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設立

人間(ヒューマン)】の少年プレイヤー―――――ユウノは汗を拭う様な仕草をすると、ふぅと1つ息を吐いた。

汗を拭う手とは反対の手に抜き身の日本刀を握りしめている。


「……倒せたな……」


ぽつりとそう呟くのは【エルフ】の少年プレイヤー―――――トトリ。

驚きの感情を込めた表情でその場に立ち尽くしており、次の瞬間には力が抜けた様で、地面に座り込んだ。


「やっぱり今までのモンスターよりも強かったね……」


「……強かった」


【猫人】の少女プレイヤー―――――キャロ、【ドワーフ】の少女プレイヤー―――――クレールもトトリ同様に地面に座り込んだ。

唯一その場で立っていたのはユウノのみだが、それも少しのあいだであり、ユウノも疲れたと言わんばかりに地面に腰を下ろした。


4人とも疲れた様子だったがしかし、何処か物足りないような表情を浮かべているようにも見える。


そんな4人の目の前には1つのウインドウが表示されていた。

そこに書かれていたのは簡単な文章。


―――――【岩兵・ラックス】討伐完了


ユウノたち4人はまず手始めにこの【岩兵・ラックス】を獲物にしたのだ。

戦闘時間は1時間近くにも及び、4人の使用したアイテムの数もかなりのものだった。

事前に用意していた回復用アイテムはほとんど使い切ったと言っていいだろう。

まさに本気の戦いと言っても良い。


―――――しかしそれは4人の全力ではなかった。


勿論手を抜いただとかそういう意味では無い。

ただ、4人は戦っている中で負けはしないという確信に近いものを抱いていたのだ。


『まだ、上の存在に挑める』


それは言葉を交わすまでもない、4人の共通認識だった。




【岩兵・ラックス】討伐後しばらくして、4人は少し移動した岩陰に居た。


「……なぁ……」


討伐報酬のアイテムを確認していた時、トトリが口を開く。


「俺たちってもっと出来ることあるんじゃないか?」


ユウノが、キャロが、クレールが、その場の全員がトトリの言葉に顔を上げた。


「今までは4人だからって敬遠してきたこともあっただろ?」


「……まぁ、今回の【レイドボス】の討伐とかそうだな……」


ユウノがぽつりと呟くように例として今回のことを言う。


「そう!そうだよ『ユウノ』!

それの他にも色々あるだろ!

例えば……そう!【ギルド】!

俺たちで【ギルド】を作ろう!」


「【ギルド】か……でもあれって確か最低5人必要じゃ無かったか?」


楽しそうに語るトトリにユウノはそう言った。

記憶を辿るかぎり、【ギルド】設立には最低限、5名のプレイヤーが必要だったはずだ。

以前この4人で【ギルド】を作ろうとして人数が足りなかったために作れなかったという思い出がある。


「……その人数制限なら緩和された。

今は3人居れば作れる……」


クレールはほとんど起伏のない声でユウノの心配を解決する情報を出した。

それを聞いたユウノは面白そうに口角を上げる。


「……いいじゃん。

作ろうぜ俺たちの【ギルド】」


「『ユウノ』ならそう言ってくれると思ってたぜ!」


トトリはユウノに近寄るとその肩を抱いて笑った。


「ズルいな〜!

私たちも混ぜてよー!」


そんな2人の様子を見ていたキャロはクレールの手を引いて2人に突撃する。


「ちょ……!バカ……っ?!」


キャロの突撃を真正面から受けたユウノとトトリ、そして巻き込まれたクレールは揉みくちゃになりながら地面に倒れた。

ここはゲームの中であり怪我はしないが衝撃はあるためにカエルが潰れた様な声を出す者もいた。


そして、暫く無言で揉みくちゃになったままでいると、トトリがクスクスと笑いだし、それに釣られたユウノが、キャロが、珍しくもクレールが、4人全員が笑い出した。

ひとしきり笑い終えると、4人は順番に立ち上がり、揉みくちゃの状態から脱する。


「よっし!

どうせ【ギルド】作るなら【ギルドランク】1位を目指そうぜ!」


「いやいや……流石に4人じゃそれは無理だって……。

……でも、そうだな……『トウキョー』を俺たちのギルドで治めたいな」


「それ賛成!

今の『トウキョー』ってこう、日本って感じがしないからどうせならもっと日本っぽくしたいと思ってたんだよね!」


「……【ギルド】の施設が魅力的」


4人は口々にこれからの目標を、楽しみなことを口にする。


「それじゃぁ『トウキョー』に戻って【ギルド】設立しようぜ!」


トトリは誰よりも先に準備を済ませていた。


「待て待て待て……お前だけ急いでも駄目だろ!」


ユウノは荷物をまとめながらトトリに声をかける。


「私は荷物少ないからもう行けるよー!」


キャロはそう言ってトトリを追いかける。


「……『ユウノ』早くするべき」


クレールも戦斧を担ぎながらスタスタと歩いてユウノの隣を横切っていく。


「ほら!早くしろよ『ユウノ』!」


「あぁもぅわかったから!!」


急かされるユウノだったがその顔はとても楽しそうなものだった。






―――――『トウキョー』に帰った4人はすぐさま【ギルド】を設立した。

ギルドの名前は【高天ヶ原(たかまがはら)】。

ギルドマスターは()()()だった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「―――――あ、あれ?

おにーさんがギルドマスターじゃなかったんですか……??」


ギルド【高天ヶ原(たかまがはら)】の設立についての話を簡単にした後、アルルが疑問符を浮べながらユウノの顔を凝視した。


「ん?あぁ、そうだぞ。

この【高天ヶ原(たかまがはら)】の初代ギルドマスターは俺じゃない。

俺はまぁ……2代目ってところだな……」


グラスを呷りながらユウノはさらっと答える。


「そう言えばおにーさん。

さっきの話で出てきた『トトリ』さんと『キャロ』さんと『クレール』さんは今は居ないんですか……??」


当然の疑問として、アルルは首を傾げながらユウノに問う。

ユウノは寂しそうな表情を浮かべて言った。


「辞めちゃったよ『World Of Load』をな……」


「そうなんですか……」


その一言でしんみりとした雰囲気が流れる。


「これもまたデジャビュだねぇ〜。

ギルマスったらすーぐしんみりさせちゃうだから〜」


そんな雰囲気の中でクリスは緩い表情でユウノの脇腹をつついていた。


「ほらほら〜。

次は私との出会いのエピソードにいこ〜いこ〜。

みんな聞いたら感動で涙が出るよ〜」


「……お前との出会いに感動するシーンなんてなかったわ!

この『3H(スリーエイチ)』め!!!」


「『3H』?!

な、何の略称なのかな〜??」


「『変態』『変人』『変哲』」


「とんでもない罵倒じゃないか〜!!!」


ユウノとクリスの漫才のようなやり取りに今までのしんみりとした雰囲気は無くなり、笑顔がそこに居た皆にあった。


「……サンキュな『クリス』……」


「……気にしなさんなって……」


誰にも聞こえない、ただ2人にだけ聞こえる声で、ユウノとクリスはそう交わしていた。

流石は長い付き合いなだけはある。


「さてと……それじゃぁ次は『クリス』との出会いの話でもするか」


「いぇ〜い〜」


話のネタにされるクリスはノリノリでそんな合いの手を入れるが、ユウノはニヤリと笑ってクリスに向かって一言呟く。


「ちなみに俺は事細かに出会いの時の話を覚えてるぞ?」


クリスはその一言に動きを止めた。

まるで錆び付いたロボットのように硬い動きでユウノの方を見ると引きつった笑みを浮かべて言葉には出さず、『マジで?』という視線を送る。

ユウノのそれに対する返事はニッコリとした笑みのみ。






「―――――私の話は無しに「しません」……わぁ〜?!

ギルマス酷いよ〜!?

私の言葉に被せるのは卑怯だぞ〜!?」


両手を振って講義するクリスを横目にユウノは口を開くのであった。

















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