向けて――――3
――――【高天ヶ原】本拠地
今日も今日とて慣れ親しんだギルドマスタールームにユウノは居た。
いつもと違うのはその手に日本刀は握られておらず、つまりは武器の手入れをしている訳では無い。
「むむむ……」
メニュー画面を開きウインドウを操作する姿は真剣そのもの。
頭をガシガシ掻きながら悩んでいるようだ。
「――――何をそんなに悩んでるの?」
「うぉ!?
……お前なぁ……入ってくる前に声くらいかけろよ……」
突然かけられた声に肩をびくりと震わせ驚くユウノ。
振り返ってみればそこにはウインドウを覗き込むアマネの姿があった。
好きなように入室できるようにしたのは間違えだったかと思いつつも毎回許可を出すのが面倒なユウノはせめてもの抵抗にジト目でアマネを見つめる。
「かけたわよ。
でも反応もなかったし覗いたら貴方が悩んでるようだったから何事かと思ったのよ」
「……そうだったか」
どうやらあまりにも集中しすぎていたようで、アマネからかけられた声にも気が付かなかったようだ。
ユウノは深くため息を吐いてその場に寝転がる。
煮詰まった思考からは何もいいものが浮かばないという経験からだった。
「それで?何を悩んでたの?」
アマネはユウノが操作していたウインドウを再び確認する。
そこにはインターネット検索の結果が表示されており、どうやら東京の個室のお店を探していたようだ。
「【オフ会】の会場探しだよ……。
流石にその辺のファミレスやらカラオケでできるもんじゃないだろ?」
「……まぁそうね。
騒がしくなるのが目に見えてるわね……」
寝転がったままのユウノはアマネからの同意の言葉にどうしたものかと思案顔を浮かべる。
「俺なんかファミレスやら出前やらで飯は済ませるからなぁ……店については誰よりも知らない自信があるぞ」
「むしろ知ってたら意外すぎるわよ」
「違いないわ〜」
ケラケラと笑うユウノ。
寝転がった姿勢から身体を起こしあぐらをかいたユウノはアマネに問いかける。
「『アマネ』はどっかいいところ知らないのか?」
「……知ってると思う?」
「んにゃ、聞いてみただけ。
最初からあてにはしてない」
「本当にイイ性格してるわね……」
腕組みをして呆れ顔のアマネ。
対してユウノはいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。
「お褒めの言葉ありがとうございまぁーす」
「褒めてないわよ」
「あぃあぃ〜」
何とも適当な返しであるが、それこそが2人の仲の良さを表しているだろう。
「場所は東京で決めたの?」
「一応な〜。
みんなが色んなところにバラけてたから参加出来るメンバーだけでいいかなと」
再びウインドウを操作し始めるユウノ。
検索バーには様々な単語が入力されいくつものお店が検索結果として表示される。
オシャレなカフェであったり、個室の食事処であったり、小さめなイベントの会場も候補として出される。
どれもこれもピンと来ないのかユウノの顔はしかめっ面であった。
――――そんなユウノへの助け舟がアマネから出される。
「だったら東京住みメンバーを集めて聞いてみたらいいじゃない」
自ら提案できる場所がないのであればほかのメンバーにも頼れば良いとの考えだ。
ユウノはその言葉を聞いた瞬間指を鳴らした。
「それだぁぁぁぁあ!!!!」
ウインドウに表示されていた検索結果を全て閉じ、高速でメッセージを作成して送信する。
送り先はアラタ、ソフィア、クリス。
件名は緊急招集、内容はギルドマスタールーム集合!というものであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――ユウノがメッセージを送って30分程。
ギルドマスタールームにはユウノ、アマネ、アラタ、ソフィア、クリスの姿があった。
何とも都合のいいことに全員がログインしており、暇を持て余していたらしい。
「私たちに何の用ですの?」
初めに口を開いたのはソフィア。
用意されていた湯呑みを持つ姿は何ともチグハグな印象を与える。
「そういや要件入れてなかったっけ?
あれだよあれ、今度【オフ会】するって聞いてると思うけどそれの会場探し。
俺と『アマネ』じゃ良い場所出そうになかったから知恵を貸して欲しくて」
「わた……俺もそんなにいい案出せないと思うんですが……」
自信なさげに手を挙げたアラタ。
ユウノは笑いながらそれでもいいと伝える。
「ん〜……てことはここの面子はみんな東京住みってことかな〜?ギルマス」
「まさか『クリス』から出てくるとは思わなかったけどその通り!」
「ギルマス私お姉さんだぞ〜」
「お姉さん(笑)」
「『(笑)』を実際に口にするな〜!」
「ハイハイそこまで。
話が進まないでしょ?」
「「は〜い」」
ユウノとクリスの漫才を止めたのはアマネ。
あまりにもいつも通りの流れすぎて気がつけば時間が取られてしまうものの、今回の本題にも入れてないため早急に止めに入ったようだ。
「そんで……どっかいいとこない?」
「私は何処かの個室取ったらいいんじゃないかと思うんだけどな〜」
「いやそれは俺も思ったけど結局何処にするよ?って話なんだよなぁ……」
先程まで探していたユウノはクリスの案についてそう返す。
「あの、わた……俺の行きつけのスイーツ店が確か個室予約取れたはずなのでそこはどうかなと……」
「そういう案を待ってた!
ちなみにそれどの辺にある?」
「えっと……」
アラタはメニュー画面を開きウインドウを操作、そこには地図が広がり場所を拡大していく。
表示が見にくかったのかユウノはアラタに身体を寄せてウインドウを覗き込んだ。
アラタの頬には朱が差しているがそれには気がつくことは無い。
「こ、ここなんですけど……」
「おぉ!かなり良さげな……」
そういう途中でユウノは固まる。
すすすーっと元の場所に身体を戻してユウノは苦笑いを浮かべた。
「あ〜……うん、そうだったね」
「どうしたの?良い場所だったんでしょ?」
アマネは不思議そうに尋ねる。
「いや〜……『アラタ』ってお嬢様だったな〜って……」
「え?」
先程アラタに見せてもらった地図上に表示されたお店を再度検索してアマネに見せるユウノ。
アラタは何の事か分からない様子でキョロキョロしていた。
「これは……ちょっとやめておいたほうが良さそうね……」
「……だろ?」
そこに表示されていたお店はいわゆる『高級スイーツ店』と呼ばれるお店で、しかもかなりの有名店。
個室はあるにはあるようだが、有名店のため人通りは多く、貸切にでもしないと【オフ会】は難しい。
「そもそも高ぇ……」
「貸切なんてしたらとんでもないお金がかかりそうね……」
「そ、そうですかね……?」
『World Of Load』内で稼いではいるもののそれでもお金の使い方は一般人感覚であろうとするユウノ、アマネはこのお店は無理だなと候補から外す。
「無難な場所はないもんかねぇ……」
ギルドマスタールームを沈黙が包む。
プライバシー保護というより身バレ防止が出来て、ある程度の広さがあり、お金もそこまで高くかからないというそんな場所は無いものかと頭を悩ませる。
「――――私の家はどうです?」
今の今まで静かにお茶を飲んでいたソフィアが口を開く。
「私の家って……」
「悪くないと思いますわよ?」
ゆったりとした動作でウインドウを操作するソフィア。
自宅を表示させその場の全員に見えるようにする。
「あ〜……えっと〜……」
「お料理などは私が準備させますわ」
「うん……その……」
「そうですわね……場所は此処を使いましょう」
「…………」
「ど、どうしましたの?」
話を進めていくと無言になってしまったユウノたちにソフィアは声をかける。
「――――お前もお嬢様かっ!!!!!」
表示されたソフィアの自宅は家と言うよりかお屋敷。
まるで漫画の世界の貴族でも住んでいそうなほど広大な土地に建てられていた。
「――――『ソフィア』さんのお家凄いですね!」
「ありがとう『アラタ』。
自慢の自宅ですの」
疲れた様子のユウノ、アマネ、クリスと互いに会話を続けるアラタとソフィア。
どうやら話を聞いたところによるとソフィアはとある財閥の令嬢とのこと。
【十二天将】たちの住んでいる場所などを確認している時にふと思っていた社長令嬢とかだったら面白いなぁというユウノの考えは的中していたのだった。
「とりあえず『ソフィア』の厚意に甘えるという方向で……」
「お任せ下さいまし」
「本当にやり過ぎない程度で頼むぞ……?
これはフリじゃないからな?」
「分かっていますわ」
初めは何から何まで任せてくれとの話になっていたのだが、そこまでは甘えられないと場所を貸してもらうという話に落ち着かせる予定が、ソフィアが食事等準備に関して全く譲らなかったため、やりすぎない程度でお願いするという形に収まった。
「あとはメンバーの参加の有無だけ確認して伝えるわ……」
疲れきった様子のユウノ。
これにはアマネやクリスも苦笑いを浮かべていた。
それほどまでにソフィアの説得が難航したという証明でもある。
ユウノはこの場にいないメンバーにメッセージを送り、解散を告げるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
送信者【ユウノ】
件名【オフ会に関しての参加確認】
内容
【前に言ってた『オフ会』の開催を決定したから参加の有無を確認したい。
場所は勝手に決めて申し訳ないけど東京。
日にちは〇月✕日。
詳しくは添付した資料で確認して欲しい。
……ちなみに先に言っとくとこれ『ソフィア』の自宅だってさ……】
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――――東京でありんすか……その日なら……大丈夫でありんすね」
自らの予定を確認してその前後が空いていることを確かめたユウギリは参加することをメッセージにて伝える。
「――――ギルマスも唐突にゃぁ……。
まぁ、息抜きついでに参加してあげるかにゃ〜」
送られてきたユウノからのメッセージに参加すると返信するマリィ。
東京行きの飛行機のチケットを買わなければと鼻歌交じりに歩き出す。
「――――やーっと決まったか……そりゃもちろん参加っと……」
話を聞いた時から参加することは決めていたイルムがメッセージに返信する。
場所も東京ということで近く、ありがたいなと呟いた。
「――――数日空けることになるな」
メッセージの内容からそう呟いたダインは参加の意志を返信し、何処かへと連絡を取り始める。
おおよそその先は予想できるだろう。
「――――ちょうど一段落着いたのだし参加するかな」
自分に時間ができるのを狙っていたのではないかと考えながらもハースは笑みを浮かべて参加することを綴って返信する。
「――――と、東京……『ユウノ』さんも思いきった事を……。
でも私だけ参加しないとかだと寂しいですし……」
今抱えている仕事を終わらせる算段をつけながら悩む様子のララノア。
しかしその手は自然と参加することを告げるメッセージを返信していた。
「死ぬ気で終わらせましょう……!」
実際に会うのを楽しみにララノアは仕事を頑張ることにしたようだった。
「――――『イリィ』これ」
「――――『アリィ』これ」
送られてきたメッセージに同時に反応する2人。
「みんなに任せれば!」
「行ってもいいよね!」
2人の意思は同じだったようで、ほかの誰よりも早く参加することを返信する。
その後しばらくお店を開けるということでほかの従業員たちが忙しくなるのは想像に難しくない。
「――――…………」
無言で参加する事をユウノに返信するイカルガ。
その足取りはいつもより軽やかだった。
ユウノの予想では半数ほど集まればいいだろうというものであったが、予想は良い方に裏切られ全員参加。
返信のメッセージを確認したユウノはソフィアへとその結果を伝えるのであった。




