クエスト
『World Of Load』には他のゲームと同じく、【クエスト】という要素が存在している。
この【クエスト】にはいくつかの種類が存在しており、それらを大まかに分けると3つに分けることが出来る。
指定されたモンスターを発見し、倒す―――――【討伐系クエスト】。
これは経験値効率が良いため、レベリングをするプレイヤーが多用している。
指定されたアイテムを入手してくる―――――【採取系クエスト】。
これは【クエスト】によってはレアな素材や情報などが手に入るため、生産系プレイヤーが利用している。
依頼主の護衛をしたり、物を作ったりする―――――【特殊クエスト】。
【討伐系クエスト】や【採取系クエスト】に比べて【クエスト】自体の数が少なく、クリア報酬が魅力的なものが多い【クエスト】である。
―――――大きく分ければこの3つである。
こういった【クエスト】は誰でも受けることが出来、受けるには基本的に各地の街に居る、依頼を出しているNPCに会いに行き、直接依頼を受注しなければならない。
つまり、NPCに会いに行き、話を聞くというのが【クエスト】を受けるための一種のイベントなのである。
しかし、中には限られたプレイヤーしか受けることが出来ない【クエスト】というのがいくつか存在している。
例えばレベル制限がある【クエスト】、種族の制限がある【クエスト】。
こう言ったものを俗に【制限クエスト】と呼んでいる。
次に、ある一定の隠された条件をクリアすることで、クエストへのイベントが低確率で発生する【隠しクエスト】。
他にもいくつか【クエスト】の種類は存在しているのだが、ほとんどの【クエスト】はこれらで説明できる。
ちなみに、【クエスト】の情報というのも売買されていることが多く、『World Of Load』というゲームでの情報の大切さというのが良くわかる仕組みとなっている。
そして、これは大切なのだが、『World Of Load』に登場するNPCたちは単なるそこに居る何かという括りではない。
NPC1人1人にAIが組み込まれており、まるでプレイヤーと会話しているかのように話をすることが出来る。
そのため、NPCから嫌われることなどをすると本来受けられるはずの依頼を受注することが出来なくなるということもあるため、一定基準でのコミュニケーションは必要なのだ。
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「―――――どうしたんだ?」
うずくまって泣いている少女に優しい声音を意識して声をかけるユウノ。
勿論、今までつけていた狐面は頭の横にずらしてある。
流石に狐面の男に声をかけられたら恐怖で固まってしまうだろうという配慮からだ。
「………………」
しかし、少女はうずくまって泣いたまま何も言わない。
それを見たユウノは自分ではダメかと、隣のアラタに視線を移すと、アラタはユウノが言いたいことがわかったのか頷く。
「何かあったの??」
少女の視線に合わせるようにしゃがんだアラタは柔らかな声でそう聞く。
すると今度は顔を少しあげて口を開いてくれる。
「は、はぐれ……ちゃっ……た……の……っ!」
「そっか……迷子なんだね」
アラタが何とか言葉を出した少女の頭を優しく撫でる。
少女への対応はアラタに任せた方がいいと判断したユウノは一歩下がり、アラタと少女の会話に耳を澄ませた。
「誰とここに来たの?」
「お、おかーさん……と……おとー、さん……」
「そっか……何処から来たのか分かるかな……?」
「あっち……ほう……」
少しづつ少しづつ少女から話を聞き出していき、場所を聞くと少女はある一方を指差した。
「あっちは……」
少女が指差したのは『トウキョー』の中心部側ではなく、その反対側、巨大な岩壁の方向だった。
ユウノはその方向に何があったかを思い出す。
しばらく行けば橋のかかった水路があり、その奥にNPCたちの暮らす家が立ち並ぶ場所、広めの墓地、巨大な岩壁、外に出るための門という順番で道が続いていた筈だ。
つまり、この少女をNPCたちの暮らす家がある場所まで案内すれば終わりなのだろう。
ユウノは全く難しくないただのお使いのような【クエスト】なのかと少々落胆する。
しかし、NPCとは言え泣いている少女を置いておくなどとは考えられないため、早く送ってあげようと、ちょうど良くこちらを振り向いたアラタに視線で訴える。
「―――――どうかしたんですか?」
「いや、伝わらないんかい!」
「???」
ユウノが何を言っているのか分からないという表情を浮かべたアラタは何とか泣き止ませることに成功した少女の手を握っていた。
「……取り敢えず、可哀想だから早く親のところに連れていこうっていう訴えかけだったんだよ」
「なるほど!
……流石にわた……俺も言葉にしてくれないとわからないです」
「戦ってる時はあれだけ視線で会話してるのにか?!」
「それはそれ、これはこれです」
そう言ったアラタは少女の手を暖めるように包んだ。
「結構な時間此処にいたんでしょう……手が冷たくなってるんですよ」
「そうなのか?」
手を繋いでいるものの未だに俯いたままの少女。
どうやら心細いという感情が大きく出ているのだろう。
そして、オドオドした様子で口を開いた。
「お、おにーちゃんおねーちゃんが付いてきてくれるの……?」
「お父さんとお母さんがいる所まで連れて行ってあげるから大丈夫だよ?」
「……わかった」
少女のその言葉を合図に2人の前にウインドウが現れる。
【迷子の少女】という名前の【クエスト】らしい。
「割と簡単そうな【クエスト】でしたね」
「まぁ、そうそう【隠しクエスト】なんて出ないか」
「こんな見つかりにくいところに来たから【隠しクエスト】かと思ったんですけどね……初心者向けの【お使いクエスト】って所でしょうか?」
アラタが少女の左手をユウノが少女の右手を握って歩き出す。
「しっかし……結構な冷たいな……。
寒くはないか??」
「だ、大丈夫……です……」
ユウノに声をかけられて少しびくっとする少女。
アラタはそんな少女の様子を見て言う。
「狐面が怖いんじゃないですか??」
「……そうなのか?」
頭の横、側面にずらされた白い狐面を触りながら少女の方を向くと少女が頷く姿が視界に入る。
「……狐面って可愛くないか?」
ユウノの呟きに少女は首を横に振る。
現在ユウノが装備しているのは何の効果もないただの魔除けの狐面なのだが、少女には少し怖く感じたようだ。
「仕舞っておいたらどうですか?」
「そうするか……」
頭の側面にずらされた狐面を取ると、ユウノは腰につけられたポーチ―――――【無限バッグ】に仕舞う。
「これで大丈夫……かな?」
「あ、ありがとう……ござい……ます……」
ちょっとした出来事を挟み、ユウノ、アラタ、少女は目的地に向かって歩み始めたのだった。




