向けて――――2
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――――『トウキョー』【高天ヶ原】本拠地
その日は珍しくユウノが武器の手入れではなく座敷にて【高天ヶ原】所属の【料理人】を取得したプレイヤー自作のお菓子とお茶を満喫していた。
相も変わらずギルドホームに引きこもっているのには違いないが、ギルドマスタールームに引きこもっているよりかは幾分か良いだろう。
ちらほらと行き交う【高天ヶ原】所属プレイヤーたちと当たり障りのない会話を交わしてのんびりと過ごしていたユウノの元にはいつの間にかお菓子などの食べ物が増えていた。
理由は明らかにユウノの隣にいる存在。
「――――うま……うま……」
頬をリスのように膨らませて幸せそうな雰囲気でお菓子を頬張る少女――――コヒナ。
相も変わらず表情の起伏は少ないが間違いなく食事をしている時のコヒナは幸せそうである。
それを知っているプレイヤーたちはコヒナを見かけるとお菓子などを渡すようになっていた。
「うま……うま……」
ご機嫌に尻尾を左右にゆらゆらさせながら次々とお菓子を手に取り口へと運んでいく。
ゆらゆらと揺れる尻尾に暴走しないかと若干不安になりつつもユウノはユウノで饅頭を食す。
「――――美味そうなの食べてるな〜」
「ん?あぁ『イルム』」
「いや、飲み込んで喋れよ」
ユウノの背後から現れたのはラフな格好に身を包んだイルムだった。
「悪い悪い。
『イルム』も食べるか?」
「おぉサンキュー」
自らの隣に置いてあるカゴの中から同じ饅頭をひとつ取り出すとイルムに差し出す。
イルムはそれを受け取りつつコヒナの隣に腰掛け、頭を軽くひとなでして饅頭にぱくつく。
「今日は珍しく日向ぼっこか?」
「んぁ?まぁ天気もいいしな」
「……外に出るって言う選択肢はなかったのか?」
「出てるだろ?」
「『ギルドマスタールーム』の外じゃなくて『ギルドホーム』の外だよ」
呆れながらもそういうイルムにユウノは笑って誤魔化す。
「まぁまぁ、ほら、お茶でも飲めよ」
「ったく……貰うけどな」
誰かがここに来ることでも予知していたのか予備の湯呑みにお茶を注ぎイルムに渡す。
「――――そういえば『イルム』ってどこに住んでるんだ?」
「……ついにコミュニケーション能力すらなくしたか?」
ユウノからの唐突の物言いに頭を抱えるイルム。
ぽかんとした表情のユウノだったがなにか言葉を続ける気はないようだ。
「――――私は奈良に住んでいますマスター」
「そうか『イカルガ』は奈良に……っておいいつの間に現れた」
ギリギリ日陰に正座していつの間にか湯呑みでお茶をすするイカルガの姿があった。
毎度の事ながら気づかないうちにそばに居るイカルガにユウノはツッコミを入れつつも住んでいる場所の情報が手に入った為いいかとため息を吐く。
「……相変わらず気配を感じないな……」
「『イルム』の修行が足りないのでは?」
「もはやその次元の話じゃない気も……というか気軽にリアルの情報言うか?普通……」
「それは俺も思った」
「……おい、そもそも『ユウノ』が俺に聞いてきたんだろうが」
「え?野郎の情報とか誰得だろ?」
「ネットモラル何処に捨ててきたんだよ」
あまりの出来事の連続に頭を抱えるしか出来なくなるイルム。
イカルガはユウノから饅頭を受け取りなんでもないように食べていた。
「……せめて理由くらい教えろよ『ユウノ』」
「【オフ会】企画してるんだけどみんながどこに住んでるか知らないからそのリサーチ」
「初めからそれを言え……」
深いため息を吐き出してジト目をユウノに向けるイルム。
「俺は神奈川。
そういう『ユウノ』は何処に住んでるんだよ」
「ん?俺はとーきょー」
心地よい陽射しにやられたのか眠たそうなユウノは欠伸をしながらイルムの問に答える。
「……意外と近くだな」
「【オフ会】するにはありがたいことですわ〜」
背伸びをしてごろりと寝転がるユウノ。
右へ左へと揺れるコヒナの尻尾と戯れながらゆっくり流れる時を楽しんでいた。
「どうせ『ユウノ』のことだからまだ日取りとかは決めてないんだろ?」
「さっすが『イルム』分かってるぅ〜」
気の抜けるようなユウノの声にもはや笑いが出てくるイルムは考えても仕方が無いとユウノのようにその場に寝転がる。
コヒナがお菓子を頬張る音とイカルガがお茶をすする音のみがその場を満たすのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――深夜、日付も変わり、中にはこれからが活動時間だという人間もそう少なくはない時間。
ユウノはギルドマスタールームに籠って自分のストレージ内のアイテム厳選、しばらく放置していた【無限バッグ】の中身の整理整頓に時間を割いていた。
その傍らにはたくさんのお菓子で満腹になり幸せそうに大の字で眠るコヒナの姿。
「――――『ユウノ』入るぞ」
ギルドマスタールームの入口である襖が少しだけ開かれると聞き慣れた男性の声が聞こえてくる。
「『ダイン』?
どうした?何か用か?」
深夜、それも日付も変わってしまうような時間の珍しい来訪者にユウノは目を丸くする。
「何『イルム』からの頼み事を片付けにな」
「頼み事……?」
イルムからの頼み事を片付けに何故自分のところへ来るのだろうかと疑問を浮かべ、何か忘れていることがないかと考えるも全く身に覚えのないユウノ。
ダインはそんなことはお構い無しにと自らのメニュー画面を操作しその手元に紙の束を出現させ、ユウノの方へと差し出す。
「『アリィ』、『イリィ』、『ララノア』、『ソフィア』、『ハース』それと俺の分の情報だ。
『マリィ』と『ユウギリ』はログインしてなかったから集められなかったのでな、そちらは『ユウノ』にまかせる」
「え、何それ情報収集なんて頼んだ覚えないんだけど」
「……【オフ会】を企画してるからどこに住んでるかのリサーチをしているんだろう?
『イルム』のやつが『ユウノに任せたらいつか事案が発生する!』とか言って俺に頼んできたんだ……」
「いやいや俺の事をなんだと……ていうかそんなこと言うなら『イルム』がやればいいのになんで『ダイン』が?」
ダインも困ったような表情を浮かべながらため息混じりに口を開く。
「何でも自分がするとナンパしてるように見えかねないからだそうだ……むしろ俺のような年齢の者が若い女性プレイヤーに話しかけてた方が不味い気がするんだがな……」
「そこはほら、【高天ヶ原】のお父さん的な」
「誰がお父さんだ……」
「え?じゃあやっぱりお母さん?」
「……前のネタを引っ張るんじゃ無い……
まったく……俺はそろそろ行くぞ?
今日は割と気分が乗っていてな『ソフィア』とこの後約束がある」
そういったダインは用事は済ませたと立ち上がり目的地へと足を向ける。
「送り狼になるんじゃないぞーそれこそ事案だー」
「はは……そこまで飢えては無いさ」
ユウノからのニヤついた声音の言葉に大人の余裕というのだろうか、ダインは落ち着き払った雰囲気でそう返し歩みを進めて行った。
「ふぁ〜……大人の余裕ですか……っと」
受け取った紙の束をぺらりぺらりとめくって情報を確認する――――とは言っても、書かれているのはプレイヤー名と住んでいる場所、リアルでの職業と歳といった簡単なプロフィールだ。
「なになに……『アリィ、イリィ共に年齢20歳』……20歳?」
ユウノは己の目がおかしくなったのではないかとゴシゴシ擦って数度瞬きをして紙の束に視線を戻す。
そこには『アリィ、イリィ共に年齢20歳千葉県在住ペットショップ経営中』という文字が綴られていた。
「あ〜……あれで俺より年上だったかぁ〜……」
少年少女――――約一名少女にしか見えない少年がいるが、その両方共にまさか成人を迎えており、なおかつペットショップの経営までしているとはまさか思うまい。
「……従業員大変そうだなおい……」
日頃のアリィ、イリィの姿を見ているからこそ苦労しているのではないかという言葉が湧いてくる。
気を取り直してユウノは紙の束を一枚目めくる。
どうやら几帳面なことに一人一人で紙を分けているらしい。
それにしてはアリィとイリィは一枚でまとめられていたが双子だったからだろうかとユウノはどうでもいい考えを片手間に浮かべる。
「『ララノア年齢25歳北海道在住WEBデザイナー』……って北海道かぁ〜……てか思ったり歳離れて……」
後半を口にした瞬間どこからともなく悪寒が襲う。
周りを急いで見渡すがどう頑張っても視界に入るのは大の字で眠るコヒナのみ。
ユウノは自らの腕を擦りながら口に出すのはやめようと心に決めて再び紙を一枚めくる。
「次は……『ソフィア年齢21歳東京都在住ピアニスト』……うーむ何ともぽいなぁ……」
ソフィアのプロフィールに唸るユウノ。
自らと同じく東京に住んでいることを除けば特に驚くようなことは無い。
「これでどっかの社長令嬢とかだったら面白いのになぁ〜……」
アラタがお嬢様学校に通っているということを知った今だからこそ無くはない可能性にけらけらと笑いながら読み進めていく。
「流石にそれは無いか……。
んで次は……『ハース年齢21歳大阪府在住【白木学院大学 心理学部心理学科】大学三年生』……うわこれこそまさにだな」
ソフィアに続いて特に驚くようなことはなく、あの人心掌握的な物は自らが学んでいる事の実験でもしているのではないかと思わせるほどに納得であった。
「んで最後は『ダイン』か!
『ダイン年齢30歳広島県在住【建築会社社長】』……」
読み上げた後に数度瞬きをして、もう一度紙に視線を落とす。
そこに書かれているのは【建築会社社長】の文字。
「――――お前が一番予想外だわ!!!」
しかもこの紙の束はどうやらダインが直筆で用意したものらしく、自分で自分の情報を書く時にどんな気持ちで【建築会社社長】と書き込んだのかが気になるところではあるが、ダインであればなんとも考えず淡々と事実を書いているんだろうと自らの中で思考を完結させる。
「こうなってくると他のメンバーも気になるな……」
そういったユウノはメニュー画面を操作して『イルム』、『イカルガ』には年齢と職業も教えてくれという旨のメッセージを送信し、まだ何も聞けていない『マリィ』と『ユウギリ』にはログインした時に聞きたいことがあるという旨のメッセージを送信する。
そう時間が経つこともなく、4通のメッセージがユウノの元に届いた。
『マリィ』と『ユウギリ』はどうやら今日はタイミングが悪いようで翌日でもいいかという確認するメッセージ。
素早く問題ないという旨を記して返信するユウノ。
そして残ったメッセージを開封していく。
「『イルム』は……25歳で【スポーツインストラクター】か。
あ〜あのコミュニケーション能力はそこからか……
んで、『イカルガ』は……23歳で【ゲームクリエイター】?
意外とそういう仕事してんのか……」
通常知ることは無いギルメンのリアル事情に新たな一面を感じたユウノ。
「俺は『ユウノ年齢17歳東京都在住【双葉学園】高校二年生』っと……」
流石にこちらばかり要求するのは行けないかと自分のプロフィールも全員に送信する。
「さて……俺もそろそろログアウト――――」
背伸びと欠伸をしながらログアウトしようとした時ユウノの元に10通のメッセージが一斉に届く。
それは事情を実際に知っているアマネとアラタを除いた他のメンバ【十二天将】たちからだった。
そのメッセージのことごとくは同じ文章。
――――【それはない。】
であった事をここに記す。
「――――なんで俺の時はそんな即答で!!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――『トウキョー』【高天ヶ原】本拠地
『ユウノ学生信じられない事件』から一夜明けたギルドマスタールーム。
そこにはユウノ、マリィ、ユウギリの3名とちょうど陽の光が射し込む場所で猫のように丸まりながら日向ぼっこに興じるコヒナの姿があった。
「それで何のようなのかなにゃぁ?ギルマス」
「昨日のメッセージになにか関係するのでありんすか?」
ユウノがログインするとタイミングがいいことにマリィ、ユウギリの2人がログインしていたためこの場に集めたユウノ。
もちろん要件に関しては昨夜のことであり、察しのいいユウギリは既に要件を何となくではあるだろうが気づいているらしい。
「そうそう昨日のやつでな――――」
早速本題に入ろうかと思ったユウノであったが、流石に学んだのか一旦一呼吸置き、説明から入る。
「【オフ会】を近々しようと思っててな。
みんながどこに住んでるのかをリサーチしてるんだよ。
場所とか年齢とか仕事によっては来れないとかもあるだろうしな」
「それで昨日のメッセージにゃんだにゃ〜」
「『ゆうの』が学生っていうめっせーじでありんすね」
「……まぁ全員に冗談だと受け取られたみたいだけどな」
畳の上に座布団を敷き腰を下ろしている3人は用意された湯呑みに注がれているお茶を啜りながらのんびりとした雰囲気を楽しんでいた。
「あとは『マリィ』と『ユウギリ』の2人だけだったから呼び出したって訳」
「メッセージで聞けばいいのに律儀にゃぁ〜」
「此処でお茶ができるから良いでありんせんか」
共に表情を緩めてリラックスしているのが見ているだけで伝わってくる。
「私は福岡に住んでるにゃ〜。
仕事は一応フリーの【イラストレーター】にゃ」
「わっちは京都に住んでいんす。
仕事はちょっとした茶屋をやってるでありんす」
「へぇ〜……やっぱり皆ちゃんと仕事してるんだなぁ……」
2人の仕事を聞きながら意外と全員が全員定職に就いている事に驚くような声をあげる。
「で、ギルマスはフリーターかにゃ?」
「流石に学生は嘘でありんしょう?」
「マジで信じてなかったのかよ!?」
あまりの真顔での言葉にユウノは口角をヒクヒクとさせる。
ため息を吐き出してお茶を啜るとジト目で2人を見つめた。
「……嘘じゃなくてマジで学生だよ。
年齢も17歳で間違いない……」
「ジョーダンにゃジョーダン!
ちゃんと信じてたのにゃギルマス!」
「うふふ……そんなに拗ねないで欲しいでありんす」
ユウノの様子にマリィはいたずらっぽい笑顔を浮かべながら、ユウギリは微笑みながら言った。
「そういう2人はいくつなんだよ?」
「わっちは今年で24になりんした。
『ゆうの』よりお姉さんでありんすな?」
そう言ってユウノのに艶やかに微笑みかけるユウギリにゴクリと喉を鳴らすユウノ。
ユウギリの歳を聞き、言葉選びも相まって多感な時期の青年には刺激が強いようだ。
「私は永遠の18――――「嘘はバレるでありんすよ」――――う、嘘じゃにゃいやい!」
毛を逆立てながら威嚇するマリィ。
ユウノはここぞとばかりにニヤニヤとした表情で口を開く。
「マリィさんじゅうはちさいでいいか?」
「……ギルマス1回それを誇張して読んでみるのにゃ……」
「マリィ、さんじゅうはち、さい」
「誰が四十路近いにゃぁぁぁぁあ!!!!」
火山でも噴火したかのように怒るマリィ。
まさに飛び掛る寸前でユウギリに首根っこを捕まれプラプラと持ち上げられることとなる。
「この持ち方は辞めるのにゃぁ〜!」
「はいはい、落ち着きなんし」
小柄なマリィだからこその止められかたではあるが、どう見ても悪さして摘まれている子猫にしか見えない。
じたばたと暴れるマリィの耳元にに近づきボソボソと喋るユウギリ。
初めはそれがくすぐったかったのかビクンと身体を跳ねさせるも暴れるのを辞めず、そこからか段々と弱々しくなり、最後にはピクリとも動かなくなるマリィ。
それを確認したユウギリはマリィの耳元から離れ満足気に頬に手を当て微笑んだ。
「『まりぃ』は何歳でありんすか?」
「……わたしは、22歳です……」
プルプルと震え顔を赤くしたマリィはそう言って動かなくなった。
「……えっと……」
何をボソボソと話していたのか気になるユウノであったが、触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもので下手に続くのはやめようと口に出すことは無い。
「と、とりあえずこれで全員分聞き終わったから予定が決まったらまた伝えるわ!」
「楽しみにしてるでありんす」
「…………」
ユウノは湯呑みに残ったお茶を飲み干すと足早にギルドマスタールームを離れるのであった。
(……クリスのとこにでも行こう……)
ギルドマスタールームからほとんど出ないユウノであったがあの空間にいるのはまずいと判断しての離脱であった。
「――――私も東京に住んでるぴちぴちの女子高生だよ〜」
「やかましいわ。
自分でこの間20歳になったって言ってたじゃねぇか」
「じゃぁ女子大生だ〜」
「……ボケるにはまだ早いですよお婆さん」
「こんな若いオンナノコに向かってそれは酷いよ〜」
「……??」
「そ、その親の顔より見た反応はデジャヴュ……っ!」




