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無知

―――――【双葉学園】高等部2年教室


「おいおいおい!今日放課後暇?」


「なになに?

どうかしたのかよ」


「『World Of Load』でさ、良い狩場見つけたから一緒に行かね?!」


ユウノ―――――裕也が昼休みに弁当を食べているとどこからかそんな声が聞こえてくる。

少し視線を動かしてみれば男女混合の5人組が『World Of Load』についての話をしていた。


「ホントに〜?

私レベル上げれなくて困ってたんだよね〜」


5人組のうちの女子生徒がポツリという。

確かあの5人組は最近『World Of Load』を始めたと得意気に語っていたな、と裕也は思い出す。


「いや、マジで良い狩場だから!

ドロップも美味しいんだって!」


「それどこなんだよ」


「『トウキョー』のダンジョンの入口より奥にある森!!」


そこで裕也の箸が止まった。

ダンジョン入口よりも奥の森と言うとそこそこ『World Of Load』をプレイしているプレイヤーたちには有名な場所だ。

―――――曰く、『トラウマ製造場』。


出現(ポップ)するモンスターが日によって変わり、その都度レベルも変動するため、運良くレベルの低いモンスターが出現(ポップ)した時にそこでレベル上げをしていた初心者プレイヤーが意気揚々と別の日に向かうと、到底叶うはずのないモンスターに虐殺され、『World Of Load』から離れて行ってしまったという話が一時期流れた。


裕也はその事を思い出し、彼らもそれの二の舞になるのではと考え忠告しておこうかと思うが、しかし、彼らがその忠告を素直に聞くタイプの人間では無いのを思い出す。

そしてさらに、自分が『World Of Load』をプレイしているものの、ほとんどログインしかしていない幽霊プレイヤーということにしているのもあり、そんな自分の話を聞くことすらしないだろうとため息を吐いて、再び箸を動かし始めた。


「じゃぁ、今日もいつものとこに集合な!」


「ゲームなんてって思ってたけど『World Of Load』はハマっちゃうね〜」


「最近俺らハマり過ぎだろ!」


「てか、俺らレベル上がるのも早くね?

これならそのうちサイキョーになれるっしょ!」


「それ言えてる〜」


なんとも馬鹿らしい会話に裕也は頭を抱えそうになりつつも、関係の無いことだと箸を進めた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「―――――ただいま……っと……」


誰もいない家の中に裕也の声が溶けるように吸い込まれる。

玄関で度のないメガネを外し、いつもの靴箱の上の置き場所に置くと、靴を脱いで真っ先に自室に向かう。

リュックサックを机に放り投げ、制服のボタンを全開にすると、ベッドに倒れ込む裕也。


もともと引きこもり体質のある裕也は学校が嫌いである。

頭もそれほどに良くない上、仮病での欠席が多いため、成績も右肩下がりなのだ。

唯一テストでは赤点は取っていないため補習などは受けないのだが、やはり成績は悪いので、学校の先生たちの間での印象は『問題児』となっている。


裕也は枕にしばらく顔を埋める。

擦りつけるかのように枕に顔を埋めると顔を横に向け、時計の方を見た。


(……アイツら大丈夫かな……)


ふと思い出すのは今日の昼休みに馬鹿な話をしていた5人組。


(もし今日出現(ポップ)するモンスターが強かったら……)


特に絡みもない5人組だが、『World Of Load』の話となるとまた別だ。

あの『トラウマ製造場』が理由で『World Of Load』を辞めた初心者プレイヤーたちは口を揃えて『World Of Load』というゲームを罵倒、批判するのだ。


古参プレイヤーやある程度プレイしているプレイヤーならば、その言葉は響きもしないどころか、自業自得だと割り切るのだが、まだ始めたばかりの初心者プレイヤーは書かれたり言われたりする批判内容に流されて『World Of Load』を離れてしまうということがたまに起きてしまう。


恐らく、昼休みに話していた5人組も批判する側に回るだろうと裕也はため息を吐きつつ考える。


「……仕方がない……」


裕也はゆっくりと起き上がると『World Of Load』へログインするために準備を始める。

制服を脱いで楽なジャージ姿になるとベッドに横になり、『World Of Load』を起動させた。


(……まぁ、何もなければ別の事すればいいか……)


様子を見るだけ見に行こう。

裕也はその考えの元、『World Of Load』の世界に飛び立った。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






―――――『トウキョー』【渇きの森】




【ニッポン】中心都市『トウキョー』の都市ダンジョン入口よりさらに奥。

そこには【渇きの森】と呼ばれる場所があった。

中に入ればそこは昼でも薄暗く、空を見上げても木の枝と葉が邪魔して青空などほとんど見ることが出来ない。

たまに開けた場所があり、そこに陽が差し込んでいる程度だ。


この場所にはモンスターが多く出現(ポップ)するため、レベル上げをするにはそこそこ良い場所となっている。


―――――しかし、此処には注意しなければならない点がいくつかある。


この【渇きの森】に入る以前の場所周辺の出現(ポップ)するモンスターは、まるで縄張りでもあるかのようにレベル事に場所分けされている。


例えばモンスターが出現(ポップ)しない『トウキョー』という都市の岩壁の外側のすぐ近く。

此処には初心者プレイヤーでも倒せるであろうレベル帯のモンスターが出現(ポップ)する。


そして少しずつ離れるにつれてレベルが上がって行ったり、ある特定の場所に高レベルモンスターが出現(ポップ)するのだ。


ほとんどの場所がこのように情報さえ集めれば自分のレベル帯にあったモンスターを倒しに行ける。


だが、稀にだがそれが通用しない場所が存在する。


その一つに挙げられるのが【渇きの森】だ。


此処は特殊で、日によって出現(ポップ)するモンスターの種類も、レベル帯も変動する上に、奥に行けば行くほど強いモンスターが出現(ポップ)するという訳では無い。

入った瞬間、その日出現(ポップ)する最高レベルのモンスターと出くわす可能性もある、そんな場所なのだ。


【渇きの森】は推奨レベルが50以上は必要だと言われているが、まるで嫌がらせのように、慢心させるためのように、初心者プレイヤーでも倒せるレベルのモンスターも出現(ポップ)する。


そして、油断して長時間そこで戦闘をしていると……いつの間にか、自分では倒せないレベルのモンスターに囲まれるという事態がおきるのだ。


今ではそう言った情報が割と集めることが出来るため、あまり初心者プレイヤーは【渇きの森】には行かないのだが、たまに人の話を聞かない慢心した初心者プレイヤーが【渇きの森】を訪れるのだ。


―――――そして、圧倒的な力の前に殺される。






「此処本当にいい狩場だなぁ!」


まるっきり初心者装備の男女混合の5人組は【渇きの森】でモンスターと戦っていた。

出現(ポップ)するのは自分たちと同じレベル帯のモンスターにも関わらず、割と楽に倒せる上に経験値もいい。

勿論攻撃が当たれば死にかける程度に【HP(ヒット・ポイント)】は減ってしまうが、そこは運動神経だけは良いため、ある程度躱すことができた。


「いい物も手に入るし、レベルも上がるしで……えっと……なんだっけ?こういう時に使うコトワザ?」


少女は考える様に頬に指を当てる。


「『一先に朝』じゃね?!」


「ばーか『イッセキニチョー』だろ」


合っているのに、何故か漢字変換されていないように聞こえることわざが少年の口から出される。


「おぉ!それだそれ!」


その場にいる男女混合の5人組はそれだけでけらけらと笑った。

他人から見ればなんと頭の弱そうなグループだろうか。

空耳だろうか、その場には男女混合の5人組しかいないのに、他の人間のため息のようなものがその場に吐き出されたようにも感じる。


「もっと倒そーよ!」


「そうだな!

めっちゃレベル上がったし俺たちならヨユーっしょ!」


そう言って、さらに【渇きの森】の奥へと向かう。

辺りはさらに薄暗くなり、男女混合の5人組はモンスターを倒しつつ、どんどんと奥に進んで行く。


そして突然、開けた場所に出る。

頭上は開けており、陽の光が差し込んでいた。


「……お、おい?

あそこになにか居ないか……?」


男女混合の5人組のうちの1人が何かに気がついたように指を指す。

指を指した方向を全員が向くと、そこには1本のひときわ大きな大樹があった。


―――――そして、その前に1つの巨体。

緑色と言うより黒に近い色の肌をした巨体だ。

その周りをよく見てみると、強そうな武器が幾つも地面に刺さっていた。


5人はそれを見ると一瞬怪しんだものの、今日の自分たちの調子の良さを思い出し、何を思ったのか、自分たちなら大丈夫だと言い出す。


「アレを倒せなくても最悪武器だけでも取れたらイイっしょ!」


「そ、それもそうだね!」


「俺たちならダイジョーブダイジョーブ!」


「今日は負け無しだしね!」


「というか、今まで死んだことないしぃ!」


5人全ての意見が纏まったところで、行動を開始した。


行動と言ってもとてもシンプルなもので、作戦も何もなくただ真っ直ぐ目的の場所に向かうのだ。


あの黒緑色の肌をした巨体まであと5メートルと言ったところだろうか。

5人がそこまで来た時にその巨体は突然動き出した。

ゆったりとした動作で立ちあがり、その全貌を見せる。


「……でか……っ?!」


5メートル程だろうか。

その黒緑色の肌をした巨体は5人が想像していたよりも遥かに大きく、その頭部には真っ白な瞳が2つ付いていた。

堪らず5人のうちの1人がようやく確認できる距離に来たためその巨体―――――モンスターの名前などを確認する。






「……うそ……」


初めに確認したプレイヤーは顔を青ざめさせる。

そして、それに続いて他の4人も確認し同じように顔を青ざめさせた。






―――――『【トロール】レベル57』




5人組の平均レベルは26。

約2倍のレベルを持つモンスターともなれば流石の5人も顔を青ざめるというものだ。


そして、さらにもう1つのことに気がつく。

それも、最悪なことを。


「お、おい……囲まれて……ないか……?」


そう、目の前に1体しかいないと思っていた【トロール】は実は周りにも居たのだ。

その数全部で―――――7体。


戦って武器だけでも取ろうという考えから一転して何とか逃げようという考えだった5人に絶望が襲う。

トロールたちは5人が取ろうとしていた武器を適当に手に持ち、今にも襲いかかってきそうだった。


「こ、このゲームって死ぬ時どうなるんだ……?」


「わ、わかんねぇ……死んだことないし……」


「な、なんとかしてよっ!!」


「む、ムリムリムリ!こんなのおかしくなぃ?!」


「く、く、来るなーっ!!!」


まさに発狂したかのように叫び出す5人。

そんな5人に向かって、まずは1体のトロールがゆっくり、ゆっくりと近付いてくる。

その顔はニタリと笑っているように見えた。


『【トロール】レベル59』。

それが今5人に襲いかかろうとしている1体のトロールの情報。


トロールはその手に持った巨大な棍棒を大きく振り上げて、5人のうちの1人の少女に狙いを定める。


「……ぃや……いやだ……嫌だぁぁぁぁぁあ!!!!」


髪を振り乱して逃げようとするが、腰が抜けたらしく動けない。

トロールはそんなこと知ったことかと、その少女に向けて、棍棒を振り下ろした。











―――――ガギィィィイッッッ!!!










「―――――ったく……初心者がこんな所まで来てるんじゃねぇよ……」


少女に振り下ろされた棍棒は少女に当たることなく、一振の日本刀に阻まれていた。


「……へ……???」


少女は目の前に立つ1人の人物を見上げる。

落ち着いた色の和装に白の狐面。

その姿はどこかで見たことがあった。

少女は混乱する思考の中、その姿を思い出す。


―――――それはとても有名な存在。






「『ユウノ』……?」


「……本物……??」


「ま、マジかよ……」


「何でこんなところに……」


「すげぇ……」


5人は初めて見るその名前と見た目だけ知っている存在に様々な反応を見せた。


ユウノはそんな反応を見せる5人に目もくれず、目の前にいるトロールを処理するために動く。

受け止めていた棍棒を押し返し、日本刀によってその身体を斬りつける。

まずは動きを潰すために足を。

その次に動けなくなったために振るってくるであろう腕を一太刀のうちに斬り落とす。

そこまで来ればあとは簡単である。

身動きの取れないトロールの脳天を上段に構えた日本刀で斬り伏せ、トドメを刺した。


目を丸くしてその様子を見ていた5人。

ユウノは狐面で隠れた顔を5人に向けて言う。


「……ひとまず固まっててくれ。

俺は残りを片付けてくるから」


5人はその言葉に何度も頷くと身体を寄せあった。

それを確認したユウノはふぅ、と1つ息を吐き出して駆け出すのだった。












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