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二体目

【聖域の守護龍・ラメド】との戦闘はそう長くはかからなかった。

行動パターンを把握していたというのが大きく、危なげなく戦闘を進めユウノたちは消耗をほぼすることなくトドメを刺すことに成功する。


大量のポリゴン体へと還っていく【聖域の守護龍・ラメド】を見届けるとドロップアイテムの回収――――をすることは無く、ふぅと息をひとつ吐き出し、気を引き締め直した。

ドロップアイテムはこの【レイドボスモンスターラッシュ】の終了後にまとめて確認することができるからだ。


――――ユウノたちの集中の糸は切れない。


所詮【聖域の守護龍・ラメド】はこの【レイドボスモンスターラッシュ】の一体目であり、【遥かなる聖域】を守る【レイドボスモンスター】の中でも最弱の一体であった。

もちろんそこらの【レイドボスモンスター】よりも強いが、ユウノたちにかかれば誤差の範疇。


「次は何が来るかね……?」


ユウノはそう呟き次に戦う【レイドボスモンスター】に見当をつける。


「【遥かなる聖域(ここ)】の【レイドボスモンスター】ですかね?」


「どうだかな……今まで出てきたのも特に関係性がないやつも出てきてたからな」


今までの挑戦からその場所に由来する【レイドボスモンスター】が出てくる可能性は高いと予測するが、中には本当にどんな関係性があるのか分からない【レイドボスモンスター】が出てきたこともあったため、今ひとつ予想しきれずに辺りを警戒する。

そうこうしているうちに、【遥かなる聖域】に変化が訪れる。




――――一面が白でおおわれた遺跡がだんだんと黒に染まっていく。

まるで闇にでも飲まれていくかのような変化に次の【レイドボスモンスター】が何かを確信する。


「また面倒くさいのが来たな……」


ちょうど【聖域の守護龍・ラメド】がポリゴン体へと還っていった地面から湧き出るように漆黒の液体が現れた。

うねり弾むその漆黒の液体は最終的に【聖域の守護龍・ラメド】ですら飲み込めそうな程の大きさになると柔らかそうにぷるんと震える。


――――【粘液体(スライム)】。


ユウノたちの視線はユウギリへと向けられ、当のユウギリ自身は艶やかに唇を濡らし【粘液体(スライム)】に熱の篭った視線を向けていた。


「――――『美味しそう』でありんすね……」


「随分と余裕だな……」


ユウノたちの前に現れた【粘液体(スライム)】。

それはユウギリの【種族】と同じ【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】であった。

ユウギリの【種族】獲得のために何度も何度も周回した【レイドボスモンスター】のためその行動パターンは嫌という程頭に入っている。

しかし――――それほどに理解しているからこそ、【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】がどれだけ面倒くさい【レイドボスモンスター】なのかもユウノを筆頭として全員が理解していた。


「……出てきたものは仕方がないわ。

『ユウノ』いつも通りに行くわよ」


「……りょーかい。

頼んだぞ『アマネ』」


今回のメインアタッカーの1人となるアマネにそう言い残し、ユウノは一旦距離を取る。

その様子を見ていた他のメンバーたちも素早く自分たちの立ち位置へとつく。


――――【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】はユウギリと同じく固有能力として【暴食(ベルゼビュート)】を持っており、なおかつ物理攻撃でのダメージを無効化する特性を持っている。

しかも、ユウギリとは違い【MP(マジック・ポイント)】、【HP(ヒット・ポイント)】が満タンの状態でも非物理攻撃を喰らうことが出来てしまう。

つまり、物理攻撃、非物理攻撃どちらもダメージが入らない。


「あ〜……本当にくそ面倒くさい……」


ユウノは頭をガシガシと乱雑に掻くと短くため息をひとつ吐き出す。

物理攻撃、非物理攻撃のどちらもダメージが入らない【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】の攻略方法はただ一つだけ。

それは――――






「――――さて、今回はどれくらい食べれる【粘液体(スライム)】かしらね?」


「――――『アマネ』は相変わらず……【魔法職】が最前線で戦うのなんてそうそうないことなんだがな……」


「え?そうですか?

私は基本的には最前線で戦ってますけど」


「それは『ららのあ』が変わってるだけでありんす」


――――【暴食(ベルゼビュート)】で喰らい尽くせないほどの非物理攻撃を与え、飽和したその時を狙うこと。

喰らうための条件がユウギリと少し違うとはいえ、【GP(グラトニー・ポイント)】は存在している。

GP(グラトニー・ポイント)】のゲージを飽和させることが出来れば、【暴食(ベルゼビュート)】を発動させることが出来ず、物理攻撃のダメージは入らないものの、非物理攻撃のダメージを与えることができるようになるのだ。


非物理攻撃をメインとしたアマネ、ハース、ララノア、ユウギリの4人は【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】の正面に位置取り意気込んでいた。


「固定砲台頼んだにゃぁ〜」


アマネたちの後ろに位置取ったマリィはそう言うと、胸の前で手を組み祈るように歌う。


――――【歌姫(ディーヴァ)】それがマリィの【メイン職業】。

多種多様な付与効果のある歌を歌い、仲間をサポートする後方支援特化の【最上位職業】――――だとされていた。

そう、マリィがその職業を獲得し、実戦で使われるまでは。

マリィは【サブ職業】として【踊り子(ダンサー)】や【短剣士(ショートブレーダー)】を獲得しているため、ただ歌いサポートするだけではなく、自ら前線に向かい、舞い歌いながら戦うというスタイルを確立して行った。


しかし、元は後方支援特化と言われる【最上位職業】であるため、敵によってはサポートに専念することもある。

むしろ今のような完全に味方をサポートするような構図がマリィの【歌姫(ディーヴァ)】は本領を発揮する。


歌われるのは【女王猫の奏鳴曲(ソナタ)】――――マリィの創った持ち歌の一つだ。

この【女王猫の奏鳴曲(ソナタ)】とは、自らを中心とし、3メートルの距離にいる全プレイヤーに対して【MP(マジック・ポイント)】消費を半減させ、【MP(マジック・ポイント)】を少量ながら自動回復させるという効果と魔法系攻撃の威力を上げる効果を付与するもの。

破格の効果ではあるものの、効果範囲の狭さと敵味方関係なく効果がある上に、この【女王猫の奏鳴曲(ソナタ)】は定められた音程で歌わなければ効果が極端に弱体化してしまう。


『――――、――――――――、――――♪』


美しい歌声が響き気分を落ち着ける。

前線で戦えば短剣を巧みに操り、舞い歌うことで味方をサポートしながら敵を討ち、後方支援に専念すれば味方の能力をその歌声で最大限まで引き出す。


マリィは【歌姫(ディーヴァ)】を最大限に活かすための【サブ職業】を取得していた。

それは言葉に効果を乗せる【詩人(しじん)】と曲に効果を乗せる【作曲家(さっきょくか)】。

このどちらもこの職業だけでは完結せず、完成したモノを歌うもしくは演奏することが出来る職業をもつプレイヤーを必要とする。

本来ならば楽曲を作り、歌詞を乗せ、歌ってもらうという手順を複数人で踏むのだが、マリィはそれを全て1人で完結させていた。


「――――いつ聴いてもイイ声をしてるわね」


アマネはマリィの歌う【女王猫の奏鳴曲(ソナタ)】のリズムに合わせて身体を揺らしながら呟く。

隙だらけと言っても過言ではないアマネの姿だったが、それを見ても【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】は攻撃をしてこなかった。

未だ敵対行動を取っていないアマネたちを敵として認識していないのか、それともなにか準備でもしているのか、どちらとも取れる【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】の様子にアマネたちは慌てる様子もない。

なにせ戦い慣れているのだから理由は分かっている。


「――――さて」


小さなアマネの言葉に合わせたかのようにハース、ララノア、ユウギリは構える。


「開戦の1発と行きましょうか」


暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】は【暴食(ベルゼビュート)】を使えるからか、攻撃を与えられるまで襲ってこない。

だからこそ、初撃はどれだけ隙があっても良いため、できるだけ高火力のものをぶつけるのが良いとされる。


「さぁ!皆さん合わせましょうね!」


「……一番暴走しそうなお前が言うんじゃない」


ララノアの言葉にため息を吐きながらいうハース。

アマネとユウギリはクスクスと笑っていた。

――――もちろん、4人共に準備を進めながら。


自らの目の前に3つのバスケットボール大の【紋章】を出現させ、重ね合わせている様子のララノア。

どうやらただ重ねるだけではダメなようで、左手をかざし3つの【紋章】の場所を固定させ、右手の人差し指に【紋章】をさらに出現させて書き換えているようだ。


ハースも似たようなことを行っており、自らの前に大小合わせて一体いくつあるのかという程の魔法陣を複雑に出現させていた。

ぶつぶつと呟く姿は研究に没頭する科学者のような雰囲気もある。


ユウギリは自らの周りを浮遊している3つの水晶玉を自らの目前へと移動させ、トライアングルを作り出す。

紅玉(こうぎょく)】、【蒼玉(せいぎょく)】、【翠玉(すいぎょく)】というシンプルな名称の水晶玉は僅かに発光を始める。

よく見てみれば、それぞれの水晶玉の中に何やら魔法陣のようなものが出現していた。


人差し指、中指を立て己の顔の前に持ってくるというポーズをとるアマネは薄い笑みを浮かべる。

その直後、ボッという短な音をたてアマネの背後――――腰あたりから伸びる九本の尾の先端にソフトボール大の蒼い焔をそれぞれ出現させた。


4人は何か合図をするわけでもなかったが、それぞれが同時に準備を終えていた。

初撃を全員で合わせなければいけない訳では無いが、そこはもう無意識の領域で攻撃を合わせ、最大火力を出そうとしている。




「――――【眩き閃光(ステロペス)】、【轟く稲妻(アルゲス)】、【遥かなる雷鳴(ブロンテス)】……【同調(チューニング)】完了……」


いつの間にか3つの【紋章】がララノアの全身よりも巨大な1つの【紋章】となっており、金色に輝いている。


「――――【術式(オーダー)】構築、展開、最適化……完了」


ハースの前方に展開されていた数多くの魔法陣は【最適化】されたらしく、その数を減らしていたものの、それでも12種類の魔法陣が組み合わさっていた。


「――――【目覚めなんし】……」


それぞれトライアングルの頂点となっていた水晶玉たちがユウギリの言葉に反応して互いに吸い寄せらせていく。

トライアングルの中心、そこで水晶玉たちがぶつかると同時にララノアの【紋章】所ではないほど巨大な魔法陣が展開される。


「――――私もなにか口上作ろうかしら……」


他の3人とは違いそう言って肩をすくめるアマネ。

九本の尻尾の先に出現した蒼い焔は先ほどよりも小さくなっており、球体を形どっていた。


一瞬の沈黙が4人を包む。

そして――――同時に口を開き、放つ。




「――――【紋章魔術(エンブレム)――――疑似・神の雷霆(ケラウノス・レプリカ)】っ!」


先陣をきるかのように強大な雷が辺りを炭化させながら槍の形をとって射出される。




「――――【術式(オーダー)真昼ヲ照ラス月(マヒルヲテラスツキ)】!」


一筋の紫色の奔流がララノアの放った【紋章魔術(エンブレム)――――疑似・神の雷霆(ケラウノス・レプリカ)】に絡みつくように螺旋を描きながら【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】に向かって突き進む。




「――――【神話魔術(ろすと・まじっく)――――再現・地獄の劫火(いんふぇるの)】」


ララノア、ハースの攻撃の後を追うように漆黒に染まった焔が何故か地を焼くことなくただ真っ直ぐに放たれる。




「――――【狐火(キツネビ)鳳仙花(ホウセンカ)】!」


そして最後にアマネの九本の尾の先から全ての蒼い焔が一斉に【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】に向けて撃ち込まれる。




一撃一撃が複数体のモンスターを消し去ってしまいそうな攻撃ではあるがしかし、相手は【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】。

その全てが巨大な口の中に吸い込まれていく。

本来であれば敵に当たった後に発生する現象も見ることは出来ない。


「ここまで綺麗に喰べられると圧巻ですよね」


「……だいぶ癪に障るがな」


ララノアが感心するような表情を浮かべて言うも、ハースは【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】に自らの攻撃をあっさりと喰べられたのが気に入らないようで眉間にシワを寄せていた。


「こちらを敵だと認識したようでありんすね」


「そうね……『ユウノ』!

露払いは任せたわよ!!」


ユウギリの言う通りついに攻撃を喰らった【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】が動き出す。

巨大な身体をぷるんと震わせたかと思うと一回りサイズが縮む。


「はいはい……そんじゃ、俺らも仕事しましょうかね」


アマネの言葉に面倒くさいという言葉を出すまでもなく、その表情に浮かび上がるユウノはため息を吐き出す。

そんなユウノなど関係ないと一回りサイズが縮んでいた【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】はまるで弾けるように元のサイズに戻ると同時に全身から触手のように細く長いものを勢いよく出現させた。

そしてそのままの勢いを保ったまま、アマネたちに向けて無数の触手を伸ばす。


しかし、襲いくる触手に一切意識を向けることなくアマネたちは【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】本体へと攻撃を続ける。


何せ襲いくる触手は――――ユウノたちが一切合切、断つからだ。

アマネたちの攻撃線上に重ならないようにユウノ、アラタ、イルム、イカルガ、ソフィアの5人が前方へと散らばり、残るダイン、アリィ、イリィの3人はマリィを囲むように位置取りをしていた。


「一本たりとも通さないようにしなさいよ!」


アマネの言葉にそんなことは当たり前だと言わんばかりに武器を構えるユウノたち。

二振の日本刀を構えるユウノとアラタ。

四肢に力を入れるイルム。

漆黒に輝くダガーを両手に握るイカルガ。

長槍を軽々と回すソフィア。


襲いくる無数の触手をそれぞれの武器が薙ぎ払う。

物理攻撃でのダメージは入らないものの、こういったふうに退けることは出来るのだ。


まるで演舞でも見ているかのように止まらない二振の日本刀、自在に操り切り裂き引き裂く四肢、音もなく一瞬のうちに断つダガー、ことごとくを薙ぎ払う長槍。

触手の数がどんどんと増えていくのにもかかわらずそんなことは関係ないとユウノたちはその全てをさばいていく。

これによりアマネたちは攻撃に専念することが出来ているようで、【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】はどうにも出来ないこの状況に焦りを感じているようだった。


流石に今のままではいけないと思ったのか、【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】は次なる行動を起こす。

それまではただそこに山のように佇んでいた【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】が触手での攻撃を止め変形を始めたのだ。

波打つ巨体はだんだんと圧縮されてゆき、気がつけば長く細い大蛇のような姿を取っていた。

圧縮されているとはいえ元の大きさが大きさなだけに下手な蛇型モンスターよりも巨大である。


アマネたちから放たれる非物理攻撃を身体をくねらせて避け始める。

そして、まずはユウノたちを倒さない限り自らを攻撃してくる者を倒せないと判断したのか、【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】はそれまでの触手で狙っていたアマネたちから、完全に意識をユウノたちへと切りかえた。


大蛇のような姿をとった【暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】は身体をしならせユウノたちへと襲いかかる。

まるでバネのように身体を丸めたかと思えばその反動を利用して一直線に突撃してきたのである。


「――――ここは!」


「――――(わたくし)たちが!」


暴食の粘液体(グラトニー・スライム)】の突撃の矢面に我先にと立つ2人。


――――アラタとソフィアであった。


ユウノ、イルム、イカルガはそんな2人の姿に苦笑するも仕方がないと場所を譲る。






「「――――【解放】ッッッ!!」」


瞬間、地面が揺れ陥没する。

そしてアラタの身体からは【(いかづち)】と【(ほむら)】が、ソフィアの身体からは【(ひかり)】と【(やみ)】が溢れ出し弾ける。















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― 新着の感想 ―
[良い点] ギルドメンバーと主人公とのやり取りがとても面白いです! [気になる点] 【女王猫の奏鳴曲】の説明部分(62.真ん中辺り)の2つ目のMPが「【MP」となっています。非常に細かくて申し訳無い…
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