オリエンテーション――――2
大変お待たせしました……
更新復活です!
新作は書き溜めていた分が全て消し飛んでしまったためもう少しかかりそうです……
こちらの更新はどんどんしていきますので今度ともどうぞ宜しくお願い致します!
「――――ま、また『マリィ化』っ!?」
「そこ、語尾変化を人の名前使って現すんじゃないにゃ」
「ぎゃぁぁぁぁっ!?
何度目の全財産没収だ!?」
「……あっ……また……」
「い、いっその事殺せにゃぁぁぁああ!!!!」
「お、落ち着け!」
アリィとイリィ自作の人生ゲームを悲鳴あり、絶叫あり、絶望あり、という明らかにおかしな状況で続けていくユウノたち。
初めは変なマスを踏まずに平和に終わろうとしていたのだが、進めていくうちに自らに襲いかかる変なマスからの攻撃によりいつの間にか平和から程遠い争いへと変わっていた。
「あ、『ソフィア』さん投資した会社が急成長だそうですよ」
「『アラタ』も宝くじに当たったみたいだわ」
そんな中でも何故か好調なアラタ、ソフィアは普通の人生ゲームを楽しむかのように進めており、これがリアルラックの差かと恐れおののくユウノたち。
ならば他のメンバーをとターゲットを定めるため辺りをキョロキョロとするユウノたちであったが、ただ1名だけはスルーするように視界から外していた。
もはや目視できてしまうほどのどんよりとしたオーラ。
いつもの元気な姿は何処へやら、のの字を書きつつぶつぶつ呟く――――マリィの姿。
「……これはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲーム……」
現状の人生ゲームとしての資産を見ればむしろ調子が良いといえる進み方をしているマリィだが、実際は漆黒のオーラを纏ってしまっている。
その理由というのも人生ゲームならではのシステムによるものなのだが、これを作ったのはイタズラ大好き【双子の悪魔】と呼ばれるアリィ、イリィ。
いちいち破壊力がとんでもないのである。
マリィは自分の番が回ってきたために十二面ダイスを転がす。
シンとしたその場にはダイスが転がる音、出た目分マリィが自分の駒を動かす音が響く。
――――そして、マリィが自らが止まったマスに対応するカードを渡され書かれていた内容を読むと椅子から滑り落ちて行った。
「ま、まただぁ〜……うぅ……」
既に涙目だったマリィが泣き出しそうな声で、自らの語尾すら忘れている。
カードに書かれていたのは『おめでとう!結婚!参加メンバーからご祝儀を貰う』というもの。
なんとも普通の内容ではあるが、では何故マリィがこんな状態なのかと言うと――――マリィがこの人生ゲームで結婚するのが『5回目』だからである。
流石にアリィとイリィも複数人との結婚は出来ないように調整しているようで、既に結婚していると2枚目のカードが配られ別の内容になるようにしているが、マリィには2枚目のカードが渡されることは無かった。今まで一度も、だ。
「こ、今回は大丈夫だって」
「そ、そうだぞ『マリィ』。
ほら、これ今回の分のご祝儀……」
ユウノ、イルムは引きつった笑いでご祝儀を渡す。
「……これは悪魔の所業」
「お、おめでたいことでありんすからそんなことは言ってはいけないでありんすよ……?」
イカルガの戦慄を覚えたと言わんばかりの表情と声音にユウギリが言う。
他のメンバーたちも自らも大変な目にあっているにも関わらずマリィを煽ることなくそっとしていた。
椅子の下に滑り落ちて行ったマリィは産まれたての子鹿のような足取りで円卓に捕まりながら立つと心情を吐露する。
「――――また離婚するんだぁぁぁぁ!」
今回合わせて計5度結婚し、4度のスピード離婚を繰り返したマリィ。
しかも離婚となった時の理由が毎度毎度違い更なるダメージを与えてくるというおまけ付きのため軽い精神崩壊へと繋がっていた。
そしてマリィへと精神崩壊するほどのダメージを与えた人生ゲームの製作者であるアリィとイリィの2人はと言うと、床をバンバン叩きながら涙を流すレベルで爆笑していた。
――――まさに悪魔の所業。
ユウノたちも羞恥心を煽られるような内容もあったが、今のマリィほどではないと心を強く持つのであった。
「早く終われよぉぉぉぉぉぉ!!!」
にゃーにゃーと元気なマリィはどこへやら錯乱したマリィの姿がそこにはあった。
ちなみにこの人生ゲームが終了するまでにマリィは8度の結婚と8度の離婚を経験し独り身でゴールし総資産額はぶっちぎりの1位となることはこの時点では知らない。
「ねぇ『アリィ』」
「なに『イリィ』」
「『マリィ』の様子を見てるとさ思うことがあって」
「俺も思うことあったよ」
「「…………」」
「やっぱり」
「『マリィ』って」
「「――――不憫な方が輝くねぇ〜……」」
2人揃ってマリィの方を恍惚の表情で見つめていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――――復活にゃぁぁぁぁあ!!!!」
人生ゲームが終わり円卓に突っ伏し燃え尽きたように真っ白に、そして溶けた様子に一時はどうなるかと思ったマリィであったがユウギリ、アマネ、クリスの献身的な慰めによって物言わぬナニカから復活したのであった。
「……流石に可哀想だったもの……」
「いや〜あれはお姉さんも笑えなかったよ〜……」
「わっちはもう少ぅし甘やかしたかったでありんす」
アマネ、クリスの両名は復活したマリィの肩をポンポンと叩き、ユウギリは頬に手を当てて物足りなさそうにしていた。
「……『ユウギリ』の甘やかしは危険にゃぁ……。
あれは中毒者がでるにゃぁ……」
額の汗を拭うような仕草でそういったマリィはユウギリを見つめ、先程までの行動を思い返す。
気がつけばユウギリの膝の上に座らせられており優しく撫でられており、まるで幼子をあやす母のようであったのだ。
そんなことを思い返してユウギリを見つめていたからか、物足りなさそうな様子のユウギリが手招きをしてマリィを呼ぶ。
「――――おいでなんし?」
両腕を広げて受け止める体勢が万端である。
マリィはその誘惑に抗うためにか眩しいものから顔を守るように手で覆い隠すも、その足はジリジリとユウギリへと引き寄せられていた。
「……俺らは何見せられてんだ?」
「……女三人寄れば姦しいっていうだろ?それだ」
「へぇ〜……『イルム』って実はインテリ系?」
「まぁな〜」
椅子の背もたれに顎をもせてだらけた様子のユウノとイルム。
他のメンバーたちもマリィ復活まで各々時間を潰していたのだが、ユウノとイルムはよほどやることがなかったのか、はたまたマリィたちのことを見ていたかったのか一連の流れを観察していた。
「……4人いるけどな」
2人の会話が聞こえたのかボソリと呟くダイン。
あまりのだらけように溶けているという表現がしっくりくるユウノとイルムの様子にダインは苦笑いをこぼす。
「――――それじゃぁ」
「――――そろそろ」
穏やかな雰囲気の中、二人の声が響く。
そして唐突に緊張感が走る。
ある者は生唾を飲み、ある者は絶望し、ある者は冷や汗が頬を伝う。
――――ただアリィとイリィが口を開いただけなのだが。
2人はもうひとつ用意してきた物を手ににっこり笑う。
「「ツイスターゲームもしよ〜」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――――じゃぁ次は右手を赤〜」
ルーレット を持ち、回した結果を口に出しているだけにも関わらずニコニコの笑顔を崩すことがないアリィとイリィ。
互いに専用と言わんばかりにルーレットを持ち交互に回す様子は次の展開が早く見たいとねだる幼子のようだ。
「バランス感覚があればいいという訳では無いんですのね……」
「そ、そうですね……わた……俺も甘く見てました……!」
「……重い……」
「これはだいぶらくちんでありんすなぁ」
ソフィア、アラタ、イカルガ、ユウギリの4人が絡み合いながら指定された場所へと右手を動かす。
どうやら全員バランス感覚は良いらしくふらついている様子はない。
唯一イカルガがユウギリの胸を頭に乗せられており邪魔そうにしていた。
「『ユウギリ』あなたパンツ見えてるわよー」
「この下はしょーとぱんつでありんすから見えるはずがございんせん」
「……少しは慌てなさいよ」
アマネからの茶々に特段慌てることも無くさらりと返すユウギリ。
もう少し違う反応を期待していたのかアマネは残念そうだ。
「ギルマスは誰を見てるの〜?」
「クリス」
「なんと!?ついにお姉さんの魅力に気がついたか〜!」
いつもの流れからそのような返事が返ってきたことに少しばかり驚くクリスであったが、ユウノからの返事が冗談だと分かっているのだろう、変にくねくねと身体を動かしてセクシーポーズだよ〜と軽口を叩く。
「…………」
そんなクリスを無言で見つめるユウノ。
初めは顔を見ていたがその視線は段々と下へと下がっていく。
その視線に気がついたクリスは段々と動きが少なくなっていき最後にはユウノの視線から身体を隠すように向きを変えた。
「……せ、セクハラはんたーい……」
いつもより弱々しい声にユウノは顔に手を当てて身体を震わせた。
「おーい『クリス』〜完全にからかわれてるぞ〜」
「……見てみろあの笑いを隠しきれてない顔」
イルムとハースがクリスに向かって呆れたような声音で伝える。
その言葉に反応して笑いを堪えていたのであろうユウノが声を出して笑いだした。
「ぎ、ぎぎぎ、ギルマスぅ〜!!!」
「やばいもう無理だぁ!
なんだよその態度いつもあれだけからかってくるくせに!」
「くっそぉ〜!覚えておきなよギルマスぅ〜!」
「はっはっはー!
知らんなぁ!俺は忘れておく!!!」
いつもの見なれた光景にダイン、ララノア、マリィは見守るような雰囲気で表情を柔らかくしている。
「――――次は左足を青〜」
「楽勝ですわ」
「わた……俺は結構ギリギリ……!」
「なんで同じような体勢に……『ユウギリ』早くどかして欲しい」
「そう言いなんすな『いかるが』。
せっかくでありんすから堪能しなんし」
「なんで重たくなったの……?」
「遠慮をやめんした。
これは本当にらくちんでありんすよ」
「いいぞいいぞ〜」
「もっともっと〜」
「「くんずほぐれずよろしく〜」」
満面の笑みでサムズアップするアリィ、イリィ。
この場の誰よりも楽しそうにするのであった。




