職業
『World Of Load』において、最初の職業選択というのは最重要の事柄である。
先にも述べた通り、この『World Of Load』では1度メイン職業に選択した職業は変更することができない。
ただ一つ例外が存在するとすれば、選んだ職業からなることの出来る上位職業への転職のみだ。
そして、メイン職業とは別のサブ職業。
これは5つまで選択することが可能で、メイン職業とは違い、決定後の変更も可能である。
ただし、1度変更してしまった場合、いくら変更前のレベルが高くても、再びレベル1からレベル上げをしなければならない。
このサブ職業のお陰で『World Of Load』では例えメイン職業が【戦士】であっても、サブ職業が【魔法使い】なら、条件さえ揃っていればそのレベルで使える魔法は使用できるのだ。
それによって、メイン職業を隠しつつ、多彩なプレイヤースキルを駆使してサブ職業のみでプレイするプレイヤーも存在する。
そんなプレイヤー達がメイン職業を隠す理由は―――――『情報を与えないようにするため』。
対人戦もあるこの『World Of Load』では出来る限り有利に進めるために、自分のメイン職業の情報を秘匿するプレイヤーが多いのだ。
そんな『World Of Load』に存在する職業は大きく分けて4つある。
一つは誰にでもなることの出来る【基本職業】。
攻撃職の基本である【戦士】であったり、魔法職の基本である【魔法使い】、サポート職の基本【鍛冶屋】などである。
次に、【基本職業】のレベルを上げ、ある程度の条件をクリアして転職することの出来る【上位職業】。
【戦士】のレベルを30まで上げ、いくつかのお題クエストをクリアした後になれる【騎士】であったり、【魔法使い】のレベルを40まで上げ、指定数までの魔法を覚えることでなれる【魔術師】など。
3つ目は、【上位職業】のレベルを最低でも80以上にし、なおかつ指定の条件をクリアした後に、発生したソロクエストを受けてやっと転職することができる【最上位職業】。
メイン職業の【騎士】のレベルを80以上にし、さらにサブ職業で【魔術師】を取得している状態で、指定モンスターを【聖属性】の攻撃で倒すことで転職可能な【聖騎士】。
そして、最後に、【最上位職業】のレベルを100まで上げきった後に、最早不可能ではないかと言わんばかりの条件を満たすことで転職可能な【専用職業】。
この【専用職業】という職業は誰にでもなれるという訳では無い。
【専用職業】というのは一種類につき、1人しか転職することが出来ないものであり、『World Of Load』というゲーム上で、同じ【専用職業】を持ったプレイヤーは100パーセント存在しないのである。
それ故に、【専用職業】というものはかなり強力な職業なのだ。
確かに転職するまでの条件が圧倒的に難しいが、もし転職することが出来れば確実に強大な力を手に入れることが出来るのである。
―――――ちなみに、ギルドランク上位のギルドマスターは、その殆どが【専用職業】持ちのプレイヤーだ。
―――――『トウキョー』市街地外・森
木々が生い茂るその場所で3人のパーティーは戦闘を開始していた。
「【狐火】ッ!!」
夜色の長髪を踊らせながら白銀の鉄扇と漆黒の鉄扇を振るい、蒼い焔を打ち出す―――――アマネ。
現在討伐しているのは推奨レベル45の【ホワイトウルフ】群れを成して襲ってくるのが有名なモンスターである。
「『ユウノ』!ごめん射ち漏らした!」
そういうアマネの表情は申し訳なさそう―――――ではなく、にやにやとした表情だった。
それもそうだろう。
ギルドランク1位のギルドに所属しており、【十二天将】という聞くからに強いであろう地位にあるプレイヤーが、たかだか推奨レベル45の【ホワイトウルフ】程度を射ち漏らすはずがないのだ。
「てんめぇ……!!
何メイン職使ってねぇんだよ?!
しかも鉄扇とか……射ち漏らす気満々じゃねぇか!!!
だぁ、もう!!うっとおしい!
『ユウギリ』!!手伝え!!」
襲いかかってくる【ホワイトウルフ】を日本刀を使い一太刀で切り伏せるも、その数の多さにイライラしてきたであろうユウノは手の空いているユウギリに声をかける。
「うふふふふ……わっちは【付与術師】でありんすから……。
非力な女の子に変わってお願いしんすね?」
しかし、艷やかに笑うユウギリは袖で口元を隠しつつ穏やかにそう言った。
「お、お前もメイン職使う気ねぇのか?!!!」
ユウノはそう叫びつつも冷静に【ホワイトウルフ】の群れを切り伏せていく。
「―――――てか、さっきから増えてんぞ?!
『アマネ』お前、射ち漏らすどころか俺の方に誘導してるだろ!?」
「バレちゃったかしら?
イイじゃないの、運動不足解消よ運動不足解消」
悪びれもせずにアマネは鉄扇をたたんでひらひらと振っていた。
「あぁ〜……!!
もう面倒くさいッ!!!」
我慢の限界が来たのか、ユウノは先頭の1匹を切り伏せると、バックステップで【ホワイトウルフ】から距離を取った。
ユウノは1度日本刀を納刀すると低く、低く腰を落として柄を握った。
そして、襲いかかる【ホワイトウルフ】の群れを一瞥すると、一つ息を吐き、
「―――――【飛燕】ッ!!!」
その名前とともに抜刀、横一閃。
たったそれだけの動作で襲いかかってきていた【ホワイトウルフ】の群れは日本刀の軌道上をなぞるかのように切り伏せられていた。
「……はぁ……」
【ホワイトウルフ】の群れ全てが倒された証であるポリゴン体になるのを確認したユウノは、今まで使っていた日本刀を切り払い、納刀し、溜息を吐く。
「おぉ〜相変わらず鮮やかねぇ〜」
「まさに一網打尽でありんすな」
ぱちぱちぱちと2人は拍手をしながらユウノの技―――――【能動型能力】に感心する。
【能動型技能】とは、各職業に存在するレベルごとに修得できる【MP】を消費して使用する『必殺技』のようなものである。
この【技能】には種類があり、先程のユウノの使った【飛燕】は【能動型技能】に分類され、その他には【恒常型技能】というものが存在する。
そして、【技能】とは別に【魔法】、【魔術】なども存在している。
「ったく……お前たちが手伝ってくれれば楽できたのに……」
「いいじゃない。
私のメイン職は魔力消費が悪いんだもの」
狐耳をピコピコとさせながら、やれやれと首を振るアマネ。
「わっちはそもそも肉体労働は専門外でありんすから。
『さぽーと』専門でありんす」
ユウギリは微笑みながらそう言ってまたしても艶やかな笑みを浮かべる。
「えぇぃ!!
ユウギリ!お前はわざとか?!
わざとそんなエロい顔してんのか!?
こちとら真っ盛りの高校生だぞ!?目に毒だわ!!!!」
「残念ながらこれは標準装備でありんすから……。
うふふ……『お相手』してあげんしょうかぇ?」
元から胸元を強調しているユウギリの花魁を彷彿とさせる服装に、ユウギリ自ら胸を持ち上げる仕草を取ったため、こぼれ落ちそうなその胸がユウノの視界を襲う。
「―――――こらっ!『ユウギリ』!
『ユウノ』がその気になっちゃったらどうする?!」
ユウギリの頭をすぱんっと小気味の良い音を立てて叩くアマネ。
「痛いでありんす……。
冗談に決まってるでありんしょう?
それに、『ゆうの』なら大丈夫だと分かってやってるんでありんすよ?」
アマネに頭を叩かれたユウギリは叩かれたところを撫でながらそう言った。
そんな二人の姿に咳払いを一つ吐いたユウノは頭を掻きながら言葉をこぼす。
「あ〜……それは信じてるって意味で捉えとくわ……」
「そうしておいてくんなまし?」
口元を隠してクスリと笑うユウギリの姿に苦笑いのような表情を浮かべながら帰路に着くユウノであった。
「―――――ちょっと待ちなさい?」
「―――――少ぅし、待ってくんなまし?」
帰路に着こうとしていたユウノの両側から、アマネとユウギリの声。
そして、ユウノの左右の腕は二人にがっちりと抱き込まれてしまう。
既視感のある二人の行動に表情が引きつっていくユウノ。
「な、なんだ?二人とも?
そんなに密着されると二人の立派なお餅が俺にダイレクトアタックをだな……」
「……ばか……当ててんのよ?」
「無粋でありんすねぇ?」
聞き方によってはドキドキするシチュエーションではあるが、その時のユウノは別の意味でドキドキしていた。
「小心者の俺にはちょーっと刺激が強いかなー……なんて……。
離れてくれないかね……???」
「嫌よ?貴方、こうでもしないと帰るもの」
「ふふふ……まだ帰さないでありんすよ?」
二人の言葉にがくりと項垂れるユウノ。
この感じだと当分は帰らせてはくれないようである。
「そもそもゲームの中で引きこもっても意味無いでしょう?」
「そうでありんす。
わっちたちがこうやって連れ出さないと直ぐに引きこもってしまいんすから……」
「俺の勝手だろ?!!」
「自分のギルドのギルマスが怠惰なのは見過ごせないわ」
「このままでは他の『ふれんど』に紹介できんせん……」
「……お前らギルマスに対して辛辣すぎるぞ……」