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始動


――――「どうだ?『アルル』。俺の【ギルド】に入るつもりないか?」


その一言で私を取り巻く環境は一変した。


憧れのギルドである【高天ヶ原】に所属できることになったのはとてつもなく運が良かったとしか言いようがない。

何せ初期プレイヤーたちの多く集まる『アサクサ』で顔出しをしていない【高天ヶ原】のギルドマスターと偶然出会って自分から声をかけて相手をしてもらうなんてどれだけの確率だろう。


今後何かソーシャルゲームでガチャを引くとしても爆死しかしないだろうと震えたのを覚えている。






――――「【魔導師】に興味無いですか?」


『ララノア』さんの一言は私の成長すべき道を提示してくれた。


もともと私が【魔術師】への転職を決めたのは自分に近接戦闘が向いていないのが分かっていたから。

目指していたのは『ハース』さんのような間合いを測りながら【魔法】、【魔術】を駆使して戦うスタイル。

唯一私にも才能らしい才能があったのは【個別魔法(プレイヤー・マジック)】だったため、それも絡めて行こうと考えていた。


――――そして、『ララノア』さんたちはそんな私を後押ししてくれた。






――――「『祝・アルル【魔導師】転職おめでとう』!!!」


『ララノア』さん、『ハース』さん、『イルム』さんの協力もあり、【魔導師】への転職はあっという間だった。

そこからは色々な人から様々なことを学んだ。


そんな中でも『ララノアの戦法は学ばなくていい』というのが皆さんの口癖だった。


――――『ハース』さんからは相手の心の読み方、相手の嫌がる攻撃の方法。


――――『イルム』さんからは接近された際の回避の方法と身のこなし方。


――――『ララノア』さんからは【個別魔法(プレイヤー・マジック)】の構築のコツ。


他にも身につけたかったが、これが限界だった。

そもそも完全に身につけることが出来たとも思ってはいない。




――――しかし、おにーさんに直接勧誘してもらった以上頑張らない訳にはいかない。


聞くところによるとおにーさんはほとんどギルドメンバーを勧誘しないらしく、『クリス』さん、『アラタ』さんの2人以外は居ないのだという。


だからこそ羨ましがる人が多いのも、嫉妬する人が居るのも仕方がない。


私ができるのは実力をつけておにーさんの目に狂いはなかったと証明すること。






――――そんな私にうってつけの場が設けられた。




そのメッセージは突然送られてきた。

差出人はおにーさん。

【高天ヶ原】所属のプレイヤー全員への一斉送信らしく何事かと目を通す。


内容は簡潔にまとめられており、【ギルド対抗バトルロイヤル】の出場メンバーを決めるための催しをするとの事だった。


どうやら毎年行われていることらしく周りの【高天ヶ原】所属のプレイヤーのみんなはやる気十分という雰囲気だ。


私が仲良くしている人に話を聞いてみるとこの催しはなんと【十二天将】の皆さんはもちろん、おにーさんも参加するとの事。


皆さんに成長を、学んだことを見せれる上に、証明する機会も得られるとなってはやる気を出さないわけはない。


全力を尽くすことが出来るように私は催しの日付をしっかり確認した。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――【高天ヶ原】本拠地・地下修練場




道着袴姿で刀を交える姿が2つ。

そして、それを見守るように少し離れた場所に2つの人影。


始めてそれほど時間は経っていない。

しかし、此処が『World Of Load』というゲームの世界というのを忘れさせるような熱気がその場を支配していた。


一方からの息も詰まる程に止まることを知らない二振の日本刀による連撃を少し表情は固いものの危なげなく受け流すもう一方。


「――――だいぶ余裕が出たな?『アラタ』」


「じょ、じょーだんキツいですね……『ユウノ』さん……!」


ユウノからの言葉に頬をひきつらせながら答えるアラタ。

そんな様子のアラタにユウノは満足気に軽く頷いた。


「ちょっと前まで無呼吸だの過呼吸だのになってたんだからそりゃ余裕そうに見えるだろ」


「あ、あいかわらず……よゆう……そうですねぇ……!」


「そりゃぁ……ねぇ?」


アラタは確かに全ての攻撃を受け流しているのにも関わらず依然として有利そうなのはユウノ。

捌ききれないという訳では無いが今の状況は良くないと堪らずユウノを押し返し間合いを取るアラタ。

休憩だと言わんばかりにユウノはそのまま動くことはなく、逆にアラタは肩で息をしていた。


「あ、相変わらず……意味がわからない……!」


「お?どうしたどうした?」


「『ユウノ』さんの呼吸読めないんですが!?さっきの一呼吸だったのに喋れてもいるし……というかいつまで続けられるんですか?!」


「まぁ、言ってしまえば無限に?」


「人間やめてませんか!?」


ようやく相手の呼吸から攻撃のタイミングを何となく測れるようになってきたアラタ。

しばらくはユウノのタイミングも測れていたのだが、ある日突然測り違うようになった。

そこからはまさに『意味がわからない』という体験ばかりをしており、先程言った一呼吸しかしていないのに攻撃だけではなく喋ることも行うというのもそのうちのひとつだ。

絵に書いたような頭の抱え方をするアラタにユウノはケラケラと笑っていた。


「『アラ』さんも大変そうだねぇ〜」


「……『クリス』さんもおかしいと思いますよね?」


ユウノ、アラタを見守っていた2つの人影のうちの1人であるクリスに同意を求めるように視線を向ける。


「ん〜ごめんね〜『アラ』さん。

実は私も()()()()だから〜」


「……え……?」


「信じられないものを見る視線をありがと〜。

せっかくならギルマスだけじゃなくてお姉さんでも試してみるかね〜?」


「お願い……します」


「うむうむ〜よろしかろ〜。

ギルマス〜『こっひー』をよろしく〜」


クリスはそう言うと隣に大の字で眠るコヒナのお腹を撫でてユウノと場所を交代する。

その手には無骨な日本刀が抜き身で既に握られており、クリスはユウノやアラタと同じ日本刀を使おうとしているらしい。


「『クリス』さんって日本刀使えるんですか……?」


「使えない訳じゃないけど〜……まぁ、普通かな〜」


「…………」


心配を覚えるクリスの答えに堪らずユウノの方を向くアラタ。

苦笑いを浮かべているものの、止めようとはしないユウノにそれならばと構える。


「じゃぁ行くよ〜」


「お、お願いします!」


声を発して気合を入れたアラタの調子を狂わすようにクリスはまるで子供が走りよってくるかのような足取りで向かっていく。

普通であれば油断してしまうだろうクリスの姿だが、アラタは先程の『そっち側』という発言から高く警戒していた。


――――そしてそれは正しかったと身をもって体験する。


「やぁ〜とぉ〜」


「え……ちょ……っ!?」


力の抜けてしまいそうな掛け声とは裏腹にその太刀筋は鋭い。

更に、日本刀が振るわれるタイミングと掛け声、呼吸が明らかに合っていない。

ユウノと比べれば大したことは無いため辛うじて受け流すことが出来ているものの、クリスの動きに動揺を隠せないアラタ。


それまではユウノがおかしい存在だと思っていたにも関わらず、こともなさげにクリスまでそれを行うためだ。

しばらくの間クリスからの攻撃を受け流していると唐突に攻撃が止む。


「とまぁこんな感じだよ〜」


「ありがとう……ございました……」


肩で息をする程の疲れではないがそれでもタイミングをずらされ、『意味がわからない』という体験をすれば体力は削られる。

再び余裕そうな相手クリスと疲れているアラタという構図が出来上がってしまった。


「これだけ出来るのは流石『アラ』さんだね〜」


偉い偉いとアラタの頭を撫でるクリス。

既に日本刀は持っておらず片付けたようだ。


「ギルマス〜この様子だとまだ教えてないね〜?

本当にイジワルなんだから〜」


「いや〜『アラタ』なら自分でイケるんじゃないかって思ってな」


クリスとユウノの会話についていけていないアラタ。

一体どういうことだと頭を悩ましていると答え合わせはユウノがした。


「前に言った『相手の呼吸を感じろ』ってのはもう『アラタ』はほぼ出来てる。

ある程度の相手からの攻撃なら捌ききれるだろうよ」


ユウノからのお墨付きに嬉しさが出るアラタであったが、本題はそこではないと言葉に耳を澄ます。


「けど、ある程度やってるプレイヤーだとそれが通用しなくなる。

()()()()()()()()()()()()()からな」


「……何を言ってるんです?」


「そのまんまの意味だよ。

一番わかりやすいのが呼吸。

『吸って吐く』っていう動作、気合を入れるために『大きく吸う』、集中と力が抜けない為に『吸わず吐かず』、とかな。

――――これを全部あべこべにできる」


目が点になるアラタを放っておいて話を進めていくユウノ。


「そりゃ現実にやってみろは難しいけどな。

――――ここはゲームの世界だぞ?

生身の身体の常識なんて早めに置いてきな」


「そう、言われましても……」


「そもそも、日本刀なんてバカ重たい武器実際に片手で自由自在に操るなんて無理だろ?

でも、ゲームの世界(ここ)ならそれが普通にできる」


ユウノの言葉はアラタも理解していることだった。


「『クリス』は教えてないとか言ってたけどこれに関しては教えるどうののことじゃない」


「…………」


「――――意識を、認識を変えろ『アラタ』。

ゲームの世界(ここ)ならほぼ不可能はない。

実際に怪我するわけじゃない、実際に失うわけじゃない、実際に死ぬわけじゃない。

楽しんだもん勝ちだぞ?」


そう発するユウノの姿にゴクリと喉を鳴らす。

簡単なことのように言っているが、それを実行するには相当の覚悟がいるだろう。

アラタも()()()()()()()()()()()()()


実際に現実の自分の可動域を超えた動きを試そうとしたがそれは断念した。

理由は簡単、感じることの無いはずの痛みを感じたから。


「まぁ、相手の呼吸を感じれる時点でだいぶ強い部類だけどな〜」


先程までのユウノの雰囲気は霧散しいつもの面倒くさそうな雰囲気がもどってくる。


「さっき言ってたのはそもそも無理してやるようなことじゃないぞ?

ただ、やれた方が強くなれるってだけだ」


そしてユウノは背伸びなどのストレッチをし、見てろよ?とアラタに言う。

するとその場に座り足を180度開き身体を前に倒して床にぺたりと付ける。


「俺、現実でこんなこと出来ないからな?

出来て……90度くらいか?前屈もつま先がギリギリな。

――――でも、ゲームの世界(ここ)ならこの通り。

戦うのには柔軟性は大切だからな」


「……痛くないんですか……?」


戦々恐々といった様子で尋ねるアラタ。

ユウノは一瞬ぽかんとした表情を浮かべて懐かしそうに語った。


「あ〜……昔は痛みも感じてたわ〜……。

でも今だと全くないな」


「慣れ……ですか?」


「多分そうだろ。

もしくはゲームの世界(ここ)での身体の動かし方が上手くなったか、だな」


「…………なるほど」


長い沈黙だったがアラタは納得したように小さな声を漏らした。

アラタのそんな姿を見ていたユウノは思い出したかのように立ち上がってウインドウを操作し始める。


「そうだそうだ『アラタ』。

ひとまず相手の呼吸を感じれるようになったら渡そうと思ってたものがあったんだよ」


「え?」


「いつまでも二振使う片方が【模造品(レプリカ)】じゃ格好がつかないだろ?」


そう言ってユウノが取り出したのは毎日必ず手に取って状態の確認をする六振の日本刀のうち最近になって追加された装飾の類のない簡素な作りの鞘に納められた日本刀。

受け取ったアラタは目を泳がせた。


「ま、まさかこれって……」


「言ったろ?いつまでも【模造品(レプリカ)】じゃ格好がつかないだろって。

――――使いこなせよ『アラタ』」


「――――はいっ!」


受け取った日本刀を大事に大事に胸に抱え込むアラタであった。











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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 クリスが分身しとるー!コッヒー ってどんなペットだったっけ? ファントムがギルドバトル一位 くらいで満足するか、わからないけど ギルドバトル参戦か、わくわくですね。 …
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