テイミング
大変長らくおまたせしました……!!
やっと落ち着いたので続きを更新させていただきます!!
ユウノは引き攣った様な笑みを浮かべていた。
苦笑いと言うにはまだ割り切れていないようで、笑顔というには楽しげな雰囲気が足りない。
周りでは仲間たちや他のプレイヤーたちがドラゴンやモンスターたちと戦っているであろうにも関わらず、ユウノは自慢のメイン武器を納刀し、棒立ちで佇んでいた。
―――――その背中に『王』を背負って。
正確には背負っている訳では無い。
棒立ちのユウノの背中に『王』と呼ばれる少女がしがみついているのだ。
『王』と呼ばれる少女は緩やかに尻尾を振りながらユウノの背中をよじ登る。
肩口に顎を乗せるとユウノの顔の方へと視線を向けた。
「『ゆーの』……どうかした……?」
「え……?あ……いや……」
『王』と呼ばれる少女を見るユウノの顔はいつの間にか気の抜けたものとなっており、なんとも言えない雰囲気を出していた。
『王』というどれほど強いのかも分からないモンスターとの戦いに気を引き締め、準備をしてきたのにも関わらず、その当人である『王』と呼ばれる少女は空腹で倒れ、挙句の果てにはビーフジャーキーを与えただけで【テイミング】に成功してしまうという事実。
(……色々予想外すぎる……)
頭を抱えるとはまさにこの事ではないだろうか。
ユウノは背中でモゾモゾと動き続ける『王』と呼ばれる少女の事を考えてため息を一つ吐き出した。
(……ていうか【テイミング】って……)
本来であれば『王』のような【ボスモンスター】、あるいは【レイドボスモンスター】の【テイミング】は出来ないはずなのである。
もちろん例外としてはいくつか確認されているが、それこそ滅多に出会えるわけもなく、あったとしても前情報無し、特定条件下での【テイミング】になるため、そもそも【テイミング】出来ることを知らずに倒してしまうことも多い。
今回の【テイミング】に関しても、偶然ビーフジャーキーを持ってきており、それをユウノが与えたことによって【テイミング】が成功したが、普通であれば好機と思い、攻撃をくわえるだろう。
「―――――さてと……」
ユウノは再び溜息を吐くと、もう一つの問題と向き合う。
―――――こちらを無言で見つめているプレイヤーたちのことだ。
本来であれば共に『王』と戦う予定だったプレイヤーたち。
その表情はユウノと同じくなんとも言えないものになっていた。
しかしそれはユウノが【テイミング】したからという訳では無い。
なにせ、【テイミング】に関しての成功、失敗に関する情報は行ったプレイヤーにしか表示されないのだから、他のプレイヤーは【テイミング】したのかどうかを判別出来ないのだ。
つまり、現在他のプレイヤーから見たユウノは、『王』と呼ばれる少女をビーフジャーキーによる餌付けで懐柔し、背中に引っ付かせてる変人というふうになっているのだ。
勿論全員が全員そのような考えではないだろう。
中には【テイミング】したのかと思うプレイヤーも居なくはないはず。
だが、絵面が犯罪的すぎたのだ。
「………………」
無言の重たい空気が場を占める。
そんな中でも『王』と呼ばれる少女は能天気にユウノの頬を引っ張ったり、抱きついたりしていた。
「―――――『ユウノ』……さん?」
重たい空気を割って口を開いたのはアラタだった。
「……えっと……ど、どうなったんですか……??」
ユウノを見つめている誰しもが思ったことを問う。
対してユウノは頭を掻きながら比較的落ち着いた声音で返した。
「……【テイミング】成功らしい……。
流石の俺も予想出来なかった……。
まさかビーフジャーキーを食べさせたくらいで【テイミング】するとは思わないだろ……?」
「や、やっぱり【テイミング】なんですね……!」
明らかにホッとした表情になるアラタ、そして周りのプレイヤーたち。
ユウノは何度目か分からない溜息を吐きながら、先程から背中に引っ付いて動き回っている『王』と呼ばれる少女を引き剥がそうとする。
「……嫌……此処が良い」
しかし、微塵も動く気配がない。
流石は【最強種】であるドラゴンなどに『王』と呼ばれるだけはある。
メイン職業、サブ職業共にレベルをカンストした近距離戦闘型のユウノのステータスですらそう簡単には『王』と呼ばれる少女をその背中から剥がすことは難しいらしい。
「こんな場面で無駄に高いステータスを披露しなくていいんだぞ……っ!!」
初めは戦おうとしていたはずなのだが、その空気は何処へ行ったのだろうか。
ユウノと『王』と呼ばれる少女は兄妹がじゃれ合うようにスキンシップを取っていた。
犯罪的な香りを醸し出していた2人から、何処と無く和む雰囲気を感じさせるようになった頃。
そんな2人の後方で激しい歯軋りが聞こえる。
そちらを見てみれば、そこには居殺さんばかりの鋭い視線をユウノただ1人に注ぎ、自らの牙を噛み砕かんばかりに噛み締めた白銀の狼の姿があった。
『ワレラガ【オウ】ヲカエセコザカシイエサドモヨ……ッッ!!!
アマツサエ、ワレラノナカマデツクッタモノヲオウニショクサセルナドトイッタヒドウナオコナイ……ユルサヌ……ユルサヌゾッ!』
よろよろと立ち上がり満身創痍の身体に鞭を打ってユウノに襲いかかろうとする白銀の狼。
ユウノはその姿に警戒の色を濃くする。
こういった傷を負ったモンスター程行動の読みにくいモンスターはいないからである。
「―――――仲間で作った……?」
白銀の狼の言葉に反応したのだろう。
『王』と呼ばれる少女がピクリと、ユウノの背中で反応を見せる。
『ソウデス【オウ】ヨ!!
サキホドタベサセラレタモノハ、ワレラノナカマデツクラレタモノナノデス……ッ!!
ソンナコトヲスルコヤツラヲユルシテイイノデスカ?!』
白銀の狼は反応した『王』と呼ばれる少女に問いかけるように吠えた。
ユウノは流石にこれは不味いかと警戒するが、『王』と呼ばれる少女の口から聞こえてきたのはこれまた予想外の言葉だった。
「―――――美味しかったから、いい」
『ナ……ッッッ?!!』
自らが『王』と呼び、仕えてる少女からの信じられない発言に白銀の狼は驚愕の表情を浮かべた。
「『弱肉強食』……。
……私……たちに……【同族喰い】は……珍しい……こと?
私……は……お腹……空いてた……。
なのに……誰も、何も……くれなかった……。
……けど……『ゆーの』、【餌】くれた……!」
先程食べたビーフジャーキーを思い出したのか涎を垂らして『王』と呼ばれる少女は言う。
「美味しければ……いい……ただ、それ……だけ……」
それだけ言い切ると再びユウノにちょっかいを出し始める『王』と呼ばれる少女。
「『ゆーの』……【餌】……欲しい……」
「……取り敢えず【餌】は止めとけ。
これからは【ご飯】だな」
ユウノはひたすらに【餌】、【餌】と要求してくる『王』と呼ばれる少女に呼び方を変えるように言う。
先程の会話に思うところはあるものの、見た目は少女じみているがやはり根っこはモンスターなのだろう。
そこは独特の感覚があるのだろうから気にしないことに決めた。
「じゃぁ……【ご飯】……欲しい……」
「悪いな。
もうビーフジャーキーは無いんだ。
残念なことに今は手持ちもないからどうしようもない。
……まぁ、ギルドハウスに帰ったら食べさせてやるから我慢してくれ」
『王』と呼ばれる少女の頭をぽんと優しく撫でるユウノ。
それを嫌がることなく、むしろどこか嬉しそうに『王』と呼ばれる少女は受け入れていた。
(……さてと……周りの状況は……)
ユウノは再び気を引き締めなおす。
1番の心配事は片付いたと言っていいだろう。
しかし、まだ周りには【最強種】のドラゴンが3体居るのだ。
気を緩めているばかりではいられない。
白銀の狼も警戒はしていたが、『王』と呼ばれる少女からの言葉が相当精神ダメージとなったのか、今はその身体を地に伏せ力なく項垂れていた。
(まずは『ダイン』たち……)
【魔法】によって視力を強化してどのようになっているかを確認する。
するとそこには隊列をしっかりと組み、ドラゴンを追い詰めているダインの率いるレイドが見えた。
(……心配はなさそうだな……)
元よりダインの率いるレイドが1番安定して倒せるだろうと踏んでいたためその予想を裏切らずちょうどいい塩梅だといえる。
(『ハース』たちは……)
次のレイドの方を見ると、予想はしていたものの、そのえげつない光景に苦笑いが浮かぶ。
それはまさに氷による拘束具。
空を舞い高速で戦うドラゴンが、複雑に絡み合った氷による拘束具によって地面に縫い付けられており、身動きが取れないところを少しづつ少しづつ攻撃を与えていた。
かく言うハースは満足気に笑いながらうなづいていた。
(……すぐ決められる癖にあんなにちびちびと……本当に性格悪いな……)
そんなことを思いながらもこちらも負けはないだろうと最後のレイドの方へと視線を向けた。
(……あ〜……『ソフィア』のやつやってるなぁ……)
ある意味此処が1番酷いかもしれない。
1レイド分、フルメンバー30人が居るにも関わらず、29人を後方で支援と遠距離攻撃に完全に振り分け、ソフィアただ1人がドラゴンを真正面、至近距離から攻撃していた。
縦横無尽に駆け回るその姿は荒々しくも見え、美しくも見えた。
ユウノはそれを確認すると【魔法】を解除してふぅ、と息を吐く。
「―――――もう俺はいらないな」
これ以上はオーバーキルである。
ユウノは仕方なしに背中に『王』と呼ばれる少女をくっつけたまま、雑魚モンスターたちの掃討に向かうのだった。
「―――――……名前付けないとな……」




