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侵入

【トミス樹海】は異様な雰囲気を放ちながらも不気味な程に静かだった。


総勢120名、4レイドにも及ぶプレイヤーたちはその異様な雰囲気に一言も発することもなくただ周囲を警戒しながら歩んでいた。


4レイドの先頭を歩くのはユウノ率いるパーティー。

高天ヶ原(たかまがはら)】、【Aurora(アウローラ)】所属であるプレイヤーたちは落ち着いた様子で歩んでいるものの、その他のプレイヤーたちはどこかそわそわしているようだ。




「―――――本当にモンスターがいませんね……」


黙々と歩んでいる中、アラタがポツリと呟く。

今回【トミス樹海】に入ってからというもの、たったの1体のモンスターにも遭遇していないのだ。

そうなることは知ってはいたが、実際に見て理解するのと聞いて理解するのとでは数倍ほどもの驚きに違いがある。


実際、モンスターに出会うはずの場所で1体とも出会わないという現状に不安がるプレイヤーも多く見られる。


「……まだ浅い場所だからだろうな……。

双竜(そうりゅう)息吹(いぶき)】の話通りなら最奥部に固まっているんだろう……」


ユウノはその場にいる誰よりも自然体で歩む。

その様子はいつもの街を歩くような姿だった。


「にゃぁ〜……。

ギルマスはよゆーそうですにゃぁ〜……」


可愛らしいマンチカンのような猫耳をペタンとさせたマリィが言う。

ユウノはくすりとマリィの様子に笑顔を見せるとマリィの頭をぽんぽん、と優しく叩く。


「まだ慌てる時じゃないからな。

気を張り過ぎて目的と遭遇した時にクタクタでしたじゃ目も当てられないぞ?

……とは言っても【トミス樹海】だと気を張りもするか……」


【生きた樹海】と呼ばれる【トミス樹海】。

本来此処にはかなりの強さを持つモンスターたちが群れをなして襲ってくる。

【トミス樹海】に何度も来たことがあるからこそだろう。

本来の【トミス樹海】という場所を知っているからこそ、辺りに気を張ってしまうのだ。

いつ、モンスターに襲われても対処できるように、と。


「これならモンスターと戦いながら進んだ方が楽にゃぁ……」


「凄くわかります……。

戦いながらの方が気が楽です……」


「いやいやいや……戦わない方が楽ですよ??普通は……」


アラタはマリィとララノアの言葉に苦笑いを浮かべながら否定する。

そんな3人を相も変わらずニコニコとした表情で見つめている、と言うよりは観察している様子のアルヴァン。

ユウノは眉をひそめながらもため息を吐く。

しかし、そんな表情も狐面によりアルヴァンに見えることは無い。


流石に観察されている3人共に気がついてはいるだろうけれどだからといって放っておいていいものでは無いだろう。


「……【(カラス)】さんよ。

女の子3人をジロジロ見て変態じみた表情を浮かべるのはどうかと思うぞ?」


アルヴァンに向ってユウノが言うと、わざとらしい間を空けて今気が付きましたと言わんばかりのアルヴァンが口を開く。


「【(カラス)】……あぁ、【ニッポン】での私の【二つ名】……いえ、【異名】、でしたかね?

残念ながら私は【道化師(クルーン)】と呼ばれ慣れているのでね。

些か反応が遅れてしまいました。

しかし、変態じみたとはこれまた……。

私は華を愛でていただけですよ、はい」


ニコニコとした人当たりの良さそうな表情。

ユウノはアルヴァンのその表情に心底嫌そうな表情を浮かべる。

狐面のお陰で表情を隠さなくていいものの、その雰囲気は伝わっているだろう。


(【道化師】ね……。

上手い【二つ名】を付ける奴もいたもんだな……。

こいつはまさに【道化師】だ)


ユウノは初めに【(カラス)】と呼んだものの、本来のアルヴァンの【二つ名】は【道化師(クルーン)】である。

アルヴァンという人物そのものを表した【二つ名】だ。

そのよく回る口、殆どのことに精通しているのではないかと思わせるほどの知識、決して相手に読ませないポーカーフェイス。

彼の本当の姿を知る者はいないだろう。


「……取り敢えずそういうのはやめておけ。

―――――間違えて斬りたくなる」


ユウノが鯉口を切りながらアルヴァンを威嚇すると、それを受け流すかのようにアルヴァンは笑った。


「それはそれは怖いですね……。

ではご忠告通り大人しくさせてもらいましょう……今はね」


肩をすくめながら後半を呟くように言うアルヴァン。

ユウノは何度目かわからないため息を吐きつつも、日本刀から手を離す。

アルヴァンはパーティーの最後列まで下がり、後ろのパーティーと会話をしているようだった。


「……3人共嫌なら嫌って言っていいんだぞ?」


ユウノがアラタ、マリィ、ララノアの3人に向ってそう言うと困ったような笑みを浮かべているのが見えた。


「ま、まぁ、見られてるくらいだったら慣れてますし……」


「話しにくいくらいの害しかなかったのですにゃぁ……」


「わ、私は少し嫌でしたけど言い出せなくてですね……」


3人の言葉にやはりアルヴァンをパーティーに入れるのは間違いだったのだろうかと考えるユウノ。

しかし、 こそこそと情報収集のために動かれ、戦闘にあまり参加されないのは困るため、それを防ぐにはどうするべきかと悩んだ末に出した答えのため今更変更するわけにはいかない。


(……あ〜……面倒くさい……。

扱いに困るんだよなぁ……)


頭をガシガシと掻きながら歩みを進める。

【トミス樹海】最奥部まではまだしばらく時間がかかる。

ユウノはアルヴァンのことを考えるのは無駄だと判断し、ただひたすらに足を動かすことにするのであった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






【トミス樹海】攻略もいよいよ終盤。

だんだんと薄暗くなっていく視界に緊張感が高まってくる。

モンスターとの戦闘はたったの1度も無く、ただ【トミス樹海】の迷路のような道を攻略するのみだったものの、それでも疲労の色を見せるプレイヤーは少なくなかった。

ゲームだからとはいえ、その緊張感はぬぐい去れるものでは無いのだ。


あとしばらくすれば最奥部に到達するであろう。

視界は薄暗く、先を見通すのは困難に近いが、今まで『World Of Load』をプレイしてきた経験がこの【トミス樹海】の終わりを予感させる。


ユウノは素早くウインドウを操作して、今回参加しているプレイヤーの中でパーティーをまとめているプレイヤーにメッセージを送信する。

内容は装備、アイテムの最終確認をして欲しいというものだ。

流石に1人1人に話しかけ、確認していくのは時間的にも困難であるため、パーティーリーダーにメッセージを送ったのだ。


「武装、アイテムは大丈夫か?」


ユウノの言葉にアラタ、マリィ、ララノアはゆっくりと頷く。

アルヴァンに関してはニコニコと笑っているだけのため確認は取れていないが、聞かずともわかる。

伊達に【Aurora(アウローラ)】というギルドランク4位のギルドマスターをやっては居ないのだから。

準備が出来ていないなどありえないのだ。


ユウノ自身も武装の最終確認をする。

腰には二振の日本刀を差し、【魑魅魍魎の主】シリーズの着物と袴。今回は羽織の代わりに装飾品をいくつか装備している。

そして忘れてはならない狐面。

まさにいつも通りの装備である。


そして、歩みを進めながらアイテムを確認していると、1つのことに気がつく。


「……あ……置いてくるの忘れてた……」


「『ユウノ』さん、どうかしたんですか?」


アラタが肩口からひょっこりと顔を出して言う。


「ん?あぁ……ちょっと要らないアイテムを持って来てたみたいだ」


ユウノは自らのウインドウをアラタにも見える様にして、そのアイテムを見せる。

そこにあったのはかなりレアなモンスターからドロップする食料アイテムを調理、加工して作られるもの。


「び、ビーフジャーキーですか……」


「この間作ってもらうって約束しててな……。

それを受け取って置いてくるのを忘れたみたいだ」


いつもであったらこんなミスはしないユウノだったが、【Aurora(アウローラ)】の今回の戦闘に参加に関して考えることが多かったためにこの様な凡ミスを犯してしまったのだろう。


「ま、まぁいいじゃないですか!

何かを忘れてくるよりマシですよ!」


アラタの言葉にそれはそうだがと返すユウノ。

今更どうすることも出来ないため、ユウノはそれを無視してアイテムの整理を行う。




ユウノがアイテム整理を開始して、【トミス樹海】の最奥部に着くのにそれほどの時間はかからなかった。

ちょうどアイテム整理が終わった頃、ユウノたちの目の前には壁のようなものがそびえ立っていた。

それは木の幹が編まれて出来上がった【トミス樹海】の最奥部直前の証。

この先に目的のモンスターたちがいるのだ。


【トミス樹海】最奥部への入口は狭く、120名ものプレイヤーが一気に入るのは不可能。


―――――そう考えていたユウノに驚きの光景が広がっていた。


ユウノたちが来た場所から少しズレたところに何とも立派な門が出来上がっていたのだ。

それはまるで【ダンジョン】の入口や【レイドボス】との戦闘を行うための場所に行く門のようで、ただ1つ違うことと言えば、この【トミス樹海】に出来上がった門は鉄製ではなく、木製なところ。


「……罠……?

いや、そんな感じはしないな……」


ユウノは瞬時に思考を巡らせる。

今までこの門を見逃していた訳はない。

つまり、この門は最近作られたものなのだろう。


―――――この中にいるモンスターによって。


「……歓迎でもされてるのかね……」


ユウノは狐面の下で笑みを浮かべる。

そして素早く指示を出した。


「この門から入るぞ。

もしものことを考えて俺たちが先頭で行く。

他のプレイヤーたちはそのあとから付いてきてほしい」


ユウノの声が聞こえる範囲のプレイヤーにはそういい、聞こえないであろう範囲のプレイヤーにはメッセージを飛ばす。


ユウノ、アラタ、マリィ、ララノア、アルヴァンは木製の門の前に移動すると、その門をゆっくりと押し開けた。

何の仕掛けもないことを確認したユウノたち。




「―――――行くぞ……っ!!!」




ユウノの声を合図にプレイヤーたちは【トミス樹海】の最奥部へと侵入していくのであった。













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