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ついに


――――音もたてずに無音で木々を飛び移り移動する影がひとつ。


明らかに足元は安定しない上に飛び移るという移動をする以上手間取りそうなものだが、そこらの地に足をつけて駆けるプレイヤーとは比べるまでもなく、速い。

それなのにも関わらず音が一切しないのは最早理解ができない。


彼女――――イカルガがそのような移動方法をとるのはそれが最も速いからなのか、それとも()()()()()()()()()なのか。




――――イカルガは【PK】を含む対人戦をこよなく愛している。


今まで様々なゲームをプレイしてきたイカルガであったが、レベリングやイベントで仕方がなくモンスターを倒したことはあれど、自ら進んで攻略したことは無い。

どれほど強いモンスターと戦っても最終的には()()()()()()()()


所詮はプログラミングされた行動をランダム、もしくは条件下で取り続ける作られた物(モンスター)

情報収集すればその行動を予想することが可能であり、分かってしまえば対応できないことは無い。




――――しかし、対人戦つまりプレイヤーを相手にする場合、作られた物(モンスター)とは違い、完璧でないからこそ予想外の行動が生まれる。

中には完成されているが故に予想しやすいプレイヤーというのも居るが、そのレベルになればイカルガの予想の範疇を超えた行動をその場で取ることすら造作もないことだろう。


自らの予想の範疇を越えられた時の得もいえぬ感情の昂ぶり。


それが――――大好きなのだ。






「――――ふぅ……」


イカルガは足を止め周りを見渡す。

アラタに伝えた通り【幻影(ファントム)】の痕跡が何かないかと探しているが、そんなヘマはしないことをイカルガは知っている。

そもそもその程度であれば既に居場所から何から何までの情報をイカルガは手にいれているだろう。


姿を捉えるのすら難しい闇夜に光が差す。

空を覆っていた雲が流れ、未だに完全には晴れていないものの、空に浮かぶ月から注ぐ明かりが大地を照らすには十分すぎるほどでイカルガは空を見上げた。


「…………」


木々の間から見るのは気に入らなかったのか、背の高い木に飛び移ると軽やかな足運びであっという間に頂点まで登る。

鼻まで隠していた黒いマフラーを下げると小さく息を吐いた。

その場に話し相手のひとりでも居れば会話を楽しんだのかもしれないがあいにくそこにはイカルガ以外の人影すらない。


無言のまま月を見上げていたイカルガは唐突にウインドウを操作し始める。

ピクリとも動かない表情のままに、見ていたのは所持しているアイテムの一覧。

取得順で乱雑に入っているわけではなく、おそらく用途別に綺麗に整理されており、その中でもしばらく操作しないと表示されないほどの場所にあったアイテムをひとつ取り出す。


イカルガの手に現れたのは成人男性の拳大の七色に光を反射する結晶。

見るからに貴重そうなその結晶を鑑賞するわけでもなく出現したと同時に()()()()

結晶は音をたてて砕け、その破片はキラキラと光ながら宙を舞う。

それは()()()()()()()()()

ようやく最後の1個になったのか、一連の動作をおえ、破片が宙に舞うのを見届けたイカルガは再びウインドウを操作し、自らのステータスを確認すると満足気に頷いた。




イカルガが砕いた七色に光を反射する結晶は【禊の結晶】というアイテム。

入手にはあるクエストを受注しなければならず、しかもクリアすれば必ず入手出来る訳では無い。

いわゆるレアドロップと呼ばれるアイテムであり、そのドロップ率の低さからクレジットがあるのであれば買う方が良いと言われるほどである。

もちろん、これだけのレアドロップアイテムが安い訳もなく、しかもある特定の状態のプレイヤーしか購入しないため、それはそれは莫大なクレジットを必要とする。


この【禊の結晶】、イカルガの行動を見てわかる通り消費アイテムだ。

そして、その効果とは――――『PKのペナルティー期間の削除』である。


つまりイカルガは先程まで【PK】のペナルティーを受けていたということになる。


――――というのも。

アラタに出会う前に自らを尾行するプレイヤーたちを全て処理、簡単に言えば【PK】していたのだ。

どうやら尾行していたプレイヤーたちもイカルガを【PK】しようとしていたらしく、そこそこの人数がいた。

しかし、イカルガはそれを鎧袖一触。

1人倒す毎に自らに降りかかる【PK】のペナルティーすら感じさせないほど。


先程までのことを思い出したのか身体をぶるりと震えさせる。

一度は下げた黒いマフラーを再び鼻を隠すほどに上げてイカルガはその場を去るのであった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――時が過ぎるのは早いもので。

気がつけば【幻影(ファントム)】の一件から何事も起きることなくただ平和な日々が続いていた。


初めは警戒し表情を強ばらせていたユウノも、一週間が経てば疑問符を常に浮かべ、半月経てば混乱し、一月経てば少々警戒しながらもいつものような日々に戻り、季節すら変わった今、警戒していたのが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに日常へと戻っている。


ユウノは今日も今日とてギルドマスタールームで武器の手入れ(ひきこもり)に勤しんでいた。


「『ユウノ』〜入るわよ〜」


「……せめて返事があってから入ってこいよ『アマネ』……」


もはや慣れたもので、自由に入退出が可能なギルドマスタールームに入ってくるアマネ。

その手には紙袋が抱えられており、甘い香りが漂っていた。


「まーた何か食べてるのかよ……」


「ここだと太らないから」


「女性陣でみんな同じこと言いやがって……」


「『ユウノ』も食べる?美味しいわよ」


そう言ったアマネは、手に持っていた焼き芋らしき物を口に咥えて紙袋の中から新しいものをユウノに投げ渡す。

ユウノはその行動が予想出来ていたのか日本刀を持ってとは逆の手で難なくキャッチするとじとっとした視線をアマネに向けた。


「おいおい……仮にも教員が食べ物を投げて渡すなよ」


「あ〜あ〜ひほえはへーん(あ〜聞こえませーん)


焼き芋らしき物を口に咥えたまま首を左右に振るアマネ。

その姿になんだかおかしくなったのかふっと笑いながら、ユウノは投げ渡された焼き芋らしき物を一口頬張る。

目を見開き、しばらく咀嚼を続け飲み込むと自らの手にある焼き芋らしき物を見つめて無言になってしまった。


「何よ何か言いたそうね?」


「……いや、見た目完全に焼き芋だったからそのつもりで食ったのに味がやたら甘い苺の何かしらだったら誰でも困惑するだろ」


「そう?私は好きよ?

ちなみに商品名は『芋だと思った?残念クレープ!』だったわ」


「えぇ……何だよその名前……」


明らかに普通ではないネーミングセンスに困惑の表情を浮かべたユウノ。


「ちなみに『イルム』と『ダイン』と『ハース』もそう言ってたわ」


そんなことを言いながらもぐもぐと食べ進めるアマネ。

いつの間にかその足元にはコヒナがお座りのポーズで待ち構えており、アマネは紙袋の中からひとつ取り出して与えていた。


「……既に俺の他にも犠牲者いたのな……」


「犠牲者だなんて酷いわね。

普通に美味しいでしょ?これ」


「ん……うまうま」


ユウノの返事よりもコヒナの返事の方が早く、もう既に食べてしまったのかおかわりを求めてアマネ両手を差し出していた。


「はいはい、いっぱいあるから食べていいわよ」


「ん……感謝『あまね』」


今度は両手に1つずつ握りしめて美味しそうに頬張るコヒナ。

朝からギルドホームを練り歩きプレイヤーたちからお菓子やらをもらって食べているはずのコヒナであったがそんなことは関係ないと言わんばかりの食欲に呆れるユウノ。


「美味いには美味いけど……ネーミングセンス……」


「あ、これ作ったの『クリス』と『ソフィア』の共同出資したキッチンカーだったわよ」


「――――なら納得のネーミングセンスだな」


ソフィアの名前が出た瞬間全てに納得がいったのかユウノは頷きもう一口頬張る。

長財布より少し大きめの焼き芋らしき見た目をしているが、仮にも育ち盛りの男子高校生であるユウノにとっては軽食程度だったらしく三口程で食べ終えてしまう。


「ごちそーさん」


「どういたしまして。

そういえば『クリス』と『アラタ』が探してたわよ」


ふと思い出したようにアマネが2人の名前を出す。

明らかに面倒くさそうな表情を浮かべたユウノであったがあぐらに肘をつきながら問う。


「……何の用かわかるか??」


「さぁ?ただ『クリス』は素材素材言ってたし『アラタ』は先読み先読みって言ってたわよ」


「あ〜……おーけー了解把握した……」


ため息を吐き出したユウノは仕方がないといつもは上がらない重たい重たい腰を上げる。

もちろん手入れしていた日本刀たちはしっかりと自らのストレージに収納する。


「そろそろ本腰入れないとまずいよなぁ〜……」


「あら?珍しいわね。

今年はいつもより早いんじゃないかしら?」


にやにやと笑うアマネを横目にギルドマスタールームを後にしようとするユウノ。


「へーへーいつも一番遅くてすみませんねぇ〜」


「今年は危機感でもあるのかしら?」


「……流石にな。

今まで本当になんにもなかったんだし……確実にやってくるだろ今回のタイミングで」


その意見にアマネも同意なのか何も言わずに頷いていた。


「そろそろ対策されてきてるだろうし。

――――何かしら新しいもの欲しいだろ?」


そう言っているユウノの頭に浮かぶのは真っ黒に仕上げられた日本刀。

今の今まで手を抜きつつも相方を探したがついぞ見つかることはなかった。


「そうね……まだ年末まで3ヶ月あるからいつもより楽なんじゃない?」


「違いないな……んじゃ行くわ」


そう言い残したユウノはギルドマスタールームを後にしたのであった。











――――毎年開催される【ギルド対抗バトルロイヤル】。


その開催時期は決まっており、1つの風物詩ともされている。


ネットでの生配信だけにとどまらず近年ではテレビでの放送もされるほどに。


その開催日時は――――『12月31日』。

年明けと共に新たな頂点が決まるのである。










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