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依頼

高天ヶ原(たかまがはら)】のギルドホーム。

その会議室の円卓にはギルドマスターであるユウノを初めとし、【十二天将】たちが集められていた。


何故ここに集められたのかは既に全員が認識している。




「―――――さて、今回だけど」


しばしの沈黙を破ったのはやはりユウノだった。

ウインドウを操作して、その場の全員にあるものを送る。


「……これ本当だったのか」


イルムは眉をひそめて呟く。

ユウノが【十二天将】たちに送ったのは【トミス樹海】の現状と題を打たれた報告書のようなもの。

それは【双竜(そうりゅう)息吹(いぶき)】のギルドマスターやプレイヤーたちの話をユウノが直接聞いてまとめたものだった。


「【レイドボス級】3体……その上にそのモンスターが【最強種】……ね……」


アマネも難しい表情を浮かべて目を通している。

なにせそこに書かれている事は嘘のような真。

まさに事実は小説よりも奇なりと言ったところだ。


「この『王』という言葉が気になりんすね……。

【最強種】の『どらごん』が『王』と言っているのは不気味でありんすぇ」


ユウギリが引っかかったという言葉。

それはこの場の全員が思っていたことらしく頷いている。


「その『王』に関してなんだけど……。

双竜(そうりゅう)息吹(いぶき)】のメンバーは誰一人としてその『王』足り得る存在を見てないらしい。

だからそれに関しての情報は0だ……」


その言葉は事実であり、だからこそ全員の表情が曇る。

【レイドボス級】、つまり通常は最低30人で倒すと設定されているはずのモンスターが3体いるだけでも相当難易度が高いというのに、そのモンスターが【最強種】であるドラゴン。

その上未だ何の情報もない『王』と呼ばれる存在。


今までのどの【クエスト】よりも難易度が高いだろう。


「……いくら私たちでも【最強種レイドボス級】3体は厳しいですよね……。

1体ならこの場の13人でも事足ります……。

2体になるとギリギリ……何人かは死ぬでしょう。

……3体ともなると勝ちの確率の方が低いと思います……」


狂術士(バーサーク・マギ)】と呼ばれていながらも流石は【ヒーラー】と言ったところだ。

ララノアは冷静に分析していた。


「その上何の情報もない『王』という存在……。

いくら私たちでも無理です……」


ギルドランク1位という最強ギルドであったとしても、無謀という言葉が浮かぶほどに今回の件は困難を極めていた。


―――――しかし、そんなことは初めから分かっていたと、ユウノが口を開く。


「俺たちだけで足りないなら他のギルドの力を借りればいい。

取り敢えず俺が知ってるギルドマスターたちにはほぼ全員に依頼を送った」


「……ほぼ全員……ですか……?」


アラタは疑問符を浮かべてユウノの言葉を繰り返す。


「……流石にギルドランク上位の奴らには送ってない。

何せ【ニッポン】での出来事だからな。

他の地域勢を呼び込むとろくなことが無い……」


ため息混じりのその言葉に、円卓に座るメンバーは納得の表情を浮かべる。


「……まぁ、何処から情報を拾っていったのか【Aurora(アウローラ)】の奴らは自分たちも参加するっていうメッセージを飛ばしてきたけどな……」


「……【Aurora(アウローラ)】……ですか……」


あからさまにイカルガが嫌そうな表情を浮かべた。

ユウノはそんなイカルガの様子に苦笑いを浮かべつつも話を進める。


「正直な所【Aurora(アウローラ)】に参加されて俺たちの情報を持っていかれるのは痛いけど、戦力としては申し分ない」


「参加させるんですかマスター?!」


円卓から立あがり身を乗り出さんばかりに声を張り上げるイカルガ。

それを手で制したユウノは真剣な表情を浮かべる。


「……正直に答えろよ?みんな。

―――――【Aurora(アウローラ)】の奴らに情報を持っていかれるのを覚悟して今回の戦いに参加させるのが反対だという奴は手を上げてくれ」


その場の全員が即座に手を上げる。

予想通りの状況にユウノは頷く。


「じゃぁもう一つ……。

―――――俺たちの情報が【Aurora(アウローラ)】に持っていかれたとして、その後俺たちが【戦争】で敗けると思う奴は手を上げてくれ」




ユウノはそう言ってしばし無言で待つが、誰の手も上がらなかった。

その状況に獰猛な笑みを浮かべたユウノは自信満々に言う。


「そうだよな?

俺たちは情報を持っていかれた程度じゃ敗けないよな?

じゃぁ決まりだ……。

―――――【Aurora(アウローラ)】を今回の戦いに参加させる。

異論がある奴は今ここで言ってくれ」


全員の顔を1人ずつ見ていくユウノ。

しかし誰の顔も不満気に見えなかった。

むしろそれはかかって来いと言わんばかりの、情報程度くれてやると言わんばかりの表情だ。


「よし、それじゃぁここからはメンバー分けだな。

今回の戦いでは4つのレイドを作って、それぞれ分担して戦うつもりだ。

その為にも俺たちの戦力を均等に分けたい。

俺たちは13人いるから3、3、3、4になる予定だ。

ちなみにそれぞれのレイドの役割は、3体の【最強種レイドボス級】のモンスターを1体ずつ相手するために3つのレイド。

そしてどれほどの強さか分からない謎の『王』という存在を相手するために1つのレイドってところだな」


「4レイドってことは120人……つまり俺たちを除いて100人以上のプレイヤーを集めるつもりなんだな?」


イルムがユウノの方を向きながら顎を触りつつ言う。


「そうなるな。

とは言っても頭数を集めるだけじゃダメだからな。

そこそこの実力を持ってるプレイヤーじゃないと今回は厳しい……」


量より質。

今回の戦いに求められる最低限のものだ。

あわよくば質も良く量もあるというのが理想である。


「取り敢えずそれぞれのレイドにリーダーとして俺たちの中から4人振り分けよう」


ユウノがパン、と柏手をひとつ打つと注目を集める。

4人のリーダーの選出。

悩まれるかと思いきや、それは直ぐに終了した。




「―――――『ユウノ』さん、『ハース』さん、『ダイン』さん、『ソフィア』さんの4人で決まりですよね?」


それを上げたのはキョトンとした表情を浮かべるアラタだった。


「『ユウノ』さんは言わずもがな【高天ヶ原(うちのギルド)】のギルドマスターですし、『ハース』さんはプレイヤーに指示を出してコントロールするのが得意ですよね?

『ダイン』さん、『ソフィア』さんはそれぞれ指揮官向きですし……」


何か間違ったことを言っていますか?と言わんばかりのアラタの表情にくすりと笑ってしまうユウノ。


「まぁ、いくら話し合った所でそこに落ち着くだろうからな……。


ただそれとは別に……『アラタ』。

俺は必ずしもリーダーじゃなくていいんだぞ?

指揮を取るのはそんなに得意じゃないからな。

むしろ誰かに指示をもらいながら簡潔に敵を斬り捨てて行く方が得意だ」


「でもやっぱり『ユウノ』さんはリーダーじゃないといけないと思うんですよ」


あまりにも真剣な表情を浮かべるためにユウノも強くそれは違うとも言いづらい。

ユウノは頭をガシガシと掻きながら、この話はもういいかと思考を切り替える。


「……それじゃぁ、リーダーはさっきの4人で!

よろしく頼むぞ!」


「まぁ、いつも通りだね」


ハースは気負うことなく気楽な雰囲気を纏っていた。


「任せておけ。

俺がまとめあげておこう」


ダインはニカッと笑っていた。


(わたくし)も張り切らせていただきますわね?」


ソフィアは微笑みを浮かべると穏やかな口調で言った。




そんな3人の様子を見ながら満足気に頷いたユウノは話をどんどんと進めていくのであった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「―――――これは……っ!」


薄暗い部屋の中で商人風の服装をした男性は驚きの声をあげる。


彼の名は『アルヴァン』。

ギルド【Aurora(アウローラ)】のギルドマスターである。


アルヴァンは新着のメッセージに目を通しながらニヤリと笑った。


「ふふふ……まさか許可が出るとは思いませんでしたね……。

しかしこれはチャンスです。

今回の件に関しては相当に難しいですが……【高天ヶ原(たかまがはら)】の、そして【剣聖】の情報が手に入るのなら破格と言っていいほどに安いものでしょう……」


そう1人で言っているアルヴァンはニヤけが止まらなくなっていた。


「さて、誰を送り込むべきでしょうか……」


情報収集に秀でており、尚且つ戦闘力があるプレイヤー。

その条件に合う自分のギルドのプレイヤーを自らの記憶を頼りに探していく。


「【高天ヶ原(あちら)】のプレイヤーにこちらの情報を渡す義理はありませんからね……ふふふ……そうなると―――――」


アルヴァンはウインドウを開くと数人のプレイヤーにメッセージを送った。


全員にメッセージを送り終えるとアルヴァンは立ち上り、壁の方へ向かう。

張り出された13枚の写真、そのうちの1枚、【剣聖】ユウノの写真を見ながら声も出さずに笑った。



















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