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本性

大変おまたせしました!!

リアルでの忙しさに一段落付いたので、明日からいつも通りの更新に出来ると思います!


これからもよろしくお願いします!

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒィッ!!!」


「あぁ……くそ……っ!

耳障りな笑い声を上げてんじゃねぇよ……っ!!」


1発、また1発と自分の危険域に放たれる【魔法】を斬り裂くユウノ。

実際の所、両の手に日本刀を持っての【斬消(ざんしょう)】は集中力をかなり使う。

いつもの状況であれば幾らかの余裕が持てるのだが、今回ばかりはそんなことを言っている暇すらない。

ランダムに撃たれる様々な【魔法】。

それは職業固有のものであったり、そうでなかったりである。

―――――つまり、全ての【攻撃魔法】をランダムに放たれているわけで、その放たれた【魔法】が何なのかを判断しつつ、ユウノは【斬消(ざんしょう)】を使って自分に危険の及ぶ【魔法】を選んで斬っているのだ。


「埒が……明かない……っ!!」


頬に汗を浮かべているかのように険しい表情で再び日本刀を振るう。

そして、自らのサブ職業の【技能(スキル)】を発動させた。


―――――【空歩(エア・ウォーク)】。


歩行者(ウォーカー)】というあらゆる場所を歩くという事柄に特化した、マイナーな職業が使用できる【技能(スキル)】だ。

その効果は至ってシンプルで『空を歩くことが出来るようになる』のである。


ユウノは空中に足を踏み出し、まるでそこに足場があるかのように踏み締めて空を駆けていく。

その機動は複雑で、縦横無尽に空中を駆け回っていく。

【魔法】を放っていた少女はその機動にイライラしながらも【魔法】を放ち続けていた。


しかし、当たらない。

先程までとは違い、ユウノは放たれる【魔法】をほとんど回避していた。


「ほら……行くぞっ!!!」


攻撃されっぱなしは割に合わないと、ユウノはぐっ、と足に力を貯めて一気に前に踏み出す。

ステータスのお陰か、職業の恩恵か、ユウノはまるで弾丸のように少女に肉薄すると、一瞬の間に四肢を斬り飛ばす。

勿論ダメージはないのだろうけれど、今度は四肢を透過すること無く斬り飛ばすことができた。

しかし、それは核を斬ったわけでは無いため、直ぐに再生する。


「……聖属性は効くか……」


淡く光る刀身を見ながら呟く。

それは【剣聖】でも【歩行者(ウォーカー)】でもない、別の職業による効果。


付与術師(エンチャンター)】。


ユウギリと同じく、【付与術師(エンチャンター)】を取得しているユウノであるが、ユウノの場合、他者への【付与魔法(エンチャント)】を全て切り捨て、自らの強化のみをできるようにした言わば完全ソロプレイ向けの自己サポート職業となっているのだ。


「……【MP】きっついな……」


空中を移動した【空歩(エア・ウォーク)】、刀身に聖属性を付与した【付与魔法(エンチャント)(ホーリー)】、少女と戦う為に使った【技能(スキル)】の数々。


元々【剣聖】という職業自体が【魔法】を使うことを前提とされていないため【MP(マジック・ポイント)】の最大値が少々少ない。

そのため、戦いの基本となる【刀剣系武器技能(スキル)】使用時に【MP(マジック・ポイント)】の消費軽減が適用される。

しかし、【魔法】での【消費MP(マジック・ポイント)】が少々大きくなるように設定されているのだ。


ユウノは自らのMP残量を考えつつ、あとどれだけ【技能(スキル)】を使用できるか考える。

少女に攻撃を当てるには【付与魔法(エンチャント)(ホーリー)】を使用しなければならない。

本来は回復アイテムを使用したい所だが、もしそんなことをしようものなら少女の【魔法】によって蜂の巣にされてしまうだろう。


詰むまで後何手だろうか?


ユウノはそう考えつつ、両の手の日本刀の柄を強く、強く握り締めた。


もしかしたら死ぬ(敗ける)かもしれない。






「―――――さいっこぉ……っ!!」


その笑顔は獰猛だった。

この状況を心の底から楽しんでいる、そういう笑い。

自分が死ぬ(敗ける)かもしれない、そういう場面で笑うそれがユウノの本性だった。


自らを『平凡』だと称するユウノであるが、ゲームの中ではそれは絶対に違うと言える。


事実、【高天ヶ原(たかまがはら)】の所属プレイヤーである【十二天将】、彼らから言わせればユウノというプレイヤーは確実に『平凡』ではない。


何処にギルドランク1位のギルドのギルドマスターをする『平凡』がいるだろうか。


何処にその名を知らぬものが居ないというレベルの存在になる『平凡』がいるだろうか。


何処に相性をも超越し、常勝となる『平凡』がいるだろうか。


ユウノにとっての『平凡』という言葉は現実世界の自分を枠に嵌め込むための言葉にしかなっていなかった。

『平凡』という言葉はゲーム世界では通用しなかったのだ。




ユウノは【付与魔法(エンチャント)(ホーリー)】を発動させて姿勢を低く構える。

それは一直線にただ早く駆け抜けるための姿勢だ。

一直線上にいる少女に向かって特攻を仕掛けるつもりなのだろう。

まるで時が停まったかのようにユウノと少女の間で沈黙、静寂が続く。











「―――――疾ッ!!!!」


「―――――ヒヒヒッッ!!!」


片や接近を、片や迎撃を、互いに理にかなった行動を取る。

ユウノは最低限の動きで少女から放たれる【魔法】を躱し、時には掠らせ、当たりながらも少女に接近する。

そしてユウノの間合いに入った。

距離にして少女から4メートル。

しかしユウノはまだ止まらない。


「ッッ!!」


少女は嫌そうな表情を浮かべてユウノから離れようとするがそれは叶わない。

少女が離れる速度よりもさらに早く間合いを詰めてくるのだ。

そして少女との間合いが2メートルを切ったその時、ユウノは日本刀を振るった。


ユウノが間合いを詰めた理由は2つ。

1つは少しでも近くから手数多い攻撃を叩き込みたかったから。

もう1つは、少女の【魔法】対策だ。


2メートルという近距離に先程までの規模の【魔法】を放てば少女自身も巻き込まれてしまう。

そのため、少女は威力は落ちるものの自分が巻き込まれないような規模の魔法を使うしかなくなったのだ。


「ほらほらほらほらほらぁ!!!!」


「ヒィィィィイギィィィィイッ!!!」


ユウノは少女の【魔法】を喰らいつつも日本刀を振るう。

その【HP(ヒット・ポイント)】は当たり前だがどんどん、どんどん減っていく。

だがそれは少女にも言えることだ。

核となる部分を高速で移動させているのだろうけれど、ユウノの連撃に少しづつ処理が追いつかなくなっている。

ユウノの手には何度も核を擦るような手応えが伝わっていた。


「俺のHPが尽きるのが先かッ!

お前の核が斬られるのが先かッ!

我慢比べと行こうぜッ!!!」


「ウルサィィイッッ!!!!」


少女から発せられた人間に近い声。

怒りから漏れ出したモノなのかは定かではないがユウノはその声を聞いてさらに振るうスピードを上げる。


―――――残量HP4割。


核を掠らせる手応えが増えるがまだ足りない。


―――――残量HP3割。


さらに振るう速度を上げるユウノ。

最早どう動くかを頭では考えていない。

どう振るえばさらに早くなるか、それを直感で感じ取っているのだ。

しかし、それでもまだ直撃しない。


―――――残量HP2割。


一瞬、直撃したかという手応えがあったものの、斬り落とすまではいかず未だ少女は倒せない。


―――――残量HP1割。


後数発貰えばユウノのHPが無くなるであろうその時、ユウノは捉えた少女の核を。

それと同時に、少女は特大威力の【魔法】を放とうと腕を振りあげた。


「道……づれだと……っ?!!」


1人倒されるくらいならば道づれに。

少女はそう考えたのか自分が巻き込まれるのも承知の上で目の前の敵であるユウノを排除しようとしたのだ。


ユウノはそれがわかっても尚、少女の核を斬り捨てる。

ピキッという水晶が割れるような音が伝わり、少女の姿が虚ろになる。

しかし、少女の放とうとしている【魔法】は消えることは無い。

ユウノは【斬消(ざんしょう)】を使用しようとするも、【MP(マジック・ポイント)】の残量が無いことに気がつく。


(巻き込まれて……死ぬ(敗ける)とか……)


なんとも納得のいかない決着だ。

先に少女を倒したのは自分だが、それでも自分も倒されてしまうというのならば、それは勝ちだと認めることが出来ないユウノは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。






「―――――『ユウノ』さん……っ!!」


その時、後方から自分の名前を呼ぶ声がした。

それは勿論アラタ。

骸骨たちの方を片付けたアラタが自らのステータスによる力技でユウノの方へ駆け寄ってきたのだ。

そして、まさに放たれようとしていた少女の【魔法】を横一閃で斬り捨てる。

アラタも【種族解放】と骸骨たちとの戦闘で【HP(ヒット・ポイント)】、【MP(マジック・ポイント)】ともにギリギリではあったがかろうじて【斬消(ざんしょう)】を使用するための【MP(マジック・ポイント)】は残っていたようだ。


少女は自らの最後の魔法を斬り捨てられ、道づれにすることが出来ないのを知ると、悔しそうな悲鳴を上げながらその姿を消していった。






―――――『QUEST(クエスト) CLEAR(クリア)!!!』


完全に少女の姿が消えた後、ユウノたちの前にウインドウが表示され、その文字が映し出される。


ユウノとアラタは深く息を吐き出し、身体から力を抜いた。

【敗北破り】を成し遂げると言うことはこれ程までに難しい。

ユウノは自らの【HP(ヒット・ポイント)】を確認する。


「ははっ……やばいなこれ。

俺、後1発【魔法】貰えば死ぬぞこれ」


「私も……俺もっ!後1発攻撃貰ったら死んでしまいますね」


どうやらアラタもユウノと同じく相当にギリギリだったらしく、互いにそう言って笑いあっていた。


「久々に死ぬ(敗ける)かと思ったわ」


「『ユウノ』さんのHPがそこまで減ったのなんていつぶりですかね……?」


「ん?そーだなぁ……ここまで減らされたのは……アイツとやって以来か?」


ユウノは回復アイテムを使用しながら自分をここまで追い詰めたのはいつ以来かを考え、そしてそれはある人物によるものだったと思い出す。

『アイツ』という言葉にアラタは嫌そうな表情を浮かべながらも納得するように頷いた。


「……あの人ですか……」


「アイツには俺だって絶対に勝てるとは言い難いんだよな……」


『アイツ 』というのは誰なのか。

ユウノとアラタの2人には名前を出さずとも伝わっているようだ。


ユウノの言葉にアラタは身を乗り出すように言う。


「そんなことありません!

どう考えても『ユウノ』さんの方が強いです!敗けないです!」


「おいおいおい……いくら何でもそれは過大評価だ。

俺にだって敗けることはあるんだぞ?」


「だけど……!!」


納得がいかないというふうなアラタの頭を優しく撫でるユウノ。


「まぁ、敗けることはあるかもしれないけど、俺は【高天ヶ原(たかまがはら)】のギルドマスターだからな。

そう簡単に敗けてやるつもりはないよ」


笑顔を浮かべながらアラタの顔を真っ直ぐに見つめるユウノ。

アラタは顔をふせてそれを受け入れていた。


「さてと……んじゃ、報酬の確認して帰るか」


「そ、そーですねっ!」


報酬が表示されるウインドウを視界の隅に移動させていたユウノたちはそのウインドウを正面に移動させて、自分たちの今回の報酬を確認するのだった。


「良い物あるといいなぁ」


「そ、そーですねっ!」


「何があると嬉しいよ?」


「そ、そーですねっ!」


「……『アラタ』……?」


「そ、そーですねっ!」


「…………」


そうですねとしか言えなくなったアラタの姿になんとも言えない表情を浮かべたユウノはしばらく放置すれば元に戻るだろうという考えの元、報酬が表示されているウインドウに手を伸ばすのだった。






―――――ユウノ、アラタ【敗北破り】達成。










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