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格差

本来【聖域】と呼ばれるほどに美しいと言われる【トミス樹海】その最深部。

豊かな自然と美しい草花が訪れたプレイヤーを癒すとまで言われている。


―――――しかし、現在は違った。


幾千幾万ものモンスターたちの群れが、空を舞う3体のドラゴンが、武器を振るうプレイヤーが、その静かな場所で戦っているのだ。


斬られた花びらが舞い、地に生える草花が踏みつけられ、ドラゴンの吐息が地を抉り、とてもではないが、そこを【聖域】とは呼べないようにしてしまっていた。




「―――――予想通り皆暴れてるなぁ」


ユウノは襲いかかってくるモンスターを一閃の元に斬り伏せると前へ前へと進んでいく。

その歩みは決して早いとは言えないがしかし、ユウノの周りを囲むおびただしい量のモンスターの事を考えると、前へと進んでいること自体が不思議な程だ。


「相変わらず無茶苦茶にゃぁ……」


美しく身体を魅せ、舞い踊りながら、ユウノの姿をとらえたマリィは苦笑いを浮かべていた。


「いつもはこう、はぐらかしながら戦うのに……」


ララノアは得意の【紋章魔術(エンブレム)】を使用しつつモンスターを屠る。


「あの武器を使ってる時点で割と真面目に戦う気ですよ『ユウノ』さん」


次から次へと襲いかかってくるモンスターを斬り裂きながらアラタは言う。


今回ユウノはいつもの武器ではなく、滅多に使わない―――――いや、使おうとしない武器を二振とも装備していた。

通常、使うとしても一振のみしか装備しないのに対して、今回は二振とも装備しているのを見るに、それ程までに過酷な戦いになるというのを予想してだろう。


「おぉ……!おぉぉ!!

あれが噂に名高い【剣聖】のメイン武器……っ!!

えぇぃ!邪魔です雑魚共っ!!

私は彼に用があるのです!!」


アルヴァンはステッキを振るいながら、視線はユウノの方へと向いていた。

『決して見逃さない』

そういった意志を感じさせる視線にユウノ自身気がついていたが放っておいているらしい。


そんなユウノたちの後方。

そこには他のレイドメンバーたちが口をぽかんと開けながら、ユウノたちが戦う姿を眺めていた。


伐ち逃したモンスターを倒してほしいと頼まれた彼らだったがしかし、未だに武器を振るうことはおろか、【魔法】を発動させることすらなく、一体もモンスターが伐ち逃されていなかったのだ。


「……レベル……ってか次元が違うな……」


「誰かあのモンスターたちのレベル調べてくれよ……」


「もうやってるわ!

……全部が平均90レベルのバケモノモンスターたちだ……」


「90レベ……っ?!

……流石は【トミス樹海】……」


「でもそんなモンスターを一瞬で倒していくあの人たちこそバケモノだろ……」


「あんな混戦の中で攻撃全部【弱点(ウィーク・ポイント)】直撃だぞ……」


「ありえねぇ〜……」


これがギルドランク最上位に位置するギルドのプレイヤーたちの強さ。

ここにいるプレイヤーたちも【ニッポン】という枠組みの中で見れば決して弱いプレイヤーではない。

しかしそれでも、今目の前で戦っているプレイヤーと比べるとやはり、月とスッポン、天と地の差。

明確なまでの実力差があった。






「―――――ん?」


ユウノがしばらく前へ前へと進んでいると、少しばかり奥の方に、一体の目立つモンスターが佇んでいた。


―――――それは白銀の狼だった。


艶やかな白銀の体毛を纏うその巨大な体躯は微動だにせず、何かを守るようにこちらを威嚇している。

恐らく何かの【技能(スキル)】が発動しているのだろう。

些かユウノの動きに鈍りが出たような気がした。


「あれだな……」


しかし、そんなことには気も止めず、ユウノはその白銀の体毛を纏う狼の腹部を見つめていた。


「……予想はしてたけど……人型……しかも子供かよ……」


そこに居たのは、白銀の体毛を纏う狼をまるで枕かクッションのように扱って眠っている1人の少女。

安らかに眠るその姿だけ見れば愛らしいと言っても過言では無いが感じるプレッシャーは先程のドラゴンたちの比ではない。


そう、あの少女こそがこの場を治める『王』。


ユウノはその確信を得ていた。

現にあの少女に近づくにつれて、モンスターたちの強さが上がっているように感じられるのだから。


連携というほどの連携が取れた攻撃では無いが、モンスターたちの長所を活かした攻撃が幾度も幾度もユウノを襲う。

ユウノ自身、武器が日本刀というのもありリーチ差がある武器や攻撃だとどうしても後手に回ってしまう。


―――――だからこそ、ユウノは無理に先手を取ろうとはしない。


戦いは後手に回るから弱い訳では無い。

後手に回ったとして、逆転の手を打たない者が弱いのだ。


これは大規模な戦略ゲームとは違う。

一対多数の乱戦。

であればこそ、先手だ後手だという話はそうそう関係ない。




「―――――全部斬ればいい」


ユウノは二振目の日本刀を抜刀した。


ユウノが振るう日本刀にはいくつか種類がある。

基本的に使っているのは【高天ヶ原(たかまがはら)】のプレイヤーが創った物。

その中でも耐久性に優れた物を使い捨てで使っている。

新しい夜明け(ニュー・ドーン)】との戦いで使っていたのもこれだ。


次に所持はしているものの、コレクションとしての役割が大きく、強くてもあまり使われない日本刀。

全く使わないということではないのだが、対人戦で使うことはほぼほぼないと言ってもいい。


そして、今使っている二振の日本刀。

これこそが本来のユウノのメイン武器。


―――――一振は【神造物(ミソロジー)】。


―――――一振は【人造物(クリエイト)】。


滅多に使わないこのメイン武器は、ユウノ自身が使うのを自重している。

勿論、使わなければならない場面は弁えており、傲慢で使わない訳では無い。


そしてこの二振の日本刀は、ひたすらにシンプルな能力しか宿していない。


―――――それは【絶断】。


破壊不能な物がないと言われるこの能力。

その刃を阻むものは何も無く、斬り裂く。

防御なんて関係がない。

ユウノが使うこの日本刀は全てを断ち斬るのだから。


そんな、ユウノのメイン武器。


一振を【童子切安綱(どうじきりやすつな)】。


一振を【終焉之剣(しゅうえんのつるぎ)】。


この二振を持ってユウノは未だに最強の席に君臨しているのだ。




「―――――シッ……!!!」


ユウノは両の腕をまるで別の生き物のように振るい、モンスターたちを両断していく。

堅く、強固な装甲も、外殻も関係ない。

何せユウノの振るう日本刀はどちらとも【絶断】を有しているのだから。

この二振を装備したユウノと戦う時に重要なのは当たらないこと、打ち合わないことだ。

しかし、それを単純なモンスターたちが出来るわけもなく。

ユウノに襲いかかっていたモンスターたちは一瞬にしてポリゴン体へと帰されるのであった。




















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