向けて
皆様誤字報告をして頂き誠にありがとうございます!
その中でひとつお伝えなのですが、第二章『マーケット』にて出てくる『クリス』の『アラタ』を呼ぶ際の『アラさん』は誤字ではなく愛称ですのでそのままにして頂ければと思います!
今後とも楽しんでいただければと思いますのでどうぞ宜しくお願い致します!
そして今回はようやくあの話に入っていこうと思います!!
「――――くっ……!!」
【雷焔領域】の知覚できる範囲外から最速で己に向けられる刃を何とか捌きながらアラタは苦悶の表情を浮かべる。
知覚範囲を広げることも考えなかった訳では無いがその場合は更にその範囲外から攻撃されるのだろうと考えると無駄に終わるため実行しない。
そもそも最小とはいえ自らを中心に1メートルある知覚範囲外から近接武器による攻撃をしてくる方が異常だろう。
「……そこ……っ!!!」
「――――残念」
ようやく【雷焔領域】内に捉えたかと思えばもう既にそこには居らず、【縮地】を使っているのは分かるがあまりにもスムーズに連続して使うために瞬間移動しているようにしか感じない。
二振の日本刀があるおかげで逆をつかれたとしても【雷焔領域】による知覚があるため防御が間に合うがそこから攻撃に転じることが出来ずに自らの未熟さに歯噛みする。
ステータス値を見れば明らかに自分が有利なのにも関わらずダメージを与えるどころかその姿を追うので精一杯。
太刀筋に至っては【雷焔領域】がなければ反応すら出来ない。
(れ、レベルが……違いすぎる……っ!)
これが自らが追い求める理想。
これが自らが超えるべき壁。
これが自らが憧れた人。
(――――上等……っ!!!)
アラタは笑う。
ユウノの容赦ない攻撃を前に獰猛に。
(まずは……ひとつずつ……!)
今の自分には攻撃に転じるほどの技量はない。
その事をまずは認めると、アラタは一度ユウノから距離をとる。
――――そして構えを変えた。
両方共に下段に置いた剣道で言うところの下段の構え。
出来うる限り自然体で全ての行動へスムーズに移行できるように。
視線は敵から外さずに見るべきは武器のみではなく全身を。
足りない技量は【雷焔領域】の知覚に頼り、全方位への警戒を。
「……へぇ……」
ユウノの目の色が変わっていた。
アラタから感じていた反撃への強い思いが消えているから。
「そっちの方が様になってるぞ」
「……」
ユウノからのお褒めの言葉にアラタが反応しない。
今この瞬間に集中しているようだ。
満足気にゆっくり頷くとユウノは再び駆けた。
【雷焔領域】の知覚範囲外からの攻撃というのも単純に知覚範囲に入った頃には最速に達しているというだけのもの。
【雷焔領域】は範囲内にあるものを知覚できるようなるだけで反応できる訳では無い。
死角が無くなるため強力ではあるが無敵では無いのだ。
「ふっ……!」
ユウノの様子見の横一閃。
無論、今まで通り知覚範囲に入る前に最速へと達している。
「……っ!」
片足を後ろに下げることで間合いを確保したアラタは自らに襲い来る刃を二振とも使い受け流す。
勿論ユウノがそれで終わる訳もなく、受け流された方とは逆の腕を使い上段からの斬り下しが繰り出される。
しかし、流石にそれは事前に【雷焔領域】により知覚していたアラタは二振を十字に構えて受け止めた。
「やっぱり今までよりそっちの方が良いな」
「……ありがとうございます」
それだけ伝えるとユウノはバックステップでアラタから距離をとる。
「さて……行くぞ」
「……どこからでも……どうぞ」
アラタに余裕などない。
しかし、今できることに集中する。
それが自らを鍛えてくれているユウノへの礼儀であるから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――【高天ヶ原】本拠地・地下修練場
「――――あぁ〜……またダメでした……」
毎度の事ながらアラタの【種族解放】が解除され、それを合図に今回の修練も終了となった。
行儀が良いとは言えないが、アラタは道場のような内装をした修練場の床に大の字で寝転んでいる。
修練とはいえ、極限の集中を要する戦闘後の為火照った身体に修練場の床は冷たく気持ちが良いものであった。
「まぁでも今回はなかなか良かったんじゃないか?」
ユウノがアラタの顔のそばに用意しておいた飲料を置きつつ言う。
「……そうですか?」
身体を起こし飲み物を手に取ると自信なさげに言ったアラタ。
そんな様子のアラタにユウノはため息を吐くと頭をガシガシと掻いた。
「もともと俺と『アラタ』じゃ戦闘スタイルが違うんだよ。
俺は【人間】ってのもあって一撃必殺って訳にもいかない場合が多いからヒットアンドアウェイ。
でも『アラタ』の場合は【種族解放】も加味すると一撃で大ダメージを狙える。
最終的に『アラタ』の【二刀流】は【防御カウンター型】を考えてたんだ」
「……【防御カウンター型】……」
こういった時のユウノはとても真剣な表情をする。
アラタは顔を上げてユウノの方を見つめた。
「……どっちかというと『アラタ』も脳筋思考だからな。
まさか自分から防御主体の構えにたどり着くとは思ってなかった。
――――充分今回のはすげぇよ」
アラタの頭をわしわしと撫でるユウノ。
気恥しそうにしかし大人しくアラタはそれを受け入れ先程までの自信なさげで暗い雰囲気は霧散していた。
「っと……『アラタ』が使ってるもう一振だけど……それ、【模倣品】だろ?」
「……伝えてないのによく分かりますね……流石日本刀オタク……」
「まぁな伊達にコレクションしてねぇよ。
――――ちょっと見てもいいか?」
「どうぞどうぞ。
わた……俺が自力で集めれそうな日本刀だとだいぶ良い奴だと思ってるんで」
アラタは自らの腰に差している日本刀をユウノに差し出す。
鯉口を切り、刀身を引き抜くとじっくりと観察するユウノ。
反りや刃紋を確かめるとニヤリと笑った。
そして納刀するとアラタに返却する。
「……うん、読み通り……良いチョイスだ」
「そ、そうですか?ありがとうございます」
「このまま使い続けて慣れとかないとな。
メンテナンスは怠るなよ?」
「はいっ!」
ユウノからのお褒めの言葉の連続にすっかり気分を良くしたアラタはニコニコしながら元気に返事をする。
疲れたと言わんばかりに背伸びをして、ふと思い出したかのようにユウノが口を開く。
「あ、そういえば」
「どうかしましたか?『ユウノ』さん」
「『アラタ』ってどこ住んでんの?」
「……はい……?」
キョトンとした表情を浮かべるアラタ。
聞きようによっては口説き始められているとも取れる言葉に思考がフリーズしたようだ。
「あ〜……悪い言葉が足りなかった。
前にな?『アマネ』にちょろっと話してたんだけど【オフ会】でもしようかなって思っててな。
とりあえず全員にどこに住んでるのか聞いてるんだよ」
「な、なんだそういうことでしたか!
わたし……俺は東京ですよ」
「お!マジで?
俺も東京に住んでるんだよ。
……『アラタ』って学生だったっけ?」
「はい、一応高校一年生です」
「高校……一年……」
アラタの受け答えに謎の予感を感じるユウノ。
つい最近自らの学校で1人のメンバーに出会ったことを思い出していた。
「ま、まさか俺と同じ高校の可能性は……」
「あ〜……それは絶対にないですね……」
キョトンとした表情でアラタの言葉を聞くユウノ。
その答えは次の言葉に込められていた。
「――――わた……俺、女子校なので……」
「あ〜……なるほど」
世間は狭いということを最近思い知ったユウノであったが、流石に同じ学校の学生というベタな展開まではなかったようで少々安心していた。
「俺は【双葉学園】ってとこに通ってるんだけど『アラタ』はどこなんだ?」
「『ユウノ』さん【双葉学園】だったんですね。
わた……俺は【天乃女学院】に通ってます」
「……え?」
通っている学校の名前を聞いたユウノは口をぽかんと開けて間抜けな表情を浮かべた。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いや……【天乃女学院】ってあのお嬢様学校の?」
「あ……えっと……その……はい……」
「『アラタ』が……お嬢様学校……」
「な、なんですか!?
似合わないとでも言いたいですか!?」
ユウノの言葉に恥ずかしそうに声を荒らげるアラタ。
当のユウノは手を否定の意味を込めて振ると言葉を続ける。
「んにゃ、むしろ納得というか……。
『アラタ』って天然というか危機感がないというか……まぁお嬢様ってことならワンチャンそういうのも有り得るかっていう?」
「……え?そ、そうですか?
私って危機感なさそうですか?」
一人称を改め『俺』ということもせずに唖然と聞くアラタ。
「まぁ、聞いた俺が言うのもなんだけど……ゲームでリアルの情報をそうほいほい出すもんじゃないぞ?
俺が悪い男だったらどうするつもりだよ」
「えっと……流石に誰彼構わずには言いませんよ……?」
アラタの何処と無く意味深な言い回しと流し目、照れたような表情にどきりとするユウノ。
「――――『アマネ』さんたちが『ユウノ』さんはそういうこと出来ない人だからって言ってましたし」
「『アマネ』ェェェェェエ!!!!!」
アラタの輝くような笑顔が更にユウノにダメージを与えるのであった。
――――しばしの時間を開けて。
ようやく落ち着いた様子のユウノが頭をガシガシと掻きながら疲れた様子で言う。
「……とりあえず近いうちに【オフ会】しようと思ってるから日程決める時にまた言うわ……」
「はいっ!楽しみにしてますね!」
「……俺も楽しみにしてるよ」
背伸びをして体を解すとユウノはその場を去っていった。
「――――……『ユウノ』さんも東京なんだ……」




