眠り
Twitterでもぽつりと呟いたのですが2作目のプロットが書き上がりまして……。
ひとまずストックを執筆中です!
ある程度貯まりましたら投稿していく予定ですので宜しければ読んでいただけると幸いです!
ちなみにこの作品はストックはなく、書いたら即投稿という感じになっています!
「なぁなぁ、『ユウノ』に会わせてくれるって話はどうなったんだよ〜」
殆どの学生が楽しみにしているであろう昼休み。
ユウノ―――――裕也は買ってきていたメロンパンをもそもそと半分寝ながら食べていると不満気な声が耳に入ってくる。
眠い目を軽く開けて声の方を見てみればあの5人組と数人のクラスメイトが昼食を取りながら会話をしていた。
「あ、あぁ……そのことな。
一応頼んでみたんだけどさ、忙しくて無理だって言われちゃって」
「えぇ〜……お前から頼めば会えると思ってたのに……」
「マジでごめんな!」
笑いながら謝る5人組のうちの1人である男子生徒。
裕也はメロンパンを食べて喉が乾いたのか紙パックの飲み物のストローを咥えて吸う。
(……あいつ『オウジ』だな……。
本名なんて言ったっけ……?)
そもそも裕也はクラスメイトの名前を朧気にしか覚えていない。
何せ学生の人数が多いのだ。
覚えるとしても絡みのある学生位のものだろう。
プレイヤーネーム『オウジ』の本名を裕也はしっかりと覚えていないのであった。
「そうだそうだ!
俺も『World Of Load』始めたから今度フレンドになろうぜ!」
「お前も始めたの?
良いじゃん良いじゃん!
俺らが助けてやるって!な!」
オウジは残りの5人組メンバーに声をかけると全員が笑いながら頷いていた。
どの武器を使っているか、職業はなにがいいか、何処で集合するかなど、『World Of Load』についての話が飛び交う。
「どうする?
俺たちでギルドたちあげたりしちゃう?!」
盛り上がっていく話の中で流れに乗るかのようにオウジがポロリとそう言うと他の5人組メンバーはいいねぇとその話に乗るものの、その他のクラスメイトたちは少し困惑したような表情を浮かべる。
「あれ?お前たちあの【高天ヶ原】に入るんじゃなかったのか?」
困惑したかのような表情を浮かべていたクラスメイトのうちの1人が疑問を口にした。
オウジたち5人組は一瞬固まった様だったが取り繕うように言葉を並べる。
「い、いやな?
まだ当分は条件を満たせそうに無いからって意味でな?」
「そーそー!
確かギルド作るといいことあるらしいし!」
「も、もしかしたら私たちのギルド全員【高天ヶ原】にスカウトされるかもでしょっ??」
「私たちも人をまとめる練習とかしとかないとかなって!」
「な、何もしないよりかはいいかなって!」
その言葉に何人かは不信感を持ったのだろうけれど、そこはその場のノリで何とかやり過ごしたらしく、裕也がオウジの方を見ていると明らかに焦ったような表情を浮かべていた。
「……ぁ……」
そういう風にオウジを見ていると目が合ってしまう。
するとオウジはナイスタイミングだと言わんばかりの視線を向けてくる。
「おいおい裕也!
こっちに混ざりたいなら来いって!
確か裕也も『World Of Load』やってるんだろ?」
しかしその声音は仲間に誘う時のものではあったものの、視線の雰囲気から、明らかに自分の凄さを再認識させるため、そして話を変えるために入れようとしているのだと裕也は直ぐに察知する。
それでも裕也は仕方がないとメロンパンを片手に紙パックの飲み物を飲みながらオウジたちの方に近寄って行く。
裕也のクラスでの立ち位置は、学校をサボり気味の問題児ではあるが、誰とでもある程度話を合わせることの出来る基本的に無害なクラスメイトというもの。
「俺やってるっていってもログインしかしてないんだぞー?」
そんな裕也だからこそ、オウジは話に引き入れようとしたのだ。
苦笑い混じりに裕也が言うとオウジは肩を組む。
「大丈夫大丈夫!
俺たちはあの『ユウノ』に認められたんだぜ??
直ぐに強くしてやるって!」
何処か恩着せがましい喋り口調で裕也に言う。
「マジかよ〜。
でも俺そんなに『World Of Load』
に興味無いからなぁ……。
そもそもゲーム苦手だし俺」
「うっそだぁー!
裕也お前頭悪いけど運動神経は割と良いほうだろぉ〜!
『World Of Load』ならその運動神経あればうごけるんじゃね?」
「だと思うだろ?
俺もそう思ってたんだけどこう、俺に合わなくってさ〜。
戦うのとかマジで勘弁だわ」
裕也がケラケラと笑いながら言うとオウジも笑いながら肩を叩く。
「あ〜ちょっと分かるかも!
戦うの結構怖いよな〜!
痛みは無いにせよ衝撃はあるし!」
「そうそうそれそれ!
痛みがないのが不思議な位衝撃感じるしな〜」
オウジと裕也は互いに頷きながらそう話す。
周りのクラスメイトもそれに同意しているようだ。
『World Of Load』はそのゲーム性上、切断などがあるため、攻撃を食らっても痛みは感じない様に設定されている。
その代わり、痛みではなく衝撃が襲うことになっているのだ。
例えば打撃攻撃などを受けた時がわかりやすいのだが、腹部に攻撃を受けた場合、身体をくの字に折ってしまったり、後ろに吹き飛ばされたりするのである。
いくら痛みがないとはいえ、その衝撃自体も弱いものではなく、それが怖いというプレイヤーもいるのだ。
オウジはそんな裕也の話を受けて仕方がないと裕也を解放する。
「あれは怖いからなぁ〜流石に俺も無理には誘わねぇわ〜。
あ、俺たちが有名になってからやらせてくれって言っても駄目だからなー??」
「えぇ〜。
その時はちょっと仲間に入れてくれよー」
「調子がいいやつだなぁ〜!」
そんな軽口を言い合いながら、その場は笑い声が響いていた。
裕也は残っていたメロンパンを食べ切ると、紙パックの飲み物のストローを咥えて一気に吸いきる。
そして、ゴミを捨ててくると言ってその場から立ち去った。
―――――いつの間にかオウジたちが言っていたギルドをたち上げるという話題は消えていたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「―――――ふぅ……」
裕也は購買近くにあるゴミ箱に紙パックを捨てながら息を吐く。
いくら話を合わせるためとはいえ『World Of Load』に関しての話はしたくないというのが裕也の本音だ。
裕也は『World Of Load』というゲームが大好きだ。
―――――ギルドランク1位。
世界のトップのギルドを作り、ギルドマスターとして君臨し続ける程に『World Of Load』をプレイしているのだから当たり前と言っても過言では無い。
勿論例外的にそんなに好きではなく、儲けとして考えるプレイヤーもいるかもしれないが、裕也は純粋に『World Of Load』を楽しんでいるのだ。
だからこそ、自分があまり『World Of Load』をやっていないふうに話すのはストレスが溜まる。
「あ〜……やりたいなぁ……」
今はまだ昼休みだと言うのに、裕也は既に家に帰って『World Of Load』をやりたいと思っていた。
既に生活の一部となり、『World Of Load』の世界は裕也にとってもう1つの現実となっている。
購買横の休憩スペースの椅子に座ってため息を吐く。
昼休みも後半。
殆どの学生が購買ではなく学食に行くため、この時間帯は購買横の休憩スペースはガラリとしていた。
「……帰ろうかな」
今から教室に戻って荷物をまとめて帰ろうか。
裕也はそんなことを考えながら頬杖をつく。
「―――――何を言っているのかしら?中野くん?」
「……げっ……周音先生……」
背後からかけられた声に反応して振り向くと、そこに居たのは周音。
裕也は嫌そうな表情を浮かべた。
「『げっ』とは何ですか『げっ』とは」
「すみませーん周音せんせー」
「棒読みが過ぎるわよ?」
ニコリと笑いながら拳を握る周音。
裕也は頬をひきつらせながら言う。
「お、おいおい……猫かぶりが剥がれてるぞ!」
「……おっと……これは失礼……。
こほん、もう……中野くんは午後も授業があるでしょう?
学生たるもの無断欠席は駄目よ?」
そう言う周音の姿を見た裕也はついうっかり笑ってしまう。
何時もの素の『アマネ』を知っているからである。
「……笑うなんておかしいところあったかしら?」
「悪い悪い!
何時もの『アマネ』を知ってるからつい!」
怒気を孕んだ周音の声に裕也は急いで弁明を述べる。
周音はそんな裕也の言葉を聞いて深いため息を吐いた。
「……ともかく、無断欠席は駄目よ?
私はこのあと帰るけど中野くんはしっかりと授業に出ること!
わかったわね?」
「……はいはい……」
「返事は1回よ?」
「はーい」
「伸ばさない!」
「はいっ!
……って、もうわかったから!
ったく……教室に戻りますよ……」
「はい、よろしい」
語尾にハートでも付きそうな周音の言葉に再び笑いそうになる裕也だったが今度は堪えて、もとの自分の教室に帰っていくのであった。
「まぁ、私は帰ってやるんだけどね」
「ちっくしょぉぉぉぉおっ!!!」
最後の周音の言葉に裕也は悔しそうな声を上げて走って行ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――――【ニッポン】神体山フジ
【ニッポン】最大級にして最難関、未だ全てを攻略しきってはいないと言われている【神体山フジ】。
その眼下に広がる樹海。
―――――【トミス樹海】。
そこは入る度に道が変わると言われており、プレイヤー間では【生きた樹海】と呼ばれている。
出現するモンスターもかなり強く、群れを成して襲ってくることが多い。
しかしそれは同種族のモンスターが群れを形成するというだけであって、他種族のモンスターが入り混じっての群れはほぼ存在しない。
もしそれがあるとしたら理由は2つ。
1つは他種族ではあるものの、互いが近しいモンスターであるということ。
ほとんどの理由がこちらである。
そしてもう1つ。
こちらはほとんど当てはまることは無いのだが、稀に起こりうる。
―――――知恵を持つ【名持ちモンスター】の出現によって統率された。
【トミス樹海】最奥部。
そこでは数万とも数十万とも言える幾種もの種族のモンスターたちがひしめき合っていた。
獣型、人型、無形型、おぞましいモノ、可愛らしいモノ、強そうなモノ、弱そうなモノ。
それは本来群れを成すモンスターでは無いものですらその場に集まっていた。
幾千幾万もの鳴き声がこだまする中、その中心に圧倒的な存在感を示すモノが、居た。
―――――その姿はまるで人間だった。
いや、少女と呼ぶべきかもしれない。
無表情ながらも美しさのあるその顔は少し幼さが残り、その丸みを帯びた身体は男性を魅了するだろう。
そう、それだけであれば。
少女は人間とは似ても似つかぬモノを持っていた。
無造作ながらも美しい髪と同色の額から生え、後頭部に向かって流線的な形を描きながらも鋭さを感じさせる2本の角。
腰辺りから生えている堅牢な鱗を持つ尻尾。
そして特徴的なのはその身体。
鋭い爪と鱗を備えた両手足はまるで龍のようであり、身体は布とも皮膚とも鱗とも言える謎の物質が巻きついていた。
例えるならば包帯を半端に巻かれたミイラとでもいうのだろうか。
そのような姿をした少女がモンスターたちの中心で寝ていた。
そんな少女を襲う予兆すら見せないモンスターたち。
―――――まるでモンスターたちは少女が目覚めるのを待っているかのようだった。




