ルール
申し訳ございません……曜日を一日勘違いしておりました……
毎年開催される【ギルド対抗バトルロイヤル】。
参加条件は『ギルドに所属しており、1ギルドにつき1チームのみの参加が可能』というとてもシンプルかつ簡単なものとなっている。
1チームには15名までプレイヤーが参加することができ、この人数は超えなければ何名でも良く、さらにプレイヤーが【テイミング】しているモンスターはこの15名には含まれない。
ただし、1プレイヤーにつき【テイミング】しているモンスターは3体までの開放可能というルールになっている。
一時期は【テイミング】しているモンスターの開放数に制限がなかった時期もあったのだが、あるプレイヤーの登場とともに即座に3体制限がかけられることとなった。
そして肝心の【ギルド対抗バトルロイヤル】の内容についてだが、毎年予選に関しては変わっていない。
――――複数ギルド入り混じってのバトルロイヤル。
とは言っても全参加ギルドが一斉に行うわけではない。
何せそんなことをしてしまうとフィールドが広大すぎて出会わない可能性もあるからだ。
初めに行われるのは全参加ギルドを100のブロックに分けた上での1位争奪バトルロイヤル。
制限時間1時間の内に所属ギルドのプレイヤーたちが倒したプレイヤーの数が最も多かったギルドの勝ち抜けだ。
1度キルされたプレイヤーが復活して再度参加することはない。
――――初回でギルドランク上位100位まで絞り込まれる。
このブロック分け基本的にはランダムな振り分けとなるのだが、前年度のギルドランクが10位以上のギルドへのちょっとした特典なのかそれぞれ同じブロックにはならないようにされている。
次に行われるのも初回と同じくブロック分けされた上での1位争奪バトルロイヤル。
今度は10ブロックに完全ランダムで振り分けらる。
初回でキルされたプレイヤーは復活し、内容は初回と同じであり、制限時間も1時間、ただし追加ルールとしてギルドマスターがキルされた場合はその場で敗退が決定する。
――――ここでようやくギルドランク上位10位が選出される。
ここからはトーナメント戦。
各ギルドマスターたちがトーナメントの組み合わせ抽選を行う。
勝敗の付け方も変わり、『ギルド戦』か『七つの戦争』のどちらかが選ばれる。
『ギルド戦』はシンプルな【15VS15】全滅もしくはギルドマスターがキルされると決着となる。
『七つの戦争』はその名の通り7回の対戦を行い勝ち星が多い方の勝利。
内容は【1VS1】を3回、【2VS2】を2回、【3VS3】と【5VS5】を1回ずつ行う。
――――そして、全てに勝利した最後のギルドがギルドランク1位の座に君臨するのだ。
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――――【高天ヶ原】本拠地・第一修練場
ユウノは木陰であぐらをかきながら戦う自分のギルドの仲間たちに視線を向けていた。
本拠地にある複数の修練場はここ数日全て利用中であり、利用用途も同じ。
戦っているプレイヤーたちはその瞳に闘志を燃やしており、今にも喰らい付いてきそうだとユウノは笑う。
行われているのは【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバー選出のための戦い。
15名という狭き門を勝ち取るために、参加しているプレイヤーたちは皆全力を尽くしていた。
【高天ヶ原】には絶対的強者が13名居る。
ギルドマスターであるユウノを筆頭に【十二天将】の面々。
ほぼほぼ【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバーは決まっているようなものだが、後2名空きがあるため、なんとしてでもそこを、と狙うプレイヤーは――――実はそこまで多くない。
正しくはその程度の気概のプレイヤーが少ないのだ。
どうせ狙うなら【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバーの枠という小さいものだけではなく【十二天将】の座を、ギルドマスターの座をついでに貰おうという気概のプレイヤーばかり。
【高天ヶ原】所属のプレイヤーたちはこの時期に調子を整えてきていると言っても過言ではない。
――――とはいえ、【高天ヶ原】はギルドランク1位に君臨するギルド。
その所属プレイヤーも少ないとは決して言えない。
そのため、まずはギルドマスター、【十二天将】を抜いた状態で勝ち上がり戦をしている。
ユウノたちとしてはギルドマスターだから、【十二天将】だからとそういったことは関係なしで他のプレイヤーたちと同じ条件でやりたいという主張なのだが、そもそもこの仕組みを提案したのは他のプレイヤーたちなのである。
「――――お、今のはなかなか……」
眼前で繰り広げられる自分のギルドの仲間たちの戦いにのんびりとした時間を感じつつもおそらく長い時間をかけて鍛えたであろうプレイヤースキルに感心する。
まるでユウノに見せつけるかのように戦う仲間たち。
そこにはユウノが勧誘したプレイヤーはいないが各々がここまで成長したんだぞと親に見せびらかすかのような雰囲気すら感じられた。
「す、すみません!『ユウノ』さんっ!」
1人木陰で見続けていると1人の少年プレイヤーが声をかけてきた。
明らかに緊張した面持ちでユウノのことを見つめている。
「え〜っと……『ハース』が勧誘してきた……確か『レント』だったよな?」
「はいっ!覚えたてくれたんですね!光栄です!!」
「そりゃ自分のギルドの仲間の名前くらい覚えてるって……それで?どうしたんだ?」
「そ、その……無理を承知でお願いなんですが……俺と戦ってくれませんか……っ?!」
「…………」
レントの発言にユウノは無言を返す。
そしてその場を立ち上がると木陰から出て声を張った。
「おーい!悪いけどそれ終わったら俺たちが使ってもいいかー?」
その言葉に周囲がざわつき始め、レントもユウノの行動に固まってしまう。
周囲の視線がユウノからレントの方へと移りそして――――
――――歓声が上がる。
「……へっ……??」
罵声のひとつでも飛んでくるかと思っていたレントにとってその反応はあまりにも予想外。
ユウノはそんなレントの肩を叩いてにっこりと笑った。
「ほーら行くぞ『レント』くんや。
一切手加減はしないけど泣くなよー??」
「え……あの……へ……??」
「おいおい、自分から頼んできたんだろ?
ちゃーんと相手するから安心しろって」
「あ、ありがとう……ございます……?」
未だに混乱しているレントをよそにユウノはすたすたと歩いていく。
そのまま立ち尽くす訳にも行かず後を着いていくレント。
先程まで戦っていたプレイヤーたちはもう勝負を終えたのか、はたまた一旦中断したのか、全員が観戦側に回っていた。
「今日は『レント』か!頑張れよー!」
「ギルマスの手の内を晒してくれー!」
「瞬きすら許されないぞー!」
周りから自分を応援する声に更なる混乱を引き起こすレント。
その答え合わせはユウノがしてくれた。
「いや〜……なんだかんだで結構居るんだよこのタイミングで俺と戦いたいって言う奴」
「え、そ、そうなんですか?」
「そーそー。
まぁ毎年俺が此処を直接見に来ない日があったり気分が乗らなかったりで断ったりもすることがあるんだけどな〜。
なんとタイミングがいいことに今年はやる気十分!
1回も断ってないし断る気もな……いや、そんなにない!」
断る気がないと言おうとした時の周りからの鋭い視線に反応したのかユウノが言葉を濁して言い換える。
そのままないと断言していたのならばこの後にどれだけ申し込まれるかわかったものでは無い。
「一応伝えとくけど俺に負けたら今年の【ギルド対抗バトルロイヤル】には出れなくなるけど良いか?」
「は、はい!大丈夫です!」
緊張が解けないレントの様子に仕方がないかと笑いながらも言葉を続けるユウノ。
「ちなみに俺に勝てたらソッコーで【ギルド対抗バトルロイヤル】に出場できるしなんならギルマスにもなれるぞ〜」
「……えっ?!!」
「まぁこんなことかけてるから負ける訳にも行かないもんでなぁ……さっきも言ったけど手加減しないから泣くなよー?」
「だ、大丈夫です!!!」
緊張の度合いが振り切れたのかガチガチだったレントは返事を返すと自らのメイン武装であろう細身のロングソードを両手でしっかりと握りしめる。
ユウノはその姿に満足気な表情で頷くと腰に差した日本刀を一振抜刀した。
「そうだな……ルールは俺の【HP】に『レント』がダメージを与えられたら『レント』の勝ち、俺が『レント』の【HP】を8割削れたら俺の勝ちでどうだ?」
「そ、それでお願いします!!」
ユウノにだいぶ不利なルールであるものの、ユウノが今回のような戦いをする場合は基本的にこのルールを提示している。
いつも通りのルールに周囲も特に反応はなく、ただ今からの戦いを見逃さないようにと集中しながら、レントを応援するのを怠らない。
「――――よし、んじゃ始めるか。
あぁ……俺が使うのは【絶断】付いてないやつだから武器は壊れないから安心してくれ」
「はい……!!!」
【絶断】を対策しなくていいという安堵か、使って貰えない悔しさか、しかしそれは最早どうでもいいとレントはユウノを見据えていた。
まさかこんなに簡単に戦えるとは思っておらず、トントン拍子で進む話に若干ついていけていなかったが、始まる寸前となってようやく思考が追いついてくる。
「ほらどっからでも良いぞ――――スタートだ」
ユウノからの開始の合図にレントは駆け出す。
後手に回っては何も出来ずに終わってしまうと思っての行動だった。
――――レント自身は決して弱いプレイヤーという訳では無い。
ハースが面白い職業の選択をしていると言って勧誘したプレイヤーの1人であり、順当に進めばいい所まで勝ち進めるであろうプレイヤースキルもある。
ハースの言った面白い職業の選択、それは【最上位職業】である【魔法剣士】を敢えて取得していない【魔法剣士】であること。
取得しているメイン職業はユウノと同じく【剣聖】、サブ職業を魔法系で揃えた何処と無くユウノのチョイスに似たものとなっている。
まずは目潰しと牽制も兼ねた中級魔法を放つレント。
自分の身を放った魔法の影に隠しつつも自分はユウノを見失わないように別の魔法で位置を把握する。
全く動こうとしないユウノに不安を覚えながらも迷ってしまっては判断が鈍ると行動を継続。
放った中級魔法がユウノに着弾する寸前、直進を止め全力で飛び下がる。
「まぁ流石にこれで終わるわけないよな」
そう言って何事も無かったかのようにその場で平然としているユウノ。
見れば横凪に日本刀を振るったのであろう、刀身が地面と平行になるように腕が伸ばされていた。
少しだけ腰が落とされているところを見るに、あのままレントが直進していたのならば首と胴体がおさらばしていた可能性が高い。
そんなことをされたのであれば8割どころが全て持っていかれてしまう。
「…………」
ゴクリと喉が鳴る。
どうせならば牽制とは言わずに初っ端から最上級魔法でも放てば良かったと後悔するレント。
立ち位置は始まる前と同じ場所へと戻っておりこれでは仕切り直しだと1歩踏み出すと、レントの視界からユウノの姿は消えていた。
「――――【一迅】」
声はレントの背後から呟くような音量で聞こえてくる。
そしてそれに続いて明らかに日本刀を納刀した時の音が耳を撫でた。
「……マジですか……」
「だから言っただろ?
手加減はしないけど泣くなよ、って」
レントの両腕が二の腕から斬り落とされ、両脚は太腿が横一閃。
さらにトドメと言わんばかりに首が飛んでいた。
胴体が無傷なところを見るに少なくとも4度レントは斬られていたのであった。
「――――いやホントに限度はあるからな?
てかそんなに戦いたいなら最初から俺を組み込めよ!!??」
レントとの戦いの後、皆に囲まれたユウノは1人叫ぶのであった。




