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猫娘

『先日助けてもらった者です。

お礼をしたいのでまた会えないですか?

他の仲間もお礼を言いたいと言っているので時間がある時を教えてください』


ユウノは送られてきたメッセージを読みながらギルドマスタールームに設置された畳の上で寝っ転がっていた。


「あ〜……」


送り主は見慣れないプレイヤーネーム。

しかしそれが誰なのかは分かっている。

自分のクラスメイトの5人組のうちの1人だ。


(他の仲間=他のクラスメイトでお礼=会ってみたい……だな)


学校での会話を知っているため、ユウノはこのメッセージの意味をしっかりと理解していた。


「……はぁ……」


深いため息を吐く。

一言で言えば『面倒くさい』のである。

このメッセージにうっかり会えるなどと返信してしまった日には何とかしてユウノの素顔を見ようと行動を起こしてくるだろう。


「……はぁ〜……」


先程よりも深いため息を吐く。

メッセージが表示されているウインドウを閉じると大の字で寝っ転がる。


「……何て返信したものかな……」


言ってしまえば会うくらいなら別に問題はないのである。

しかし、問題なのはその先。

会った後のことだ。


「はぁ〜……」


ため息が止まらない。

これが何か問題を起こしたり、害悪なプレイヤーからのメッセージだったらスルーする一択なのだが、ユウノの性格上、少々下手に出られるとスルーして返信しないという訳には行かないのだ。




「―――――ギルマスがまたひきこもってるにゃ〜!」


畳の上でゴロゴロとしていると、ギルドマスタールームの入口である襖が少しだけ開かれ、聞きなれた声が聞こえる。


「何度言ったらわかるんだ。

俺は引きこもっているのではなくのんびりしながらアイテムの整理などをやっているんだ!!」


「……でも今はごろごろしてるんだにゃ〜……」


少しだけ開かれた襖の方をユウノが見ると隙間から予想通りの猫耳が見える。


「痛いところを突いてくるな……。

というか、入ってこいよ『マリィ』。

何か用事があったんじゃないのか?」


「にゃ〜……特に用事があったわけじゃにゃいんだにゃ〜」


今度は襖をしっかりと開いて、ギルドマスタールームの中に入ってくるマンチカンのような猫耳を持つマリィ。

ユウノはマリィが入ってくるのと同時に体を起こす。


「へぇ?

じゃぁ今日はお喋りにでも来たのか?」


「当たりにゃぁ〜」


畳で座っているユウノの隣にトコトコと歩いてきたマリィは女の子座りで畳に腰を下ろす。


「今日はみんな忙しそうだったから此処に来たのにゃ。

ギルマスなら何時でも暇だって分かってるから来やすいのですにゃぁ〜」


まるで猫が顔を掻くように自分の髪の毛を撫でるマリィ。


「暇って……俺だって忙しい時はあるんだぞ?」


「やることがあってもすぐに片付けるか他の人に任せるギルマスにゃら暇なはずにゃぁ〜」


「……本当に痛いところを突いてくるな……」


引きつった笑みを浮かべるユウノ。

マリィはそれを少しも気にしていないらしく猫のように背伸びをしていた。


「やっぱり此処は落ち着くにゃぁ〜。

流石は引きこもりのプロなギルマスの部屋にゃぁ〜……」


「誰が、引きこもりのプロだ、誰が!」


部屋の中のレイアウトを考えたのはユウノ自身である。

ユウノが寛げる空間を作るために自分で集めたお金や素材を惜しみなく使用したのがこのギルドマスタールームだ。


本来ギルドマスタールームはギルドマスターが入室毎に許可を出さなければ入れないのだが、【高天ヶ原(たかまがはら)】のギルドマスタールームは【十二天将】やユウノが許可したプレイヤーは好きなときに訪れることが出来るようになっている。


「こんな寛げる部屋に居たら引きこもるのも納得にゃぁ〜……」


マリィは抑えきれないというふうに大きな欠伸をする。

それに釣られてユウノも欠伸を出した。


「でも……せっかくゲームの中にゃんだから引きこもるのは勿体ないにゃぁ〜」


「だから引きこもってないって」


「本当に強情にゃんだから〜」


ため息を吐くマリィ。

このやり取りはマリィがギルドマスタールームに来る度に行われている予定調和のようなものだ。




「それでギルマスは何をため息ばっかり吐いてたのにゃぁ?」


突然振られたきちんとした話題にユウノは反応が遅れる。


「……ん?あ、あぁ……ちょっとな。

どう返信したものか悩むメッセージが来てな」


「にゃぁ??

他のギルドのギルドマスターからかにゃ?」


首をこてんと横に倒して疑問符を浮かべるマリィ。

ユウノは手を振って軽い声でそれを否定する。


「違う違う。

そんな大切なメッセージじゃないない。

ただ、この前気まぐれに助けたプレイヤーからお礼させてくれってメッセージが来たからな。

それだよそれ……」


「にゃぁ〜んだ……。

それにゃら普通に気持ちだけで十分です、って送ればいいだけにゃ」


「まぁ、そうなんだけどな……」


ユウノは再び畳の上で寝転がる。

そんなユウノの姿を見たマリィはため息ついでに立ち上がる。


「ギルマスギルマス。

ちょっと気分転換に遊びに行こうにゃ。

最近いい感じのスイーツを出すお店を見つけたのにゃぁ〜」


ユウノの手を引いて早く行こうと伝えるマリィ。


「……そのままクエストに連れて行ったりしないだろうな……?」


「にゃはははは。

私は『アマネ』とか『ユウギリ』みたいなことはしないのにゃぁ〜。

ほら、取り敢えずそのメッセージに早く返信するにゃ!」


「わ、わかった!

分かったからそんなに俺の手を引くな!」


ユウノはマリィに何度も引っ張られる手を何とか離してもらい、素早くメッセージの返信を打ち込む。


『悪いけど今はギルドの方が忙しいからお礼は気持ちだけで十分だよ』


短い文章を打ち込み終えると、間髪入れずに送信する。

それを確認したマリィは再びユウノ手を取って早く早くと急かすように引っ張った。

ユウノはそれが微笑ましく感じてきたのか、笑みを浮かべて畳の上から立ち上がるのだった。






「そう言えば本当に用事なかったのか?」


「にゃ?

それは本当にゃぁ〜。

そもそもギルマスのところに来てるのは大体のんびりしたいからにゃ〜」


「……ギルドマスタールームは休憩室じゃないぞ?」


「年がら年中引きこもる部屋でもないのにゃぁ」


「……だから痛いところばっかり突いてくるんじゃない……」


「痛いところしかないギルマスが悪いのにやぁ〜」


「……『マリィ』は自由入室禁止にしようかなぁ……」


「にゃっ!?

そ、それはヒキョーにゃっ!

あれほど快適な休憩室はにゃいのにゃぁっ!!!」


「だから休憩室じゃないっていってるだろうが!」













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