オフ会開始
「あああぁぁぁ〜……」
アラームと共に目を覚ますユウノ――――裕也。
今日が休日というのもあって平日よりかは遅めの起床だ。
「もう……はちじ……かぁ……」
本来であれば休日ともなれば昼頃まで寝ている裕也。
それがこのような朝早くに目を覚ますのには理由があった。
いつもの如く枕に顔を埋めて二度寝の誘惑と戦う。
しかし流石に今日はそれに負ける訳にはいかない。
「……10時集合は……ミスったなぁ……」
集合時間への恨み言を呟く。
――――そう、今日は計画していた【オフ会】当日だったのだ。
初めの裕也の予想とは違いまさかの全員集合。
『World Of Load』内での遅刻は何度もしてきた裕也であったが現実世界であのメンバーに対して遅刻するのは命掛けになりそうだと渋々といった雰囲気でベッドから立ち上がる。
事前に貰っていたソフィアの自宅までの地図を思い出すに電車の乗り換えと徒歩で一時間かかるかどうかと言ったところだったがためにのんびりと準備を始めていく。
もはやルーティンと化している洗面所に向かい顔を洗うという行為を済ませ、スマートフォンを弄りながら自室に戻るとベッド横に置いてあるテーブルに無造作に放られていた菓子パンに手を伸ばす。
手に収まったのはメロンパンだったようで袋を開けて齧り付く。
咀嚼しながらいつもの如くネットサーフィンに興じ、簡単なネットニュースやエゴサーチ、『World Of Load』の新規情報でも無いものかとスマートフォンを見つめる。
そうこうしているうちに時間も良い具合に進みいい加減着替えなければとクローゼットを漁る。
いつもの癖で制服を手に取りそうになるが今日ばかりはそうはいかない。
基本的に外に遊びに出かけることは少ない裕也ではあるが数着の私服位は持ち合わせている。
しかしながら私服が少ない自覚はあるのか自らをアニメキャラレベルに同じ服を着ていると笑いながら話すこともある。
「まぁこんなもんで……大丈夫か」
サックスカラーのシャンブレーシャツの上からライトグレーのパーカーを羽織り、ベージュのチノパンを合わせた無難な装い。
一瞬上下ジャージで向かってやろうかなどと考えたがそこは踏みとどまったようで一応の身だしなみは整えたようだ。
ポケットにスマートフォンと財布、鍵を入れると玄関に向かう。
定位置に置いてある度のないメガネをかけイヤホンを装着するとスマートフォンに表示される時間に目を向ける。
――――【8時57分】――――
道に迷いさえしなければ遅刻することは無いだろうと靴を履き自宅を出る。
休日というのもありそこそこの人の多さを予想し溜息を吐きながらしっかり自宅の鍵をかけて目的地に向かって歩みを進めるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いつもは乗ることの無い電車に揺られながら目的地を目指す裕也。
休日ではあるが思っていたよりも乗客が少なく、それこそが10時を集合時間にした理由。
ある程度早い時間にすることによって人が少ない時間に行動できるだろうという狙いがあったのだ。
「身バレ防止……ってな」
そもそも裕也に関しては身バレの可能性が【十二天将】たちと比べて誰よりも低い。
何せ基本的に不特定多数に見られる状況下であれば狐面をするため素顔を出していないのだから。
「っと……この駅か」
危うく降りる駅を間違えるところだったと裕也は急いで電車から降りる。
車内が混んでいなかった為に楽々とホームに降り立った裕也はスマートフォンを操作して目的地までの地図を表示させた。
スマートフォンに表示された地図には徒歩で20分と記されていたがその通りに着くとは思っていない。
プラス10分程を覚悟しながら歩を進めた。
現在時刻9時32分という所から少々の寄り道なら遅刻はするまいと道中のコンビニに寄り紙パックのジュースを購入し飲みながら見慣れない道を楽しみつつ目的地へ向かう。
あまり車通りは多くなく住宅地といった風景。
「あれ……?道間違えたか……?」
ソフィアから見せられた自宅と呼ばれるお屋敷がこんな住宅地にあるものかと疑問符を浮かべながらも地図通りに進んでいく。
左を見れば真っ白な壁、右を見れば道路を挟んでオシャレな戸建て。
しばらく変わらない風景が続き、スマートフォン上ではそろそろ目的地だと出ているが何処にそんなものがあるのだと裕也はふと気がつく。
(……ちょっと待てよ……?)
油のしばらく差されていない機械のようにぎこちない動きで左側を見る。
真っ白な壁。裕也よりも高いそれの上では見事に切りそろえられたであろう緑が見えていた。
(この壁って……どこから続いてた……?)
自分が歩いていた道を振り返るとだいぶ前からそれが続いていたことが確認できる。
そして再び正面に向き直せばまだそれが先の方まで続いているのがわかった。
「ま、まさか……」
ゴクリと口の中に溜まったものを飲み込み足を進める。
そう時間をかけず恐らく入口であろう鉄製の扉の前に到着した。
その脇にはどうやら警備員が常駐しているらしく小さめの建物――――遊園地のチケット売り場――――のようなものがある。
「マジでか……」
あまりのスケールの大きな出来事に引きつった笑みを浮かべる裕也。
このままではどうしようもないと常駐している警備員に話しかけに行く。
「す、すみませーん」
「はい、如何なさいましたか?」
「今日こちらに伺う予定の者なんですが……」
「何か本日の来訪を証明するものはお持ちでしょうか?」
「あ〜えっと……これで大丈夫ですか……?」
そう言って裕也が見せたのはソフィアから送られてきたメールの添付写真。
添付写真にはよく分からない数字の羅列が写っており、それを確認した警備員はニコリと笑う。
「確認させて頂きました」
その後鉄製の扉が開かれ、中から一人の執事服に身を包んだ好々爺が姿を現す。
「――――ようこそいらっしゃいました。お嬢様と皆様がお待ちですので私がご案内させていただきます。
どうぞ、こちらへ」
「は、はぁ……」
開かれた鉄製の扉を通って敷地内に足を踏み入れる。
そこに広がっていたのは以前ソフィアに見せられたものよりも凄いと言わざるをえない豪邸。
(無人のテーマパークかよ……)
まるでアニメにでも出てきそうな豪邸に裕也はそう心の中でだけ呟く。
あまりに広大な敷地にしばらく歩くとひとつの扉の前に案内される。
「お嬢様、お連れ致しました」
執事服の好々爺は扉をトントントンとノックする。
『入ってもらって』
そうして中から聞こえてくるのは聞き覚えのある女性の声。
ノックを終え、返事を聞いた執事服の好々爺は扉を開けて裕也を中へと促す。
裕也は執事服の好々爺にお辞儀をして中へと入っていく。
中には13人の男女が揃っていた。
どうやら遅刻はしてないにせよ裕也が一番最後のようだ。
「お待ちしてましたわ」
淡い青のフレアワンピースに身を包んだ女性がニコリと笑う。
「遅刻ギリギリね……」
ダメージジーンズとネイビーのジャケットを着こなす『アマネ』――――周音 詩葉。
裕也の到着時刻にらしいと感じたのか苦笑いを浮かべる。
「相変わらずにゃぁ〜」
膝丈よりも少し大きめのグリーンのオーバーパーカー姿の少女。
パーカーフードに猫耳がついているのとその語尾から誰かはわかったも同然である。
「まさか間に合うとは」
白シャツにジャケット、パンツといったスマートさを感じさせるモノトーンコーデに身を包んだ青年が肩を軽く上げながら言う。
「遅いぞーもっと早く来いよなー」
カットソーのTシャツとワイドパンツという全体的にだぼついているシルエットの青年はケラケラと笑いながら手をヒラヒラとさせた。
「時間通り、と言えば良いだろうに」
白シャツの上から薄手のニットを合わせたどことなくお父さんチックな雰囲気の男性は落ち着いた口調でケラケラと笑う青年の肩を叩く。
「なんで東京に住んでるのに」
「誰よりも遅いんだよ〜」
どこかで見たことがあるようなフレアスリーブのパーカーのようなトップスにサリエルパンツというコーディネートで双子が不満げに言った。
「わた……俺はそんなに待ってませんよ!」
真っ白なロング丈のシャツワンピースを黒のシンプルなベルトをワンポイントにした清楚な姿の少女はいつも通り一人称を訂正しつつ口を開く。
「……おつかれさまでぇす……」
カーキ色のサロペットとノースリーブを合わせた女性は心底疲れた様子でぐったりとしている。
「…………」
ぺこりとお辞儀するだけの黒タイツにデニムのショートパンツ、長袖のカットソーという全体的に黒を基調としたスタイルの女性。
「ちゃんと来たんだからいいんじゃないかしら?」
オフショルダーの丈が少し長めなニットを身に纏った女性は穏やかながら艶やかな雰囲気を醸し出していた。
「うわ〜ギルマスがえっちな目で見てるよ〜」
ショート丈のふわりとしたトップスとダメージデニムショートパンツという防御力の概念を捨ててそうな装いの女性が恥ずかしがったふりをしながら笑う。
全員から声をかけられた裕也はにっこりと笑って踵を返す。
執事服の好々爺の隣、つまりは出口まで行くとふたたびお辞儀をする。
そして最後に声をかけてきた女性を指さして口を開いた
「――――あの人場所を間違えたと思いますんで摘み出してもらえます?」
「ギルマスぅ〜?!」
「多分この辺りの海とかに出没するやつだと思うんで」
「妖怪か何か扱い!?」
「深海にでも沈めておいてください」
「死ぬっ!?」
そんな裕也の言葉と女性の言葉をものともせず執事服の好々爺は裕也を中へと促す。
「どうぞ、皆様お待ちにございます」
「……はい」
あまりに冷静な執事服の好々爺の言葉に逆らうことなく中に入っていく裕也。
いつもであればメンバーからのツッコミ等が入るのだがその場では何故か静かにしていたため調子が狂ったようだ。
「それでは私は失礼致します」
執事服の好々爺はその言葉を残し扉は閉められた。
裕也は溜息を吐きながら頭を搔く。
「――――とりあえず【オフ会】始めるか」
部屋の中ではもう既に準備を終え、開始の合図と全員の集合を待つばかりだったようで全員が頷く。
こうして【高天ヶ原】の【オフ会】が始まるのだった。




