情、初めの緊張している様子も偽りだったのだろう。
そして、斜め後ろからの攻撃もアルルは読んでいた。
メイはそれを確信していた。
何せメイは設置型の魔法を踏んで吹き飛ばされたのだから。
挙句、虚仮威しかと思っていた【舞う魔弾】は【遅延】を使って自分の好きな時に魔法を放つ固定砲台のように利用。
今まで自動迎撃用で【舞う魔弾】を使っていたためそのような使い方をしてくるとは思っていなかった、使えるとは思わなかったメイは驚きを隠せない。
「あ〜……これはキツい……」
そういうものの諦めるつもりは無いメイは土埃に紛れてアルルへと接近するのであった。
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【ギルド対抗バトルロイヤル】参加メンバー選出戦
1位『ユウノ』
2位『イカルガ』
3位『アマネ』
4位『ハース』
5位『ソフィア』
6位『ユウギリ』
7位『ダイン』
8位『イルム』
9位『ララノア』
10位『アラタ』
11位『イリィ』
12位『アリィ』
13位『マリィ』
14位『アルル』
15位『クリス』
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――――【高天ヶ原】ギルドマスタールーム
「疲れたぁ……」
すっかり日も暮れて辺りは月明かりに照らされている。
ユウノは大の字に寝転がり疲れたと全身で表現していた。
「ほんっとに『ユウギリ』と戦うのは嫌なんだよなぁ……」
その種族の特性上時間と集中力を大いに使うことになるためできる限り戦いたくない相手ではあるものの、今回ばかりは仕方がないと理解はしているユウノ。
「今日は勝たせて貰うつもりでいんしたが……流石でありんすね」
「そうそう敗けてはやれないからな〜……」
「いけずでありんすなぁ」
「……というかナチュラルに居るのやめろよ『ユウギリ』」
いつの間にかユウノの隣を陣取って居たユウギリにジト目向ける。
「そういいなすんな。
いつものことでありんしょう?」
「まぁ……そうだけども」
くすくすと艶やかに笑うユウギリにそれ以上何も言わずユウノは大の字で寝たままウインドウを操作する。
特に何かするという訳では無いのだが、ただぼーっとしているよりかは良いかとメッセージの確認をしていく。
確認とは言っても最早読んでいるのかすら怪しく、思い浮かぶのは仲間たちとの戦い。
全員が以前よりも強くなっており、中でもアルルの成長具合には驚かされていた。
巧みに【個別魔法】を操り、何処と無くハースのような雰囲気も醸し出し始めた姿は以前の勧誘したばかりの頃とはかなり違っている。
「……まさか『クリス』に勝つとは……」
「『あるる』でありんすか?」
無意識に漏れていた言葉にユウギリが反応する。
「確かにあれは驚きんした」
「……『クリス』も全然弱くないんだけどな」
「そうでありんすな。
わっちとは『あるる』は相性が悪いのにかなり頑張っていんした」
「全体的に善戦してたしな」
勝てはしなかったものの、ぼろ負けという結果にはなっていないため、恐らく他の【十二天将】たちもアルルの話題を話しているのではないかと何となく思うユウノ。
「何処まで戦えるかね……」
しかし、現状維持では足りない。
幸いなことにまだまだ時間はあるため自分の準備と並行して教えていけばいいと結論付ける。
「……お……?」
そんなことを考えていると一通のメッセージが届く。
送り人は――――クリス。
流石にそれを読み飛ばすということはせずに内容へと目を通していく。
そして満足気に笑った。
「――――次こそ当たりだろうな……?」




