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無音

毎話毎話更新が遅くて申し訳ないです……。


Twitterでぽろっと言っていたんですが今後は月曜日に更新をしていこうと思います!

勿論一週間の中で何回か更新したりもしますが月曜日には必ず更新ができるようにしますので今後ともよろしくお願い致します!


それと、近々新作公開します!

まずは一月毎日投稿できる分のストックは作るつもりですので……そちらもよろしくお願い致します!

6-15

――――『トウキョー』市街地外






「――――くそ……見失った……」


姿を捉えるのが難しいほどに闇夜に紛れるイカルガは珍しく感情的に言葉を吐き捨てる。

高所の木から飛び降り着地したにも関わらず一切の音すらたてない姿は見た目も相まって現代に甦った忍と言えるだろう。

いつもは首に巻いている黒いマフラーで鼻まで隠しその表情まで読み取るのは不可能に近い。




――――その日、イカルガは何度目かの【幻影(ファントム)】の尾行を敢行。

これまでの成果はなく、全てを撒かれており自らの実力不足に苛立ちを覚えていた。

少なくとも潜伏している【幻影(ファントム)】を見つけることができるあたり相当の実力者であるのは間違いないのだが、それでも気が付かれずに【幻影(ファントム)】を尾行するには足りない。


「……ふぅ……」


怒りを飲み込むための空きでも作るかのように息を吐き出す。

ぎゅっと握られた拳から力を抜き意識を切り替える。




「――――ふっ……!!」


瞬間、何も持っていなかったイカルガの手には真っ黒なクナイが握られており自らの後方、木々の生い茂る方向に投擲。

何かに突き刺さったらしく、イカルガは無表情にその方向を見ていた。

明らかに木や地面に刺さった音ではなく、微かに呻き声が聞こえたような気配もある。


「気付かれてないとでも?」


冷たい色をした切れ目の瞳が更に鋭さを増し、まるで冷気でも纏っているのではないかとか言わんばかりの視線が虚空に向けられた。


「…………」


何の返答もなく、ただ木々の間を抜ける風の音と葉の音のみがその場を支配する。

イカルガは溜息を吐いて呆れたように額に手を当て首を横に振った。

疲れ目でも癒すかのように目を閉じる。






「――――処理させてもらう」


次にイカルガの目が開かれた時には瞳の色が紅く輝き、一瞬にしてその身をかき消した。

後に残るのは紅い光の軌跡のみ。


――――【穢れなき殺人鬼(アサシン・ヴァルゴ)】が動く。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






――――『トウキョー』市街地外






イカルガが動き出したのと時を同じくして、さほど距離的には離れていないところにアラタの姿があった。


相手の呼吸を感じる前段階として自らの呼吸と攻撃に関する研究をしていたアラタは煮詰まった思考と火照った身体を冷ますために夜風に当たろうとこの場所を訪れていた。

恐らく訓練用であろう道着袴姿に帯刀はしているものの、モンスターの出現するこの場所においては少々心もとなさを感じる。


とはいえアラタも【高天ヶ原(たかまがはら)】に所属しているプレイヤーであり【十二天将】。

そうやすやすとモンスターにやられることは無いだろう。


「すぅ〜……ふぅ〜……」


肺を空気で満たし、一息の内に吐き切る。

――――繰り返す度に数回。

精神統一の意味もあるのか段々と通常の呼吸へと変わっていく。


「難しいなぁ……」


研究すればするだけ今までの自分がいかに考えずに日本刀を振るっていたのかと呆れるアラタであったが、数時間の研究によって今までの数倍もの成長を感じていた。


【神話族】という種族の特性上ある一定の水準までであればステータス差によるゴリ押しが可能である。

しかし事対人戦においてはステータス差だけでは判断できない。

わかりやすい例でいくと――――ユウノ。


ユウノは種族が【人間(ヒューマン)】であり、メイン職業に関しては【最上位職業】の【剣聖】。


対してアラタは種族が【神話族】てあり、メイン職業は【専用職業(リミテッド・ジョブ)】の【武神】。


メイン職業、サブ職業共にレベルは上限値まで上げきっているとはいえ提示された【種族】、【職業】だけ見れば圧倒的にアラタが有利である。




――――しかし、アラタはユウノに勝てない。

ステータス差があるためいい所までは行くだろうが、勝つことは無い。今はまだ。


理由は簡単である。

対人戦に慣れているか、慣れていないか。

大きく括れば『プレイヤースキルの違い』だ。


アラタはユウノとの決定的な差を今埋めようとしていた。






「――――っ!?」


目的地もなくただ夜風を当たるために歩いていたアラタが急にその場から飛び退く。

着地する時には既に柄に手をかけ直ぐに駆け出せるように重心が低く構えられていた。

一見何もないように見える先程までアラタの居た空間。

鋭い目つきで睨みつけている。




「――――良い勘をしている流石は若武者(にだいめ)と呼ばれるだけはある」


何も無いのに声が聞こえた。


「……毎回毎回……『ありがとうございます嬉しいです』とでも言えば良いか?【幻影(ファントム)】……っ!」


アラタは驚くことなく睨み付けたまま言葉を吐く。

すると、まるで霧でも集まるかのようにして人影が現れる。

全身を覆い隠す真っ黒なフード付きのローブ。

顔には仮面が付けられており表情を窺うことは不可能。

手にはこれまた真っ黒な手袋を着けており、全身もれなく真っ黒、一瞬で闇夜に紛れてしまいそうだ。


「いやいや、本当にそう思ってる」


「ふん……どうだか……。

それよりいい加減『ユウノ』さんに迷惑をかけるのをやめろ」


日頃のアラタとは態度も口調も違い、雰囲気もどちらかと言えば狩りをする前の狼のような獰猛さの中に鋭さを感じるものがあった。


「……『ユウノ』……?」


「とぼけるなよ……?

今回も『ユウノ』さんの過去を利用しやがって……!」


「過去を……利用……?」


「つくづく癇に障る奴だな……っ!」


「ふむ……さて何の事か?」


顎に手を当て首を傾げる【幻影(ファントム)】の様子に怒りが溢れたのかアラタは一直線に、最短ルートで飛び込む。

挨拶がわりの横一閃を躱す素振りも見せずに受ける【幻影(ファントム)】。

もちろんのことながら日本刀の横一閃を受けた身体は上半身と下半身に分かたれる。

更にアラタは刀を返し上半身を逆袈裟に斬り、それでも気がすまなかったのか首を飛ばした。


「…………」


首を飛ばし振り抜いた姿で残心。

その顔には更に怒りが湧いたと言わんばかりの表情が浮かんでいる。

その視線は自らが斬った【幻影(ファントム)】の身体。

地面に横たわっている身体はポリゴン体に――――還らず、()()()()()()




「――――気持ちがいいくらいに躊躇いがないな」


「躊躇う必要が無いだろ」


斬られたはずの【幻影(ファントム)】の姿がアラタの背後に現れる。


「気が済んだな?」


「……他の【十二天将】と戦ってるみたいに私とも戦えよ【幻影(ファントム)】」


アラタは振り向くことなく肩越しに言う。

今まで何度かアラタの前に現れた事のある【幻影(ファントム)】だったが、今まで一度もアラタを倒そうと動いてきたことがなかった。


「それはお前が【若武者】でなくなったらだ。

――――既に【若武者】は狩ったから要らん」


「…………」


「それと、思い出したぞ」


「…………何を?」


「『ユウノ』……確か【若武者】のプレイヤーネームだったな」


興味のなさそうな声音の言葉にアラタは身体ごと視線を【幻影(ファントム)】に向ける。


「白々しい物言いで……!」


「白々しいも何も……【若武者】に興味はない。

さっきも言っただろ――――()()()()()()()()()って」


再び溢れそうになる怒りにブレーキをかけるアラタ。

柄を力いっぱい握りしめ、奥歯を砕く勢いで歯を食い閉めていた。


「……要らない癖に迷惑をかけるなよ【幻影(ファントム)】……!!」


幻影(ファントム)】は肩を竦めて手をヒラヒラさせる。


「だから何度も言わせるな。

【若武者】は狩り終わってる――――もはや一欠片の興味もない」


「ならなんで『ユウノ』さんの昔の仲間の名前なんか使ってるんだよ!!」


「…………」


「答えろ【幻影(ファントム)】……ッ!!!」


アラタから発せられる殺気の籠った叫び。

幻影(ファントム)】は特に気にした様子はないが何か考える素振りをみせ、手をぽんと叩く。


「アイツらの事か」


その反応から本当に今まで分かっていなかったようでアラタは困惑の表情を浮かべた。


「何、ちょっとした遊びだ遊び。

お前の言う『ユウノサン』には関係ないから安心しろ。

それに――――俺が狩ったんだから好きにしても良いだろ……?」


「……っ!」


唯一仮面からのぞく瞳が暗く濁ったようにアラタには見えた。

しかしそれは一瞬の出来事で、瞬きをすればそれは見間違いだったのかと思うほどに元に戻っていた。

そして【幻影(ファントム)】はアラタの方ではなく森の方へと視線を向け溜息を吐く。


「今は狩るのを自重してるからな……仕方がない」


残念そうに呟くと【幻影(ファントム)】はヒラヒラとアラタに向かって手を振った。


「早く美味しくなってくれ【若武者(にだいめ)】。

――――まぁ、今は()()を磨け」


「何を言って……待……っ!!」


アラタが何かをするよりも早くその姿は霧となって消えていく。

幻影(ファントム)】が逃走に専念してしまえばアラタに追う術がないため悔しそうに表情をゆがめる。


「……くっそぉぉぉぉぉおっ!!!」




「――――何を叫んでる?」


「ひぁっ!?!?」


アラタが叫び声をあげるのと同時にここには居ないはずの声が聞こえてくる。

唐突に声をかけられたためかアラタの叫び声は即座に悲鳴に切り替わった。


「い、『イカルガ』さん……!」


「……『アラタ』ストレス発散は別のところでやった方がいい。

見られたら変人だと噂がたつ」


叫び声を上げていたアラタの傍に現れたのはイカルガ。

様子を見ていたのか叫び声を上げたことに対して心配するような視線を向けていた。


「ち、違いますよ!?」


「冗談。

――――ちっ……【幻影(ファントム)】に逃げられた」


周りを見渡したイカルガは語尾を強めに言う。


「す、すみません……」


「大丈夫『アラタ』のせいじゃない。

……むしろこれは私の責任」


多くは語らないイカルガであったが、その雰囲気は自分の失策を責めている時のもの。


「……多分もう追えないけど何か無いか探す。

『アラタ』もあんまり頑張りすぎないように」


イカルガはそう言ってマフラーの位置を直す。

そして音もなくその場から姿を消す。

しばらくぽかんとした表情を浮かべ棒立ちしていたアラタは、自分の前から姿を消した2人のことを考える。


(……そんな音もなく……移動じゃなくて消えてるよ……)


幻影(ファントム)】しかり、イカルガしかり、あのような移動を可能とするプレイヤーとどう戦うべきなのか頭を悩ませる。

常時自分の周りに【雷焔領域(らいえんりょういき)】を展開してゴリ押しするというものしか考えつかず頭をガシガシと掻き、なんだかんだどこにもぶつけきれていない怒りを鎮めるために再び歩みだすのだった。






(……『今はそれを磨け』……か……)





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