それぞれの
Twitterでも呟いたのですがそろそろステータス表の更新をしようと思いますので次回の投稿はそれになるかと思います!
「――――そんじゃ乾杯!!!」
『かんぱーい!!!』
日もとっぷりと沈み日付も変わる頃。
【高天ヶ原】の本拠地、その大広間では美味しそうな料理の香りとともに賑やかな笑い声と暖かな光が灯っていた。
その場に居たのはギルドマスターであるユウノを初めとし【十二天将】の全メンバー、あまり『工房』などから出てこないクリスたち【職人系職業】持ちのプレイヤーや日頃から活動している所属プレイヤーたちの姿もある。
――――【戦乙女・ブリュンヒルド】に危なげない勝利をおさめたユウノたちは気分良くその後も何度か【レイドボスモンスターラッシュ】に挑戦し、そこそこの戦果をあげギルドホームに戻るとせっかく全員揃っているのだからと打ち上げを企画。
何名かの【高天ヶ原】に所属しているプレイヤーたちを誘ってこの打ち上げを開催したのだ。
ユウノや【十二天将】たちが固まっているかといえばそんなことはなく各々様々な所属プレイヤーたちと交流をしていた。
この場にいるプレイヤーたちは皆【レイドモンスターラッシュ】をやったようで、どんな【レイドボスモンスター】が出現したかや行動パターン等の情報のやり取りも多く見受けられる。
中にはハースやダイン、ソフィアにパーティーリーダーやレイドでの立ち回り方について熱心に質問するプレイヤーも居た。
「――――ありがとうございました『アマネ』さん!」
「参考になったら良かったわ」
アマネも自らによく似た戦闘スタイルを取るプレイヤーにソロで活動する時とパーティーとして活動する時の立ち回り方について質問されていた。
レベルを上限まで上げきった後は自らのプレイヤースキルを磨く事で強くなることができるためこのようにアドバイスを求めるプレイヤーは大勢いる。
もちろん真似するだけでいい訳では無いが、何かのきっかけを掴むには良い行動だろう。
お礼の言葉を受けて一人となったアマネは背伸びをして外の見える丸窓障子の傍により座ると周りを見渡す。
リスのように頬を膨らませ、コヒナと共に食事をしているアラタやそれを見ながら微笑むユウギリ。
ハース、ダイン、ソフィアはいつの間にか合流して講義のような物が開かれていた。
イタズラ好きのアリィとイリィはマリィにちょっかいを出して追いかけられている。
人が良いイルムは日頃の行いか色々なプレイヤーたちにお礼の言葉を受けながら楽しそうに談笑しており、一人で居るイメージの強いイカルガは意外にも何名かのプレイヤーとお茶を啜っていた。
ララノアは【紋章魔術師】や【回復役】のプレイヤーたちにアドバイスをしていたが明らかに普通とは違う戦闘スタイルのララノアのアドバイスは何処まで有用なのか分からない。
――――そしてユウノ。
いつもであればある程度したらそそくさとギルドマスタールームに引きこもるのだが、今日は違った。
クリスたち【職人系職業】もちのプレイヤーたちとそれはそれは熱心に会話をしている。
アマネの耳に入ってきた会話を要約するとどうやら今回の【モンスターラッシュイベント】にて使用した日本刀の感想や改善点等を伝えているらしい。
その表情は真剣そのものでいつものどこか頼りない間抜けな雰囲気は無かった。
「……いつもあぁなら良いのに」
「――――そう言いなんすな」
「……っ?!
……『ユウギリ』貴女『アラタ』たちの方に居たじゃない……なんの用?」
アマネの呟きにいつの間にか近づいてきていたユウギリが言葉を返す。
その手にはお盆が握られており、徳利と二つのお猪口が乗せられている。
「一人で寂しそうでありんしたから」
「私は子供か。
さっきまで話してたから夜風を浴びてたのよ」
アマネの隣に腰掛けるとユウギリは二つのお猪口のうちの片方を差し出す。
「今度はわっちに付き合いなんし?」
「……仕方がないわね」
受け渡したお猪口にユウギリは徳利を傾けて中身を注ぐ。
流れるような違和感のない所作には美しさすら感じさせる。
お猪口の八割程を注がれるとユウギリの手から徳利を受けとるアマネ。
「ほら、次は貴女よ」
「あら、手酌で済ませようと思いんしたが有難く」
お互いのお猪口が徳利の中身で満たされると軽く持ち上げる。
「「――――乾杯」」
そのまま口元へと運び小さく一口。
ふう、と一つ息を吐いて笑った。
「酔わないお酒って変な気分ね」
「酔わないからこそ良いものもありんすよ」
「それもそうね」
そう言ってまた笑うと二人の視線はユウノの方へと向けられる。
そこにはどうやら自らのコレクションしている日本刀を取り出して説明しているユウノの姿があった。
「いつもあぁならいいと貴女は思わない?」
先程とは違いはっきりと口にするアマネ。
ユウギリは再びお猪口を口元へと運び中身を一口呑むと艶やかに笑う。
「思いんせんな」
「そう……」
話が広がることはなく少しの時間が空き、アマネのお猪口が空になるとユウギリは再び徳利を持ちアマネのお猪口を中身で満たす。
「――――そもそも『あまね』もそうは思っていないでありんしょう?」
その言葉に一瞬目を見開いたアマネだったが薄く笑ってそれを肯定するかのように頷く。
「あの適当さとたまにある真剣さ。
そもそもの優しさが『ゆうの』の良さでありんす」
「……間違いないわね」
「まぁ、世間的にはしっかりしすぎてるくらいが良いんでありんしょうが……」
いつの間にか背中にコヒナからの突進を受け盛大に倒れるユウノとそれを心配し起こそうとするアラタ。
そして周りのプレイヤーたちは楽しそうに笑っていた。
なんと雰囲気の良いことだろうか。
「あれだけ周りに好かれる『ゆうの』なら問題ありんせん」
子を見守る母親のような雰囲気のユウギリ。
アマネもユウギリの言葉に相違はないようでお猪口に注がれた物を一気に全て呷る。
そんな姿にユウギリはからかうような表情を浮かべた。
「そんな野暮な飲み方を……お茶を挽くことになりんすよ?」
「……誰が人気のない遊女かしら?」
「まぁ、意味がわかりんすえ?」
口元をわざとらしく袖で隠して驚いたような表情を浮かべるユウギリ。
「伊達に教師をやってないって言うのと……貴女にはだいぶからかわれたもの……少しは勉強したわよ……!」
「これはこれは失礼いたしんした……」
身体をゆっくり倒して謝罪の意を表しているだけなのに嫌に色っぽいユウギリにアマネは頭が痛いと手を当てる。
「……そのたわわもぐわよ」
「……『あまね』もそんなにかわりんせんよ?」
「「…………」」
二人は無言で何を言うわけでもなく再びユウノの様子を見始めるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
打ち上げも終わり解散した後、ユウノはログアウトせずにギルドマスタールームにいた。
「――――ふぅ……」
【レイドボスモンスターラッシュ】の周回で疲れ、打ち上げでもクリスたち【職人系職業】もちのプレイヤーたちと語ったため早々にログアウトし休めばいいものの、もはやルーティンワークとなっている日本刀の手入れを行うユウノ。
その手に握られているのは――――【宵】。
クリスと共に素材を採取しに行き造ってもらった一振だ。
【人造物】であるにも関わらずそのフレーバーテキストにはもう一振相方となる日本刀があることを示す言葉が表記されている珍しい武器。
「二振一対ね……」
まさに【二刀流】で使うために存在するかのような日本刀ではあるが、どうにももう片方の一振を手に入れる方法が分からない。
十中八九【人造物】ではあるはずのため素材をかき集めてはクリスに造ってもらうというのを繰り返せばいずれは出来上がるかもしれないがあまりに効率が悪い。
しかも、何か特殊な方法が必要だとすれば永遠にたどり着けない可能性すらもある。
「とはいえまだ試してすらないしな……」
【宵】がユウノの手に渡ったのはまだ今朝のこと。
考えすぎは良くないと漆黒の刀身、その見事な重花丁子の刃紋を眺めつつ手入れに没頭する。
ユウノは数多くの日本刀を収集しているためちょっとやそっとの時間で手入れが終わることは無い。
全てを手入れするには一日では足りないほどだ。
そのため毎日何振かの日本刀を選んでローテーションで手入れをしている。
そんな中でも毎日必ず手に取り状態の確認をする日本刀が――――今では五振。
ちょうどユウノの前にはその五振が置かれている。
【童子切安綱】、【終焉之剣】はもちろん、その他にも三振。
一振は他の日本刀と比べた時に刀身が長く反りが浅く思えその刀身の刃紋は大きく美しい日本刀。
一振は血のような赤黒い刀身を持ち見ようによっては綺麗だとも言えなくもない、しかしおどろおどろしい雰囲気を持った日本刀。
一振は他の二振と比べてあまりにも平凡。
これといった特徴がないというのが特徴な程に目立つ部分がない日本刀。
ユウノはそれぞれの日本刀に時間をかけながら丁寧に丁寧に手入れを行う。
「――――そうだ」
ユウノはおもむろにストレージからもう一振日本刀を取り出す。
装飾の類のない簡素な作りの鞘に納められた日本刀。
鯉口を切り、刀身を引き抜くとそこには細身ながら力強さを感じさせ、これまた美しい刃紋を持つ刀身が現れる。
まだ気が早いかと思いつつもユウノは楽しそうに期待を込めるようにその日本刀も手入れを施す。
「楽しみだ」
ぽつりと呟き再びユウノは自らの世界に没頭していくのであった。




