三体目――――3
続きをお待たせしてしまい申し訳ございません……。
活動報告でも書かせていただいたのですがこの作品
【平凡高校生の俺がゲームでは最強ギルドのギルドマスターなんですが……】がこの度コミカライズ連載スタートされます!
マンガ雑誌アプリ【マンガUP!】にて
2021年3月22日より連載スタートです!
作画を担当して下さるのは【山田リューセイ】さん!
全てのキャラクターたちに魅力的に命を吹き込んで下さっていますので是非ご覧いただければと思います!
今後ともどうぞ宜しくお願い致します!
何度目か振るわれる【乱輝せし地墜としの槍】の大振りな横凪。
最早それは周りに居る邪魔な敵を蹴散らすためと言うよりは一人の男を排除するために振るわれていた。
本来であればそのような単純な行動の繰り返しは愚策以外の何物でもないがしかし、【戦乙女・ブリュンヒルド】という強大な力を持つ【レイドボスモンスター】が行えばそれは立派な攻撃となるのだ。
「ぐ……っ!!!ぬぉお……っ!!!」
振るわれる度に強力になっていく横凪にダインは苦悶の声を上げる。
【不可侵の神盾】により攻撃を霧散させてダメージはほとんどノーダメージのようなものの、その衝撃を殺すことはできない。
しっかりと地に足をつけて衝撃を逃がし、受ける角度を調節することによってその場に留まっていた。
衝撃が自らを下へ下へと押し込むように、あくまで真正面から受け止める訳ではなく。
正面から受け止めてしまえばさしものダインであっても後方に弾き飛ばされてしまう。
その絶妙な角度の調節を【レイドボスモンスター】を相手に行うことがまさに神業。
――――しかし、それもそろそろ持たない。
正確には持たせることが出来なくなる。
【不可侵の神盾】の貸与能力はあくまでも一時的なもの、制限時間があるのだ。
【戦乙女・ブリュンヒルド】が再び【乱輝せし地墜としの槍】を振りかぶる。
それと同時に、ダインが構える【不可侵の神盾】がその装いを変えた。
今の今まで攻撃を受け止めてきた巨大な盾からラウンドシールドへ。
そして【不可侵の神盾】はまるで意志を持つ生き物のようにダインの腕を離れ、元の居場所へと飛翔する。
「……だいぶタイミングが悪いな……」
ダインはそう愚痴をこぼすも起きてしまったことは仕方がないと、元々の自らの武装を手にする。
長身であるダインの身の丈以上に巨大であり、蒼みがかった輝きを反射する巨大なグレートソードの圧倒的なまでの存在感。
【戦乙女・ブリュンヒルド】の攻撃を受け止めるための【不可侵の神盾】を失ったがために不利になってしまったはずだがしかし、先程までのダインと同じかそれ以上に崩せないというイメージを抱かせる何かがあった。
「――――さて、やるか」
短い、短いその言葉を呟くとグレートソードの柄を両の手で握りしめ切先を地面に向けて腰を落として構える。
【戦乙女・ブリュンヒルド】が【乱輝せし地墜としの槍】を振るったのはまで狙ったかのようにダインが構えた瞬間だった。
今までで一番の速度、力強さで振るわれる【乱輝せし地墜としの槍】は狂うことなくダインを狙う。
周りでは他の【十二天将】たちが攻撃を加えているがそんなものは関係ないと言わんばかりの様子。
迫り来る【乱輝せし地墜としの槍】から視線を外さずに迎え撃つ姿勢のダイン。
ふっ、と小さく笑うと言った。
「――――合わせろ」
「――――とーぜん」
その場に現れたのはイルム。
何をとは言わない。
言わずとも二人は何をするかを把握している。
ダインとイルムの信頼はそういうレベルのものだ。
「【龍装・黒鱗】」
イルムの両腕にある赤黒く輝く龍の腕のような装備がその言葉をトリガーに装いを変える。
ガントレットのように腕を包み込んでいたために元々の腕よりもふたまわりほど大きかった、鋭さを感じさせる姿が元々のイルムの腕のラインが丸見えになるほどに、まるで肘あたりまで赤黒いラバースーツに包まれたかのようなフォルムへと。
ダインは【乱輝せし地墜としの槍】に全力の斬り上げをぶつけ、イルムは低姿勢で潜り込むと足のバネを活かし腰の入ったアッパーカットを放つ。
二人の攻撃が当たるのは紛れもなく同時。
圧倒的なまでの二人の膂力から放たれる攻撃は【乱輝せし地墜としの槍】をかち上げ、当たるはずだった横凪を隙が大きな空振りへと変える。
今までは受け止め、護り、他のメンバーたちに攻撃を任せるという意識で行動していたダインだったが今は違う。
その手に持つのは守護の武装ではない。
あくまでもグレートソードという敵を薙ぎ払う武装。
大振りな横凪を空振りした事によりがら空きの半身。
ダインはその長身を丸々覆う漆黒の全身鎧を身に纏っているにも関わらず俊敏に駆けた。
相手は【レイドボスモンスター】空振りにより崩れた体勢も一瞬で立て直すことだろう。
「……一瞬もあれば充分だ」
片足で力強く地面を踏みしめると地面を踏み砕きながら跳躍した。
行うことは至極単純。
グレートソードを両手で握りしめ天高く掲げ、全力で振り下ろすのみ。
その一撃はがら空きの【戦乙女・ブリュンヒルド】の半身、ちょうど肋骨部分を致命的なまでに砕き斬る。
『………………!!?』
再三に及ぶ声無き驚愕。
【十二天将】たちの攻撃により自らを護る全身の鎧は何ヶ所か破壊されたところもある。
しかしそれは一撃によるものでは無い。
今の今まで自らの攻撃を受け止めていた敵による初めての攻撃の威力に【戦乙女・ブリュンヒルド】は目を剥く。
「――――おかわりどうぞ……っと!」
そこに更なる衝撃が襲う。
イルムがダインの砕き斬った場所へ裏拳を放ったのだ。
『………………??!』
先程のダインから受けた攻撃と遜色ない一撃に【戦乙女・ブリュンヒルド】の巨体は揺れる。
身を守る鎧を一撃の元に砕き斬られ、狙い澄まされたかのような同箇所への追撃。
ただ単純に剣を振るった、拳を振るった程度で放つ威力とは到底思えない2人の攻撃は目に見えるダメージを与えていた。
「……あの一瞬触れるのでも駄目みたいだな……」
イルムは裏拳を放った方の腕を持ち上げボソリと呟く。
赤黒い腕は一部分ではあるものの焦げ、明らかなダメージを与えたのと引き換えにイルム自身もダメージを受けていた。
それは【戦乙女・ブリュンヒルド】の全身が超高熱を発しているから。
先程までの【永遠と降り注ぎし天の水門】が触れる前に蒸発するようになったのはそれが理由だった。
【戦乙女・ブリュンヒルド】の手から防御の要であるラウンドシールドが離れるか一定ダメージを与えられるとこの触れるとダメージを与える超高熱放出状態へと移行する。
「やはり『イルム』の攻撃方法ではそうなるか」
「いやぁ〜ワンチャン行けるかと思ったんだけどねぇ……。
旦那の方はどうもないようで?」
視線は【戦乙女・ブリュンヒルド】から外さずに会話をする2人。
イルムの問いにダインは自らの武装を軽く持ち上げふっと薄く笑う。
「俺とこいつがどうにかなるとでも?」
「違いない」
ダインの持つ身の丈以上に巨大であり、蒼みがかった輝きを反射する巨大なグレートソード。
それは――――【神造物】。
その名を【王の理想】。
ダインの【メイン職業】――――【騎士王】の専用武装だ。
今はダインの理想である身の丈以上に巨大なグレートソードとなっているが、【王の理想】は使用者の理想の武装となる『決まった形を持たない武装』であり、希少な素材を合成すればする程に更に強力になっていく『進化成長する武装』という面も持ち合わせている。
現在の【王の理想】はユウノの【メイン武装】である【童子切安綱】、【終焉之剣】の
能力である【絶断】を受け止めることが出来るほどに強力になっていた。
「奴さんもお怒りのようで……」
【戦乙女・ブリュンヒルド】はいかにも痛そうに肋骨部分を撫でるモーションを起こし、更なる怒りに瞳を細める。
そんな【戦乙女・ブリュンヒルド】の足元に小さな人影がひとつ、どうやら気が付かれていないようだ。
ユウギリやハースたちと共に後衛に控えていたイリィがいつの間にか移動していたようで、目を凝らせばその影からひょっこりと頭を出す漆黒の狼が一匹。
それはアリィが【テイミング】している影を移動できる能力【影渡】を持った【シャドウ・ウルフ】だった。
どうやらイリィはアリィから【シャドウ・ウルフ】を借り、【影渡】を行使して【戦乙女・ブリュンヒルド】の足元へと移動したらしい。
「「…………♪︎」」
アリィ、イリィは互いに視線を合わせるとサムズアップし、【戦乙女・ブリュンヒルド】の足元にいるイリィは詠唱をおこなう。
「――――【顕現せよ】。
【汝は父なる大地、全てを包む地の精。
我が契約においてこの場に姿を現せ――――【地の精霊】。
もうひとつ――――【顕現せよ】。
【汝は母なる――――】以下省略〜【水の精霊】」
同時に二精霊を呼び出したイリィだったが、その姿が現れるよりも早く【精霊魔法】を行使する。
「【底なしの沼】。
――――『うーちゃん』『のーくん』あとは任せたよ〜」
イリィは【底なしの沼】を発動した瞬間、影から飛び出した【シャドウ・ウルフ】の背にひらりと飛び乗ると【影渡】を使ってその場を離れる。
ユウギリやハースたちの側まで再び戻ったイリィの傍に現れる2人の人影。
1人は先程も現れた透き通るような蒼い肌を持つ女性――――【水の精霊】。
そしてもう1人は立派な顎髭をこさえたずんぐりむっくりとした体型の二頭身ほどの小さな老人。
『嬢ちゃんよ……毎回言うがこんなジジイに【のーくん】って呼び名はどうなんだ?』
「ボクは可愛くていいと思うよ〜ねえ?『アリィ』」
「俺も可愛いと思うよ『イリィ』〜」
「「ねぇ〜?」」
ニコニコと笑う2人の姿に小さな老人――――【地の精霊】はやれやれと言わんばかりに肩をすくめそれ以上何かを言うことは無かった。
『主よ!?今私の【詠唱】を省略しましたね!?
というより先程呼ばれたばかりですが?!』
「でも来てくれるでしょ〜?」
『くっ……そうですが……!
……もう少し丁寧に……。
【アリィ】さまからも言ってください……』
「「善処しまーす」」
『……諦めな【水の】……嬢ちゃんたちは変わらんよ……』
『……そうします……』
なんとも緩いやり取りではあるものの、目の前で行われていることは大分大掛かりな現象だ。
何せ【戦乙女・ブリュンヒルド】の膝ほどまで一瞬で取り込んでしまう【底なしの沼】が展開されているのだから。
イリィが発動した【精霊魔法】を【精霊王】である【水の精霊】と【地の精霊】が強化したのだ。
超高熱状態になっている【戦乙女・ブリュンヒルド】を沼にはめようものなら直ぐに干上がってしまいそうなものであるが、そこは【水の精霊】の頑張りである。
苦しげな表情を浮かべて自らの主であるイリィに言う。
『あ、主よ……??
私の負担が大きい気がするのは気のせいでしょうか……っ!?』
【水の精霊】、【地の精霊】の顔を見比べるとにっこりと笑ってイリィはサムズアップする。
「うん、気のせいだよ〜」
『くっ……!相変わらず良い笑顔ですね……っ!』
明らかに嘘である。
【地の精霊】は欠伸をしながら【底なしの沼】のコントロールをしているのに対して【水の精霊】は今にも血管が切れそうなほど力を込めていた。
『ほれほれ、頑張れ頑張れ【水の】』
『黙りなさい【土の】……っ!』
よく分からない奇声を上げながら【水の精霊】は踏ん張っていた。
どうやら毎回不憫な役割が回って来る星の下にでも生まれたようだ。
何はともあれ足止めを行えていることに違いはなく、【十二天将】たちはその間にもダメージを確実に与えていっていた。
上半身は自由な【戦乙女・ブリュンヒルド】ではあるが、足元がぬかるんでいる以上先程までのような強力な【乱輝せし地墜としの槍】による攻撃はほぼない。
【乱輝せし地墜としの槍】による攻撃は完全にダイン、イルムによりいなされており、周りではアラタやソフィア、イカルガが超高熱状態によるダメージを受けないように立ち回りながら攻撃を加え、ヒットアンドヒットという謎の戦略でララノアが【紋章魔術】を駆使し物理攻撃、たまに思い出したかのように味方の回復をこなす。
そして遠距離の位置からはアマネ、ユウギリ、ハースによる援護とアリィの【テイミング】しているモンスターによる遊撃的なサポート。
――――所謂、危なげのない戦いだ。
そんな戦闘を少し離れたところで見ているプレイヤーが1人。
――――ユウノである。
今の今まで無限に増える【戦乙女・ブリュンヒルド】の分身体を斬り倒していたのだ。
既にユウノの周りには【戦乙女・ブリュンヒルド】の分身体は存在しない。
どうやら本体の方が分身体に割くほどの余裕がなくなってしまったらしい。
地面に胡座をかいて頬杖を着くユウノ。
息のひとつも乱すことはなく暇だと言わんばかりの表情を浮かべていた。
そんなユウノの周りには至る所に無数の日本刀が地面に突き立てられている。
その全てがユウノに所有権のあるものであった。
一振残らず刃がかけていたり溶けていたりと様々な状態ではあるもののその全てが破損している状態だ。
今回ユウノが使っていたのは使い慣れたメイン武装でなく、日常使いをするサブ武装でもなく、保管している日本刀ですらなかった。
では何を使っていたのか、それは――――【高天ヶ原】所属の【職人系職業】持ちのプレイヤーたちが作った所謂試作品だ。
この【モンスターラッシュ】のイベントが始まり、ユウノたちが【レイドボスモンスターラッシュ】を行うと言う話が出た頃からユウノに自らの作品を使って欲しいと渡された無数の日本刀だった。
それぞれ癖が違い、試し斬りすらしていない日本刀を完全破壊される寸前を見極め使うユウノの技量は埒外のもの。
もちろん耐久値を確認しながらであれば誰にでもとは言わないができるだろうが、ユウノは一度として耐久値の確認はしていない。
自らの感覚でそれをこなしていた。
ユウノは大きな欠伸をすると息をひとつ吐き出した。
「……観戦観戦……」
【戦乙女・ブリュンヒルド】の本体討伐に加わる気は一切ないようだ。
――――【斬人】上昇ステータス値。
――――現状:322体連続斬倒中【642%上昇】




