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断り

「いやぁ〜こんな所で会えるだなんて!」


何処か胡散臭い笑みを浮かべたオウジは狙っていた訳では無いのだろうが、ユウノに出会えたことをラッキーだと感じているであろう雰囲気を醸し出していた。


「……偶然、だな。

今日は1人でログインしてるのか?」


「今日はこれを早く試したくて先にログインしてるんですよ!」


そう言ってオウジが見せたのはユウノが彼らに譲った【トロール】との戦闘時のアイテムだった。

オウジが装備しているのは身の丈程はある大剣。

これが現実世界であれば持ち上げるのもやっとであろう重量感が伝わってくる。


「こういうの男のロマンだと思いませんか?

こう、力こそ最強っ!みたいな!」


随分とぐいぐいと来るなとユウノは微笑みながら思う。


(たしかに大剣で薙ぎ払うのは気持ちいいだろうけどそれを日本刀愛用の俺に言うか……)


日本刀という武器は基本的に一撃の威力よりも様々な攻撃による手数での攻撃をするための武器である。

たしかにその切断するという事柄に特化しているため、一撃で相手を倒しているように見えるがその実、ただの日本刀で相手を一撃で倒すにはレベル差が無ければ成し得ないのだ。


「まぁ、たしかにロマンはあるな」


ユウノはオウジの言葉に同意の返事を返す。

日本刀を使っているからと言ってその他の武器を蔑ろにしている訳では無い。

むしろ大剣で数多くの敵を薙ぎ払うということに関しては魅力を感じないでもないのだ。


「でしょう?でしょう?

……そうだ!

もし良かったらこのあと一緒にどうですか……??」


オウジは期待に満ちた視線をユウノに向ける。


「あ〜……悪いけどちょっと無理だな……。

このあとギルドメンバーのためにやらないといけないことがあるから付き合えないんだ」


ユウノは苦笑いを浮かべてやんわりと自分は一緒に行けないと言うことを伝える。

そもそも狐面を付けているため表情を把握することは出来ないだろけれど、声のトーンには変化があるため割と大切なことである。


事実、このあとに【レイドボスモンスター】の情報収集をするのだから嘘は言っていない。


「そうですか……残念です……」


期待していた分落胆もする。

オウジは早々上手くはいかないかと言いたげな表情で言う。

しかし、次の瞬間には表情を切り替え、話題すらも別のものに変えていた。


「所で『ユウノ』さんっ!

お礼の件なんですけど!!」


ユウノはやはり来たかとオウジの話に一瞬苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるも、自分の付けている狐面のお陰でそれがオウジに伝わることはなかった。


「気持ちだけで十分だ。

それにそんな別の人たちからもお礼をされるほどの事をした覚えはないからな」


「そんなことないですよ!

俺たちは『ユウノ』さんに助けられてその上武器とかアイテムまで譲ってもらったんですから!」


オウジは自分の背中にある大剣を指しながら食い気味に返す。


「これはみんなでお礼をしないとってなってるんですよ!

だから会ってもらえませんか?

ほんの少しでいいので!是非!」


ため息が出そうになるのを寸前で堪えるユウノ。

あまりのしつこさにため息を吐きそうになったのである。

ユウノはこほんと咳払いをすると今度はキッパリと伝える。


「悪いけど本当に暇がないんだ。

嫌味になるかもしれないけど一応これでも【高天ヶ原(たかまがはら)】のギルドマスターだからな。

やることが次から次に出てくるんだ。

だから今回のことは本当に気待ちだけで十分だ。

悪いけど他のメンバーたちにもそう伝えてもらっていいかな?」


「……そうですか……残念です……」


ユウノのはっきりとした拒絶にオウジはしゅんとした態度になる。

流石に可哀想かとも思ったユウノだったが、これ以上学校で変なことを言われては堪らないため此処は堪える。

もしこれでユウノが行きでもしたら、学校でどんなことを言われるか。

しかも本人たちは知る人が誰もいないだろうと高をくくってあの様な嘘話をしているのだから聞いてる方としては頭が痛い。


「それじゃぁ、俺はこれくらいで。

もし大剣についてアドバイス欲しかったら気軽にメッセージを送ってくれていいから。

高天ヶ原(うちのギルド)】の大剣使いにコツでも聞いておくからさ」


それだけ言い残すとユウノは足速にオウジの元を去った。

これ以上あの場に残っていると粘られそうな気がしたからである。






オウジが見えなくなった辺りでユウノは深いため息を吐き出す。

今まで貯めていた分を全て吐き出すかのように。


「……本当に面倒くさいプレイヤーとフレンドになっちゃったな……」


あの時の軽率な自分の行動に喝を入れたいとユウノは後悔する。


「取り敢えず……情報収集か……」


ユウノは頭を切り替えると本来の目的を達成しようと動き出す。

ウインドウを開き、再びメモをしていた場所を見ていく。


しばらく戦っていないとはいえ、1度戦ったモンスターの行動パターン位は頭に入っている。

何せギルドランク1位の【高天ヶ原(たかまがはら)】のギルドマスターなのだ、所々曖昧なところはあるかもしれないが、それくらいは出来て当然と言ったところだろう。

いくら【十二天将】から引きこもりだのと言われてもその事実は変わることは無い。


ユウノはなるべくしてギルドマスターになったのだから。






「……あれぇ〜?

こいつの行動パターンってこれであってたっけ……??」


明らかに自信なさげなユウノの声が漏れる。

箇条書き形式で書かれた【レイドボスモンスター】の行動パターン。

割と細かに書かれているようにも見えるがユウノは納得していないらしい。

何か忘れているはずだと記憶を探るが出てこない。


「え〜っと……此処は薙ぎ払いで……囲まれると範囲攻撃が……あれぇ〜……??」


何処かしっくりこない内容にユウノは頭を悩ませる。












「―――――マスター、そこの囲まれた場合範囲攻撃の部分に残り【HP(ヒット・ポイント)】が少ない場合は状態異常を付与させる攻撃も混ぜてきます」


「あぁ!それだ!

何か足りないと思ったら……ってえぇっ!!?」


ユウノは突然隣から聞こえてくる少女の声に飛び上がって驚く。

バクバクと早くなる鼓動を抑えるように胸に手を当てて声の方を向く。


「……?

どうかなさいましたか?マスター」


こてんと首を横に倒して疑問符を浮かべている無表情な少女。

その美しい濡羽色の黒髪は下ろされていた。


「い、『イカルガ』……お、お前いつからそこに……?」


「マスターがあの初心者プレイヤーから離れた辺りから居ましたが?」


何を当たり前のことを聞くんですかと言わんばかりのイカルガの声にユウノは頬が引き攣るのを感じる。


「……『イカルガ』といい『ユウギリ』といい、何でこう突然忍び寄ってくるんだよ……」


「忍び寄っているつもりは無いのですが……」


「もう音もたてないで行動するのが染み付いてるんだな……」


ユウノはそれはもう仕方が無いかと諦めの姿勢を見せる。


イカルガは取得しているメイン職業、サブ職業にあわせてロールプレイをするプレイヤーだ。

流石にそのメイン職業の特殊さ故にメイン職業に合わせたロールプレイはしていないものの、サブ職業を忠実に再現しているため、このような外観や、行動を取っているらしい。

ただ唯一、戦闘時においてはメイン職業のロールプレイを少しだけしているらしい。


「マスター。

情報収集なら私がやりますのでお任せを」


ユウノの前で跪いてそう言うイカルガ。

初めはこのような行動をユウノも止めていたのだが、ロールプレイの一環だと頑なに止めなかったため、ユウノもそれを受け入れている。


「まぁ、今回はたまたまだ。

何時もは『イカルガ』に任せてるだろ?」


「そうですが……しかし……」


イカルガは不満気に言葉を濁す。

どうやら自分の仕事をユウノがやってしまったため、何となく自分の利用価値が下がってしまったのかと心配しているらしい。


しかし、ユウノがそんなことに気がつくわけもなく。

だがそれでもユウノは無意識の内にフォローしているのだ。


「『イカルガ』のことを本当に信用してるからこそ、こういう誰でも出来る仕事じゃなくて、『イカルガ』にしか出来ない仕事をやってもらってるんだ。

―――――頼りにしてるぞ『イカルガ』」


「はいっ!」


何時もは無表情なイカルガだが、このようにユウノ褒められると微笑みを浮かべる。

ユウノ的にはそのような微笑みをいつも出来ればもっと可愛らしいのにと思っているため、何度かその旨を伝えたものの、イカルガの反応は何時も『善処します』なのだ。


ユウノは背伸びをするとなるはずのない関節がぱきぱきとなるのを感じる。

勿論ゲームの中のため、そのような事は起きない。


「さて、『イカルガ』」


「はい、何でしょうマスター」


「ギルドホームに帰るか!」


今日一番の笑顔でユウノは言う。

やはりユウノのホームグラウンドはギルドホームのギルドマスタールームらしい。


「了解しました」


イカルガは短くそれだけ返すと、嬉しそうにギルドホームへと向かうユウノの少し後ろをついて行く。

これがアマネやユウギリだと、ギルドホームではなく、クエストに引きずられていくのは火を見るよりも明らかである。













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