マーケット
祝・ブックマーク6000件突破っ!!
始めた当初はまさかこんなたくさんの方に読んでいただけると思っていませんでした!!
今後とも楽しんでいただけるように頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!!!
『World Of Load』には数多くの装備品が存在している。
全職業を通して装備できる装備品もあれば、特定職業しか装備できない装備品も存在する。
―――――例えば【武器】。
上位職業の【侍】は【武器】としては日本刀に始まる『刀系統』しか装備することが出来ない。
しかし、その派生系最上位職業の【武人】は『刀剣系』であればなんでも装備することが出来る。
―――――例えば【防具】。
【防具】に関してはほぼ全ての【防具】が職業に関係なく装備することが出来るのだが、稀に、ある職業でないと装備できないものが出てくることがある。
―――――例えば【装飾品】。
これが一番条件指定が少なく、唯一あるとすればプレイヤーのレベルと言ったところだろう。
【装飾品】のみならず、装備品全てにおいて言えるのだが、その装備品を装備するにあたって必ず超えておかないといけないレベルというものが存在する。
そのレベルを超えていなければいくら他の装備条件が整っていたとしても絶対に装備することが出来ない。
いや、装備することが出来ないというのは誤りだろう。
正しくは、持ち上げることすら出来ない、だ。
装備品の指定レベルを超えていなければ持ち上げることさえ出来ない。
唯一できるのは獲得した装備を自分のインベントリに入れることくらいだろう。
しかし、インベントリも無限ではない。
収納出来るのは10個まで。
これは書いたままの意味で、同じアイテムだったとしても、それはそれぞれ1個ずつとカウントされる。
そう考えると10個しか入らないのは利便性に欠ける。
そのため、その他にアイテムを持ち運ぶ方法が存在しているのだ。
まずは装備しておくこと。
これは1番簡単で、インベントリに入れなくて済むように先に装備しておくというものだ。
次は【収納装備】を使うこと。
【収納装備】とは1人のプレイヤーに対して1つしか装備することが出来ない、アイテムを収納するための装備品である。
例えばアイテムの重量によって入れれる数が変わる【重量バッグ】、設定されたアイテム数まで入れることのできる【指定バッグ】等である。
【収納装備】で最も高性能なのは【人工遺物】である【無限バッグ】というアイテムだ。
このアイテムは『World Of Load』が発売された当初にのみ行われた特殊クエストでの報酬として配付されたアイテムのため、現在は入手不可能となっている。
その性能は他のアイテムと比べると破格ではあるものの、名前の通り無限に入る訳では無い。
容量は装備プレイヤーのレベルに応じて変化し、初めは50種で固定化されているのだが、例えばメイン職業、サブ職業を全て最大レベルまで上げきっているプレイヤーは400種までのアイテムを収納することが出来る。
これには重さなどが関係してこないため、400種までのアイテムならなんでも収納出来るのだ。
ちなみに、1種類のアイテムの保持数はそれぞれ最大数が決まっており、最高でも1種類につき50個までしか保持できない。
これがどれほど凄いかと言うと、他の【収納装備】は最大でも50種までしか収めることが出来ず、重さで表すなら【全身鎧】が5つ入る程度しかない。
しかもこれは【無限バッグ】を除いた最も高性能な【収納装備】の話であって、通常ならこの3分の1〜3分の2程度である。
そう考えると【無限バッグ】は破格の性能であり、多くのアイテムを運ぶプレイヤーは喉から手が出るほど欲しい装備品なのである。
例えばそう―――――『商人系プレイヤー』などは特に。
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長く続く1本の道の両側に様々なお店が建ち並んでいる。
正確な数までは分からないが、数え切れないほどと言って間違えないだろう。
店頭に立ち、その店の売り物であろう武器を片手に呼び込みをする屈強そうな男性だったり、恐らく飲食店だろうお店では可愛らしい女性が呼び込みをしている。
何処の店にも客であるプレイヤーがおり、値段交渉や依頼をする声が所々から上がっていた。
「此処はやっぱり賑やかですね〜」
そんな様子を見たアラタは変わりのないこの場所の状況に満足げに呟く。
「そりゃな。
それにこの辺りはまだある程度安い武器も売ってるし、そこそこ金を集めれた初心者プレイヤーとかも多いんだろ」
【マーケット】は出店場所によってお店の特色が違っている。
入口付近には最近出店したばかりのお店や初心者をそろそろ抜けることが出来るであろうプレイヤー向けの店が建ち並んでいる。
稀にまだ出店したばかりでそんなに有名になっていない、かなりいいものを売る店にも出会えるだろう。
そして、奥に行けば行くほど有名な店が増えていき、プレイヤーからの依頼を受けてからでないと武器を作らないというお店も存在している。
つまり、安定していい物をそれなりの値段で買うのなら奥の方へ、掘り出し物を見つけたいのなら入口付近のお店を見て回るのが恒例となっているのだ。
「どうしますか?
いつも通り奥の方へ行きますか?」
「別に今日は装備を揃えに来た訳じゃないからな……掘り出し物とか探してもいいんじゃないか?」
そういったユウノは辺りを見回してみる。
賑わっているとは言っても道をぎゅうぎゅうに詰めるほどの人数は居らず、そこそこの余裕を持って歩けるほどの道幅はあった。
「まぁ、のんびり見て回るかね」
「『ユウノ』さんらしいですね」
そもそもユウノたちならば、こう言った場所に買い物に来る必要性は低い。
何せ【高天ヶ原】にはそれなりの生産職持ちのプレイヤーも居るため、武器を所望なら作ってもらえばいいし、素材を欲しているのなら自分たちで取りに行けばいいのだから。
それでも【マーケット】に来るのはどう言ったものがどのようにどれくらいあるのかを何となくでも確認するためなのである。
「……それにしても……」
アラタは何処か不満げにユウノの方を―――正確にはユウノの顔を―――見つめて呟いた。
「どうかしたか?」
「いえ……ただ、せっかく『ユウノ』さんと一緒にいるのにその狐面のせいで色々と台無しだなぁって」
アラタの言葉に肩をすくめるユウノ。
現在ユウノは【戦争】などで人前に出る時と同じく狐面を付けていた。
それは素顔がバレるのを避けるためという理由である。
「身バレは面倒くさいからな……。
【十二天将】と俺が見せてもいいと思ったプレイヤーにしか素顔は見せてないし。
……まぁ、我慢してくれ」
「分かっていますけど……ね……?」
やはり不満そうにしているアラタ。
その頬は少しだけ膨らんでいた。
「―――――えい」
ユウノはそんなアラタの頬を指でつつく。
「んふっ?!
な、何するんですかっ?!」
口から空気が抜ける音と、何処か間抜けな声を出してアラタは突然の出来事に反応する。
「悪い悪い。
膨らんでるほっぺた見てるとついつつきたくならないか?」
「なーりーまーせーんーっ!!」
ケラケラと笑うユウノに楽しそうに怒るアラタ。
仲の良さげな2人の姿に周りの人は何種類かの視線を送っていた。
その中でも多かったのは羨望の眼差し。
確かにアラタという可愛らしい少女と仲良く出来ているという事実への嫉妬という意味での視線もあっただろう。
しかし、それよりも多いのはユウノ、アラタという存在に対してのもの。
ギルドランク1位のギルドの幹部プレイヤー、そしてギルドマスターが、こんな所に居ればそれは大騒ぎになるだろう。
何せ初心者に近いプレイヤーも居るこの場所だ。
お近付きになりたいと思うプレイヤーも少ないわけがない。
―――――だが、此処ではそういうことはしないというのが暗黙のルールとして出来上がっていた。
そうでもしないと、ユウノたちのような有名プレイヤーがこの場所に来れないからである。
ユウノたちのような有名プレイヤーがこの【マーケット】に来れない場合、1番困るのは販売者側、つまり『商人系プレイヤー』である。
何せ有名プレイヤーというのはその分のお金を持っているため、良いものがあれば買ってくれる。
商人系プレイヤーたちは利益が欲しいため、そういったお店にお金を落としてくれる可能性の高いプレイヤーが来れなくなるのは困るのだ。
その為に出来た暗黙のルール。
例えば押し売りはしないは勿論のこと、今のユウノたちのように楽しそうに会話をしているプレイヤーへの過度な接触は避けるなど、様々な物がある。
それを守るか守らないかはプレイヤーの良心に左右されるのだが、殆どのプレイヤーはそれを守っている。
誰だって自分の嫌がることをすれば相手も嫌がり、近づこうとしなくなるのは分かるからだ。
「そう言えば『ユウノ』さんって狐面たくさん持ってますよね?」
「ん?あぁ、そうだな。
割とたくさんあると思うぞ?」
ユウノは自分の持つ狐面を頭の中で浮べながら言う。
「戦う時もたまに変えたりしてますよね?」
「そりゃ、狐面にもそれぞれ効果があるからな。
時と場合によっては変えるさ」
「なるほど……私……俺が知っている狐面は白、黒、金くらいしかないんですけど……」
指を折りながら数えるアラタ。
ユウノはよく覚えているなと呟く。
「そもそも『ユウノ』さんって殆ど白い狐面ばかり付けてますよね」
「まぁ、あれが1番汎用性が高いからな。
流石にこういう場所に付けてくるのはただの狐面だけど」
今つけている狐面は何の効果も持たないものだと暗に告げるユウノ。
「『ユウノ』さんってなんで狐面をつけるようになったんですか?」
「……あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないです!!!
何時も聞こうとしたらはぐらかしてたじゃないですか!
それからわた……俺はしばらく放置されたしっ!
割と『ユウノ』さんのこと知らないんですよ……??」
寂しそうに眉を八の字に曲げるアラタ。
ユウノは頭をポリポリと掻きながら自分が連れてきた仲間に悪いことをしたなと思う。
「あ〜……狐面。狐面を付けてる理由だったよな?」
「……はい」
少々拗ねたような様子のアラタだったが、ユウノの話はすべて気になるらしく耳を傾ける。
「特に深い理由はないんだけど……まぁ、友達にもらった初めての物が狐面だったから……かな」
何処か寂しそうな雰囲気を纏うユウノ。
「お友達……『アマネ』さんとかですか……?」
「いいや違う。
『アマネ』たちと会うよりもさらに前だ。
俺が『World Of Load』を始めてそんなに経っていないくらいの頃だな……」
「そのお友達さんたちは今は何処に??
もしかして【高天ヶ原】に?」
アラタがそう聞くと、ユウノは首を横に振る。
「―――――辞めたよ『World Of Load』を」
より一層寂しそうな雰囲気を濃くするユウノ。
アラタは不味いことを聞いてしまったなと、次の言葉が出てこない。
しばらくの間無言が続き、2人の沈黙を破ったのは第3者だった。
「―――――あら〜?ギルマスと『アラ』さんじゃ〜ん?
なになに〜?
何でそんなに空気重いの〜?」
上半身は胸のみを隠すチューブトップ、下半身は丈夫そうなサリエルパンツとブーツという上下の防御力の違いをマジマジと感じさせる服装の褐色の肌をした女性が1つの店から不思議そうな顔を覗かせていた。




