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終えて

―――――完全勝利。


結論だけを先に述べるとしたらその言葉が相応しいだろう。

ユウノたち120名のプレイヤーは1名の死亡者を出すこと無く【最強種】であるドラゴン3体を倒し、モンスターの大群を掃討。


1番の問題であった『王』に関してはユウノが【テイミング】してしまうという結果に終わり、良くいえば平和的解決となった。

他のプレイヤーたちからすれば、既にギルドランク1位という位置にあるギルドに更なる戦力が加わるという眉をひそめる結果だが、その分得るものもあったため苦言を呈する者は居なかった。


―――――得るもの、得たもの。

それは【アイテム】というのが大きく、形に残る報酬であるがしかし、その他にも大きなものを得たのだ。


それは【知識】であり、【情報】であり、【戦術】であり、【戦い方】などなど……挙げればキリが無い。

ギルドランク1位のプレイヤーと同じ【レイド】で戦うというのは得るものが多いのである。


そんな【高天ヶ原(たかまがはら)】以外のプレイヤーの中でも特に嬉しそうにしていたプレイヤー。

それを【高天ヶ原(たかまがはら)】のプレイヤーに聞けば皆が口を揃えて1人のプレイヤーを挙げるだろう。


それは―――――『アルヴァン』。


彼は戦いながらも【高天ヶ原(たかまがはら)】のプレイヤーを観察していたのだ。

普段出回らない情報を求めて。


現に彼は戦闘が終わった直後にギルドメンバーを連れてそそくさと帰っていったのだ。

それこそ【アイテム】の分配に加わることもなく。


その行動にユウノは苦虫を噛み潰したようと言うだけでは足りないほどの表情を浮かべていたが、それは予想していた通りのものだったため、溜息を一つ吐くだけであった。






―――――全てが終わり、今回の戦闘に参加したプレイヤーたちも個々に解散となった後。

高天ヶ原(たかまがはら)】の面々はギルドハウスに戻り、会議室の円卓に座っていた。




「―――――急募!名付親探し中っ!!!」


ユウノは円卓の自らの席に座ることなく、必死の形相でそう叫んだ。

その背中には鬱陶しげながらも、マントに身を包んだ『王』と呼ばれていた少女がしがみついていた。


「そんなの自分で考えたらいいじゃないの」


アマネは面倒臭げに頬杖を付きながら言う。


「そうでありんすな。

名付親は『ゆうの』が最適でありんすぇ」


ユウギリもアマネの意見に賛成なのか微笑みながらユウノを見ていた、


「わた……俺はそういうのは苦手ですから……」


申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるアラタ。

その両サイドではマリィとララノアが私もだと言わんばかりに首を縦に振っていた。


「では(わたくし)が―――――」


「ごめん『ソフィア』は良いかな……」


ソフィアが自信ありげに名付親になろうとしたその時、食い気味にユウノが却下する。


「何故ですか……っ!!?

私では不満だというのですか?!」


「お前のネーミングセンスの無さは周知の事実だ」


ユウノがそう言って周りに同意を求めると一斉に頷くソフィア以外の面々。

ソフィアは解せませんわ……と呟いて円卓に沈んだ。


「『ユウノ』が【テイミング】したんだから最後までしっかりと面倒を見ないといけないんじゃないか?」


「右に同じく、だな」


「俺もだね」


イルムの言葉に同意するダインとハース。


「そんな犬猫を拾ってきた子供に諭す様に言うのはやめろ?!」


「……わん……」


「お前も乗らなくてイイからっ!!!」


ユウノの言葉に乗ったのか、背中にしがみついてる『王』と呼ばれていた少女は犬の鳴き真似をしていた。


「俺はね〜」


「ボクはね〜」


「……お前達は確実に巫山戯るから駄目だ」


胸の前で腕をクロスさせてバツマークを作るユウノ。

それを見たアリィとイリィは互いの顔を見合わせてケラケラと笑いだした。


「俺たちはダメだって『イリィ』〜」


「ボクたちはダメなんだってね『アリィ』〜」


「「まぁ、分かってたけどね〜」」


アリィとイリィはまるで合わせる練習でもしたかのように2人同時に言い出す。

ユウノは最後の望みを託してイカルガに視線を向ける。




「マスターが名付親が良いかと……」


珍しくイカルガはユウノから向けられる視線から逃れる様に顔を逸らして言った。

どうやらイカルガもネーミングセンスに自信が無いらしい。


「はぁ〜……結局俺が付けることになるのか……」


「だから最初からそう言ってるじゃないの……」


ユウノの言葉に呆れ顔でアマネが応える。


「『ゆうの』は名付けが得意でありんしょう?

【十二天将】、【高天ヶ原(たかまがはら)】、それに【技能(スキル)】も見事なものでありんす」


ユウギリが指折り数えながらユウノを見つめる。


「……まぁ『ソフィア』よりマシって考えればイイか」


「……そこで私を弄りに来るんですの?」


円卓に沈んでいたソフィアが顔を起こして頬を膨らませながら呟く。

そんな光景に自然と笑いが起きるのだった。




「―――――さてと……名前……ね……」


ユウノはひとしきり笑い終えると真面目な表情を浮かべる。

頑なにユウノの背中にしがみついてる『王』と呼ばれていた少女に付ける名前。


「……しっかし……ずっとしがみついてるな……」


子がしがみつくコアラ、お腹の袋に入るカンガルー、親にぴったりとくっつく雛鳥のようだとユウノはクスリと笑いながら思う。


「……??」


『王』と呼ばれていた少女は頭上に疑問符を浮かべながら首をかしげていた。

勿論その仕草はユウノには見えていない。


「……小さな女の子が背中に張り付いてるって中々奇妙な光景ですね……」


しばらく見ていた為慣れてきてはいるのだが、しかし、その光景は異色そのものだ。

アラタは呟くようにそういった。


しばらく顎に手を当て悩んでいたユウノだったが、ふと顔を上げたかと思うと、背中にしがみついてる『王』と呼ばれていた少女を剥がして円卓に座らせる。




「―――――『コヒナ』。

お前は今日から『コヒナ』だ」


「……『コヒナ』」


「おう!

まぁ簡単なネーミングだけど無難になっただろう?」


親にぴったりとくっつく雛鳥。

それがこの名前のイメージだ。

初めは『ヒナ』にしようかとも考えていたユウノだったが、その小さな体躯から小さいという意味で『()』を頭につけて『コヒナ』という呼び名にしたのだ。


『王』と呼ばれてきた少女改め、『コヒナ』はその名前を聞くとしばらくその名前を反復させて呟き、最後には嬉しそうに足をパタパタとさせていた。


「……気に入ってもらえたらしいな?」


「……『コヒナ』。

私は……『コヒナ』」


ユウノはそんなコヒナの頭を優しく撫でると円卓から下ろして手を繋いだ。


「良し!

そんじゃぁ祝杯でもあげるか!

この後時間大丈夫か??」


その言葉に誰一人として時間が無いという者はいない。

ニヤリと笑ったユウノはそのまま会議室である部屋を【十二天将】、コヒナと共に後にするのだった。






「……空腹……死んじゃう……」


「今からご飯だから待っててくれよな?」


「……っ!!!」


ユウノの言葉にぱぁっと表情を明るくしたコヒナはどこに行くのかがわかっているかのようにユウノの腕を引く。


「ちょ……『コヒナ』お前―――――」


「こっち……!!!

美味しそう……な……匂い……する……っ!!」


その足取りは迷いはなかった。















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