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守主

――――【霊峰ヤフック山】地下ダンジョン・下層


相当下層まで降りてきたからか、ダンジョン内壁の様子が目に見えて変わってきたのをユウノは感じた。

初めはゴツゴツとしたただの岩肌だったのがだんだんと人の手によって整備されたかのような物へと変化したのだ。


下層へ行けば行くほどもちろんのこと出現(ポップ)するモンスターも強くはなっていくのだが、それに関してはユウノとクリスにはほぼ関係ないと言ってよかった。

何せユウノがクリスを守りながら、適当に装備した一振の日本刀で対応できる程度なのだから。


「おぉ〜すごいすごい〜」


「……お前が情報源じゃなかったらこのままぶった斬るくらいにはウザい声掛けをありがとう……っ!」


ユウノは左右に斬り払い納刀しながら言った。

その額には青筋が浮かばんばかりである。


「まぁまぁ〜落ち着きなよギルマス〜」


しかし言われた本人は何のその、いつも通りの様子で笑いながら口を開く。

ため息を吐きながらユウノは歩を進めるのであった。


「……お前そろそろその邪魔な物(バスターソード)片付けて普通の武器装備しろよ……」


「えぇ〜私は戦闘要員じゃないもんね〜」


「せめて自衛の手段くらい用意しとけ……っ!!!」


「ギルマス1人で事足りるんだから良いではないか〜良いではないか〜」


クリスのそんな様子に諦めたのかユウノはそれ以上言うことは無かった。

確かにクリスの言う通りユウノ1人で事足りる程度のモンスターしか出現(ポップ)しないことから大半のことはどうにかなるであろうとの判断だ。


ユウノとクリスの2人はさらに下層へと歩を進める。

その道中いくつかの鉱石系アイテムは入手していたのだが、そのどれもがお目当てのアイテムでは無い。


さらに下層へ下層へと向かう中、ユウノが何かに気がついたのか足を止めた。

気がついたと言うよりは確信を得たという雰囲気だ。


「わわ〜!

急に止まっちゃ危ないよギルマス〜!」


「……なぁ『クリス』?

お前のオススメの素材ってまさかとは思うけど……」


そう言って指を指すユウノ。

その指先が指す場所は――――【霊峰ヤフック山】地下ダンジョン・最下層への入口。

つまりは【ボスモンスター】の居るフロアへの階段だ。


クリスはイイ笑顔を浮かべてサムズアップをする。

その姿にフツフツと殺意が湧いてくるユウノであったがそこはぐっと堪える。

なにせ、【霊峰ヤフック山】地下ダンジョンの【ボスモンスター】は大して強くないことで有名なのだ。

その分ドロップは良くなかったはずだと、何とか殺意を抑えたユウノは考える。


「ふっふっふ〜!

やっぱり不思議そうな表情だねぇ〜ギルマス〜!

そう〜!ここ【霊峰ヤフック山】の地下ダンジョン最下層のボスモンスター【鉱山の守主・マイナサス】はすごく不味いモンスターです〜!」


「……典型的な説明台詞ありがとう……」


ユウノはクリスの言葉に頭を抱えながらも話を止めることはしない。


「しかし〜!

()()()()を満たして討伐すると〜……なんと〜!激レアなアイテムをドロップするんだよ〜!」


絵に描いたかのような見事なドヤ顔を浮かべながら、クリスは語った。

しかし、そんなクリスの様子に殺意が湧くよりも早く驚きの感情が浮かぶユウノ。


「ど、どんな条件だ!?

俺たち結構試しただろ!?」


クリスに興奮した様子で迫るユウノ。

その姿は好きなものを見つけた幼い少年のようにも見える。


「まぁまぁ〜落ち着きなよ〜ギルマス〜」


「これが落ち着いてられるか……っ!」


ユウノはコレクターでもある。

いつも引きこもり――――もとい、アイテム整理しているのはそのコレクターが故の行動でもあるのだ。

例えばレアな武装の収集、例えば特殊条件で入手出来るアイテムの捜索、などなど、それ故に今回のクリスからの情報に過剰に反応したのだ。


「さぁ『クリス』教えてくれ!」


「ま、まぁ〜私もしっかりと特定した訳じゃないんだけどね〜?

恐らく、『鍛冶系職業をメイン職業にしているプレイヤーのラストアタック』もしくは『【攻撃系技能(スキル)】未使用での討伐』のどちらかもしくはどちらもだね〜」


「………………」


ユウノは絶句した。

条件の厳しさだとかそういうことではない。

この程度の条件であれば他の条件に比べれば比較的楽だと言える。


――――しかし、今回に関してはユウノを苦しめる1つの大きな問題があった。


引き攣った笑みとはまさにこの事、ユウノは上手く動かせなくなってしまった表情筋を動かして、ゆっくりと口を開く。

トレードマークである狐の面はいつの間にか頭の側面からも消えていた。


「……お前……知ってて……それか……?」


まるでメンテナンスを怠り、長期間野ざらしにでもされたロボットのようにぎこちなく腕を動かして指を指す。

その指の先には、クリスの姿。

もちろんだがその指がクリス自体をさしている訳では無い。

その背後、身の丈以上に巨大なバスターソードを指していたのだ。


「……てへぺろ〜」


「せめて戦う時くらいは別の武器に変えろよ……?」


まともに構えることすら出来ないバスターソードを装備したクリスは確実に地雷である。


「私今日これ(バスターソード)以外持ってきてないんだよね〜」


「…………」


クリスの言葉を聞いたユウノは一瞬固まり、真顔で鯉口を切った。


「わわっ、わわ〜!!?

う、嘘ウソ〜!冗談だから〜!」


「……あと少し遅かったらお前を叩き斬ってた」


「ま、真顔で言わないでよギルマス〜……。

私とギルマスの仲でしょ〜……?」


流石にユウノの様子に焦ったのかそう言うクリスであったが、ユウノの表情はまるで仮面でも被っているかのように真顔だった。

何とか機嫌をとろうとするクリスに、長い長いため息を吐き出すユウノ。

諦めたのか自らのウインドウを操作して現在装備している武装を整える。


適当に装備していた日本刀を耐久力に優れた物へ、そしてトレードマークの白い狐の面を被り歩を進めた。


「――――『クリス』後で覚えておけよ」


「その状態で言わないでくれるかな〜!?」


狐の面を被ったため、表情が読めなくなったユウノの言葉に恐々とするクリス。

これ以上ふざけるのは自分の命というより今後の立場上良くないと感じたのか、やっとバスターソードから装備を変える。


――――さて、そもそもだがクリスはメイン職業を【鍛冶系】にしており、それを補助するようにサブ職業を取得している。

つまり戦闘向きではない職業構成となっている。

『The World』においてそれは普通のことなのだが、クリスはそのメイン職業の特殊さから、サブ職業に戦闘職を取り入れていた。

その職業とは――――






「――――なんだしっかりと持ってきてるじゃねぇかよ……」


「当たり前でしょ〜?

私の可愛い可愛い相棒ちゃんだよ〜?

しっかり全員連れてきてるよ〜」


明らかに嬉しそうな表情を浮かべるクリスが抱いているのは――――【対物(アンチマテリアル)ライフル】。

明らかに巨大であり、先程まで装備していたバスターソードと比べてもむしろこの対物ライフルの方が重いのではないかと思う程だがしかし、クリスは難なく持っていた。


クリスの職業、それは【上位職業】に分類される【狙撃手(スナイパー)】だ。

この【狙撃手(スナイパー)】という職業の特徴として銃系の武器を装備した時にステータスに補正がかかるというものがある。

クリスで言うとするのならば、対物ライフルを装備して難なく持っているのはこの補正のおかげなのだ。


そして、クリスが使う武装は全て自らの手製の物のみである。

それにはクリスのメイン職業が絡んでくるのをユウノは知っていた。


ユウノ、クリスの両名ともに装備を整え、後はボスモンスターの待つフロアへと行くのみとなったこの時、2人は今回の目的を再確認する。


「目標は【鉱山の守主・マイナサス】」


「討伐条件は〜【攻撃系技能(スキル)】の未使用と私のラストアタックだね〜」


「俺がしっかりと引き付けてダメージ与えるから援護射撃よろしくな」


「間違えてラストアタック取らないでよギルマス〜?」


「はいはい、分かってますとも……」


「ギルマスってばテンションあがると忘れちゃいそうだから心配だな〜」


「『ララノア』と一緒にするなよ?!」


「『ララ』さんがお姉さん心配だよ〜」


「ったく……ほら、集中しろよ?

俺とお前なら大丈夫だろうけど今日は面倒くさいモンスターをさらに面倒くさい倒し方しないといけないんだからな」


「あぃあぃさぁ〜」


2人はそう言うとしっかりとした足取りでボスモンスターの待つフロアへと向かった。

たった2人のボスモンスター討伐。

しかも回復役はおらず、本来なら超長距離からの狙撃がメインの攻撃となるクリスと、ボスモンスターの待つ比較的狭いと言える場所での戦闘。

挙句には面倒くさい条件を付けられたものだが、2人の頭に『失敗』の文字は存在していない。

まるで今から散歩にでも行くかのような雰囲気で階段を下り、フロアの扉を押し開く。




――――薄暗いそのフロアのちょうど中心。

そこには一個の巨大な鉱石の塊があった。

ユウノたちの侵入を感じ取ったのか、その塊が耳障りな騒音を立てながら震える。

そして薄暗かったフロアの壁面に松明が灯った。

なおも騒音を発し続ける鉱石の塊はいつしか形を成して立ち上がる。

岩兵(がんぺい)・ラックス】をイメージさせるそのゴーレムは、しかし大きさが桁外れに大きかった。

【岩兵・ラックス】が子供のように見える大きさはその指先ひとつでユウノとクリスを潰してしまえるほどに大きい。


「ん〜……何回見ても面倒くさい外皮してるなぁ……」


「相変わらずカッチカチだ〜」


【鉱山の守主・マイナサス】の外皮は様々な鉱石で覆われている。

本来ならそれを破壊するために【攻撃系技能(スキル)】を使用するのだが今回はそれを使えない。


「ちまちまと削りますかね……」


「了解だぁ〜」


そう言った2人は互いに別れる。

ユウノは迷いなく真っ直ぐ【鉱山の守主・マイナサス】へ。

クリスはフロアの壁ギリギリにポジションをとる。


「さてと……行きますか……」


ぽつりと呟き鯉口を切る。

鞘から引き抜かれるその刀身は松明に照らされたフロアの中でキラリと光を反射し、その鋭さを物語っていた。

【鉱山の守主・マイナサス】は重量感を感じさせる一歩一歩を踏み出し、ユウノを迎え撃つ、否、踏み潰そうとしているようだ。


完全に抜刀された日本刀を構えることなく握り、向かってくる【鉱山の守主・マイナサス】へとゆったりと歩くユウノ。

あと少しでユウノが潰されるその瞬間。

――――開戦の一撃が決まった。


それはユウノ踏み潰すために上げられた【鉱山の守主・マイナサス】の足へと撃ち込まれたクリスの弾丸だった。


「ゴーレムだからかわかんないけど叫び声を上げないのはいい点だよな……」


ユウノはそんなことを言いながら駆け出す。

流石はボスモンスターの中でも大して強くはないと言われるものの面倒くさいと言われるだけはある。

クリスの対物ライフルの弾丸を一撃貰った程度では意識を少し向ける程度にしかならず、その外皮は少しかけるだけだった。


「まぁ、適当に撃ったんだったらこの程度だよな……」


ちらりとクリスの方を見れば呑気に手を振っているのだからまだまだ集中している様子はない。

本日何回目かもわからないため息を吐き出しながら、ユウノは【鉱山の守主・マイナサス】の所々飛び出た外皮を足場にその体をかけ登って行く。

肩ほどにまで登ったユウノはその手に握られた日本刀を振るう。


「――――まずは一太刀な」


ユウノの日本刀はまるでバターでも斬り裂くように、【鉱山の守主・マイナサス】の外皮の一部を切断した。

【攻撃系技能(スキル)】を使用した訳では無いただのユウノのプレイヤースキルによる攻撃はそこらのプレイヤーの【攻撃系技能(スキル)】よりも鋭く、速かった。


これが【剣聖・ユウノ】。

切断するという事柄において無敵と言われる日本刀を使いこなすプレイヤーだ。










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