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過去

和やかな雰囲気の中、それぞれが会話を楽しみつつ、食事をしていると今回のパーティーの主役であるアルルが思い出したかのように口を開いた。


「そう言えば皆さんってどういうふうに出会ったんですか?」


両の手でしっかりとグラスを握ったアルルの言葉にユウノたちは顔を見合わせてくすりと笑う。

それはその場にいる全員が出会いのことを思い出して懐かしく感じている証拠であった。

その場にいたのはユウノを初めとして、最古参のクリス、付き合いの長いアマネにユウギリ、会話の節々から親しさを感じるマリィ。


それぞれの出会いのエピソードは実のところ殆どのプレイヤーが、仲間が知らないのだ。


「そうだなぁ〜……」


ユウノは自分の持つグラスを呷って中身を空にする。


「どうせ大した話がある訳でも無いし話してあげたら?」


「まぁ、それもそうだな。

それじゃぁ誰の話からするかな……」


アマネの言葉にユウノは頷き誰の話からするかと考える。


「私の話からしたらど〜かな〜。

ちょうどいいから【高天ヶ原(たかまがはら)】が出来た時の話なんかもしてあげるといいんじゃないの〜?」


「出来た時の話か……流石に長くなるぞ……?」


のほほんとした表情で、何とも気の抜けるトーンの声を発するクリスの提案にユウノは少し話すのを渋る。

しかし、初めにそれぞれの出会いのことを聞いてきたアルルを含めたその場の皆は聞きたそうな表情を浮かべているのを視界の隅に見つけた。

ユウノは頭をガシガシと乱雑に掻くとふう、と息を1つ吐き出してその場を離れていってしまう。


「おにーさん……。

私余計なこと聞いてしまったんでしょうか……」


歩み去っていくユウノの背中を見ながらアルルが落ち込んだように口を開く。

そんなアルルの頭を優しくユウギリが撫でた。


「そんなことありんせん。

『ゆうの』はあの程度のことでどこかに行きんせんよ。


―――――ほら、その証拠に……」


ユウギリがそう言って指を指した方をアルルが見る。






「―――――お待たせ。

流石に長くなるだろうからな。

適当に摘めそうなものを皿に盛ってきた。

ついでに飲み物も確保しといたぞ」


そこにはそれなりの量の食事と飲み物を器用に両手に持ったユウノの姿があった。


「……おにーさん……っ!」


「よく考えたらそういう話はしたこと無かったからな。

丁度いい機会だし軽く話すとするかね」


ユウノはそう言って食事を盛った皿を置き、笑みを浮かべた。






「―――――そうだな……まずは……」


新たにグラスに飲み物を注いだユウノは穏やかな表情を浮かべて口を開き始める。

それは、どこか寂しさも醸し出されていたように感じた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






―――――【ニッポン】中心都市『トウキョー』


現在では【高天ヶ原(たかまがはら)】が治めているが、ユウノが【高天ヶ原(たかまがはら)】を創立したばかりの時には、別のギルドが当り前ながら治めていた。


その当時の『トウキョー』の外観はまるで西洋の街のような雰囲気があり、とてもではないが【ニッポン】―――――日本らしいものとは呼びがたく、しかしそれがその当時『トウキョー』を治めていたギルドの方針なのだから仕方が無い。


そんな『トウキョー』の【NPC】が経営している食事処、その一角に4人のプレイヤーが座っていた。

テーブルに乗せられた食事を摘みながら談笑する4人の姿は心の底からこのゲームを、『World Of Load』を楽しんでいるのだと伝わってくる。


1人は日本刀を携えた完全に種族が【人間(ヒューマン)】だと分かる少年プレイヤー。


1人は弓を傍らに置く軽装であり、尚且つ地味な雰囲気を纏ったまさに狩人のような【エルフ】の少年プレイヤー。


1人は可愛らしい猫耳と尻尾を揺らす、まさに元気っ娘だと感じる【猫人】の少女プレイヤー。


1人はかなり小柄な少女プレイヤー。

その小柄さはかなり特徴的であり、おそらく【ドワーフ】という種族を選んだのであろう。

その小柄な体躯とは不釣り合いな戦斧を傍らに置いていた。


その4人が4人ともに【ギルド】に加入していない野良のプレイヤーだった。


「今日は何を狩りに行く?」


【エルフ】の少年プレイヤーは口を開く。


「昨日は【ホワイトウルフ】だったよね」


猫耳をピコピコと動かしながら【猫人】の少女プレイヤーは自分の飲み物にささっているストローを甘噛みしていた。


「……何か強いものを希望」


【ドワーフ】の少女プレイヤーは表情を変えることなくボソリと呟く。


「強いねぇ……これまた大雑把だな……」


人間(ヒューマン)】の少年プレイヤーは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


毎回毎回、この食事処に集まって話し合いをしている4人だったが最近ではいつもこの調子である。

何を倒しに行くかが決まるわけでもなく、ただ何となく市街地を出て出現(ポップ)したモンスターを狩るという行動の繰り返し。


4人がメイン職業のレベルを【100】にしてしまい、取得しているサブ職業のレベルさえも全て【50】にしてしまった日。

つまり、現状の最大レベルまで上げてしまった日からずっとこうである。


「―――――何か面白いことないかねぇ……」


【エルフ】の少年プレイヤーの呟きはその場にいる4人全員の心の声だったらしく、仲良くため息を吐き出した。






「……【レイドボス】を倒そう」


しばしの無言の後に【ドワーフ】の少女プレイヤーが切り出す。


「この4人で?

流石にそれは無理っぽ〜……」


【猫人】の少女プレイヤーはテーブルに突っ伏して手を振ることでその言葉の無理さ加減を表現していた。


「【レイドボス】の最低人数クリアの記録って何人だっけ?」


ある程度の強さの【レイドボス】でな、と【エルフ】の少年プレイヤーが問う。


「あ〜……確か15人だったはずだな」


「……何処の【レイドボス】?」


「レベルカンスト【岩石王・ジャイアント】」


人間(ヒューマン)】の少年プレイヤーが何となしに口にしたモンスターの名前に他の3人は眉にシワを寄せる。


『World Of Load』においての【レベルカンスト】はプレイヤーとモンスターとでは違う。

プレイヤーはメイン職業が【100】、サブ職業が【50】に対して、モンスターは【120】が最大値となっている。


「……何だろうな……今まで【レイドボス】に行こうとは思わなかったけど案外この4人なら行けるんじゃないか……?」


【エルフ】の少年プレイヤーは神妙な面持ちで言った。


「流石に同じのは無理でもそれより弱い【レイドボス】ならワンチャン……」


【猫人】の少女プレイヤーも顎に手をあてながら呟く。


「……【レイドボス】に行こう」


【ドワーフ】の少女プレイヤーはその手に戦斧を握りしめて既に倒しに行く気満々だ。


そんな3人の様子に【人間(ヒューマン)】の少年プレイヤーは深い、深いため息を吐き出すと、切り出す。




「―――――じゃぁ、何処の【レイドボス】に行くよ……」


その発言を待ってましたと言わんばかりのいい表情で3人は自分が行きたいと思う【レイドボス】の名前を上げるのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






先程の4人の少年少女プレイヤーが居なくなった【NPC】経営している食事処。

そこでは1つの話題で持ち切りとなっていた。


その話題とはズバリ先程の4人の少年少女プレイヤーたちのことだ。

この4人、実はかなり有名である。

何せその4人が全て【二つ名】をもっているのだから。




人間(ヒューマン)】の日本刀を携えた少年プレイヤー。

―――――【若武者(わかむしゃ)


【エルフ】の弓を持つ少年プレイヤー。

―――――【狙撃手(スナイパー)


【猫人】の見たところ武器のない少女プレイヤー。

―――――【魔猫(まびょう)


【ドワーフ】の戦斧を持つ少女プレイヤー。

―――――【剛斧(ごうぷ)




その上何処の【ギルド】にも所属していないとなると、自分の【ギルド】に加入させたいというギルドマスターがわんさかいるのだ。


「おいおい聞いたか?

奴らの今度の標的は【レイドボス】らしいぞ」


「今度もあの4人だけで行くらしい」


「くっそぉ〜……うちのギルドに欲しいな……」


「無理無理!

何処のギルドが誘っても断られたって話らしいぞ!」


「何でもあの4人で自由に遊びたいらしい」


がやがやと語られるのはあの4人の話ばかり。






―――――そんな、4人の話題ばかり上がるのが面白くないプレイヤーが居た。


彼はフードを眼深にかぶり直すと舌打ちをして立ち去っていった。











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